2019.02.14
天皇盃第24回全国都道府県対抗男子駅伝
優勝 福島
東北勢として初の頂点へ 〝チーム・ガクセキ〟でつかんだ平成最後の天皇盃
1月20日に開催された天皇盃第24回全国都道府県対抗男子駅伝は、福島が東北勢として初優勝を遂げた。
1区4位スタートから常に入賞圏内を維持する安定のタスキリレーを披露し、2位でタスキを受けたアンカーの相澤晃(東洋大)が逆転劇を演じた。福島はこれまで日本を代表する長距離ランナーを何人も輩出してきたが、この大会では苦汁をなめ続けてきた。
今回の出走メンバーは中学生2人を除き、残る5人は全員が学法石川高の現役・OB。〝チーム・ガクセキ〟でつかんだ勝利だった。
相澤の快走を引き立てた高校生の奮闘
名ランナーを数多く輩出してきた福島県が、東北勢として初めて都道府県対抗男子駅伝の頂点に立った。
東日本大震災からもうすぐ8年。自身も地元・福島代表で2度安芸路を駆け抜けた安西秀幸監督(安西商会)は「福島の人が力強く生きているとアピールすることができた」と、感慨深げに初Vの喜びに浸った。
今大会の福島は戦力が充実し、優勝候補の一角に挙げられていた。チームの中心選手は、昨年12月の全国高校駅伝で過去最高の3位に食い込んだ学法石川高の現役・OB陣。
都大路2区区間賞の小指卓也、同3区、4区で日本人トップだった松山和希、横田俊吾が1区、5区、4区に入り、国体少年A5000m5位の櫛田佳希が控えに回るほど各選手の状態も良かった。
それに加え、シニア枠には同校OBで10000m27分56秒45を誇る阿部弘輝(明大)を3区、正月の箱根駅伝で4区区間新を打ち立てた相澤晃(東洋大)を7区に起用。
中学生区間の2区には全中3000m王者の藤宮歩(大槻中)がスタンバイするなど、穴のないオーダーが出来上がった。
それでも、初優勝までの道のりは平坦ではなかった。1区の小指はスローペースで進む集団の後方に位置取り、ラストスパートに対応してトップから3秒差の4位と好スタート。だが、2区藤宮は大会1週間前に風邪を引いた影響で1つ順位を落とした。
3区の阿部も箱根駅伝の疲労が抜けず、一旦はトップに立ったものの7位まで後退。一方で対抗馬と見られた群馬が先頭を奪い、その差は41秒に。福島にとっては厳しい展開となった。
この悪い流れを断ち切ったのが4区の横田だ。区間歴代4位タイとなる14分14秒で区間賞に輝き、3位まで浮上。
5区の松山もじわじわと群馬との差を詰めて逆転。中継所では9秒の差をつけて1位に躍り出た。学法石川高の陸上部顧問である松田和宏コーチは「誰を使ってもいいくらい高校生区間には自信がある」と話していたが、その充実ぶりが見事に結果となって表れた。
そして、優勝を決定づけたのがアンカー・相澤である。6区・宍戸結紀(東和中)から2位でタスキを受けた時、先頭の群馬・牧良輔(SUBARU)とは25秒の差があった。ほぼ同時に走り出した長野も実力者の中谷雄飛(早大)。
しかし、相澤は中谷を7km過ぎに振り切ると、「ラスト3kmで勝負しよう」という予定よりも早く先頭に追いつく。
すると「牧さんがきつそうだったので、一気に行きました」と再びスピードを上げて単独首位に。区間歴代4位の37分14秒で13kmを走り切り、他を圧倒する走りで歓喜のフィニッシュを迎えた。
区間賞と優秀選手賞も獲得し、「全国規模の大会で(優勝の)ゴールテープを切ったのは初めてなので、うれしいです」と、喜びを爆発させた。
震災を乗り越えて悲願達成
福島県は男女通じて都道府県対抗駅伝を制したことがなく、全カテゴリーを含めても駅伝での全国制覇は1998年に全国高校駅伝(女子)で優勝した田村高以来21年ぶりとなる。
男子も96年に全国都道府県対抗ジュニアクロカン駅伝は制しているが、全国高校駅伝は2位(田村高、95年)、全中駅伝は3位(石川中、94年)が最高で、駅伝での全国優勝は悲願だった。
