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2021.12.27

箱根駅伝Stories/名門を牽引する日体大のエース・藤本珠輝「次の走者が元気になるような走りがしたい」
箱根駅伝Stories/名門を牽引する日体大のエース・藤本珠輝「次の走者が元気になるような走りがしたい」

箱根駅伝Stories

藤本珠輝
Fujimoto Tamaki(日体大3年)

12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。「箱根駅伝Stories」と題し、12月下旬から本番まで計19本の特集記事を掲載していく。

第15回目は、今季急成長を遂げた日体大のエース・藤本珠輝(3年)を特集する。

今季は5000mで大学記録を更新し、3年生にして中心選手に成長。しかし、ケガに悩み、思うように走れない時期も過ごした。苦しんだ秋を乗り越え、3度目の箱根路は花の2区を駆け抜けるつもりだ。

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5000mで42年ぶりに日体大記録を更新

12月4日、5日の日体大競技会。

ケガを押して出場した10月の箱根駅伝予選会以来、約1ヵ月半ぶりのレースに日体大の藤本珠輝(3年)は、2日続けて出場した。

1日目の10000mは28分31秒60で組1着。2日目は、春先のコロナ禍の自粛期間中に練習をともにした母校・西脇工高の後輩を引っ張りながらのレースとなったが、13分55秒82と、きっちり13分台にまとめた。
(ちなみに、その1週間前には、10kmのペース走を28分11秒7で走っている)

箱根予選会後は再び痛みが生じ、「歩くのも痛いぐらいで1週間ほどは全く走れなかった」というほどで、全日本大学駅伝は欠場した。

「藤本は箱根駅伝に間に合うのか……」藤本を心配する声が聞かれたが、どうやら大丈夫と言って良さそうだ。むしろ、さらにパワーアップした藤本が、箱根本大会では見られるかもしれない。

今季の藤本は、これまでの安定感に加え、一段上の強さが備わった印象がある。5月の関東インカレ(1部)は、10000m4位、5000m6位と2種目で入賞。さらに、6月には5000mで42年ぶりの日体大記録(13分32秒58)を打ち立てた。日本最高峰の舞台、日本選手権も経験した。

実績をとっても、記録を見ても、学生長距離界を代表する選手の1人に成長したと言っても、過言ではない。

「冬場は走り込みがメインだったんですけど、春になってからは、5000mの日体大記録更新を目標にひたすらスピードを磨いていました。5000mも10000mも、前期の段階でしっかり自己ベストを更新できて、自信にもなりました」

確かな手応えがあった前半戦だった。そのなかで特に力が付いたことを実感できたのが、6月の全日本大学駅伝関東選考会だったという。3組を終えた時点で、日体大は8位と本大会出場圏外(7位までが出場)。予選敗退の危機にあるなか、藤本は4組に登場した。そして、日本人トップの7位になり、チームも7位にジャンプアップして、本大会出場を決めた。

「関東インカレで2種目入賞したと言っても、どうしても勝ち切れないところがありました。全日本選考会は、留学生には負けてしまったんですけど、集団をしっかり引っ張って、日本人トップでゴールできた。

勝負がかかったレースで、ペースの上げ下げがあったり、強さが求められたりするなか、しっかり戦えたことは、力が付いたのを実感できましたし、もっとがんばろうという気持ちにもなりました」

留学生と戦えなかった部分は今後の課題となるが、ライバル校のエース格と互角以上の戦いを見せられたことは、大きな収穫だった。

ケガを乗り越え、エースとしての走りを

高校3年時のインターハイは5000mで決勝に進出して15位(右)だった

昨年度までのエース、池田耀平(カネボウ)が卒業し、3年生の藤本には新エースとしての期待が寄せられていたが、まさにエースと呼ぶに相応しい活躍ぶりだった。

「昨年度のエース、池田さんが卒業し、次は誰がエースだ? と言われるなか、昨年度の段階で一応持ちタイムが速かった自分が、今季はしっかり稼がないといけないと思っていました」

チームで戦うレースに、藤本自身、エースとしての自覚を持って臨んでいた。

連戦となった日本選手権の後には、右足の脛骨を疲労骨折。いったん回復した後、今度は右足アキレス腱を痛めてしまうなど、夏はケガ続きだった。

箱根予選会は万全な状態ではなかったが、藤本はチームトップとなる個人15位と活躍を見せた。日体大は3位通過を果たし、初出場から続く本大会連続出場を74回に伸ばした。

実は、玉城良二駅伝監督からは「チーム10番目で走り切ってくれればいい」と言われていたという。

「やっぱり稼がなきゃいけない立場なので」

それにもかかわらず、懸命な走りを見せたのは、名門のエースとしての自覚が藤本を突き動かしたからだった。

藤本が考えるエース像。それは……。
「安心して任せられる選手、どんなときでも絶対に外さない、最低限のレベルが高い選手っていうのが、エースの条件かなって思っています」

もちろん箱根駅伝で、自分が走らなければいけない区間と考えているのは2区だ。これまでは、1年時に5区、2年時に1区を走ってきたが、エースとして、いよいよ花の2区に挑む覚悟を固めている。

「天候等の条件にもよりますが、67分30秒、悪くても45秒を切るぐらいではしっかり走りたい。次の走者が元気になるような走りがしたいです」

優勝10回を誇る名門も、この3年間はシード権から遠ざかっているが、出だしがまずまずでも、3区で後退することが多々あった。藤本は、次走者が気持ちよく走り出せるように、タスキを渡すその瞬間まで、力を振り絞る覚悟だ。

