2020.09.23

インカレで短距離三冠を獲得した兒玉
9月11日から13日、新潟・デンカビッグスワンスタジアムで行われた日本インカレ、女子短距離は福岡大の兒玉芽生が席巻した。その兒玉がライバルと認めるのが齋藤愛美(大阪成蹊大)。中学時代からともに全国を舞台に戦い、高め合ってきた2人は、それぞれどんなふうに歩み、互いにどう思っているのだろうか。
違う成長曲線を辿った2人が思い描く未来図
日本インカレ女子200m決勝。兒玉芽生(福岡大)が23秒68(-0.8)の自己新、圧巻の走りでスプリント3冠を達成すると、齋藤愛美(大阪成蹊大)と抱擁を交わした。
「前半、愛美がバンって出たのでヤバい! と思いました」(兒玉)。前日、100mで5位に敗れていた齋藤が23秒98で2位に入ったのは意地だった。
2人は同学年で、これまでまったく違う曲線を描いて成長してきた。
「芽生は雲の上の人だった」(齋藤)
兒玉は全国小学生陸上100mで、小5、6年と日本一。同世代からすれば、ずっと名前を知っている存在だった。中1でもジュニア五輪で優勝し、同い年には無敵。だが、中2のジュニア五輪で「初めて負けて、少し目が覚めました」。そこから1年、全中での優勝を目指したが、200m5位。宮田乙葉(現・甲南大)や吉野史織(現・大阪成蹊大)らがリードするようになっていた。
その200mで8位に入っていたのが齋藤だった。
高校に進学すると、齋藤が一気に飛躍を遂げる。1年目で24秒1台をマークすると世界ユース選手権に出場。
「正直、誰それ? と。調べると200m8位で、あの子か! ってなりました。どんな練習をしたらそんなタイムを出せるんだろうと思いました」(兒玉)
齋藤は翌年、200mでU20日本記録を更新し、ナショナルチームにも名を連ねた。地元岡山インターハイでは、100m、200m、4×100mリレーの3冠。一気に世代を牽引する存在へと成長を遂げた。その大会に、兒玉の名前はなかった。
「ケガをして棄権しました。会場には行っていて、棄権届を出すのが嫌で泣いていました。私はもう日本一にはなれないんだろうなって」(兒玉)
だが翌年、兒玉は鮮やかに日本一に返り咲く。インターハイ100m優勝。一方で、齋藤は春からのケガやプレッシャーに苦しみ、200m8位、100mは準決勝で敗退した。
大学1、2年は2人にとっては鍛錬の時間。だが、その間、2人は決してあきらめることはなかった。おもしろいことに、どちらも同じような思いを胸に秘めていたという。
「高校2年目の活躍を見て勝てないと思ったのですが、3年目で苦しんでいるのを見て、愛美も同じ人間だったんだなって。愛美がいたから、ここまでがんばれました」
そう兒玉は言う。
「小学生時代からずっと強かった芽生が、高校ではケガなどもあって。芽生のような選手でも苦しい時期があるんだなって。私も『芽生は人間なんだな』って。存在がめちゃくちゃ刺激になっています」
齋藤はそうやって自分を奮い立たせた。

200m後、互いに健闘を称え合った兒玉と齋藤
大学3年目。ようやく2人の調子の波長が合い始めている。まるで、止まりかけている女子短距離の針を突き動かすかのように。
兒玉は100mで日本歴代3位の11秒35へと自己ベストを更新し、日本選手権2冠を狙う。齋藤も今季は100m11秒58、200mでも高校時代のベスト23秒45を狙える状態まで復調してきた。
「同期の川田(朱夏)や塩見(綾乃)の800mライバル対決ばかり取り上げられますけど、私たちもライバル。女子短距離を変えていきたい」
齋藤はインカレの200mを終え、ようやく「自信を持ってスタートラインに立てました」と明るい表情を取り戻した。
「私、愛美、そして山田美来(日体大)たちで女子短距離を変えていきたい。絶対に世界に行ってみせますよ」