安芸路もこれまで世界大会で日の丸を背負ってきた藤田敦史、佐藤敦之、今井正人(トヨタ自動車九州)、箱根駅伝で大活躍した柏原竜二らがタスキをつないできたが、最高は99年と2010年の2位で、頂点にはあと一歩届いていなかった。
さらに、2011年3月には東日本大震災が発生し、それに伴う福島第一原発事故の影響で屋外での運動が制限されたこともあった。
震災後は34位、23位と低迷。放射能による人体への影響がはっきりしない中で、世間からは「福島で生活していて大丈夫なのか」という声も少なくなかった。
それでも、13年からは学法石川高が全国高校駅伝で3年連続入賞を果たし、インターハイの1500mでは2015年の田母神一喜(現・中大)から遠藤日向(現・住友電工)、半澤黎斗(現・早大)と3連覇を達成。全国トップクラスの選手が毎年育つチームとなった。
そんな土壌で切磋琢磨してきたのが相澤であり、阿部であり、今回は控えに回った半澤だ。学法石川高の躍進が安芸路ではそのまま福島の原動力となった。09年から同高の指導にあたっている松田コーチは「教え子ががんばっている姿は励みになるし、その好影響が生徒たちに循環している」と話す。昨年末の全国高校駅伝で好成績が得られたのも、学法石川高に着々と名門校の系譜が受け継がれている結果だと言える。
部員の大半が福島の選手である学法石川高の中でも、今回出走した小指、横田、松山は県外からの越境入学組だ。
震災後は多くの県民が県内外に避難を余儀なくされたが、今や福島は志ある若者を受け入れる側になった。安西監督も「若い選手が多いので、これから〝駅伝王国・福島〟を再構築したい」と意気込み、春から青学大への進学が決まっている横田は「またチームの一員として連覇したい」と、今度はシニアでの福島代表を狙っている。
大震災を乗り越えて平成最後の安芸路を制した福島チームが、新元号で一時代を築いていきそうだ。
(松山林太郎)
※このほかの記事は2019年2月14日発売の『月刊陸上競技』3月号をご覧ください
天皇盃第24回全国都道府県対抗男子駅伝
優勝 福島 東北勢として初の頂点へ 〝チーム・ガクセキ〟でつかんだ平成最後の天皇盃 1月20日に開催された天皇盃第24回全国都道府県対抗男子駅伝は、福島が東北勢として初優勝を遂げた。 1区4位スタートから常に入賞圏内を維持する安定のタスキリレーを披露し、2位でタスキを受けたアンカーの相澤晃(東洋大)が逆転劇を演じた。福島はこれまで日本を代表する長距離ランナーを何人も輩出してきたが、この大会では苦汁をなめ続けてきた。 今回の出走メンバーは中学生2人を除き、残る5人は全員が学法石川高の現役・OB。〝チーム・ガクセキ〟でつかんだ勝利だった。相澤の快走を引き立てた高校生の奮闘
名ランナーを数多く輩出してきた福島県が、東北勢として初めて都道府県対抗男子駅伝の頂点に立った。 東日本大震災からもうすぐ8年。自身も地元・福島代表で2度安芸路を駆け抜けた安西秀幸監督(安西商会)は「福島の人が力強く生きているとアピールすることができた」と、感慨深げに初Vの喜びに浸った。 今大会の福島は戦力が充実し、優勝候補の一角に挙げられていた。チームの中心選手は、昨年12月の全国高校駅伝で過去最高の3位に食い込んだ学法石川高の現役・OB陣。 都大路2区区間賞の小指卓也、同3区、4区で日本人トップだった松山和希、横田俊吾が1区、5区、4区に入り、国体少年A5000m5位の櫛田佳希が控えに回るほど各選手の状態も良かった。 それに加え、シニア枠には同校OBで10000m27分56秒45を誇る阿部弘輝(明大)を3区、正月の箱根駅伝で4区区間新を打ち立てた相澤晃(東洋大)を7区に起用。 中学生区間の2区には全中3000m王者の藤宮歩(大槻中)がスタンバイするなど、穴のないオーダーが出来上がった。 それでも、初優勝までの道のりは平坦ではなかった。1区の小指はスローペースで進む集団の後方に位置取り、ラストスパートに対応してトップから3秒差の4位と好スタート。だが、2区藤宮は大会1週間前に風邪を引いた影響で1つ順位を落とした。 