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2024.01.26

最後の箱根路/諦めない心が生んだ箱根ラストラン 青学大・倉本玄太「やってきたことは間違いではなかった」
最後の箱根路/諦めない心が生んだ箱根ラストラン 青学大・倉本玄太「やってきたことは間違いではなかった」

2024年箱根駅伝9区で区間賞を獲得した青学大の倉本玄太

「暗黒期」を乗り越え9区区間賞

原監督の母校でもある広島・世羅高出身で、高校時代には3年間連続で全国高校駅伝に出走。2年時には7区3位、3年では主将としてエース区間の1区を担当し、高校時代の5000mベストは14分08秒39と、同期では佐藤一世(4年)に次いで2番目の持ちタイムで青学大に入学した。

だが、「1年目から駅伝メンバーに絡んでいきたい」と意気込みを持っていた大学生活は波乱万丈。故障や思うような走りができない日々が続き、「学内トライアルでも全部ビリで、気づけば5000mの自己記録も同期で下から2番目くらいになっていた」と倉本は言う。一時は育成枠にも落ち、広島の実家に帰省した時には、「このまま(寮に)戻りたくない」とチームメイトに漏らすほど、どん底な状態だった。

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2年時には4月に5000mで13分52秒47をマーク。箱根駅伝のメンバー選考がかかったMARCH対抗戦10000mでは28分45秒97とマークしたが、その2週間前の世田谷246ハーフマラソンで1時間6分台にとどまり、指揮官の信頼を勝ち取ることができず。3年目も同じくMARCH対抗戦で28分台をマークするも、近藤幸太郎(現・SGホールディングス)や岸本大紀(現・GMOインターネットグループ)ら1学年上の最強世代を軸としたメンバー争いに加わることができなかった。

「確かに記録は出せましたけど、駅伝メンバー争いには絡めなかったり、うまくいかないことのほうが多かったですね」と振り返る倉本。その当時を「暗黒期」とまで自身で表現するほどだった。

それでも、過去には4年間努力を続けてきた先輩たちが、最後の駅伝シーズンに大輪の花を咲かす姿も見てきた。「継続して練習を続ければ、必ず走れる」という想いだけが、幾度となく折れそうになった心を支え続けてきた。

出雲駅伝、全日本大学駅伝こそ出走は叶わなかったが、11月の世田谷246ハーフマラソンで1時間3分01秒の自己新でチーム内4番手を占めると、MARCH対抗戦では、それまでの自己記録を20秒以上更新する28分19秒31の好記録で、チームのエースである佐藤、黒田朝日(2年)に次いでチーム3番手に入り、ラストチャンスで9区出走を勝ち取った。

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倉本がタスキをもらった時には、2位・駒大との差は5分33秒。「想定以上だった」という差に、「ここまで来たら初出場とか関係なく、先輩の記録を超えようと思った」と、一昨年に先輩の中村唯翔(現・SGホールディングス)が記録した1時間7分15秒の区間記録と、岸本が前回マークした1時間7分27秒(歴代2位)という見えないライバルをターゲットに序盤から攻めの走りを展開した。

中盤以降はペースを落としたが、「4年間の想いがフラッシュバックしてきたが、それが最後きつい時に踏ん張れた要因になった」と粘りを見せて、1時間8分51秒の区間賞を獲得。「途中、耳が痛くなるくらいの声援で、こんなに幸せなことはないと噛みしめて走った」と最初で最後の箱根路を全力で駆け抜けた。

振り返ればつらいことのほうが多かった4年間。それでも、「両親やチームメイトなど、多くの人に支えてもらいながら、この舞台に立つことができました。やってきたことが間違いではなかったと証明できました」と笑顔を見せた22歳。努力は必ず報われる。その姿は、これからの青学大を担う次世代にまた引き継がれていくことだろう。

2024年箱根駅伝でともに区間賞を獲得した青学大8区の塩出翔太(左)と9区の倉本玄太

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倉本玄太(くらもと・げんた:青学大)/2001年8月23日生まれ。広島県三原市出身。世羅高卒。自己ベストは5000m13分51秒25、10000m28分19秒31、ハーフ1時間3分01秒。

文/田中 葵

2024年、最後の箱根駅伝を終えた大学4年生ランナーたち。納得のいく走りができた選手や悔いを残した選手、なかにはアクシデントでスタートラインにすら立てなかったエース級もいる。お届けするのは、そんな最上級生たちの物語――。

