2022.04.27
今シーズン、陸上界の『女王決定戦』がアツい! 昨年、17年ぶりに日本記録が更新されるなど、近年活況を呈しているのが女子七種競技。過去最高レベルの争いにより、日本人初の6000点超えへの期待が懸かる。
七種競技とは2日間にわたって走・跳・投の7種目を行い、得点化して順位を決する。1日目は100mハードル、走高跳、砲丸投、200m、2日目は走幅跳、やり投、800m。そのタフネスぶりから、海外では『クイーン・オブ・アスリート』として称される。
今季、日本の『女王』を目指す、日本記録(5975点)保持者の山﨑有紀(スズキ)、歴代3位の記録を持つヘンプヒル恵(アトレ)、インカレ3連覇を果たした大玉華鈴(日体大SMG横浜)というトップ3にインタビュー。今季に懸ける思い、そして七種競技の魅力について聞いた。
2回目は日本記録を持つ山﨑有紀。今年27歳になる山﨑は、長崎・桜馬場中時代から全中・四種競技4位など活躍していた。長崎南高では2年時まで短距離をメインとし、2年の秋から再び混成をスタート。3年時のインターハイは4551点で14位だった。
高校で陸上を辞めようとまで思っていた選手が、九州共立大3年目に当時学生記録となる5751点を叩き出し、昨年は日本記録を樹立するのだから人生はわからない。日本人初の6000点超えも通過点とし、パリ五輪を目指す第一人者の現在地は。
日本新、そして5900点台3連発
――昨年は5900点台を3試合するなどハイアベレージで、5月には17年ぶりの日本記録となる5975点をマークされました。心境の変化は?
日本記録保持者だからといってプレッシャーになることもなく、気負わずにいられています。大学3年で結果が出た時は一気に記録が伸び過ぎて苦しみましたが、昨年の日本記録は自分が出さないといけないという気持ちでしたし、出すべき力を発揮しての日本記録です。もっと上の記録を出さないといけないという「目線」も高くなっています。
――昨年の後半シーズンから冬季はどんなふうに過ごしましたか。
5900点以上を3連発したあと、夏に左アキレス腱の付着部を痛めました。出力を上げた練習というよりは軽い運動の中で違和感が出て、次の日には痛みが出てきました。
――原因はやはり負荷が大きかったから?
それもあると思いますが、元々、身体の使い方の左右差がひどくて、上半身も含めて左が使えていなかったんです。2020年頃から改善しようとしていたのですが、右側に頼っていたり、左側のを使うようになったり、そういったところで反動が出たと思います。
――しばらく走れない時期があったのでしょうか。
10月まではほとんど走らず、その間は使えていなかった左半身の強化だったり、筋肉を使えるように意識したり。そういうところを修正してきました。11月にしっかり休んで、今は違和感が残るくらいですが、冬季がやや短くなってしまったという感じです。
長期離脱は久しぶりで、焦りというよりは走れない時期やコロナ禍で(拠点としている)大学のグラウンドが入れない時期があったので、そこは少しモヤモヤしていました。
――現在の状態はいかがですか。
3月に七種競技に出場して5468点でした。思ったよりも感覚は悪くなかったという印象です。現状の把握ができましたし、やっぱり出力が足りないということを確認しました。私は少しへこんだくらいのほうが、成績が良くなるタイプなので、まずは週末の木南記念に向けてしっかり修正していきたいです。
――今年はこの種目を上げていきたい、というのはありますか。
砲丸投と走高跳が今の課題です。砲丸投は得意種目でもあったのですが、18年に12m84を投げてからベストを更新できていません。昨年は感覚も良かったのですが…。今年は13mに乗せたいと思います。
走高跳は安定感がありません。1m70以上をコンスタントに跳べるようしていければいいなと思います。ここで点差が開いてしまうので、出力をしっかり上げて跳べるように調整していきます。
大学で大ブレイクを果たした要因は?