3区の阿部も箱根駅伝の疲労が抜けず、一旦はトップに立ったものの7位まで後退。一方で対抗馬と見られた群馬が先頭を奪い、その差は41秒に。福島にとっては厳しい展開となった。 この悪い流れを断ち切ったのが4区の横田だ。区間歴代4位タイとなる14分14秒で区間賞に輝き、3位まで浮上。 5区の松山もじわじわと群馬との差を詰めて逆転。中継所では9秒の差をつけて1位に躍り出た。学法石川高の陸上部顧問である松田和宏コーチは「誰を使ってもいいくらい高校生区間には自信がある」と話していたが、その充実ぶりが見事に結果となって表れた。 そして、優勝を決定づけたのがアンカー・相澤である。6区・宍戸結紀(東和中)から2位でタスキを受けた時、先頭の群馬・牧良輔(SUBARU)とは25秒の差があった。ほぼ同時に走り出した長野も実力者の中谷雄飛(早大)。 しかし、相澤は中谷を7km過ぎに振り切ると、「ラスト3kmで勝負しよう」という予定よりも早く先頭に追いつく。 すると「牧さんがきつそうだったので、一気に行きました」と再びスピードを上げて単独首位に。区間歴代4位の37分14秒で13kmを走り切り、他を圧倒する走りで歓喜のフィニッシュを迎えた。 区間賞と優秀選手賞も獲得し、「全国規模の大会で(優勝の)ゴールテープを切ったのは初めてなので、うれしいです」と、喜びを爆発させた。震災を乗り越えて悲願達成
福島県は男女通じて都道府県対抗駅伝を制したことがなく、全カテゴリーを含めても駅伝での全国制覇は1998年に全国高校駅伝(女子)で優勝した田村高以来21年ぶりとなる。 男子も96年に全国都道府県対抗ジュニアクロカン駅伝は制しているが、全国高校駅伝は2位(田村高、95年)、全中駅伝は3位(石川中、94年)が最高で、駅伝での全国優勝は悲願だった。 安芸路もこれまで世界大会で日の丸を背負ってきた藤田敦史、佐藤敦之、今井正人(トヨタ自動車九州)、箱根駅伝で大活躍した柏原竜二らがタスキをつないできたが、最高は99年と2010年の2位で、頂点にはあと一歩届いていなかった。 さらに、2011年3月には東日本大震災が発生し、それに伴う福島第一原発事故の影響で屋外での運動が制限されたこともあった。 震災後は34位、23位と低迷。放射能による人体への影響がはっきりしない中で、世間からは「福島で生活していて大丈夫なのか」という声も少なくなかった。 それでも、13年からは学法石川高が全国高校駅伝で3年連続入賞を果たし、インターハイの1500mでは2015年の田母神一喜(現・中大)から遠藤日向(現・住友電工)、半澤黎斗(現・早大)と3連覇を達成。全国トップクラスの選手が毎年育つチームとなった。 そんな土壌で切磋琢磨してきたのが相澤であり、阿部であり、今回は控えに回った半澤だ。学法石川高の躍進が安芸路ではそのまま福島の原動力となった。09年から同高の指導にあたっている松田コーチは「教え子ががんばっている姿は励みになるし、その好影響が生徒たちに循環している」と話す。昨年末の全国高校駅伝で好成績が得られたのも、学法石川高に着々と名門校の系譜が受け継がれている結果だと言える。 部員の大半が福島の選手である学法石川高の中でも、今回出走した小指、横田、松山は県外からの越境入学組だ。 震災後は多くの県民が県内外に避難を余儀なくされたが、今や福島は志ある若者を受け入れる側になった。安西監督も「若い選手が多いので、これから〝駅伝王国・福島〟を再構築したい」と意気込み、春から青学大への進学が決まっている横田は「またチームの一員として連覇したい」と、今度はシニアでの福島代表を狙っている。 大震災を乗り越えて平成最後の安芸路を制した福島チームが、新元号で一時代を築いていきそうだ。 (松山林太郎) ※このほかの記事は2019年2月14日発売の『月刊陸上競技』3月号をご覧ください
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