2019.10.18
【学生駅伝ストーリー】國學院大が初優勝!
第31回出雲全日本大学選抜駅伝
第31回出雲全日本大学選抜駅伝は10月14日、島根県出雲市の出雲大社正面鳥居前をスタート、出雲ドーム前にフィニッシュする6区間45.1kmで行われ、出場3回目の國學院大が2時間9分58秒で初優勝。学生駅伝初タイトルを手にした。
8秒差で駒大、さらに3秒後に東洋大が2、3位で続き、箱根駅伝王者の東海大は1位から20秒差の4位。前回覇者の青学大は國學院大から53秒差の5位という激戦だった。関東勢以外では立命大が6位に食い込んだ。
先頭から1分以内に5チームがなだれ込んだ出雲駅伝は國學院大が初優勝。アンカーの土方英和は日本人歴代最高タイムで区間賞も獲得した
國學院大のアンカー・土方が駒大を大逆転
スピード駅伝・出雲でも珍しいほどの大接戦となった。優勝した國學院大から5位青学大までのタイム差は53秒。先頭から1分以内に5チームがフィニッシュしたのは、2003年の7校に次ぐ歴代2番目の数だ。
「(優勝を)考えてはいたんですけど、まさか本当に達成できるとは思っていなかったので、自分でも驚いています」
國學院大のアンカー・土方英和(4年)がタスキを受けたのは、トップの駒大から37秒遅れの4位。チームの目標は「3位以内」で、学生三大駅伝での最高成績は昨年の全日本大学駅伝での6位だった。土方は「3番以内に入ればいいかな」と考えながらスタートしたという。
ところが、勝負はやってみないとわからない。土方の2秒後にスタートした東海大の西田壮志(3年)がハイペースで突き進み、土方もそれに呼応。先行していた青学大と東洋大をかわすと、西田も後退して単独2位に浮上した。そして、ラスト1km。首位を走る駒大・中村大聖(4年)の動きが良くないと見るや、残り700m付近で一気に抜き去った。
「残り1kmでも大聖の動きが変わらなかったので、『スパートをかければいけるかもしれない』という思いに変わりました」
土方にとって中村は埼玉栄高時代のチームメイトだ。ただし、当時の埼玉栄高は館澤亨次(現・東海大)がエースで、中村が準エース。一方の土方は5000mのベストが14分43秒20で、全国高校駅伝やインターハイにも出場できなかった。土方は言わば〝強豪校の補欠〟という存在だった。
さらに、今季は3月の日本学生ハーフマラソン選手権で中村が2位に入り、土方は4位。あと1人のところでユニバーシアード代表を逃した土方に対し、中村はユニバ本番で銀メダルを獲得した。そんな対照的だった2人の力関係が、大学4年目の出雲路で逆転した。
6区10.2kmを29分05秒で走破した土方は、一色恭志(青学大/現・GMOアスリーツ)が2015年に出した日本人最高タイムを6秒更新。気象条件に恵まれたとはいえ、東海大の佐藤悠基、村澤明伸(ともに現・日清食品グループ)、出岐雄大(青学大)、大迫傑(早大/現・ナイキ・オレゴン・プロジェクト)、設楽啓太(東洋大/現・日立物流)、窪田忍(駒大/現・トヨタ自動車)といった学生長距離界の歴代エースたちのタイムを上回った。チーム内でも同期の浦野雄平(4年)の陰に隠れがちだったキャプテンが、一躍ヒーローになった。
それでも、土方はあくまでも謙虚に振り返った。
「前の5人がいいところでタスキを持ってきてくれたことと、ライバル校の選手たちが競ってくれた結果、この好走が生まれたと思っています。ライバル校のみんなにも感謝の気持ちがすごく強いです」
今大会は3区で区間新(区間3位)の力走を見せるなど、エースとして獅子奮迅の活躍を続ける浦野もまた、高校時代は目立つ存在ではなかった。富山商高時代の最高成績はインターハイ3000m障害15位。全国のトップ級とは差があった。そんな2人が國學院大で出会い、切磋琢磨したことで、ライバル校も警戒する〝ダブルエース〟に成長を遂げ、國學院大に初タイトルがもたらされた。
