2021.12.26
箱根駅伝Stories
石田洸介
Ishida Kosuke(東洋大1年)
12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。「箱根駅伝Stories」と題し、12月下旬から本番まで計19本の特集記事を掲載していく。
第14回目は、5000mの高校記録保持者として鳴り物入りで学生長距離界に飛び込んできた東洋大の石田洸介(1年)に話を聞いた。
1年目ながら出雲駅伝5区、全日本大学駅伝4区と立て続けに区間賞を獲得。もちろん、箱根路でも区間トップの快走でチームを上位に押し上げるつもりだ。
1年目から出雲・全日本と連続区間賞
「スーパールーキー」と騒がれて東洋大に入学した石田洸介。キラキラに輝いた道のりを突き進んできたランナーにとって、2021年の前半戦は苦しいものになった。
大学デビュー戦となった6月末の日本選手権5000mは途中棄権。夏合宿の前半も思うようなトレーニングはできなかった。
しかし、長かったトンネルは終わりを迎えた。9月29日の早大競技会5000m。「13分台」を狙っていた石田は2組を13分59秒99(3着)で走破すると快進撃が幕を開けた。
「フィニッシュしたときはギリギリかな、と。本当に滑り込みましたね。一番きついところで前に出て引っ張りましたし、レースの内容的にも良かった。誰かについて出した13分台ではありません。ギリギリでしたけど13分台が出て、自分が積んできた練習と自分が目標にしていたタイムが一致しました。いい感触があり、その後の練習もいい流れでできたんです」
10月10日の出雲駅伝は5区に出場。6位でタスキを受け取ると、強風のなか、力強い走りを見せる。帝京大、青学大、國學院大、早大をかわして2位まで急上昇。4人抜きの快走は区間2位以下を20秒以上も引き離す圧倒的な区間賞だった。
「出雲は序盤から結構攻めて、順位を押し上げることができました。風はあまり好きじゃないんですけど、他大学の選手が風で自重していたのも自分にとっては良かったですね。上に跳ぶような走りはしてないので、向かい風のなかでもしっかり走れたと思います。それに駅伝は順位が大切です。自分の次は最終区間だったので、チームが上位でゴールするには自分が押し上げるしかない。自分らしい攻めの走りができた結果、チームも3位でゴールできたのはすごく良かったと思っています」
石田の感覚では自身の絶好時を「100%」だとすると、出雲は「60%」の状態だったという。
そして11月7日の全日本大学駅伝には「80%」の状態まで仕上がっていた。4区を任された石田は5kmを14分14秒、10kmを28分53秒ほどで通過。青学大・高橋勇輝(4年)と同タイムながら連続区間賞を手にした。
全日本大学駅伝は4区で区間賞を獲得した石田
しかし、本人は納得していない。
「出雲はさほど練習を積んでいないなかでの区間賞で、全日本に向けてはもっといい練習ができていたんです。しかも前に選手が見えていたのに、思うように順位を上げることができなかった。そこが悔しいです。チームとしても13年続いたシード権を逃してしまい、申し訳ない気持ちです」
石田が9位から8位に順位を上げて、前方のチームにも詰め寄った。5区の梅崎蓮(1年)で5位まで浮上したが、チームは10位に終わり、石田も責任を感じているようだった。
“世界”を目指して東洋大へ入学
石田の競技人生は栄光に満ちている。福岡・浅川中時代に1500m(3分49秒72/当時)と3000m(8分17秒84)で中学記録を樹立。群馬・東農大二高では5000m(13分34秒74/当時)で高校記録を打ち立てた。
「中学・高校と指導者に恵まれてきたからこそ、それぞれ結果を残すことができたと思っています。東洋大に進学したのは、酒井俊幸監督の『世界大会の代表になれる選手を育成したい』という思いと、自分の目標が一致したことが大きいです。自分の夢をかなえられるのはここしかないなと感じました」
東京五輪に出場した服部勇馬(トヨタ自動車)、相澤晃(旭化成)ら世界に羽ばたいた先輩の姿はまぶしく見えた。石田も歴代のエースたちの背中を追いかけるべく東洋大に入学したが、トラックシーズンはほとんど稼働できなかった。
「昨年12月は左右の接地バランスが格段に悪く、脚に力が入らない状態になったんです。これは自分の走りじゃないぞ、とずっと思っていたんですが、原因もわからないまま都大路に向かいました。気持ちだけで何とかしようと思っていたんですけど、身体がついてこなくて、結局、惨敗でした」
全国高校駅伝は1区で区間14位。高校最後のレースを終えた後は、左足底付近を痛めてジョグすらできない状態になり、今季は出遅れた。
