2019.02.15
皇后盃第37回全国都道府県対抗女子駅伝
優勝 愛知
〝絆〟の強さを証明 3年前の再現、アンカー・鈴木で逆転
古都の冬を彩る皇后盃第37回全国都道府県対抗女子駅伝競走大会は1月13日、京都市の西京極陸上競技場を発着点(9区間42.195km)に争われ、愛知が2時間15分43秒で3年ぶり2回目の優勝を遂げた。序盤から首位争いを繰り広げた愛知は、8区で京都に先頭を譲ったが、2秒差の2位でタスキを受けたアンカー・鈴木亜由子(日本郵政グループ)が、6km付近で並走する京都の一山麻緒(ワコール)を振り切り、郷里の後輩たちが待つVゴールに飛び込んだ。
エースの快走再び
古都の冬空は青かった。まばゆい太陽の光を全身に浴びながら、愛知の鈴木亜由子(日本郵政グループ)が3年ぶりに歓喜のフィニッシュテープを切った。
右手の親指と人差し指を伸ばして突き上げたVサイン。黒髪をなびかせながら笑顔でのゴールとなった。鈴木にとって3年ぶり3回目のアンカーだった。
3年前と同じ逆転での優勝。第34回大会ではトップ・京都との1分37秒差(4位)を引っくり返したが、今回は同じ京都がトップで、2秒遅れで鈴木が追う展開。
並走のかたちで京都・一山麻緒(ワコール)と競りながら、鈴木は相手の息づかいに変化が出たことを感じた。10km区間の後半に入った6km付近。
「よ~し、ペースを上げよう」。154cm、38kgの鈴木がスピードを上げて躍動すると、あとは一人旅。ゴールの時、京都との差は1分02秒にまで広がっていた。
圧勝だ。3年前は、その前年の北京世界選手権5000m9位などトラックランナーだった。今
回は、昨年8月の北海道でマラソンに初挑戦、初優勝して東京五輪マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」への出場権を獲得。
ロードへの自信と地力をつけた。
米田勝朗監督は前回優勝の時と同じく、「鈴木に1分以内でタスキが渡ったら」が胸の内だったが、うれしいことにビハインドは2秒だった。
鈴木が走り出した時、米田監督は「勝った」と確信。そして鈴木も、「みんながベストの走りをしてくれて、びっくり。8人の走りが私の背中を押してくれました」と、チームメイトのがんばりに感謝する。
絆の走りに隙なし
愛知に隙はなかった。米田監督が「前回の優勝は鈴木におんぶされたもの。でも、今回は違います。オール愛知の力を結集した結果です」と話す。
その言葉通り、2区~8区までの中学生と高校生が、他チームの学生、社会人選手に引けを取らない力走をしたのだ。
2区で区間賞を取り、9位から8人抜きでトップに立つ快走を見せた藤中佑美(光ヶ丘女高)を皮切りに、後の5人も区間ひとケタ順位で優勝争いの主導権を握り続けた。
社会人は1区・荘司麻衣(デンソー)と鈴木の2人だけ。2秒差で区間賞を逃した鈴木だが、チームの立役者に違いない。
この鈴木は中・高校生たちにとって憧れの的なのだ。「亜由子さんみたいな選手になりたい」と思っている。米田監督はそのあたりの空気を察し、「中学、高校の先生たちと協力して、『鈴木選手のようになろうよ』と合同練習してきました。今の愛知を支えている要素です」。
鈴木は鈴木で、先述と重なるが「みんなが背中を押してくれたのが大きい。MGCへの弾みがつきました。若い選手のパワーを自分の力にしたい」と、オール愛知を強調した。鈴木の存在の大きさもそうだが、チームには「絶対に勝つ。米田監督へプレゼント」という思いが強かった。
1995年の創部から米田監督が指導する名城大は、昨年10月末の全日本大学女子駅伝、年末の全日本大学女子選抜駅伝の2冠を獲得。
今回優勝すると、米田監督にとっては「3冠」となる。このことを選手たちは十分に承知していたのだ。
選手たちの思いは実現した。米田監督にとってまたとないプレゼントに「うれしいですね。所属の違う選手たちが私のことを思ってくれて。
10年以上、愛知チームのコーチ、監督をしているうちに、絆が強くなって〝オール愛知〟のかたちになったのかな」と話した後、「そろそろ(監督の)バトンを渡す時期では」とつぶやいて笑った。
地道の強化策が実る
鈴木がゴールした後は、お祭りムードで盛り上がった。光ヶ丘女、豊川、安城学園から選抜された高校生5人も、愛知県内で競い合うライバル意識など一切なく、和気あいあいと互いに健闘を称え合う。
「合宿や合同練習で、互いに刺激し合っていることが向上心につながっているのでは」と口をそろえる。
藤中が「チームの目標は優勝でした。達成できてうれしいです」と自身の区間賞より、チーム一丸となったことの喜びを語る。
鈴木と同じ豊橋市出身の4区・古川璃音(豊川高)は、「一番の目標だった大会で優勝でき、その一員だったことに誇りを感じます」と言った。
