2019.09.14
Athlete Feature 寺田明日香(パソナグループ)
パワーアップして戻ってきた 「ママさんハードラー」
復帰後半年で日本タイ、そして日本新
北海道・恵庭北高時代の2005年~ 07年はインターハイ3連覇、北海道ハイテクACに入ってすぐの2008年~ 10年は日本選手権3連覇と、10代の頃から女子100mハードルで大活躍した寺田明日香(パソナグループ)が、8月17日に福井市で行われた「Athlete Night Games in FUKUI」で13秒00(+1.4)の日本タイ記録をマーク。寺田が小学校5年だった2000年に金沢イボンヌ(佐田建設)が樹立した日本記録に並んだ。と思ったら、わずか15日後の9月1日。「富士北麓ワールドトライアル2019」(山梨県富士吉田市)では、19年ぶりの日本新記録となる12秒97(+1.2)と、立て続けに圧巻のパフォーマンスを披露した。2013年にいったん陸上から離れ、結婚・出産した後、東京五輪を目指して7人制ラグビーに2年間取り組んだ寺田。しかし、今季から陸上界に復帰し、6年ぶりの日本選手権は3位(13秒16 /+0.6)。7月末の実業団・学生対抗では13秒07(+1.3)と、2009年に2度出した13秒05の自己記録に迫る記録で優勝していた。
来年1月で30歳になる寺田が、復帰後なぜこれほど早く結果を残せたのか。自宅に近い都内某所でじっくりと話を聞き、途中から夫の佐藤峻一さんにも加わってもらった。
●構成/小森貞子
●撮影/船越陽一郎
19年前に「13秒00」の日本記録を目撃
2017年4月が7人制ラグビーのデビュー戦で、それから間もなくのことと言うから、ちょうど2年前。寺田は試合中に右足首を骨折し、病院へ救急搬送されて手術。3週間の入院生活を余儀なくされた。「板とクギ5本を入れた」という患部は、外くるぶしのあたりに今も傷が残る。昨年7月に板とクギは抜いたが、どうしても踵やアキレス腱に痛みが出やすく、特に天気が悪いと疼くように患部が硬くなるそうだ。
しかも、右はハードルの踏み切り脚。梅雨入りした直後の日本選手権も痛みがあったのだが、Athlete Night Games in FUKUIに向けても、7月末の実業団・学生対抗、トワイライト・ゲームスの連戦が影響したのか痛みが出て、スパイクを履いたのはレースの1週間前。寺田は夫にも、高野大樹コーチにも「記録は絶対に出ないよ」と宣言していた。
陸上に復帰してから、ターゲットタイムを寺田は「12秒6」と話しているが、当面出さなければいけない記録は、ドーハ世界選手権の参加標準記録である12秒98。日本選手権で3位に入っている寺田がそこに届けば、2009年のベルリン大会以来2度目の世界選手権出場に大きく近づく。
練習が十分でなかったにも関わらず、走ってみた感じは「すごく良かった」し、直前に男子走幅跳で日本新が誕生して、会場の雰囲気も最高潮。意に反して「これで出なかったら、私、センスないな」と記録を意識し始めていると、かつての恩師・北海道ハイテクACの中村宏之監督と高野コーチから「欲を出すな」「考え過ぎるな」と、気持ちを見透かされたようにクギを刺された。
ダントツでフィニッシュしたレースは、「会心の走りではなかった」と寺田は言う。「踏み切り位置を遠くするように変えてる途中なんですけど、今回もそれができなくて、近くなっちゃって……」。7月7日の南部記念100m予選で11秒63(+0.8)の自己ベストが出て、スピードがついていることは証明済み。それなのに、ハードルの近くで踏み切っているということは「ブレーキをかけて跳んでいる」(寺田)ことになる。
そんなレースでも、13秒00(+1.4)が表示され、寺田は「あんなので日本タイ?」と驚いた。そして、少しの間を置いて湧いてきたのは「やっとイボンヌさんに並んだんだ」という感慨。金沢が13秒00を出したレースは、2000年7月の南部記念だった。陸上を始めたばかりで、その年の全道大会100m4位だった札幌の小学4年生は、円山競技場まで観戦に出掛け、被っていた帽子に金沢のサインをもらったという。「何かご縁があったんでしょうかね」。寺田はしばし、19年前の思い出に浸った。
※この続きは2019年9月14日発売の『月刊陸上競技』10月号をご覧ください
Athlete Feature 寺田明日香(パソナグループ) パワーアップして戻ってきた 「ママさんハードラー」
復帰後半年で日本タイ、そして日本新
