2022.03.07
◇東京マラソン(3月6日/都庁前スタート、東京駅前・行幸通りフィニッシュ)
「東京マラソン2021」の男子は、世界記録(2時間1分39秒)保持者で五輪2連覇(16年、21年)のエリウド・キプチョゲ(ケニア)が2時間2分40秒の大会新で優勝。鈴木健吾(富士通)が2時間5分28秒で日本人トップの4位でフィニッシュした。
フィニッシュ後のインタビューで、鈴木の目には光るものがあった。
「昨年日本記録を出してから1年間とても苦しかったんですけど、それを今日乗り越えられたかなと思います」
昨年2月のびわ湖毎日マラソンを2時間4分56秒で優勝。日本人で初めて2時間5分を切り、この1年は目に見えぬプレッシャーとの戦いもあったのだろう。自身の日本記録に次ぐパフォーマンス歴代2位で駆け抜け、安堵の涙を見せた。
鈴木が東京に出場するのは、初マラソンとなった神奈川大4年時の2018年以来。日本記録保持者として「積極的にチャレンジしていきたい」と話していたが、エリウド・キプチョゲ(ケニア)らの第1集団(1km2分54秒設定)には付いていかず、第2集団で進めた。
レース前々日の記者会見では「コンディションはぼちぼち。(日本記録を樹立した)びわ湖の時とだいたい同じ流れでやってきているので、そこまで悪くない」と話していたが、実は「5、6割できたかどうかぐらいの練習内容だった」と万全な状態ではなかったことをレース後に明かした。
「本来なら前の集団でチャレンジしたいなっていう気持ちもあったんですけど、調子があまり良くないというのもあって、(第2集団の)2分58秒ペースに乗っかって走りました」
あえて第2集団につけたが、不調というのが嘘かのような貫禄のレースを見せた。
前半は、日本歴代5位の記録を持つ土方英和(Honda)が積極的に集団を引っ張ったが、鈴木も15km以降ポジションを上げると、ペースメーカーのペースが落ちかけると見るや、「ちょっと上げてほしい」とペースアップを促した。
「あまり状態が良くなかったので早い段階で勝負を決めたいなと思っていて、20kmぐらいからペースメーカーを少しあおりました。それで、ペースメーカーが外れた時に一気に勝負を仕掛けました」
23km過ぎにペースが上がると、先頭集団の日本人選手は徐々に次第にふるいにかけられていく。そして、25kmを前にペースメーカーが外れると、今度は鈴木は吉田祐也(GMOインターネットグループ)らを引き離し、日本人トップ争いに終止符を打った。
ここからは自らの日本記録への挑戦に。35kmまでは、1年前のびわ湖を上回るスプリットでレースを展開。しかし、終盤は向かい風が強かったこともあってペースダウンする。日本記録更新時は35kmから40kmまでを14分39秒でカバーしたが、今回は15分08秒かかった。
それでも、後半はほぼ単独走となる状況で、2時間5分台でまとめた。びわ湖の日本記録がフロックではないことを示すのに、十分なレース内容だっただろう。
元日本記録保持者で、日本陸連強化委員会中長距離・マラソン担当シニアディレクターの高岡寿成氏(カネボウ監督)は、「昨年のびわ湖では後半に強さを見せたが、今回はまた違った強さを見せた。1人でレースを組み立てて、終盤までもたせた。たぶんカツカツだったり、後半向かい風があったり、厳しいところもあったと思うんですけど、そこをうまく乗り切れた。マラソンのコツみたいなものを非常にうまくとえているようにも思いました」と評した。
鈴木は、己に打ち克ち、精神的な強さが増し、マラソンランナーとしていっそう磨きがかかった印象さえある。
このレースでジャパン・マラソン・チャンピオンシップ(JMC)シリーズ1のランキング1位を確定させ、目標としていた今夏の世界選手権代表の座も、妻の一山麻緒(ワコール)とともに、ほぼ手中に収めた。
その一方で、世界のトップとの差を改めて実感した。「世界を見据えていく上で、自分らしくチャレンジしながら少しずつ距離を縮めていきたいなと思っています」と、気を引き締めることも忘れなかった。
この謙虚さこそが、鈴木の魅力であり、伸びしろにもなっているだろう。今夏、ますます進化した鈴木の走りが見られそうだ。
文/和田悟志
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
-
2025.12.10
-
2025.12.07
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.12.10
【箱根駅伝エントリー】登録選手336人が決定 最多出身高は13年ぶりの駅伝名門校! 都道府県別では埼玉が2年連続トップ
第102回箱根駅伝のチームエントリーが12月10日に行われ、今回も1チーム16人、21チーム計336人が選手登録された。 登録選手を出身高校別に見ると、佐久長聖高(長野)が13人で最多となった。続いて、洛南高(京都)が1 […]
2025.12.10
前回6位の城西大・櫛部静二監督「アッと驚く試合を」 20年連続シード東洋大・酒井俊幸監督「誰が出ても粘りながら」/箱根駅伝
第102回箱根駅伝の記者発表会が12月10日、都内で行われ、出場校の監督が意気込みを語った。 前回6位の城西大は16人のエントリーの半数を4年生が占めた。櫛部静二監督は「ここ数年、この4年生の力によって、城西大としては上 […]
2025.12.10
15年ぶりVへ!早大・花田勝彦監督「往路優勝のオーダーを」山口智規主将を「胴上げしたい」/箱根駅伝
第102回箱根駅伝の記者発表会が12月10日、都内で行われ、出場校の監督が意気込みを語った。 前回4位の早大は「5強」の一角として、15年ぶり優勝をしっかりと視界に捉える。 就任4年目を迎えた花田勝彦駅伝監督は、今年度で […]
2025.12.10
99回目出場の中大・藤原監督「いい顔でスタートを」4年生が優勝へ執念「勝たせてやりたい」/箱根駅伝
第102回箱根駅伝の記者発表会が12月10日、都内で行われ、出場校の監督が意気込みを語った。 全日本大学駅伝で2位を占めた中大は、前回5位からの躍進を期す。藤原正和監督は「いいチームができました」と胸を張って語る。 1年 […]
Latest Issue
最新号
2025年12月号 (11月14日発売)
EKIDEN REVIEW
全日本大学駅伝
箱根駅伝予選会
高校駅伝&実業団駅伝予選
Follow-up Tokyo 2025