7区の小笠原安香音(安城学園高)は「亜由子さんにつなごうと、みんなの思いが優勝の夢を実現させたのだと思います」。
3区の阪井空(水無瀬中)と8区の林那優(一宮中)は、「憧れだった亜由子さんと一緒だったことがうれしい。おまけに優勝まで。感謝の気持ちでいっぱい」と口にして目を輝かせた。
第28回大会で7位を占めてから10年連続入賞の愛知。それまでは第1回大会の15位を振り出しに、10回大会まで入賞なしだったが、2回の優勝を含む17度の入賞。
愛知が強豪の一つとして指を折られるようになったのは、地道な強化策が実ったからだ。今大会を契機に、新たな道を歩む。
(力武敏昌)
※このほかの記事は2019年2月14日発売の『月刊陸上競技』3月号をご覧ください
皇后盃第37回全国都道府県対抗女子駅伝
優勝 愛知 〝絆〟の強さを証明 3年前の再現、アンカー・鈴木で逆転 古都の冬を彩る皇后盃第37回全国都道府県対抗女子駅伝競走大会は1月13日、京都市の西京極陸上競技場を発着点(9区間42.195km)に争われ、愛知が2時間15分43秒で3年ぶり2回目の優勝を遂げた。序盤から首位争いを繰り広げた愛知は、8区で京都に先頭を譲ったが、2秒差の2位でタスキを受けたアンカー・鈴木亜由子(日本郵政グループ)が、6km付近で並走する京都の一山麻緒(ワコール)を振り切り、郷里の後輩たちが待つVゴールに飛び込んだ。エースの快走再び
古都の冬空は青かった。まばゆい太陽の光を全身に浴びながら、愛知の鈴木亜由子(日本郵政グループ)が3年ぶりに歓喜のフィニッシュテープを切った。 右手の親指と人差し指を伸ばして突き上げたVサイン。黒髪をなびかせながら笑顔でのゴールとなった。鈴木にとって3年ぶり3回目のアンカーだった。 3年前と同じ逆転での優勝。第34回大会ではトップ・京都との1分37秒差(4位)を引っくり返したが、今回は同じ京都がトップで、2秒遅れで鈴木が追う展開。 並走のかたちで京都・一山麻緒(ワコール)と競りながら、鈴木は相手の息づかいに変化が出たことを感じた。10km区間の後半に入った6km付近。 「よ~し、ペースを上げよう」。154cm、38kgの鈴木がスピードを上げて躍動すると、あとは一人旅。ゴールの時、京都との差は1分02秒にまで広がっていた。 圧勝だ。3年前は、その前年の北京世界選手権5000m9位などトラックランナーだった。今 回は、昨年8月の北海道でマラソンに初挑戦、初優勝して東京五輪マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」への出場権を獲得。 ロードへの自信と地力をつけた。 米田勝朗監督は前回優勝の時と同じく、「鈴木に1分以内でタスキが渡ったら」が胸の内だったが、うれしいことにビハインドは2秒だった。 鈴木が走り出した時、米田監督は「勝った」と確信。そして鈴木も、「みんながベストの走りをしてくれて、びっくり。8人の走りが私の背中を押してくれました」と、チームメイトのがんばりに感謝する。絆の走りに隙なし
愛知に隙はなかった。米田監督が「前回の優勝は鈴木におんぶされたもの。でも、今回は違います。オール愛知の力を結集した結果です」と話す。 その言葉通り、2区~8区までの中学生と高校生が、他チームの学生、社会人選手に引けを取らない力走をしたのだ。 2区で区間賞を取り、9位から8人抜きでトップに立つ快走を見せた藤中佑美(光ヶ丘女高)を皮切りに、後の5人も区間ひとケタ順位で優勝争いの主導権を握り続けた。 社会人は1区・荘司麻衣(デンソー)と鈴木の2人だけ。2秒差で区間賞を逃した鈴木だが、チームの立役者に違いない。 この鈴木は中・高校生たちにとって憧れの的なのだ。「亜由子さんみたいな選手になりたい」と思っている。米田監督はそのあたりの空気を察し、「中学、高校の先生たちと協力して、『鈴木選手のようになろうよ』と合同練習してきました。今の愛知を支えている要素です」。 鈴木は鈴木で、先述と重なるが「みんなが背中を押してくれたのが大きい。MGCへの弾みがつきました。若い選手のパワーを自分の力にしたい」と、オール愛知を強調した。鈴木の存在の大きさもそうだが、チームには「絶対に勝つ。米田監督へプレゼント」という思いが強かった。 1995年の創部から米田監督が指導する名城大は、昨年10月末の全日本大学女子駅伝、年末の全日本大学女子選抜駅伝の2冠を獲得。 今回優勝すると、米田監督にとっては「3冠」となる。このことを選手たちは十分に承知していたのだ。 選手たちの思いは実現した。米田監督にとってまたとないプレゼントに「うれしいですね。所属の違う選手たちが私のことを思ってくれて。 10年以上、愛知チームのコーチ、監督をしているうちに、絆が強くなって〝オール愛知〟のかたちになったのかな」と話した後、「そろそろ(監督の)バトンを渡す時期では」とつぶやいて笑った。地道の強化策が実る