そういえば、2人とも「目立つのが嫌い」だったはずが、それ以上に過去の自分を常に超えたい、女子短距離の歴史を塗り替えたい、その思いのほうがいつの間にか大きくなっているようだ。男子にできて、女子にできないことはない。かつて、先人たちがそうだったように、ライバルたちと切磋琢磨しながら、女子短距離の歴史を大きく変えるつもりでいる。
兒玉芽生 齋藤愛美
100mPB 11秒35 11秒57
200mPB 23秒68 23秒45
文/向永拓史
インカレで短距離三冠を獲得した兒玉
9月11日から13日、新潟・デンカビッグスワンスタジアムで行われた日本インカレ、女子短距離は福岡大の兒玉芽生が席巻した。その兒玉がライバルと認めるのが齋藤愛美(大阪成蹊大)。中学時代からともに全国を舞台に戦い、高め合ってきた2人は、それぞれどんなふうに歩み、互いにどう思っているのだろうか。
違う成長曲線を辿った2人が思い描く未来図
日本インカレ女子200m決勝。兒玉芽生(福岡大)が23秒68(-0.8)の自己新、圧巻の走りでスプリント3冠を達成すると、齋藤愛美(大阪成蹊大)と抱擁を交わした。 「前半、愛美がバンって出たのでヤバい! と思いました」(兒玉)。前日、100mで5位に敗れていた齋藤が23秒98で2位に入ったのは意地だった。 2人は同学年で、これまでまったく違う曲線を描いて成長してきた。 「芽生は雲の上の人だった」(齋藤) 兒玉は全国小学生陸上100mで、小5、6年と日本一。同世代からすれば、ずっと名前を知っている存在だった。中1でもジュニア五輪で優勝し、同い年には無敵。だが、中2のジュニア五輪で「初めて負けて、少し目が覚めました」。そこから1年、全中での優勝を目指したが、200m5位。宮田乙葉(現・甲南大)や吉野史織(現・大阪成蹊大)らがリードするようになっていた。 その200mで8位に入っていたのが齋藤だった。 高校に進学すると、齋藤が一気に飛躍を遂げる。1年目で24秒1台をマークすると世界ユース選手権に出場。 「正直、誰それ? と。調べると200m8位で、あの子か! ってなりました。どんな練習をしたらそんなタイムを出せるんだろうと思いました」(兒玉) 齋藤は翌年、200mでU20日本記録を更新し、ナショナルチームにも名を連ねた。地元岡山インターハイでは、100m、200m、4×100mリレーの3冠。一気に世代を牽引する存在へと成長を遂げた。その大会に、兒玉の名前はなかった。 「ケガをして棄権しました。会場には行っていて、棄権届を出すのが嫌で泣いていました。私はもう日本一にはなれないんだろうなって」(兒玉) だが翌年、兒玉は鮮やかに日本一に返り咲く。インターハイ100m優勝。一方で、齋藤は春からのケガやプレッシャーに苦しみ、200m8位、100mは準決勝で敗退した。 大学1、2年は2人にとっては鍛錬の時間。だが、その間、2人は決してあきらめることはなかった。おもしろいことに、どちらも同じような思いを胸に秘めていたという。 「高校2年目の活躍を見て勝てないと思ったのですが、3年目で苦しんでいるのを見て、愛美も同じ人間だったんだなって。愛美がいたから、ここまでがんばれました」 そう兒玉は言う。 「小学生時代からずっと強かった芽生が、高校ではケガなどもあって。芽生のような選手でも苦しい時期があるんだなって。私も『芽生は人間なんだな』って。存在がめちゃくちゃ刺激になっています」 齋藤はそうやって自分を奮い立たせた。
200m後、互いに健闘を称え合った兒玉と齋藤
大学3年目。ようやく2人の調子の波長が合い始めている。まるで、止まりかけている女子短距離の針を突き動かすかのように。
兒玉は100mで日本歴代3位の11秒35へと自己ベストを更新し、日本選手権2冠を狙う。齋藤も今季は100m11秒58、200mでも高校時代のベスト23秒45を狙える状態まで復調してきた。
「同期の川田(朱夏)や塩見(綾乃)の800mライバル対決ばかり取り上げられますけど、私たちもライバル。女子短距離を変えていきたい」
