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【誌面転載】都道府県女子駅伝 愛知 〝絆〟の強さを証明
【誌面転載】都道府県女子駅伝 愛知 〝絆〟の強さを証明

皇后盃第37回全国都道府県対抗女子駅伝

優勝 愛知
〝絆〟の強さを証明 3年前の再現、アンカー・鈴木で逆転

 古都の冬を彩る皇后盃第37回全国都道府県対抗女子駅伝競走大会は1月13日、京都市の西京極陸上競技場を発着点(9区間42.195km)に争われ、愛知が2時間15分43秒で3年ぶり2回目の優勝を遂げた。序盤から首位争いを繰り広げた愛知は、8区で京都に先頭を譲ったが、2秒差の2位でタスキを受けたアンカー・鈴木亜由子(日本郵政グループ)が、6km付近で並走する京都の一山麻緒(ワコール)を振り切り、郷里の後輩たちが待つVゴールに飛び込んだ。

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エースの快走再び

 古都の冬空は青かった。まばゆい太陽の光を全身に浴びながら、愛知の鈴木亜由子(日本郵政グループ)が3年ぶりに歓喜のフィニッシュテープを切った。
右手の親指と人差し指を伸ばして突き上げたVサイン。黒髪をなびかせながら笑顔でのゴールとなった。鈴木にとって3年ぶり3回目のアンカーだった。
 3年前と同じ逆転での優勝。第34回大会ではトップ・京都との1分37秒差(4位)を引っくり返したが、今回は同じ京都がトップで、2秒遅れで鈴木が追う展開。
並走のかたちで京都・一山麻緒(ワコール)と競りながら、鈴木は相手の息づかいに変化が出たことを感じた。10km区間の後半に入った6km付近。
「よ~し、ペースを上げよう」。154cm、38kgの鈴木がスピードを上げて躍動すると、あとは一人旅。ゴールの時、京都との差は1分02秒にまで広がっていた。
 圧勝だ。3年前は、その前年の北京世界選手権5000m9位などトラックランナーだった。今
回は、昨年8月の北海道でマラソンに初挑戦、初優勝して東京五輪マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」への出場権を獲得。
ロードへの自信と地力をつけた。
 米田勝朗監督は前回優勝の時と同じく、「鈴木に1分以内でタスキが渡ったら」が胸の内だったが、うれしいことにビハインドは2秒だった。
鈴木が走り出した時、米田監督は「勝った」と確信。そして鈴木も、「みんながベストの走りをしてくれて、びっくり。8人の走りが私の背中を押してくれました」と、チームメイトのがんばりに感謝する。

絆の走りに隙なし

 愛知に隙はなかった。米田監督が「前回の優勝は鈴木におんぶされたもの。でも、今回は違います。オール愛知の力を結集した結果です」と話す。
 その言葉通り、2区~8区までの中学生と高校生が、他チームの学生、社会人選手に引けを取らない力走をしたのだ。
2区で区間賞を取り、9位から8人抜きでトップに立つ快走を見せた藤中佑美(光ヶ丘女高)を皮切りに、後の5人も区間ひとケタ順位で優勝争いの主導権を握り続けた。
 社会人は1区・荘司麻衣(デンソー)と鈴木の2人だけ。2秒差で区間賞を逃した鈴木だが、チームの立役者に違いない。
この鈴木は中・高校生たちにとって憧れの的なのだ。「亜由子さんみたいな選手になりたい」と思っている。米田監督はそのあたりの空気を察し、「中学、高校の先生たちと協力して、『鈴木選手のようになろうよ』と合同練習してきました。今の愛知を支えている要素です」。
 鈴木は鈴木で、先述と重なるが「みんなが背中を押してくれたのが大きい。MGCへの弾みがつきました。若い選手のパワーを自分の力にしたい」と、オール愛知を強調した。鈴木の存在の大きさもそうだが、チームには「絶対に勝つ。米田監督へプレゼント」という思いが強かった。
 1995年の創部から米田監督が指導する名城大は、昨年10月末の全日本大学女子駅伝、年末の全日本大学女子選抜駅伝の2冠を獲得。
今回優勝すると、米田監督にとっては「3冠」となる。このことを選手たちは十分に承知していたのだ。
 選手たちの思いは実現した。米田監督にとってまたとないプレゼントに「うれしいですね。所属の違う選手たちが私のことを思ってくれて。
10年以上、愛知チームのコーチ、監督をしているうちに、絆が強くなって〝オール愛知〟のかたちになったのかな」と話した後、「そろそろ(監督の)バトンを渡す時期では」とつぶやいて笑った。

