2021.03.13
レース直後、テレビ中継のインタビューで、鈴木健吾(富士通)は「こんなタイムが出ると思わなかったので、自分が一番ビックリしています」と、ケロッとした表情で語った。初マラソンは神奈川大を卒業する直前の2018年2月末。3年前の東京で出した2時間10分21秒がこれまでの自己ベストで、5回目のマラソンとなった今回、一気に5分25秒も更新した。2時間4分56秒は国籍変更者を含むアフリカ系選手以外の世界最高タイム。なぜ、それほどの記録を出して勝てたのか。本人に緊急インタビューしてみた。
●構成/小森貞子
「一発で決める」
──このレースは世界大会などの選考が懸かっていたわけではありませんが、どういう気持ちで臨んでいたのでしょうか。
鈴木 密かに優勝を狙っていました。今回、招待選手ではなかったので、公にする機会はありませんでしたが、福嶋(正)監督とも話して「勝負どころを見極め、一発で決める」という考えでスタートラインに立ちました。ですから、前半は集団の中で、目立たないようにしていました(笑)。
──1㎞2分58秒ペースは、楽に行けたのですか。
鈴木 序盤はリズムに乗れないというか、集団の人数が多かったので、位置取りを考えたり、周りを気にしながらのレースでした。中間点を過ぎてすぐに折り返しですけど、そのあたりでは人数も絞られてきて、自分の中でリズムが良くなってきた感覚はありました。
──井上大仁選手(三菱重工)が25㎞過ぎに飛び出した時も、「まだ早い」と判断して追わなかったのですね。
鈴木 今までの経験がそう判断させたのでしょうね。前回のびわ湖(2時間10分37秒で12位)は、30㎞で外国人ランナーが出た時に僕だけ対応してしまって、そこで力を使ってズルズルという感じだったので、「まだ違う」と思いました。30㎞までのペースメーカーが1人いたので、一気にペースが落ちるとは思わなかったし、そこは自重できましたね。30㎞で(井上さんに)行かれたら、わからなかったですけど……。
── 井上選手が絶好調宣言をしていたので、あのまま逃げられてしまうという不安はなかったのですか。
鈴木 距離がジワジワと開き始めたら「追うしかない」と思ったんですけど、意外と開かなかったので、「大丈夫だな」と思いました。
──それで、36㎞過ぎの給水ポイントに「一発で決める」チャンスが来ました。
鈴木 そこのスペシャル(ドリンク)は「取らなくてもいいかな」と思っていたくらいですから、ボトルを取り損ねたことは別にどうでもよくて、その前に他の2人(サイモン・カリウキ/戸上電機製作所と土方英和/ Honda)の様子をうかがっていたんです。余裕がある感じではなかったので、2人が給水に向かった隙を突いてスパートしました。(中村)匠吾さん(富士通)が一発で勝負を決めるじゃないですか。五輪代表を決めたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)もそうだし、ニューイヤー駅伝の4区でもそう。それを学ばせてもらっています。
──そこから2分53秒、2分52秒、2分51秒と1㎞ごとのスプリットを上げていき、独走に持ち込みました。
鈴木 腕時計の1㎞ごとの通過は押してなかったんですけど、5㎞ごとに押してトータルで見ていて、「上がっているな」という感覚はありました。
──35㎞から40㎞が14分39秒で、この日最速です。ラスト2.195㎞は6分16秒。それでも、フィニッシュしてからは余力がありそうでした。
鈴木 結構、ゆとりがありました。気象コンディションが良かったですよ。今回は風もほとんどなかったですし。
──どのあたりで2時間4分台を意識しましたか。
鈴木 40㎞ぐらいですかね。沿道からの声が「5分台行けるぞ」から「日本記録出るぞ」になって、「4分台出るぞ」に変わったんです。「マジか」と思って時計を見たら、「行けるかもしれない」って(笑)。
勝因を自己分析すると
──これまでのマラソンは後半の失速が課題でしたが、今回これだけ力を残して最後まで行けた要因は何でしょうか。
鈴木 30㎞から35㎞が15分02秒に落ちてまかなぁ……。あと、どれだけ効果があったのかはわかりませんが、4日ぐらい前からメチャクチャご飯を食べました。今回は本当にいっぱい食べたんです、ご飯、うどん、餅の炭水化物系をイヤと言うほど(笑)。ホテルにも餅を持って行きましたし、前の晩は讃岐うどんを大きなどんぶりで食べて、親子丼もつけました。
