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2021.12.23

箱根駅伝Stories/競技生活ラストレースに臨む帝京大・遠藤大地「後悔なく、力を出し切りたい」
箱根駅伝Stories/競技生活ラストレースに臨む帝京大・遠藤大地「後悔なく、力を出し切りたい」

箱根駅伝Stories

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遠藤大地
Endo Daichi(帝京大学4年)

12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。「箱根駅伝Stories」と題し、12月下旬から本番まで計19本の特集記事を掲載していく。

第8回目は、大学卒業とともに競技引退を表明している帝京大の遠藤大地(4年)をクローズアップ。「4年生になった時に走れれば」と考えていた箱根駅伝で、1年時から出場の機会をつかみ、3年連続3区で力強い走りを披露してきた。持ち味の序盤から突っ込む積極性で、1年時と3年時にはいずれも8人抜き。2年時には区間日本人最高記録をマークしている。

最後の箱根も主戦場にしてきた3区出走が有力。着実に力をつけてきた他の4年生とともに、チーム史上最高順位となる3位を目指す。

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3年連続で箱根3区を快走

学生長距離では学年が上がるにしたがって力をつけ、主要大会で活躍していく選手が多い。箱根駅伝で4年連続でシード権を獲得中の帝京大が代表例だ。前回の箱根駅伝では4年生4人に3年生6人と、出走した10人全員が上級生。そんな帝京大にあって、遠藤は1年時から10000mで28分34秒88をマークするなど、大きな期待を背負いながら主力を担ってきた稀有な選手だ。

過去3回出走した箱根では、すべて3区を任され、1年時は区間3位、2年時は区間2位、3年時は区間4位と、高いレベルで安定した結果を残してきた。遠藤は「自分の力を出し切って、駅伝であればチームに勢いを与えるような走りが理想」と考えており、これまで大学のレースで「理想に最も近かった」と感じているのが、2年生だった前々回の箱根駅伝である。

驚異的な走りで区間新を打ち立てたイェゴン・ヴィンセント(東京国際大)に抜かれはしたものの、前年に森田歩希(青学大、現・GMO)がマークした日本人最高記録を3秒上回る1時間1分23秒でひた走った。

「1区と2区が良い流れで、先頭の中継車が見える位置でタスキをつないでくれたのが大きかったです。自分もその流れに乗って力を出し切れましたし、チームに勢いを与えられるような走りもできたと思います」

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宮城・古川工高で本格的に陸上を始めた頃から、「せっかくなら大学で箱根を目指してみたい」と、箱根駅伝に憧れに近い思いを抱き続けていた。「高校の頃は6区を走ってみたいと思っていました。下りが得意だったのと、ずっと下るので世界記録のペースで走って、そのスピード感を体感してみたかったんです」と笑う。

高校3年時は東北大会5000mを5位で通過し、インターハイにも出場している遠藤(ゼッケン12番)

箱根のすごさは、1年時に実際に走ったことで肌で感じた。「3区は21km以上もあるのに、沿道の応援がずっと途切れないですし、1、2年生の頃はその応援を聞きながら楽しく走れた記憶があります。これほど注目度が高い大会は絶対に箱根しかないだろうと感じましたし、そういう経験を通して箱根への思いはより一層強くなったと思います」。2、3年時は、年間を通した活躍はできなかったものの、箱根駅伝になると輝きを放てたのは、箱根に対する特別な思いが力になったからかもしれない。

箱根駅伝で競技生活に区切り

遠藤は、第一線での競技生活は大学限りとし、実業団では競技を続けない意向を表明している。その決断に対して「もったいない」と感じる人もいるだろうが、遠藤には遠藤の価値観がある。

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「競技を続けない理由はいろいろありますが、一番は目標とするものが確かではないということです。これまでは箱根駅伝がありましたが、実業団に入ったら何を目標にしたらいいのかな、と。フラフラした状態で実業団に入り、だらだら競技を続けるよりは、ここでスパッと辞めて、別の道で一生懸命取り組んでいきたいと思い、一般就職をすることにしました。陸上を続けるとしても、太らないようにするためとか、そういうレベルかなと思います」

そんな思いを胸に秘めてスタートした2021年は、「前半シーズンに練習が積めずに、全日本や記録会でうまく走れなかった」という前年の反省から、「しっかりと練習を積むこと」を意識。個人的には「今まで出した自分の記録は全部塗り替えて終わりたいというのと、箱根では区間賞を目指してやっていこうという目標を立てました」と話す。最上級生としても例年以上の意気込みがあった。