地道の強化策が実る

 鈴木がゴールした後は、お祭りムードで盛り上がった。光ヶ丘女、豊川、安城学園から選抜された高校生5人も、愛知県内で競い合うライバル意識など一切なく、和気あいあいと互いに健闘を称え合う。
「合宿や合同練習で、互いに刺激し合っていることが向上心につながっているのでは」と口をそろえる。
 藤中が「チームの目標は優勝でした。達成できてうれしいです」と自身の区間賞より、チーム一丸となったことの喜びを語る。
鈴木と同じ豊橋市出身の4区・古川璃音(豊川高)は、「一番の目標だった大会で優勝でき、その一員だったことに誇りを感じます」と言った。
 7区の小笠原安香音(安城学園高)は「亜由子さんにつなごうと、みんなの思いが優勝の夢を実現させたのだと思います」。
3区の阪井空(水無瀬中)と8区の林那優(一宮中)は、「憧れだった亜由子さんと一緒だったことがうれしい。おまけに優勝まで。感謝の気持ちでいっぱい」と口にして目を輝かせた。
 第28回大会で7位を占めてから10年連続入賞の愛知。それまでは第1回大会の15位を振り出しに、10回大会まで入賞なしだったが、2回の優勝を含む17度の入賞。
愛知が強豪の一つとして指を折られるようになったのは、地道な強化策が実ったからだ。今大会を契機に、新たな道を歩む。
(力武敏昌)
※このほかの記事は2019年2月14日発売の『月刊陸上競技』3月号をご覧ください

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皇后盃第37回全国都道府県対抗女子駅伝

優勝 愛知 〝絆〟の強さを証明 3年前の再現、アンカー・鈴木で逆転  古都の冬を彩る皇后盃第37回全国都道府県対抗女子駅伝競走大会は1月13日、京都市の西京極陸上競技場を発着点(9区間42.195km)に争われ、愛知が2時間15分43秒で3年ぶり2回目の優勝を遂げた。序盤から首位争いを繰り広げた愛知は、8区で京都に先頭を譲ったが、2秒差の2位でタスキを受けたアンカー・鈴木亜由子(日本郵政グループ)が、6km付近で並走する京都の一山麻緒(ワコール)を振り切り、郷里の後輩たちが待つVゴールに飛び込んだ。

エースの快走再び

 古都の冬空は青かった。まばゆい太陽の光を全身に浴びながら、愛知の鈴木亜由子(日本郵政グループ)が3年ぶりに歓喜のフィニッシュテープを切った。 右手の親指と人差し指を伸ばして突き上げたVサイン。黒髪をなびかせながら笑顔でのゴールとなった。鈴木にとって3年ぶり3回目のアンカーだった。  3年前と同じ逆転での優勝。第34回大会ではトップ・京都との1分37秒差(4位)を引っくり返したが、今回は同じ京都がトップで、2秒遅れで鈴木が追う展開。 並走のかたちで京都・一山麻緒(ワコール)と競りながら、鈴木は相手の息づかいに変化が出たことを感じた。10km区間の後半に入った6km付近。 「よ~し、ペースを上げよう」。154cm、38kgの鈴木がスピードを上げて躍動すると、あとは一人旅。ゴールの時、京都との差は1分02秒にまで広がっていた。  圧勝だ。3年前は、その前年の北京世界選手権5000m9位などトラックランナーだった。今 回は、昨年8月の北海道でマラソンに初挑戦、初優勝して東京五輪マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」への出場権を獲得。 ロードへの自信と地力をつけた。  米田勝朗監督は前回優勝の時と同じく、「鈴木に1分以内でタスキが渡ったら」が胸の内だったが、うれしいことにビハインドは2秒だった。 鈴木が走り出した時、米田監督は「勝った」と確信。そして鈴木も、「みんながベストの走りをしてくれて、びっくり。8人の走りが私の背中を押してくれました」と、チームメイトのがんばりに感謝する。