鈴木がゴールした後は、お祭りムードで盛り上がった。光ヶ丘女、豊川、安城学園から選抜された高校生5人も、愛知県内で競い合うライバル意識など一切なく、和気あいあいと互いに健闘を称え合う。 「合宿や合同練習で、互いに刺激し合っていることが向上心につながっているのでは」と口をそろえる。 藤中が「チームの目標は優勝でした。達成できてうれしいです」と自身の区間賞より、チーム一丸となったことの喜びを語る。 鈴木と同じ豊橋市出身の4区・古川璃音(豊川高)は、「一番の目標だった大会で優勝でき、その一員だったことに誇りを感じます」と言った。 7区の小笠原安香音(安城学園高)は「亜由子さんにつなごうと、みんなの思いが優勝の夢を実現させたのだと思います」。 3区の阪井空(水無瀬中)と8区の林那優(一宮中)は、「憧れだった亜由子さんと一緒だったことがうれしい。おまけに優勝まで。感謝の気持ちでいっぱい」と口にして目を輝かせた。 第28回大会で7位を占めてから10年連続入賞の愛知。それまでは第1回大会の15位を振り出しに、10回大会まで入賞なしだったが、2回の優勝を含む17度の入賞。 愛知が強豪の一つとして指を折られるようになったのは、地道な強化策が実ったからだ。今大会を契機に、新たな道を歩む。 (力武敏昌) ※このほかの記事は2019年2月14日発売の『月刊陸上競技』3月号をご覧ください
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
-
2024.10.22
-
2024.10.21
-
2024.10.21
2024.10.19
【大会結果】第101回箱根駅伝予選会/チーム総合(2024年10月19日)
2024.10.19
【大会結果】第101回箱根駅伝予選会/個人成績(2024年10月19日)
-
2024.10.19
-
2024.10.11
-
2024.10.05
-
2024.10.19
-
2024.10.13
-
2024.10.19
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.10.23
今週は宮城、千葉、熊本など12県で開催 都大路目指して仙台育英、八千代松陰、九州学院など強豪が登場/高校駅伝
10月に入って全国高校駅伝(12月22日/京都)出場を懸けた高校駅伝都道府県大会が行われている。 今週は週末にかけて12県で開催される。宮城は男女とも仙台育英がレースの中心となる。タイムも注目だ。また、福島は学法石川がリ […]
2024.10.23
筑波大競技会5000m パリ五輪マラソン6位の鈴木優花が五輪後初レースで15分47秒80 10000m五輪代表の小海遥が15分29秒41
10月19日に行われた筑波大競技会女子5000mに、パリ五輪マラソン6位の鈴木優花(第一生命グループ)が出場し、15分47秒80をマークした。 鈴木は五輪後初レース。自己ベストの15分30秒14(2022年)には届かなか […]
2024.10.23
ライルズ、インゲブリグトセンらがWAワールド・アスリート・オブ・ザ・イヤーのトラック種目候補選手にノミネート
世界陸連(WA)は10月21日、ワールド・アスレティクス・アワード2024の「ワールド・アスリート・オブ・ザ・イヤー」のトラック種目ノミネート選手を発表した。 パリ五輪金メダリストから男女各5選手が候補に挙げられている。 […]
2024.10.22
アジア選手権代表選考会に奥田啓祐、田上駿、山﨑有紀、ヘンプヒル恵らエントリー
来年韓国・クミで行われるアジア選手権の男女混成競技の代表選考会を兼ねた第6回中京大学土曜競技会(10月26、27日)のエントリー選手が発表された。 男子十種競技は8008点の自己記録を持つ奥田啓祐(ウィザス)、田上駿(陸 […]
2024.10.21
関西実業団駅伝エントリー NTT西日本・小林歩、SGホールディングス・近藤幸太郎、住友電工・田村和希ら登録 上位4チームにニューイヤー駅伝出場権
来年元日の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝/群馬)の予選会を兼ねた第67回関西実業団対抗駅伝(11月10日/和歌山)のエントリーが10月21日、同実業団連盟から発表された。 エントリーは前回出場より1チーム多い13 […]
Latest Issue 最新号
2024年11月号 (10月11日発売)
●ベルリンマラソン
●DLファイナル
●インカレ、実業団
●箱根駅伝予選会展望