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2024.07.30

やり投・北口榛花 五輪直前インタビュー「やれることを全部やってパリに臨みたい」“一番”と言われる選手に近づくために
やり投・北口榛花 五輪直前インタビュー「やれることを全部やってパリに臨みたい」“一番”と言われる選手に近づくために

世界選手権女王の北口榛花。「オリンピックも勝ちたい」とパリでの夢を語る

8月1日からいよいよパリ五輪の陸上競技がスタートする。大きな注目を集めるのは女子やり投の北口榛花(JAL)。昨年のブダペスト世界選手権で女子トラック&フィールド初の金メダルを獲得し、世界最高峰のダイヤモンドリーグ(DL)ファイナルも日本人初優勝を果たした。記録も世界リストトップで名実とも世界一に君臨した。

しかし、北口は「オリンピックを勝ってこそ、真の世界女王」だと言う。今季はこれまで「絶好調という状態で臨めていない」が、ここからどんな仕上げを見せるか。女子やり投は予選が7日、決勝は競技場最終日の10日に行われる。大会直前の声を聞いた。

「身体が動かない」状態からの脱却

――オリンピックが開幕しました。少しずつ実感は湧いてきましたか。

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「開会式も見ましたし、毎日、いろんな種目を楽しく応援していて、オリンピックだなという感じがします。いろんなスポーツが一気に見られて、『応援したい』という気持ちになるのがオリンピック。同じJAL所属のフェンシングで金メダルを取った加納(虹輝)選手の試合もほとんど見ました。決勝の相手が地元のフランス。すごい声援が聞こえてきて、私もその中で早く試合がしたいなと思いました」

――日本選手権の後はDL2戦。モナコでは今季自己最高の65m21で優勝を飾りましたが、ロンドンでは62m69で4位でした。

「モナコでは久しぶりに自分の身体が動けるかも、と思って臨めました。前日まではそうでもなかったのですが、当日になって『行けるな』と。ただ、その後の1週間の調整で、やっぱり練習する部分もあったのですが、その内容が合わなかった。そこで身体がまた動かなくなりました」

――今季はその身体の仕上がりで苦労されています。

「身体が動いていないと感じると、自分のやりたい修正点に加えて、まず身体を動かすというところを意識しないといけない。さらに、身体が動かない中でどうするか、と考えると、やっぱり修正も難しくなります」

――「身体が動かない」というのはどういう状態なのでしょう。

「シーズン初戦のDL蘇州、5月の水戸招待の後に、身体が硬直したんです。ケガをしていないのに身体がギクシャクしてしまって……。柔軟性を出すために、おなか周りがポイントになるのですが、やっぱり上半身に出ることが多い。本当に動けなかったです。シーズン前のスペイン合宿あたりは1日休みがなく、練習の割に休日が少なく回復のペースが合わなくなり、身体がどんどん悪いほうにいいきました。動けていないのに練習はあるから動かそうとする。無理に負荷をかけてまた動かなくなった、という感じです」

――現在の状態は。

「今は自分で休みながらできているので、そういうところからモナコの結果に結びついたと思います。ただ、モナコでももうちょっと飛んでもいいかなと思っていました。今、自分では“絶不調”だと思っているので、それなりに危機感はあります」

――ただ、そうした状態でも65mは一本でました。

「今は技術的に苦労しているというのはなくて、脚の力が腕まで伝えられる試合とそうでない試合が多いくらい。それも身体がちゃんと整っていないからエネルギーが分散されます。身体がバッチリであれば65mは普通に投げられるし、1本目から64m(※DLモナコは自身1投目最高の64m63)は投げられます」

「この時代の一番の選手」に近づきたい

――2度目の大舞台になります。以前、「オリンピックは人生が変わる」ともおっしゃっていました。

「一つひとつの競技、種目に対するスポットライトの当たり方が、やっぱり世界選手権とも違うと思います。その中で、やっぱり何かを持って帰れるとたくさんの方に喜んでもらえるのかな、と」

