2022.11.07
◇第54回全日本大学駅伝(11月6日/愛知・熱田神宮~三重・伊勢神宮:8区間106.8km)
全日本大学駅伝で國學院大は過去最高の2位と奮闘した。レースは、4年連続で1区を任された島﨑慎愛(4年)がまさかの17位スタートといきなり躓いたが、2区以降レースを立て直し、徐々に順位を上げていった。
「たぶん、どの大学も、4区、5区、6区の中に1区間、スペシャルを作ってきていると思うんです。青学さんは(4区に)岸本(大紀)君がいますし。うちも、つなぎでワンクッション、面白い選手を置きます」
レース前日に、前田康弘監督はこんなことを話した。そして、その隠し球として5区に登場したのが1年生の青木瑠郁だった。
「区間賞、区間新を取りに行けよ」
前田監督は、そんな言葉で青木を送り出していた。
青木は群馬・健大高崎高出身で、大学女子駅伝界を席巻する不破聖衣来(拓大)の1年後輩に当たる。高校時代は5000m14分12秒27がベストだが、今年6月のU20日本選手権では5000mで13分59秒34をマークし2位に入っている。さらに、7月には13分48秒61まで記録を伸ばした。
「前田さんの指導を受けて、しっかり練習を積んで、上半期に5000mで結果を出せたことが大きかった。こんなに記録が出るんだ! と自信になりました」
國學院大に入学してメキメキと力を付けた青木は、駅伝シーズンでレギュラーを勝ち取った。
そして、大学駅伝開幕戦の出雲駅伝では1区の重責を担った。先頭と26秒差の区間7位と、スターターとして十分な役割を果たしたようにも思えるが、青木の思いは違った。
「やっぱり悔しかったっていうのが一番大きいです。(入りの1㎞)2分37秒は、1500mのレースでしか経験したことのないラップ。こういうところで勝負できるスピード、スピード持久力がまだまだ足りないのを実感しました」と、大学のレベルの高さを痛感した。
全日本でも1区のプランもあったという。だが、「単独走のテストをしたかった」という前田監督は、出雲の前から青木に「全日本は5区で勝負してみようか」と提案していたという。そして、青木もその期待に応えようと、出雲のあとは単独走の練習に取り組み、全日本の5区には自信を持って臨んだ。
青木がタスキを受けたのは4位。1区終了時からは13も順位が上がっていたとはいえ、「先頭に近い位置でくる想定だった」と、青木が想像していたよりも悪い順位だった。
「自分のところで、2位に押し上げて、もう1回立て直そうと思いました」
先頭をひた走る駒大の背中は遠かったが、47秒前の早大、38秒前の順大は、みるみる大きくなっていった。
「レースする前に前田さんからは『おいしい思いをしてこい』と言われていたので、前を抜いたら、(メディアに)取り上げられるだろうな、と思って走りました(笑)」
青木はその2校をかわし、単独で2位に浮上。逆に、30秒以上の大差を付けた。
後方では、駅伝で数々の実績を挙げている岸本、嶋津雄大(創価大)が走っていたが、それぞれの大学のエース級の選手に対しても、臆することはなかった。
「錚々たるメンバーが追ってきていたんですけど、自信を持ってペースを刻むことができた」
青木は、岸本、嶋津らを全く寄せつけることなく、12.4㎞を走り切った。区間新記録には惜しくも3秒届かなかったものの、実績のある選手たちを抑えて、区間賞を獲得。レースを折り返す5区で、見事な仕切り直しをしてみせた。青木の奮闘もあって、後半区間でも選手たちは粘り、チームは出雲駅伝に続き、2位でレースを終えた。
端から見れば、会心の走りのようでも、青木にとっては、もちろん反省点もあった。
「区間新に届く! って思いながらも、後半、思うようにペースが上がらなかった。ラップが落ちていくなかで、最低限、粘れたかなとは思うんですけど、箱根駅伝はあと8㎞もありますから…。12㎞の距離でラップが落ちていく一方だと、20㎞になった時に、さらにペースダウンしてしまいます。今のままでは駅伝で全く歯が立たないと思っています。残りの2カ月弱を、こういうところから意識していきたいと思います」
初めての箱根駅伝に向けても、気を抜かずに、さらなるレベルアップを図るつもりだ。
今年の國學院大のルーキーには、青木の他にも、沖縄の高校生として初めて5000m13分台をマークした上原琉翔、10000m28分台の嘉数純平と、有力な選手がそろう。今回の全日本2位、そして、青木の区間賞は、國學院大が黄金期を迎える兆しなのかもしれない。
文/和田悟志
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