「今回は3区の僕から4年生が4人続いたのですが、力があることはわかっていたので、信頼していました。(1、2区を務めた)下級生の2人もよくがんばってくれて、それがこの結果につながったと思います」(浦野)
監督就任10年目でついに母校の駒大を倒し、指導者として初の栄冠に輝いた前田康弘監督は、声を震わせながら選手たちの健闘を称えた。
「1秒を大事に粘りきれたことが土方の気迫につながったと思います。いつも同じチームが勝つのではなく、誰にでもチャンスがあるし、やれるんだというのを見せられた点で、価値のある勝利でした」
10000mでチーム4番目の28分46秒83を持ちながら、今回は故障の影響でメンバーから外れた2年生の島﨑慎愛も、全日本では戦列に復帰する予定だという。國學院大が出雲を制したことで、箱根駅伝での「往路優勝、総合3位以内」という目標達成が現実味を帯びてきた。
「出雲の優勝校として、全日本もチャンスがあれば狙う気持ちで、堂々と戦いたいと思います」(前田監督)
戦前から〝戦国駅伝になる〟と予想されていた令和最初の学生駅伝シーズンは、ますます目が離せなくなりそうだ。
2位駒大、最終区で逆転許す
「5区までは思い通りのレースができた」
3区で先頭に立ち、5区終了時点では2位に13秒差をつけて首位を走っていた駒大が、最終区で逆転を許して2位でフィニッシュ。大八木弘明監督は「5区までは思い通りのレースができて、最後は勝てたと思ったのですが、教え子に持っていかれた。悔しいですね」と、学生三大駅伝の優勝回数を〝単独最多〟の「22」にできなかったことを残念がった。
3区(8.5km)では指揮官が「ウチのエース」と絶賛するルーキーの田澤廉が23分54秒の区間新(区間2位)。アンカーの中村大聖(4年)はユニバーシアードのハーフマラソン銀メダリストで、勝負の流れは駒大かと思われたが、最後に誤算があった。
大八木監督は「言い訳のようになってしまうけど」と前置きした上で、大会数日前に中村が腰の違和感を訴えていたことを明かした。そして、「長い区間は他の選手でも走れるし、状態が悪かったら全日本は(中村を)外してもいいかもしれない。それでも全日本は勝たなければ」と先を見据えた。
3区は6人が従来の区間記録を塗り替えるハイレベルに。その中で駒大のルーキー・田澤廉(右)が区間2位と健闘して最後はトップでタスキを渡した。左は國學院大の浦野雄平(区間3位)、中央は青学大の吉田圭太(区間4位)
箱根王者・東海大は4位
「次につながる部分も見えた」
正月の箱根駅伝で初優勝を飾り、今季は学生駅伝「3冠」を掲げていた東海大は4位。1区で西川雄一朗(4年)が4位と好スタートを切ったが、2区に配置した日本選手権3000m障害覇者の阪口竜平(4年)が区間6位と予想外の失速。3区以降は堅実にまとめたが、決め手に欠けて優勝争いには加われなかった。
「夏合宿の頃から塩澤(稀夕、3年)を2区か3区、西田(壮志、3年)を6区にすることは決めていました。昨年も1区だった西川が調子を上げてきたので大崩れはしないと思い、残りの3区間に誰を当てはめるかでしたが、2区の阪口と5区の鬼塚(翔太、4年/区間4位)がもう少しがんばれたかな。阪口は9月上旬まで3000m障害で世界選手権を狙っていたので、そこからの対応が追いついていなかったかもしれません」(両角速駅伝監督)
それでも、4区(6.2km)では学生駅伝初出場の市村朋樹(2年)が17分29秒の区間新(区間2位)をマーク。アンカーの西田も区間2位と好走し、「次につながる部分も見えた」と両角監督は総括した。
西田は「チーム全体として昨年より確実に力はついている。全日本ではしっかり勝ちたい」と巻き返しを誓った。
学生駅伝3冠を目指した東海大は4位。4区では市村朋樹(右)が区間2位と好走した。左は5区の鬼塚翔太