齋藤はインカレの200mを終え、ようやく「自信を持ってスタートラインに立てました」と明るい表情を取り戻した。
「私、愛美、そして山田美来(日体大)たちで女子短距離を変えていきたい。絶対に世界に行ってみせますよ」
そういえば、2人とも「目立つのが嫌い」だったはずが、それ以上に過去の自分を常に超えたい、女子短距離の歴史を塗り替えたい、その思いのほうがいつの間にか大きくなっているようだ。男子にできて、女子にできないことはない。かつて、先人たちがそうだったように、ライバルたちと切磋琢磨しながら、女子短距離の歴史を大きく変えるつもりでいる。
兒玉芽生 齋藤愛美
100mPB 11秒35 11秒57
200mPB 23秒68 23秒45
文/向永拓史 RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.11.11
WAライジングスター賞 男子は中長距離のコエチ、メハリー、セレムがノミネート
2025.11.10
関西が1増4枠! 東海が1減 関東は最大枠で変わらず 来年の全日本大学駅伝地区出場枠決定
-
2025.11.10
-
2025.11.10
-
2025.11.10
2025.10.18
【大会結果】第102回箱根駅伝予選会/個人成績(2025年10月18日)
2025.11.02
青学大が苦戦の中で3位確保!作戦不発も「力がないチームではない」/全日本大学駅伝
-
2025.10.18
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.11.11
WAライジングスター賞 男子は中長距離のコエチ、メハリー、セレムがノミネート
世界陸連(WA)は11月10日、ワールド・アスレティクス・アワード2025の「ライジングスター賞」の最終候補選手を発表した。 この賞はU20選手を対象とした最優秀賞で、15年には日本のサニブラウン・アブデル・ハキームが受 […]
2025.11.10
関西が1増4枠! 東海が1減 関東は最大枠で変わらず 来年の全日本大学駅伝地区出場枠決定
日本学連は11月10日、11月2日に行われた第57回全日本大学駅伝の結果を受けて、来年予定する第58回大会の各地区学連の出場枠を発表した。 8つの地区学連にはそれぞれ1つの基本枠が与えられ、残りは大会の成績により、シード […]
2025.11.10
國學院大・青木瑠郁、駒大・帰山侑大、早大・間瀬田純平らが登録 有力選手多数エントリー/上尾ハーフ
11月10日、上尾シティハーフマラソンの主催者は16日に開催される第38回大会の出場選手を発表した。 同大会は、箱根駅伝に向けての重要なレースとして実施されており、過去には大迫傑が早大時代に1時間1分47秒のジュニア日本 […]
2025.11.10
来年の全日本大学女子駅伝の出場枠が決定!今年の結果から関東9枠、関西5枠に タイム選考枠は2校
日本学生陸上競技連合は、来年の第44回全日本大学女子駅伝の各地区学連出場枠について発表した。 同大会の出場枠は今年10月の第43回大会で上位8位までに入った学校に対して、シード権を付与。次に、9位から17位に入ったチーム […]
2025.11.10
ニューイヤー駅伝 シード制と統一予選会導入へ! 実業団駅伝の活性化目指し2027年から実施
11月10日、一般社団法人日本実業団陸上競技連合は、全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)において、2027年の第71回大会からのシード制導入、および最短で2027年秋から統一予選会の実施を決定したと発表した。 連合で […]
Latest Issue
最新号
2025年11月号 (10月14日発売)
東京世界選手権 総特集
箱根駅伝予選会&全日本大学駅伝展望