「今年度は出る大会や毎日やることのすべてが最後になるので、後悔のないように、という思いでいました。また、今までは先輩に頼ってきた部分が多く、そのせいで試合で弱さが出てしまうことがありましたが、もう4年生なのでそんなことは言っていられません。練習からチームを積極的に引っ張り、より高いレベルでトレーニングに取り組めるよう心掛けてきました」

自己記録の更新こそならなかったが、遠藤は「ここまでケガなく練習も順調に積めましたし、夏合宿も例年以上に質の高い練習ができました。みんなにとっても充実した夏になった」と話し、意気揚々と駅伝シーズンを迎えていた。

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しかし、ここまでの駅伝成績は出雲で8位、全日本は13位と不本意な結果に終わり、それぞれ2区で区間5位、3区で区間6位と奮闘した遠藤も「出雲は1区の流れにより勢いをつけて3区以降につないでいく役割でしたが、実際はそれほど先頭と差を詰められませんでした。全日本も1区が出遅れた時、エースと呼ばれる選手なら遅れを取り戻す走りを見せると思いますが、そのような走りはできませんでした」と反省を口にする。

だからこそ、これまで苦楽を共にしてきた他の4年生と挑む、最後の箱根に懸ける思いは強い。

チームが見据えるのは、「往路優勝と総合3位以内」。それを果たすために遠藤は「本番までに後悔のない取り組みをして、当日は自分の力を出し切りたい。出雲と全日本では達成できなかったチーム目標に向かって食らいついていきたいです」と静かに闘志を燃やしている。

帝京大で4年間を過ごしてきて、何を得られたのか。その質問に遠藤は少し考えてから、こう答えた。

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「たくさんあると思いますが、大学では努力する大切さを学べたのが一番かな、と。中学や高校ではがんばることが好きではなく、練習をサボることもよくありました。でも、大学に入ってからは自分のサボりがチームに直結する。責任を感じるというか、努力しないといけない環境で4年間生活してきたので、自然と努力する力が身についていったと感じています」

自身の日々のモチベーションにしながら、成長の糧にもしてきた箱根駅伝。遠藤にとっては競技生活の集大成ともなるレースが間もなく始まる。

◎えんどう・だいち/1999年4月4日生まれ。宮城県出身。174cm、59kg。三本木中(宮城)→古川工高→帝京大。5000m13分55秒97、10000m28分34秒88。

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文/小野哲史

箱根駅伝Stories 遠藤大地 Endo Daichi(帝京大学4年) 12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。「箱根駅伝Stories」と題し、12月下旬から本番まで計19本の特集記事を掲載していく。 第8回目は、大学卒業とともに競技引退を表明している帝京大の遠藤大地(4年)をクローズアップ。「4年生になった時に走れれば」と考えていた箱根駅伝で、1年時から出場の機会をつかみ、3年連続3区で力強い走りを披露してきた。持ち味の序盤から突っ込む積極性で、1年時と3年時にはいずれも8人抜き。2年時には区間日本人最高記録をマークしている。 最後の箱根も主戦場にしてきた3区出走が有力。着実に力をつけてきた他の4年生とともに、チーム史上最高順位となる3位を目指す。

3年連続で箱根3区を快走

学生長距離では学年が上がるにしたがって力をつけ、主要大会で活躍していく選手が多い。箱根駅伝で4年連続でシード権を獲得中の帝京大が代表例だ。前回の箱根駅伝では4年生4人に3年生6人と、出走した10人全員が上級生。そんな帝京大にあって、遠藤は1年時から10000mで28分34秒88をマークするなど、大きな期待を背負いながら主力を担ってきた稀有な選手だ。 過去3回出走した箱根では、すべて3区を任され、1年時は区間3位、2年時は区間2位、3年時は区間4位と、高いレベルで安定した結果を残してきた。遠藤は「自分の力を出し切って、駅伝であればチームに勢いを与えるような走りが理想」と考えており、これまで大学のレースで「理想に最も近かった」と感じているのが、2年生だった前々回の箱根駅伝である。 驚異的な走りで区間新を打ち立てたイェゴン・ヴィンセント(東京国際大)に抜かれはしたものの、前年に森田歩希(青学大、現・GMO)がマークした日本人最高記録を3秒上回る1時間1分23秒でひた走った。 「1区と2区が良い流れで、先頭の中継車が見える位置でタスキをつないでくれたのが大きかったです。自分もその流れに乗って力を出し切れましたし、チームに勢いを与えられるような走りもできたと思います」 宮城・古川工高で本格的に陸上を始めた頃から、「せっかくなら大学で箱根を目指してみたい」と、箱根駅伝に憧れに近い思いを抱き続けていた。「高校の頃は6区を走ってみたいと思っていました。下りが得意だったのと、ずっと下るので世界記録のペースで走って、そのスピード感を体感してみたかったんです」と笑う。 高校3年時は東北大会5000mを5位で通過し、インターハイにも出場している遠藤(ゼッケン12番) 箱根のすごさは、1年時に実際に走ったことで肌で感じた。「3区は21km以上もあるのに、沿道の応援がずっと途切れないですし、1、2年生の頃はその応援を聞きながら楽しく走れた記憶があります。これほど注目度が高い大会は絶対に箱根しかないだろうと感じましたし、そういう経験を通して箱根への思いはより一層強くなったと思います」。2、3年時は、年間を通した活躍はできなかったものの、箱根駅伝になると輝きを放てたのは、箱根に対する特別な思いが力になったからかもしれない。

