2024.06.17
6月7日から12日までの6日間、第26回ヨーロッパ陸上競技選手権がイタリアのローマで開催されたが、日本の陸上界に関わる有志が個人的な活動で集い、チームを作ってこの大会を視察。目の肥えた熱心なファンが多い“陸上の本場”で行われた注目のイベントを観戦して何を感じたのか。チームを代表して風間明氏がレポートする。
さまざまな立場で日本の陸上界に関わる人々が
連携して成長することが観戦ツアーの狙い
日本陸上界のあこがれであり、伝統と最新が共存するヨーロッパ選手権がイタリア・ローマで開催された。1960年の第17回オリンピック、1987年の第2回世界陸上の舞台でもあった「スタディオ・オリンピコ・ディ・ローマ」を舞台に、今夏のパリ五輪の前哨戦として行われた。
今回、アスレチック・アントラージュ(競技者を取り巻く仲間)と表現される方々、日常は審判員、大会運営・施設管理者、高校部活・私設陸上クラブの指導者、現役ジャンパーなどさまざまな立場で日本の陸上界、競技者を支えている男女10名が観戦チームを組んだ。
立場の違う関係者がそれぞれの視点で海外一流選手と大会運営の現場を間近に観て、感じたことを共有し、互いに連携することで成長していくことがこの視察の目的だ。
通常、海外国際大会観戦には日本代表選手団および関係者以外、個人での渡航は困難である。今回は観戦チケット予約、安全な移動手段、宿泊予約などを経験豊かな旅行社に独自企画を要望し、準備などに6ヵ月を掛けて実現した。
欧米では国際大会には自国選手の応援ツアーが企画され、参加選手関係者のみならず、一般の競技ファンも観戦し、国際競技会のたびに“楽しみ方”を成熟させている。
最新の競技運営や演出が大会を盛り上げ、観客を魅了
観戦チームは、ヨーロッパが挑戦する最新の競技運営、大会演出をパリオリンピックの前に味わうことになる。
本大会では、観戦チームがいかに楽しんだかがポイントだった。日本選手権などでも実践されてきたが、選手や審判の視点だけでなく、観客の視点からいかに楽しめるか、感動を生むかを優先させる工夫や演出は本大会でも随所に観られた。
まず、この競技場のサブトラックは日本国内では考えられない、一般観客も自由に外側から選手の動きが見られるものであった。また、走幅跳、三段跳の助走路は競技場内ではなく、グラウンドレベルより一段上がったバックスタンドの目の前に仮設され、観客席から間近に観戦できだ。
昨年のブダペスト世界陸上のように競技中に表彰式は実施せず、競技場外の広場でメダル授与イベントを演出している。その場所は「メダルプラザ」と呼ばれ、観戦チケットがなくても誰でも表彰シーンが観られる広場。ローマではこの円形広場のメダルプラザを20km競歩の周回コースとしても活用し、表彰ステージではDJが競歩の解説をして盛り上げていた。
観戦チームのメンバーはヨーロッパNo.1を目指す選手たちの激しいレース展開、高いテクニックを、SNSの画像ではない自分たちの目でとらえ、しっかりと動きを吸収。自分の競技、指導イメージを新たにできた。
競技会中のアクシデントを速やかに判断する審判団に学び、国内競技会の参考事例としたい。審判員の機械化とは逆に、審判団が観客に魅せる演出として補助員集団のハードル競技のセッティングなどが印象的であった。
観戦チームはこれまでの既成概念を見直し、本来楽しむためのスポーツであることへの創造性を育み、体育スポーツからエンターテイメントスポーツへの脱却が必要であることを感じた。
小さな子供から高齢者までのファミリーが楽しめる演出の中、母国選手、推しの選手を熱烈に応援するサポーター。アナウンスMCと競技進行役がタイミングよく注目選手を紹介し、それに観客の歓声とが相乗効果として選手のパフォーマンスを格段に押し上げていた。観客数は日本国内大会と大きく差はないが、その応援熱量には差を感じた。
今回のツアーに参加した観戦チームのメンバーが今後も連携しながら取り巻く人々へ伝達し、周囲の活性化になればと願う。今年の世界の陸上界はこのヨーロッパ選手権を経て、パリオリンピックが最高潮となる。そして2025年は、東京世界陸上の番である。