6月の日本選手権は途中棄権に終わったものの、日本トップクラスの走りを肌で感じた
それでも、前述のとおり駅伝シーズンには間に合わせて実力を発揮。スーパールーキーの異名に恥じない活躍ぶりだった。
「できれば3区、4区あたりを走りたい」
出雲と全日本で区間賞を奪った後は、来年の日本選手権出場を狙うべく11月20日の早大競技会10000mに出場。しかし、29分06秒71と不発に終わった。
「練習はできていましたが、深部に疲労が残っていて動きませんでしたね。結果としては悪いんですけど、もし良かったとしても一気に調整を崩していた可能性があった思います。箱根駅伝に向けて気持ちを引き締めようと感じたレースになりました」
箱根駅伝は一度も経験のない20km以上のレースになる。不安は小さくないが、石田は「戦える」という手応えもつかんでいる。
「本当に少しずつですけど、自信をつけています。ただ、しっかりとスタミナをつけないと箱根駅伝は難しいレースになる。自分としては後半崩れない走りを意識して、しっかりと練習を積んでいきたいです。特に長い距離は終盤どれだけがんばれるかで、大きく変わってきます。個人としても3つ目の区間賞が懸かっているので、100%の状態に仕上げていきたい。できれば往路の3区、4区あたりを走りたいですね」
大学の先輩である服部勇馬は1年時に9区を任されて、区間3位。翌年からは花の2区を3年間務めて、3・4年時には連続区間賞に輝いた。相澤晃は2区候補に挙がりながら、1年時は直前のノロウイルスで欠場。2年時は2区で区間3位、3年時は4区で区間賞・区間新(当時)、4年時は2区で区間賞・区間新(当時)と大活躍を見せている。
偉大な先輩たちは箱根路の走りを自信にしてトラックやマラソンにつなげていった。
「箱根駅伝に向かう過程でスタミナ練習をやっていきます。箱根で攻めの走りができて、後半も崩れない走りができれば、来季の10000mにも生きてくるんじゃないでしょうか。あまり高望みしすぎるとプレッシャーになるので、落ち着いて大会には向かいたいなと思っています。でも、将来的には箱根駅伝の区間記録も作りたいですね。区間記録だけでなく、記憶に残る走りをして卒業したいです」
“世界”を目指すために東洋大に入学した逸材は箱根駅伝でどんな伝説をつくるのか。石田洸介が駆け抜ける道のりは2024年のパリ五輪に続いている。
◎いしだ・こうすけ/2002年8月21日生まれ。173cm、59kg。福岡県出身。浅川中(福岡)→東農大二高(群馬)→東洋大。5000m13分34秒74、10000m28分37秒50。
文/酒井政人
1年目から出雲・全日本と連続区間賞
「スーパールーキー」と騒がれて東洋大に入学した石田洸介。キラキラに輝いた道のりを突き進んできたランナーにとって、2021年の前半戦は苦しいものになった。 大学デビュー戦となった6月末の日本選手権5000mは途中棄権。夏合宿の前半も思うようなトレーニングはできなかった。 しかし、長かったトンネルは終わりを迎えた。9月29日の早大競技会5000m。「13分台」を狙っていた石田は2組を13分59秒99(3着)で走破すると快進撃が幕を開けた。 「フィニッシュしたときはギリギリかな、と。本当に滑り込みましたね。一番きついところで前に出て引っ張りましたし、レースの内容的にも良かった。誰かについて出した13分台ではありません。ギリギリでしたけど13分台が出て、自分が積んできた練習と自分が目標にしていたタイムが一致しました。いい感触があり、その後の練習もいい流れでできたんです」 10月10日の出雲駅伝は5区に出場。6位でタスキを受け取ると、強風のなか、力強い走りを見せる。帝京大、青学大、國學院大、早大をかわして2位まで急上昇。4人抜きの快走は区間2位以下を20秒以上も引き離す圧倒的な区間賞だった。 「出雲は序盤から結構攻めて、順位を押し上げることができました。風はあまり好きじゃないんですけど、他大学の選手が風で自重していたのも自分にとっては良かったですね。上に跳ぶような走りはしてないので、向かい風のなかでもしっかり走れたと思います。それに駅伝は順位が大切です。自分の次は最終区間だったので、チームが上位でゴールするには自分が押し上げるしかない。自分らしい攻めの走りができた結果、チームも3位でゴールできたのはすごく良かったと思っています」 石田の感覚では自身の絶好時を「100%」だとすると、出雲は「60%」の状態だったという。 そして11月7日の全日本大学駅伝には「80%」の状態まで仕上がっていた。4区を任された石田は5kmを14分14秒、10kmを28分53秒ほどで通過。青学大・高橋勇輝(4年)と同タイムながら連続区間賞を手にした。 全日本大学駅伝は4区で区間賞を獲得した石田 しかし、本人は納得していない。 「出雲はさほど練習を積んでいないなかでの区間賞で、全日本に向けてはもっといい練習ができていたんです。しかも前に選手が見えていたのに、思うように順位を上げることができなかった。そこが悔しいです。チームとしても13年続いたシード権を逃してしまい、申し訳ない気持ちです」 石田が9位から8位に順位を上げて、前方のチームにも詰め寄った。5区の梅崎蓮(1年)で5位まで浮上したが、チームは10位に終わり、石田も責任を感じているようだった。“世界”を目指して東洋大へ入学