タイムだけでなく、エースとしての姿勢を見せる――名門復活へ、自身の役割を全うする。

◎ふじもと・たまき/2001年1月14日生まれ。兵庫県出身。陵南中(兵庫)→西脇工高→日体大。5000m13分32秒58、10000m28分08秒58。

文/福本ケイヤ

箱根駅伝Stories 藤本珠輝 Fujimoto Tamaki(日体大3年) 12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。「箱根駅伝Stories」と題し、12月下旬から本番まで計19本の特集記事を掲載していく。 第15回目は、今季急成長を遂げた日体大のエース・藤本珠輝(3年)を特集する。 今季は5000mで大学記録を更新し、3年生にして中心選手に成長。しかし、ケガに悩み、思うように走れない時期も過ごした。苦しんだ秋を乗り越え、3度目の箱根路は花の2区を駆け抜けるつもりだ。

5000mで42年ぶりに日体大記録を更新

12月4日、5日の日体大競技会。 ケガを押して出場した10月の箱根駅伝予選会以来、約1ヵ月半ぶりのレースに日体大の藤本珠輝(3年)は、2日続けて出場した。 1日目の10000mは28分31秒60で組1着。2日目は、春先のコロナ禍の自粛期間中に練習をともにした母校・西脇工高の後輩を引っ張りながらのレースとなったが、13分55秒82と、きっちり13分台にまとめた。 (ちなみに、その1週間前には、10kmのペース走を28分11秒7で走っている) 箱根予選会後は再び痛みが生じ、「歩くのも痛いぐらいで1週間ほどは全く走れなかった」というほどで、全日本大学駅伝は欠場した。 「藤本は箱根駅伝に間に合うのか……」藤本を心配する声が聞かれたが、どうやら大丈夫と言って良さそうだ。むしろ、さらにパワーアップした藤本が、箱根本大会では見られるかもしれない。 今季の藤本は、これまでの安定感に加え、一段上の強さが備わった印象がある。5月の関東インカレ(1部)は、10000m4位、5000m6位と2種目で入賞。さらに、6月には5000mで42年ぶりの日体大記録(13分32秒58)を打ち立てた。日本最高峰の舞台、日本選手権も経験した。 実績をとっても、記録を見ても、学生長距離界を代表する選手の1人に成長したと言っても、過言ではない。 「冬場は走り込みがメインだったんですけど、春になってからは、5000mの日体大記録更新を目標にひたすらスピードを磨いていました。5000mも10000mも、前期の段階でしっかり自己ベストを更新できて、自信にもなりました」 確かな手応えがあった前半戦だった。そのなかで特に力が付いたことを実感できたのが、6月の全日本大学駅伝関東選考会だったという。3組を終えた時点で、日体大は8位と本大会出場圏外(7位までが出場)。予選敗退の危機にあるなか、藤本は4組に登場した。そして、日本人トップの7位になり、チームも7位にジャンプアップして、本大会出場を決めた。 「関東インカレで2種目入賞したと言っても、どうしても勝ち切れないところがありました。全日本選考会は、留学生には負けてしまったんですけど、集団をしっかり引っ張って、日本人トップでゴールできた。 勝負がかかったレースで、ペースの上げ下げがあったり、強さが求められたりするなか、しっかり戦えたことは、力が付いたのを実感できましたし、もっとがんばろうという気持ちにもなりました」 留学生と戦えなかった部分は今後の課題となるが、ライバル校のエース格と互角以上の戦いを見せられたことは、大きな収穫だった。

ケガを乗り越え、エースとしての走りを

高校3年時のインターハイは5000mで決勝に進出して15位(右)だった 昨年度までのエース、池田耀平(カネボウ)が卒業し、3年生の藤本には新エースとしての期待が寄せられていたが、まさにエースと呼ぶに相応しい活躍ぶりだった。 「昨年度のエース、池田さんが卒業し、次は誰がエースだ? と言われるなか、昨年度の段階で一応持ちタイムが速かった自分が、今季はしっかり稼がないといけないと思っていました」 チームで戦うレースに、藤本自身、エースとしての自覚を持って臨んでいた。 連戦となった日本選手権の後には、右足の脛骨を疲労骨折。いったん回復した後、今度は右足アキレス腱を痛めてしまうなど、夏はケガ続きだった。 箱根予選会は万全な状態ではなかったが、藤本はチームトップとなる個人15位と活躍を見せた。日体大は3位通過を果たし、初出場から続く本大会連続出場を74回に伸ばした。 実は、玉城良二駅伝監督からは「チーム10番目で走り切ってくれればいい」と言われていたという。 「やっぱり稼がなきゃいけない立場なので」 それにもかかわらず、懸命な走りを見せたのは、名門のエースとしての自覚が藤本を突き動かしたからだった。 藤本が考えるエース像。それは……。 「安心して任せられる選手、どんなときでも絶対に外さない、最低限のレベルが高い選手っていうのが、エースの条件かなって思っています」 もちろん箱根駅伝で、自分が走らなければいけない区間と考えているのは2区だ。これまでは、1年時に5区、2年時に1区を走ってきたが、エースとして、いよいよ花の2区に挑む覚悟を固めている。 「天候等の条件にもよりますが、67分30秒、悪くても45秒を切るぐらいではしっかり走りたい。次の走者が元気になるような走りがしたいです」 優勝10回を誇る名門も、この3年間はシード権から遠ざかっているが、出だしがまずまずでも、3区で後退することが多々あった。藤本は、次走者が気持ちよく走り出せるように、タスキを渡すその瞬間まで、力を振り絞る覚悟だ。 タイムだけでなく、エースとしての姿勢を見せる――名門復活へ、自身の役割を全うする。 ◎ふじもと・たまき/2001年1月14日生まれ。兵庫県出身。陵南中(兵庫)→西脇工高→日体大。5000m13分32秒58、10000m28分08秒58。 文/福本ケイヤ

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