――世界選手権を勝っても「真の世界チャンピオンではない」とも。

「“世界一”にはいろんなバリエーションがありますが(笑)。やっぱりオリンピックも勝ちたいですし、本当にこの時代の一番だと言われる選手に近づきたい思いがあります」

――ここからの調整について。

「今はトレーニングを頑張る時期で、全身筋肉痛なんです(笑)。ある程度は手応えも出てきました。各選手、五輪が本番という意識。絶不調では勝てない。これからは投げたり、身体をベストコンディションに持って行ったりする時間になります。ここからが重要です。ブダペストでは少し脇腹を痛めるなどアクシデントもありましたが、変なアクシデントなく積めています。予選の時にはある程度、調子が上がってきたと思って臨みたいです」

――どんな試合をイメージしていますか。

「パリにはギリギリ(5日)に入るので、予選で会場の雰囲気を確認しつつ、できるだけきれいに通過したい。決勝はもう不調とかはどうでも良くて、本当に全力を出し切るだけです」

――ブダペストの時みたいに大きな注目を集めるかもしれません。

「今年はずば抜けた存在じゃないし、ワールドリーダーじゃないから大丈夫だと思っているんです。そんなに注目されないと思っているんですけど……ダメですか??(笑)」

――ダメです(笑)。ブダペストは予選の練習で歩数を間違えていましたね!

「間違ってもちゃんと予選通過できるように頑張ります!」

――パリは初DL優勝など、相性の良い舞台だと思います。

「試合会場は違いますが、DLでも会場の盛り上がり、歓声がすごくて、刺激になったのを覚えています。また満員になると思いますし、歓声がすごい大きなスタジアムが楽しみです」

――26歳で迎える2度目の五輪。どんな位置づけになりそうですか。

「これから先、努力を続けていけばオリンピックには出られるかもしれません。ただ、メダルを狙える、優勝を狙えるオリンピックというのは、4年に一回の大会でそう簡単じゃないと思います。今だからこそできることを、パリではやりたいです」

構成/向永拓史

8月1日からいよいよパリ五輪の陸上競技がスタートする。大きな注目を集めるのは女子やり投の北口榛花(JAL)。昨年のブダペスト世界選手権で女子トラック&フィールド初の金メダルを獲得し、世界最高峰のダイヤモンドリーグ(DL)ファイナルも日本人初優勝を果たした。記録も世界リストトップで名実とも世界一に君臨した。 しかし、北口は「オリンピックを勝ってこそ、真の世界女王」だと言う。今季はこれまで「絶好調という状態で臨めていない」が、ここからどんな仕上げを見せるか。女子やり投は予選が7日、決勝は競技場最終日の10日に行われる。大会直前の声を聞いた。