絆の走りに隙なし

 愛知に隙はなかった。米田監督が「前回の優勝は鈴木におんぶされたもの。でも、今回は違います。オール愛知の力を結集した結果です」と話す。  その言葉通り、2区~8区までの中学生と高校生が、他チームの学生、社会人選手に引けを取らない力走をしたのだ。 2区で区間賞を取り、9位から8人抜きでトップに立つ快走を見せた藤中佑美(光ヶ丘女高)を皮切りに、後の5人も区間ひとケタ順位で優勝争いの主導権を握り続けた。  社会人は1区・荘司麻衣(デンソー)と鈴木の2人だけ。2秒差で区間賞を逃した鈴木だが、チームの立役者に違いない。 この鈴木は中・高校生たちにとって憧れの的なのだ。「亜由子さんみたいな選手になりたい」と思っている。米田監督はそのあたりの空気を察し、「中学、高校の先生たちと協力して、『鈴木選手のようになろうよ』と合同練習してきました。今の愛知を支えている要素です」。  鈴木は鈴木で、先述と重なるが「みんなが背中を押してくれたのが大きい。MGCへの弾みがつきました。若い選手のパワーを自分の力にしたい」と、オール愛知を強調した。鈴木の存在の大きさもそうだが、チームには「絶対に勝つ。米田監督へプレゼント」という思いが強かった。  1995年の創部から米田監督が指導する名城大は、昨年10月末の全日本大学女子駅伝、年末の全日本大学女子選抜駅伝の2冠を獲得。 今回優勝すると、米田監督にとっては「3冠」となる。このことを選手たちは十分に承知していたのだ。  選手たちの思いは実現した。米田監督にとってまたとないプレゼントに「うれしいですね。所属の違う選手たちが私のことを思ってくれて。 10年以上、愛知チームのコーチ、監督をしているうちに、絆が強くなって〝オール愛知〟のかたちになったのかな」と話した後、「そろそろ(監督の)バトンを渡す時期では」とつぶやいて笑った。

地道の強化策が実る

 鈴木がゴールした後は、お祭りムードで盛り上がった。光ヶ丘女、豊川、安城学園から選抜された高校生5人も、愛知県内で競い合うライバル意識など一切なく、和気あいあいと互いに健闘を称え合う。 「合宿や合同練習で、互いに刺激し合っていることが向上心につながっているのでは」と口をそろえる。  藤中が「チームの目標は優勝でした。達成できてうれしいです」と自身の区間賞より、チーム一丸となったことの喜びを語る。 鈴木と同じ豊橋市出身の4区・古川璃音(豊川高)は、「一番の目標だった大会で優勝でき、その一員だったことに誇りを感じます」と言った。  7区の小笠原安香音(安城学園高)は「亜由子さんにつなごうと、みんなの思いが優勝の夢を実現させたのだと思います」。 3区の阪井空(水無瀬中)と8区の林那優(一宮中)は、「憧れだった亜由子さんと一緒だったことがうれしい。おまけに優勝まで。感謝の気持ちでいっぱい」と口にして目を輝かせた。  第28回大会で7位を占めてから10年連続入賞の愛知。それまでは第1回大会の15位を振り出しに、10回大会まで入賞なしだったが、2回の優勝を含む17度の入賞。 愛知が強豪の一つとして指を折られるようになったのは、地道な強化策が実ったからだ。今大会を契機に、新たな道を歩む。 (力武敏昌) ※このほかの記事は2019年2月14日発売の『月刊陸上競技』3月号をご覧ください

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