文責/風間明
さまざまな立場で日本の陸上界に関わる人々が 連携して成長することが観戦ツアーの狙い
日本陸上界のあこがれであり、伝統と最新が共存するヨーロッパ選手権がイタリア・ローマで開催された。1960年の第17回オリンピック、1987年の第2回世界陸上の舞台でもあった「スタディオ・オリンピコ・ディ・ローマ」を舞台に、今夏のパリ五輪の前哨戦として行われた。 今回、アスレチック・アントラージュ(競技者を取り巻く仲間)と表現される方々、日常は審判員、大会運営・施設管理者、高校部活・私設陸上クラブの指導者、現役ジャンパーなどさまざまな立場で日本の陸上界、競技者を支えている男女10名が観戦チームを組んだ。 立場の違う関係者がそれぞれの視点で海外一流選手と大会運営の現場を間近に観て、感じたことを共有し、互いに連携することで成長していくことがこの視察の目的だ。 通常、海外国際大会観戦には日本代表選手団および関係者以外、個人での渡航は困難である。今回は観戦チケット予約、安全な移動手段、宿泊予約などを経験豊かな旅行社に独自企画を要望し、準備などに6ヵ月を掛けて実現した。 欧米では国際大会には自国選手の応援ツアーが企画され、参加選手関係者のみならず、一般の競技ファンも観戦し、国際競技会のたびに“楽しみ方”を成熟させている。最新の競技運営や演出が大会を盛り上げ、観客を魅了
観戦チームは、ヨーロッパが挑戦する最新の競技運営、大会演出をパリオリンピックの前に味わうことになる。 本大会では、観戦チームがいかに楽しんだかがポイントだった。日本選手権などでも実践されてきたが、選手や審判の視点だけでなく、観客の視点からいかに楽しめるか、感動を生むかを優先させる工夫や演出は本大会でも随所に観られた。 まず、この競技場のサブトラックは日本国内では考えられない、一般観客も自由に外側から選手の動きが見られるものであった。また、走幅跳、三段跳の助走路は競技場内ではなく、グラウンドレベルより一段上がったバックスタンドの目の前に仮設され、観客席から間近に観戦できだ。 昨年のブダペスト世界陸上のように競技中に表彰式は実施せず、競技場外の広場でメダル授与イベントを演出している。その場所は「メダルプラザ」と呼ばれ、観戦チケットがなくても誰でも表彰シーンが観られる広場。ローマではこの円形広場のメダルプラザを20km競歩の周回コースとしても活用し、表彰ステージではDJが競歩の解説をして盛り上げていた。 観戦チームのメンバーはヨーロッパNo.1を目指す選手たちの激しいレース展開、高いテクニックを、SNSの画像ではない自分たちの目でとらえ、しっかりと動きを吸収。自分の競技、指導イメージを新たにできた。 競技会中のアクシデントを速やかに判断する審判団に学び、国内競技会の参考事例としたい。審判員の機械化とは逆に、審判団が観客に魅せる演出として補助員集団のハードル競技のセッティングなどが印象的であった。 観戦チームはこれまでの既成概念を見直し、本来楽しむためのスポーツであることへの創造性を育み、体育スポーツからエンターテイメントスポーツへの脱却が必要であることを感じた。 小さな子供から高齢者までのファミリーが楽しめる演出の中、母国選手、推しの選手を熱烈に応援するサポーター。アナウンスMCと競技進行役がタイミングよく注目選手を紹介し、それに観客の歓声とが相乗効果として選手のパフォーマンスを格段に押し上げていた。観客数は日本国内大会と大きく差はないが、その応援熱量には差を感じた。 今回のツアーに参加した観戦チームのメンバーが今後も連携しながら取り巻く人々へ伝達し、周囲の活性化になればと願う。今年の世界の陸上界はこのヨーロッパ選手権を経て、パリオリンピックが最高潮となる。そして2025年は、東京世界陸上の番である。 文責/風間明RECOMMENDED おすすめの記事
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