出雲駅伝の後に浜山競技場で開催された出雲市陸協記録会(5000m)には、出雲駅伝で補欠だった選手の多くが出走。ここでは東海大勢が好走し、小松陽平(4年、右から2人目)が13分59秒49で2組1着、郡司陽大(4年、その左)と河野遥伎(4年、左から2人目)も2着、4着に続き、選手層の厚さをアピールした
文/山本慎一郎
<國學院大関連特集>
『月刊陸上競技』2019年10月号
・大学史上最強チームを牽引する
國學院大4年生コンビ(夏合宿Special Talk)
・過去最高レベルの夏合宿を消化
『月刊陸上競技』2019年7月号
・関東インカレで存在感発揮!! ダブルエースを軸に大躍進
『月刊陸上競技』2018年10月号
・伝統の強化スタイルが進化中
『月刊陸上競技』2016年6月号
・予選会敗退から逆襲の1年へ
『月刊陸上競技』2012年3月号
・若手指揮官が語る「2年連続シード」への戦略
『月刊陸上競技』2011年10月号
・レベルの高いロード練習で強化
『月刊陸上競技』2009年6月号
・新合宿所完成で環境充実
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出雲駅伝の模様は『月刊陸上競技』12月号にも掲載予定です。
【学生駅伝ストーリー】國學院大が初優勝! 第31回出雲全日本大学選抜駅伝
第31回出雲全日本大学選抜駅伝は10月14日、島根県出雲市の出雲大社正面鳥居前をスタート、出雲ドーム前にフィニッシュする6区間45.1kmで行われ、出場3回目の國學院大が2時間9分58秒で初優勝。学生駅伝初タイトルを手にした。 8秒差で駒大、さらに3秒後に東洋大が2、3位で続き、箱根駅伝王者の東海大は1位から20秒差の4位。前回覇者の青学大は國學院大から53秒差の5位という激戦だった。関東勢以外では立命大が6位に食い込んだ。 先頭から1分以内に5チームがなだれ込んだ出雲駅伝は國學院大が初優勝。アンカーの土方英和は日本人歴代最高タイムで区間賞も獲得した國學院大のアンカー・土方が駒大を大逆転
スピード駅伝・出雲でも珍しいほどの大接戦となった。優勝した國學院大から5位青学大までのタイム差は53秒。先頭から1分以内に5チームがフィニッシュしたのは、2003年の7校に次ぐ歴代2番目の数だ。 「(優勝を)考えてはいたんですけど、まさか本当に達成できるとは思っていなかったので、自分でも驚いています」 國學院大のアンカー・土方英和(4年)がタスキを受けたのは、トップの駒大から37秒遅れの4位。チームの目標は「3位以内」で、学生三大駅伝での最高成績は昨年の全日本大学駅伝での6位だった。土方は「3番以内に入ればいいかな」と考えながらスタートしたという。 ところが、勝負はやってみないとわからない。土方の2秒後にスタートした東海大の西田壮志(3年)がハイペースで突き進み、土方もそれに呼応。先行していた青学大と東洋大をかわすと、西田も後退して単独2位に浮上した。そして、ラスト1km。首位を走る駒大・中村大聖(4年)の動きが良くないと見るや、残り700m付近で一気に抜き去った。 「残り1kmでも大聖の動きが変わらなかったので、『スパートをかければいけるかもしれない』という思いに変わりました」 土方にとって中村は埼玉栄高時代のチームメイトだ。ただし、当時の埼玉栄高は館澤亨次(現・東海大)がエースで、中村が準エース。一方の土方は5000mのベストが14分43秒20で、全国高校駅伝やインターハイにも出場できなかった。土方は言わば〝強豪校の補欠〟という存在だった。 さらに、今季は3月の日本学生ハーフマラソン選手権で中村が2位に入り、土方は4位。あと1人のところでユニバーシアード代表を逃した土方に対し、中村はユニバ本番で銀メダルを獲得した。そんな対照的だった2人の力関係が、大学4年目の出雲路で逆転した。 