北海道・恵庭北高時代の2005年~ 07年はインターハイ3連覇、北海道ハイテクACに入ってすぐの2008年~ 10年は日本選手権3連覇と、10代の頃から女子100mハードルで大活躍した寺田明日香(パソナグループ)が、8月17日に福井市で行われた「Athlete Night Games in FUKUI」で13秒00(+1.4)の日本タイ記録をマーク。寺田が小学校5年だった2000年に金沢イボンヌ(佐田建設)が樹立した日本記録に並んだ。と思ったら、わずか15日後の9月1日。「富士北麓ワールドトライアル2019」(山梨県富士吉田市)では、19年ぶりの日本新記録となる12秒97(+1.2)と、立て続けに圧巻のパフォーマンスを披露した。2013年にいったん陸上から離れ、結婚・出産した後、東京五輪を目指して7人制ラグビーに2年間取り組んだ寺田。しかし、今季から陸上界に復帰し、6年ぶりの日本選手権は3位(13秒16 /+0.6)。7月末の実業団・学生対抗では13秒07(+1.3)と、2009年に2度出した13秒05の自己記録に迫る記録で優勝していた。
来年1月で30歳になる寺田が、復帰後なぜこれほど早く結果を残せたのか。自宅に近い都内某所でじっくりと話を聞き、途中から夫の佐藤峻一さんにも加わってもらった。
●構成/小森貞子
●撮影/船越陽一郎
19年前に「13秒00」の日本記録を目撃
2017年4月が7人制ラグビーのデビュー戦で、それから間もなくのことと言うから、ちょうど2年前。寺田は試合中に右足首を骨折し、病院へ救急搬送されて手術。3週間の入院生活を余儀なくされた。「板とクギ5本を入れた」という患部は、外くるぶしのあたりに今も傷が残る。昨年7月に板とクギは抜いたが、どうしても踵やアキレス腱に痛みが出やすく、特に天気が悪いと疼くように患部が硬くなるそうだ。 しかも、右はハードルの踏み切り脚。梅雨入りした直後の日本選手権も痛みがあったのだが、Athlete Night Games in FUKUIに向けても、7月末の実業団・学生対抗、トワイライト・ゲームスの連戦が影響したのか痛みが出て、スパイクを履いたのはレースの1週間前。寺田は夫にも、高野大樹コーチにも「記録は絶対に出ないよ」と宣言していた。 陸上に復帰してから、ターゲットタイムを寺田は「12秒6」と話しているが、当面出さなければいけない記録は、ドーハ世界選手権の参加標準記録である12秒98。日本選手権で3位に入っている寺田がそこに届けば、2009年のベルリン大会以来2度目の世界選手権出場に大きく近づく。 練習が十分でなかったにも関わらず、走ってみた感じは「すごく良かった」し、直前に男子走幅跳で日本新が誕生して、会場の雰囲気も最高潮。意に反して「これで出なかったら、私、センスないな」と記録を意識し始めていると、かつての恩師・北海道ハイテクACの中村宏之監督と高野コーチから「欲を出すな」「考え過ぎるな」と、気持ちを見透かされたようにクギを刺された。 [caption id="attachment_4376" align="aligncenter" width="400"]
13秒00(+1.4)の日本タイをマークしたAthlete Night Games in FUKUIの表彰式では長女の果緒ちゃんが駆けつけて祝福[/caption]
ダントツでフィニッシュしたレースは、「会心の走りではなかった」と寺田は言う。「踏み切り位置を遠くするように変えてる途中なんですけど、今回もそれができなくて、近くなっちゃって……」。7月7日の南部記念100m予選で11秒63(+0.8)の自己ベストが出て、スピードがついていることは証明済み。それなのに、ハードルの近くで踏み切っているということは「ブレーキをかけて跳んでいる」(寺田)ことになる。
そんなレースでも、13秒00(+1.4)が表示され、寺田は「あんなので日本タイ?」と驚いた。そして、少しの間を置いて湧いてきたのは「やっとイボンヌさんに並んだんだ」という感慨。金沢が13秒00を出したレースは、2000年7月の南部記念だった。陸上を始めたばかりで、その年の全道大会100m4位だった札幌の小学4年生は、円山競技場まで観戦に出掛け、被っていた帽子に金沢のサインをもらったという。「何かご縁があったんでしょうかね」。寺田はしばし、19年前の思い出に浸った。
※この続きは2019年9月14日発売の『月刊陸上競技』10月号をご覧ください
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