この続きは2021年3月13日発売の『月刊陸上競技4月号』をご覧ください。
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レース直後、テレビ中継のインタビューで、鈴木健吾(富士通)は「こんなタイムが出ると思わなかったので、自分が一番ビックリしています」と、ケロッとした表情で語った。初マラソンは神奈川大を卒業する直前の2018年2月末。3年前の東京で出した2時間10分21秒がこれまでの自己ベストで、5回目のマラソンとなった今回、一気に5分25秒も更新した。2時間4分56秒は国籍変更者を含むアフリカ系選手以外の世界最高タイム。なぜ、それほどの記録を出して勝てたのか。本人に緊急インタビューしてみた。
●構成/小森貞子
「一発で決める」
──このレースは世界大会などの選考が懸かっていたわけではありませんが、どういう気持ちで臨んでいたのでしょうか。 鈴木 密かに優勝を狙っていました。今回、招待選手ではなかったので、公にする機会はありませんでしたが、福嶋(正)監督とも話して「勝負どころを見極め、一発で決める」という考えでスタートラインに立ちました。ですから、前半は集団の中で、目立たないようにしていました(笑)。 ──1㎞2分58秒ペースは、楽に行けたのですか。 鈴木 序盤はリズムに乗れないというか、集団の人数が多かったので、位置取りを考えたり、周りを気にしながらのレースでした。中間点を過ぎてすぐに折り返しですけど、そのあたりでは人数も絞られてきて、自分の中でリズムが良くなってきた感覚はありました。 ──井上大仁選手(三菱重工)が25㎞過ぎに飛び出した時も、「まだ早い」と判断して追わなかったのですね。 鈴木 今までの経験がそう判断させたのでしょうね。前回のびわ湖(2時間10分37秒で12位)は、30㎞で外国人ランナーが出た時に僕だけ対応してしまって、そこで力を使ってズルズルという感じだったので、「まだ違う」と思いました。30㎞までのペースメーカーが1人いたので、一気にペースが落ちるとは思わなかったし、そこは自重できましたね。30㎞で(井上さんに)行かれたら、わからなかったですけど……。 ── 井上選手が絶好調宣言をしていたので、あのまま逃げられてしまうという不安はなかったのですか。 鈴木 距離がジワジワと開き始めたら「追うしかない」と思ったんですけど、意外と開かなかったので、「大丈夫だな」と思いました。 ──それで、36㎞過ぎの給水ポイントに「一発で決める」チャンスが来ました。 鈴木 そこのスペシャル(ドリンク)は「取らなくてもいいかな」と思っていたくらいですから、ボトルを取り損ねたことは別にどうでもよくて、その前に他の2人(サイモン・カリウキ/戸上電機製作所と土方英和/ Honda)の様子をうかがっていたんです。余裕がある感じではなかったので、2人が給水に向かった隙を突いてスパートしました。(中村)匠吾さん(富士通)が一発で勝負を決めるじゃないですか。五輪代表を決めたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)もそうだし、ニューイヤー駅伝の4区でもそう。それを学ばせてもらっています。
36km過ぎの給水でワンチャンスをものにした鈴木
──そこから2分53秒、2分52秒、2分51秒と1㎞ごとのスプリットを上げていき、独走に持ち込みました。
鈴木 腕時計の1㎞ごとの通過は押してなかったんですけど、5㎞ごとに押してトータルで見ていて、「上がっているな」という感覚はありました。
──35㎞から40㎞が14分39秒で、この日最速です。ラスト2.195㎞は6分16秒。それでも、フィニッシュしてからは余力がありそうでした。
鈴木 結構、ゆとりがありました。気象コンディションが良かったですよ。今回は風もほとんどなかったですし。
──どのあたりで2時間4分台を意識しましたか。
鈴木 40㎞ぐらいですかね。沿道からの声が「5分台行けるぞ」から「日本記録出るぞ」になって、「4分台出るぞ」に変わったんです。「マジか」と思って時計を見たら、「行けるかもしれない」って(笑)。
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