6区10.2kmを29分05秒で走破した土方は、一色恭志(青学大/現・GMOアスリーツ)が2015年に出した日本人最高タイムを6秒更新。気象条件に恵まれたとはいえ、東海大の佐藤悠基、村澤明伸(ともに現・日清食品グループ)、出岐雄大(青学大)、大迫傑(早大/現・ナイキ・オレゴン・プロジェクト)、設楽啓太(東洋大/現・日立物流)、窪田忍(駒大/現・トヨタ自動車)といった学生長距離界の歴代エースたちのタイムを上回った。チーム内でも同期の浦野雄平(4年)の陰に隠れがちだったキャプテンが、一躍ヒーローになった。 それでも、土方はあくまでも謙虚に振り返った。 「前の5人がいいところでタスキを持ってきてくれたことと、ライバル校の選手たちが競ってくれた結果、この好走が生まれたと思っています。ライバル校のみんなにも感謝の気持ちがすごく強いです」 今大会は3区で区間新(区間3位)の力走を見せるなど、エースとして獅子奮迅の活躍を続ける浦野もまた、高校時代は目立つ存在ではなかった。富山商高時代の最高成績はインターハイ3000m障害15位。全国のトップ級とは差があった。そんな2人が國學院大で出会い、切磋琢磨したことで、ライバル校も警戒する〝ダブルエース〟に成長を遂げ、國學院大に初タイトルがもたらされた。 「今回は3区の僕から4年生が4人続いたのですが、力があることはわかっていたので、信頼していました。(1、2区を務めた)下級生の2人もよくがんばってくれて、それがこの結果につながったと思います」(浦野) 監督就任10年目でついに母校の駒大を倒し、指導者として初の栄冠に輝いた前田康弘監督は、声を震わせながら選手たちの健闘を称えた。 「1秒を大事に粘りきれたことが土方の気迫につながったと思います。いつも同じチームが勝つのではなく、誰にでもチャンスがあるし、やれるんだというのを見せられた点で、価値のある勝利でした」 10000mでチーム4番目の28分46秒83を持ちながら、今回は故障の影響でメンバーから外れた2年生の島﨑慎愛も、全日本では戦列に復帰する予定だという。國學院大が出雲を制したことで、箱根駅伝での「往路優勝、総合3位以内」という目標達成が現実味を帯びてきた。 「出雲の優勝校として、全日本もチャンスがあれば狙う気持ちで、堂々と戦いたいと思います」(前田監督) 戦前から〝戦国駅伝になる〟と予想されていた令和最初の学生駅伝シーズンは、ますます目が離せなくなりそうだ。2位駒大、最終区で逆転許す 「5区までは思い通りのレースができた」
3区で先頭に立ち、5区終了時点では2位に13秒差をつけて首位を走っていた駒大が、最終区で逆転を許して2位でフィニッシュ。大八木弘明監督は「5区までは思い通りのレースができて、最後は勝てたと思ったのですが、教え子に持っていかれた。悔しいですね」と、学生三大駅伝の優勝回数を〝単独最多〟の「22」にできなかったことを残念がった。 3区(8.5km)では指揮官が「ウチのエース」と絶賛するルーキーの田澤廉が23分54秒の区間新(区間2位)。アンカーの中村大聖(4年)はユニバーシアードのハーフマラソン銀メダリストで、勝負の流れは駒大かと思われたが、最後に誤算があった。 大八木監督は「言い訳のようになってしまうけど」と前置きした上で、大会数日前に中村が腰の違和感を訴えていたことを明かした。そして、「長い区間は他の選手でも走れるし、状態が悪かったら全日本は(中村を)外してもいいかもしれない。それでも全日本は勝たなければ」と先を見据えた。 3区は6人が従来の区間記録を塗り替えるハイレベルに。その中で駒大のルーキー・田澤廉(右)が区間2位と健闘して最後はトップでタスキを渡した。左は國學院大の浦野雄平(区間3位)、中央は青学大の吉田圭太(区間4位)箱根王者・東海大は4位 「次につながる部分も見えた」
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