4年目でつかんだ箱根初出走

復路のエース区間・9区で区間賞を獲得した倉本玄太(4年)にとって、これが最初で最後の箱根駅伝だった。 2015年の初優勝から10年で7度の総合優勝を誇る強豪・青学大において、4年目の箱根駅伝で学生三大駅伝初出場を飾る選手は少なくない。3冠を成し遂げた2017年大会の池田生成(9区区間2位)や、18年大会の近藤修一郎(9区区間9位)、谷野航平(6区区間3位)、中村友哉(7区区間4位)らもそう。毎年のように作り上げる圧倒的な「選手層」により、壮絶なメンバー争いが繰り広げられているからだ。 そんな最後の箱根路で快走する4年生を原晋監督は、「ウチの選手は最後まで諦めずに、4年間やり切るのが特徴。それは昔から脈々と受け継がれている。1年1年まじめにやっていけば、成果は出ることを最上級生が証明してくれている」と評す。まさに4年生こそが、強豪校と歩みを進めた“青学メソッド”の象徴こそが4年生と言える。 最後に大輪の花を咲かせた倉本だが、青学大で歩んできた道のりは苦悩の連続だった。

「暗黒期」を乗り越え9区区間賞

原監督の母校でもある広島・世羅高出身で、高校時代には3年間連続で全国高校駅伝に出走。2年時には7区3位、3年では主将としてエース区間の1区を担当し、高校時代の5000mベストは14分08秒39と、同期では佐藤一世(4年)に次いで2番目の持ちタイムで青学大に入学した。 だが、「1年目から駅伝メンバーに絡んでいきたい」と意気込みを持っていた大学生活は波乱万丈。故障や思うような走りができない日々が続き、「学内トライアルでも全部ビリで、気づけば5000mの自己記録も同期で下から2番目くらいになっていた」と倉本は言う。一時は育成枠にも落ち、広島の実家に帰省した時には、「このまま(寮に)戻りたくない」とチームメイトに漏らすほど、どん底な状態だった。 2年時には4月に5000mで13分52秒47をマーク。箱根駅伝のメンバー選考がかかったMARCH対抗戦10000mでは28分45秒97とマークしたが、その2週間前の世田谷246ハーフマラソンで1時間6分台にとどまり、指揮官の信頼を勝ち取ることができず。3年目も同じくMARCH対抗戦で28分台をマークするも、近藤幸太郎(現・SGホールディングス)や岸本大紀(現・GMOインターネットグループ)ら1学年上の最強世代を軸としたメンバー争いに加わることができなかった。 「確かに記録は出せましたけど、駅伝メンバー争いには絡めなかったり、うまくいかないことのほうが多かったですね」と振り返る倉本。その当時を「暗黒期」とまで自身で表現するほどだった。 それでも、過去には4年間努力を続けてきた先輩たちが、最後の駅伝シーズンに大輪の花を咲かす姿も見てきた。「継続して練習を続ければ、必ず走れる」という想いだけが、幾度となく折れそうになった心を支え続けてきた。 出雲駅伝、全日本大学駅伝こそ出走は叶わなかったが、11月の世田谷246ハーフマラソンで1時間3分01秒の自己新でチーム内4番手を占めると、MARCH対抗戦では、それまでの自己記録を20秒以上更新する28分19秒31の好記録で、チームのエースである佐藤、黒田朝日(2年)に次いでチーム3番手に入り、ラストチャンスで9区出走を勝ち取った。 倉本がタスキをもらった時には、2位・駒大との差は5分33秒。「想定以上だった」という差に、「ここまで来たら初出場とか関係なく、先輩の記録を超えようと思った」と、一昨年に先輩の中村唯翔(現・SGホールディングス)が記録した1時間7分15秒の区間記録と、岸本が前回マークした1時間7分27秒(歴代2位)という見えないライバルをターゲットに序盤から攻めの走りを展開した。 中盤以降はペースを落としたが、「4年間の想いがフラッシュバックしてきたが、それが最後きつい時に踏ん張れた要因になった」と粘りを見せて、1時間8分51秒の区間賞を獲得。「途中、耳が痛くなるくらいの声援で、こんなに幸せなことはないと噛みしめて走った」と最初で最後の箱根路を全力で駆け抜けた。 振り返ればつらいことのほうが多かった4年間。それでも、「両親やチームメイトなど、多くの人に支えてもらいながら、この舞台に立つことができました。やってきたことが間違いではなかったと証明できました」と笑顔を見せた22歳。努力は必ず報われる。その姿は、これからの青学大を担う次世代にまた引き継がれていくことだろう。 [caption id="attachment_126959" align="alignnone" width="800"] 2024年箱根駅伝でともに区間賞を獲得した青学大8区の塩出翔太(左)と9区の倉本玄太[/caption] 倉本玄太(くらもと・げんた:青学大)/2001年8月23日生まれ。広島県三原市出身。世羅高卒。自己ベストは5000m13分51秒25、10000m28分19秒31、ハーフ1時間3分01秒。 文/田中 葵

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