石田の競技人生は栄光に満ちている。福岡・浅川中時代に1500m(3分49秒72/当時)と3000m(8分17秒84)で中学記録を樹立。群馬・東農大二高では5000m(13分34秒74/当時)で高校記録を打ち立てた。 「中学・高校と指導者に恵まれてきたからこそ、それぞれ結果を残すことができたと思っています。東洋大に進学したのは、酒井俊幸監督の『世界大会の代表になれる選手を育成したい』という思いと、自分の目標が一致したことが大きいです。自分の夢をかなえられるのはここしかないなと感じました」 東京五輪に出場した服部勇馬(トヨタ自動車)、相澤晃(旭化成)ら世界に羽ばたいた先輩の姿はまぶしく見えた。石田も歴代のエースたちの背中を追いかけるべく東洋大に入学したが、トラックシーズンはほとんど稼働できなかった。 「昨年12月は左右の接地バランスが格段に悪く、脚に力が入らない状態になったんです。これは自分の走りじゃないぞ、とずっと思っていたんですが、原因もわからないまま都大路に向かいました。気持ちだけで何とかしようと思っていたんですけど、身体がついてこなくて、結局、惨敗でした」 全国高校駅伝は1区で区間14位。高校最後のレースを終えた後は、左足底付近を痛めてジョグすらできない状態になり、今季は出遅れた。 6月の日本選手権は途中棄権に終わったものの、日本トップクラスの走りを肌で感じた それでも、前述のとおり駅伝シーズンには間に合わせて実力を発揮。スーパールーキーの異名に恥じない活躍ぶりだった。「できれば3区、4区あたりを走りたい」
出雲と全日本で区間賞を奪った後は、来年の日本選手権出場を狙うべく11月20日の早大競技会10000mに出場。しかし、29分06秒71と不発に終わった。 「練習はできていましたが、深部に疲労が残っていて動きませんでしたね。結果としては悪いんですけど、もし良かったとしても一気に調整を崩していた可能性があった思います。箱根駅伝に向けて気持ちを引き締めようと感じたレースになりました」 箱根駅伝は一度も経験のない20km以上のレースになる。不安は小さくないが、石田は「戦える」という手応えもつかんでいる。 「本当に少しずつですけど、自信をつけています。ただ、しっかりとスタミナをつけないと箱根駅伝は難しいレースになる。自分としては後半崩れない走りを意識して、しっかりと練習を積んでいきたいです。特に長い距離は終盤どれだけがんばれるかで、大きく変わってきます。個人としても3つ目の区間賞が懸かっているので、100%の状態に仕上げていきたい。できれば往路の3区、4区あたりを走りたいですね」 大学の先輩である服部勇馬は1年時に9区を任されて、区間3位。翌年からは花の2区を3年間務めて、3・4年時には連続区間賞に輝いた。相澤晃は2区候補に挙がりながら、1年時は直前のノロウイルスで欠場。2年時は2区で区間3位、3年時は4区で区間賞・区間新(当時)、4年時は2区で区間賞・区間新(当時)と大活躍を見せている。 偉大な先輩たちは箱根路の走りを自信にしてトラックやマラソンにつなげていった。 「箱根駅伝に向かう過程でスタミナ練習をやっていきます。箱根で攻めの走りができて、後半も崩れない走りができれば、来季の10000mにも生きてくるんじゃないでしょうか。あまり高望みしすぎるとプレッシャーになるので、落ち着いて大会には向かいたいなと思っています。でも、将来的には箱根駅伝の区間記録も作りたいですね。区間記録だけでなく、記憶に残る走りをして卒業したいです」 “世界”を目指すために東洋大に入学した逸材は箱根駅伝でどんな伝説をつくるのか。石田洸介が駆け抜ける道のりは2024年のパリ五輪に続いている。 ◎いしだ・こうすけ/2002年8月21日生まれ。173cm、59kg。福岡県出身。浅川中(福岡)→東農大二高(群馬)→東洋大。5000m13分34秒74、10000m28分37秒50。 文/酒井政人
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