「身体が動かない」状態からの脱却

――オリンピックが開幕しました。少しずつ実感は湧いてきましたか。 「開会式も見ましたし、毎日、いろんな種目を楽しく応援していて、オリンピックだなという感じがします。いろんなスポーツが一気に見られて、『応援したい』という気持ちになるのがオリンピック。同じJAL所属のフェンシングで金メダルを取った加納(虹輝)選手の試合もほとんど見ました。決勝の相手が地元のフランス。すごい声援が聞こえてきて、私もその中で早く試合がしたいなと思いました」 ――日本選手権の後はDL2戦。モナコでは今季自己最高の65m21で優勝を飾りましたが、ロンドンでは62m69で4位でした。 「モナコでは久しぶりに自分の身体が動けるかも、と思って臨めました。前日まではそうでもなかったのですが、当日になって『行けるな』と。ただ、その後の1週間の調整で、やっぱり練習する部分もあったのですが、その内容が合わなかった。そこで身体がまた動かなくなりました」 ――今季はその身体の仕上がりで苦労されています。 「身体が動いていないと感じると、自分のやりたい修正点に加えて、まず身体を動かすというところを意識しないといけない。さらに、身体が動かない中でどうするか、と考えると、やっぱり修正も難しくなります」 ――「身体が動かない」というのはどういう状態なのでしょう。 「シーズン初戦のDL蘇州、5月の水戸招待の後に、身体が硬直したんです。ケガをしていないのに身体がギクシャクしてしまって……。柔軟性を出すために、おなか周りがポイントになるのですが、やっぱり上半身に出ることが多い。本当に動けなかったです。シーズン前のスペイン合宿あたりは1日休みがなく、練習の割に休日が少なく回復のペースが合わなくなり、身体がどんどん悪いほうにいいきました。動けていないのに練習はあるから動かそうとする。無理に負荷をかけてまた動かなくなった、という感じです」 ――現在の状態は。 「今は自分で休みながらできているので、そういうところからモナコの結果に結びついたと思います。ただ、モナコでももうちょっと飛んでもいいかなと思っていました。今、自分では“絶不調”だと思っているので、それなりに危機感はあります」 ――ただ、そうした状態でも65mは一本でました。 「今は技術的に苦労しているというのはなくて、脚の力が腕まで伝えられる試合とそうでない試合が多いくらい。それも身体がちゃんと整っていないからエネルギーが分散されます。身体がバッチリであれば65mは普通に投げられるし、1本目から64m(※DLモナコは自身1投目最高の64m63)は投げられます」

「この時代の一番の選手」に近づきたい

――2度目の大舞台になります。以前、「オリンピックは人生が変わる」ともおっしゃっていました。 「一つひとつの競技、種目に対するスポットライトの当たり方が、やっぱり世界選手権とも違うと思います。その中で、やっぱり何かを持って帰れるとたくさんの方に喜んでもらえるのかな、と」 ――世界選手権を勝っても「真の世界チャンピオンではない」とも。 「“世界一”にはいろんなバリエーションがありますが(笑)。やっぱりオリンピックも勝ちたいですし、本当にこの時代の一番だと言われる選手に近づきたい思いがあります」 ――ここからの調整について。 「今はトレーニングを頑張る時期で、全身筋肉痛なんです(笑)。ある程度は手応えも出てきました。各選手、五輪が本番という意識。絶不調では勝てない。これからは投げたり、身体をベストコンディションに持って行ったりする時間になります。ここからが重要です。ブダペストでは少し脇腹を痛めるなどアクシデントもありましたが、変なアクシデントなく積めています。予選の時にはある程度、調子が上がってきたと思って臨みたいです」 ――どんな試合をイメージしていますか。 「パリにはギリギリ(5日)に入るので、予選で会場の雰囲気を確認しつつ、できるだけきれいに通過したい。決勝はもう不調とかはどうでも良くて、本当に全力を出し切るだけです」 ――ブダペストの時みたいに大きな注目を集めるかもしれません。 「今年はずば抜けた存在じゃないし、ワールドリーダーじゃないから大丈夫だと思っているんです。そんなに注目されないと思っているんですけど……ダメですか??(笑)」 ――ダメです(笑)。ブダペストは予選の練習で歩数を間違えていましたね! 「間違ってもちゃんと予選通過できるように頑張ります!」 ――パリは初DL優勝など、相性の良い舞台だと思います。 「試合会場は違いますが、DLでも会場の盛り上がり、歓声がすごくて、刺激になったのを覚えています。また満員になると思いますし、歓声がすごい大きなスタジアムが楽しみです」 ――26歳で迎える2度目の五輪。どんな位置づけになりそうですか。 「これから先、努力を続けていけばオリンピックには出られるかもしれません。ただ、メダルを狙える、優勝を狙えるオリンピックというのは、4年に一回の大会でそう簡単じゃないと思います。今だからこそできることを、パリではやりたいです」 構成/向永拓史

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