箱根駅伝で競技生活に区切り

遠藤は、第一線での競技生活は大学限りとし、実業団では競技を続けない意向を表明している。その決断に対して「もったいない」と感じる人もいるだろうが、遠藤には遠藤の価値観がある。 「競技を続けない理由はいろいろありますが、一番は目標とするものが確かではないということです。これまでは箱根駅伝がありましたが、実業団に入ったら何を目標にしたらいいのかな、と。フラフラした状態で実業団に入り、だらだら競技を続けるよりは、ここでスパッと辞めて、別の道で一生懸命取り組んでいきたいと思い、一般就職をすることにしました。陸上を続けるとしても、太らないようにするためとか、そういうレベルかなと思います」 そんな思いを胸に秘めてスタートした2021年は、「前半シーズンに練習が積めずに、全日本や記録会でうまく走れなかった」という前年の反省から、「しっかりと練習を積むこと」を意識。個人的には「今まで出した自分の記録は全部塗り替えて終わりたいというのと、箱根では区間賞を目指してやっていこうという目標を立てました」と話す。最上級生としても例年以上の意気込みがあった。 「今年度は出る大会や毎日やることのすべてが最後になるので、後悔のないように、という思いでいました。また、今までは先輩に頼ってきた部分が多く、そのせいで試合で弱さが出てしまうことがありましたが、もう4年生なのでそんなことは言っていられません。練習からチームを積極的に引っ張り、より高いレベルでトレーニングに取り組めるよう心掛けてきました」 自己記録の更新こそならなかったが、遠藤は「ここまでケガなく練習も順調に積めましたし、夏合宿も例年以上に質の高い練習ができました。みんなにとっても充実した夏になった」と話し、意気揚々と駅伝シーズンを迎えていた。 しかし、ここまでの駅伝成績は出雲で8位、全日本は13位と不本意な結果に終わり、それぞれ2区で区間5位、3区で区間6位と奮闘した遠藤も「出雲は1区の流れにより勢いをつけて3区以降につないでいく役割でしたが、実際はそれほど先頭と差を詰められませんでした。全日本も1区が出遅れた時、エースと呼ばれる選手なら遅れを取り戻す走りを見せると思いますが、そのような走りはできませんでした」と反省を口にする。 だからこそ、これまで苦楽を共にしてきた他の4年生と挑む、最後の箱根に懸ける思いは強い。 チームが見据えるのは、「往路優勝と総合3位以内」。それを果たすために遠藤は「本番までに後悔のない取り組みをして、当日は自分の力を出し切りたい。出雲と全日本では達成できなかったチーム目標に向かって食らいついていきたいです」と静かに闘志を燃やしている。 帝京大で4年間を過ごしてきて、何を得られたのか。その質問に遠藤は少し考えてから、こう答えた。 「たくさんあると思いますが、大学では努力する大切さを学べたのが一番かな、と。中学や高校ではがんばることが好きではなく、練習をサボることもよくありました。でも、大学に入ってからは自分のサボりがチームに直結する。責任を感じるというか、努力しないといけない環境で4年間生活してきたので、自然と努力する力が身についていったと感じています」 自身の日々のモチベーションにしながら、成長の糧にもしてきた箱根駅伝。遠藤にとっては競技生活の集大成ともなるレースが間もなく始まる。 ◎えんどう・だいち/1999年4月4日生まれ。宮城県出身。174cm、59kg。三本木中(宮城)→古川工高→帝京大。5000m13分55秒97、10000m28分34秒88。 文/小野哲史

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