――山﨑選手は大学3年時に一気にブレイクされました。何かきっかけはあったのですか。
大学の前半は「全国大会に出られればいいかな」くらいの意識でした。大学生でしたし、遊ぶ時間も楽しかったんです。でも、疋田(晃久)監督から「毎日、一生懸命にやっているのか?」と問われて、ハッと気づいて、「まずは全力でやってみよう」と思いました。これまでいろんな方向に散らばっていたベクトルを競技に向けて、自分の意識が変わったのが一番大きかったです。
高校、大学で辞めようと思っていたくらいですが、人生が変わりましたし、続けて本当に良かったなと思います。可能性のある高校生がたくさんいるのに、継続しない選手も多いです。あきらめずに頑張ってほしいですし、私たちの姿を見て1人でも2人でも、続ける人が増えるとうれしいですね。
――ヘンプヒル恵選手、大玉華鈴選手はどんな存在ですか。
2人とも明るくて「ザ・混成」というキャラクターですよね。競技スタイルは私も含めて全然違うので、自分の苦手な種目は2人を見てすごいなぁと思っています。
恵ちゃんは100mハードルと走幅跳が強いので、そこで点数を離されないように食らいつきたいです。大玉さんは走高跳が強くて、その他はバランスが良い。スプリント力がつけばもっと記録を伸ばしてきそうですね。私はズバ抜けた種目がないので、どれか単発でも戦えるようになりたいと思っています。
――日本記録は更新されましたが、中田有紀選手以降、日本の七種競技は世界大会から遠ざかっています。
日本記録から17年開いて、世界との差も広がったと思います。今は上位3人含めてレベルも上がっているので、自分たちの世代でどこまで引き上げられるかが重要です。七種競技の可能性は無限にありますし、日本人でも戦えると思っています。自分自身も、引退するまでにどれだけ能力を発揮できるのかを楽しんでいきます。
――これからの目標について教えてください。
噛み合えば6000点は自然と出ると思っていますが、6200点前後に到達しないと世界大会に行けません。少なくとも6100点くらいを2試合そろえる必要があります。パリ五輪出場を目指すためには来年が大事で、来年のために、まずはアジア大会に出場することが重要です。
6000点を複数人が超えて争うと注目度も増しますよね。男子100mの9秒台のように、壁が壊れて「誰が勝つのか」となればいいなと思います。
――七種競技の魅力について、あまり見たことがない人に伝えてください!
混成競技は、競技時間が一番長い。陸上競技が好きな人からすれば、やるほうも見るほうも、もってこいの種目です。2日間でいろんなドラマ、友情関係、ライバル関係がありますし、私も十種競技を見ると泣きそうになるくらいです。そういった部分を楽しんでもらえればと思います!
★プロフィール★
山﨑有紀(やまさき・ゆき)/1995年6月6日生まれ。長崎県長崎市出身。桜馬場中→長崎南高→九州共立大→スズキ。
・自己ベスト
七種競技 5975点(日本記録)
100mH 13秒58
走高跳 1m71
砲丸投 12m84
200m 24秒51
走幅跳 6m05
やり投 48m62
800m 2分13秒95
・主な実績
18年アジア大会3位
19年アジア選手権4位
18~21年日本選手権優勝※4連覇中
17年日本インカレ優勝
13年インターハイ14位
10年全中四種競技4位
構成/向永拓史
【関連記事】
激アツの女王決定戦特集
①大玉華鈴インタビュー「あこがれだからこそ上の2人に勝ちたい」
③ヘンプヒル恵インタビュー「やれることをやれば結果が出ると信じている」
日本新、そして5900点台3連発
――昨年は5900点台を3試合するなどハイアベレージで、5月には17年ぶりの日本記録となる5975点をマークされました。心境の変化は? 日本記録保持者だからといってプレッシャーになることもなく、気負わずにいられています。大学3年で結果が出た時は一気に記録が伸び過ぎて苦しみましたが、昨年の日本記録は自分が出さないといけないという気持ちでしたし、出すべき力を発揮しての日本記録です。もっと上の記録を出さないといけないという「目線」も高くなっています。 ――昨年の後半シーズンから冬季はどんなふうに過ごしましたか。 5900点以上を3連発したあと、夏に左アキレス腱の付着部を痛めました。出力を上げた練習というよりは軽い運動の中で違和感が出て、次の日には痛みが出てきました。 ――原因はやはり負荷が大きかったから? それもあると思いますが、元々、身体の使い方の左右差がひどくて、上半身も含めて左が使えていなかったんです。2020年頃から改善しようとしていたのですが、右側に頼っていたり、左側のを使うようになったり、そういったところで反動が出たと思います。 ――しばらく走れない時期があったのでしょうか。 10月まではほとんど走らず、その間は使えていなかった左半身の強化だったり、筋肉を使えるように意識したり。そういうところを修正してきました。11月にしっかり休んで、今は違和感が残るくらいですが、冬季がやや短くなってしまったという感じです。 長期離脱は久しぶりで、焦りというよりは走れない時期やコロナ禍で(拠点としている)大学のグラウンドが入れない時期があったので、そこは少しモヤモヤしていました。 ――現在の状態はいかがですか。 3月に七種競技に出場して5468点でした。思ったよりも感覚は悪くなかったという印象です。現状の把握ができましたし、やっぱり出力が足りないということを確認しました。私は少しへこんだくらいのほうが、成績が良くなるタイプなので、まずは週末の木南記念に向けてしっかり修正していきたいです。 ――今年はこの種目を上げていきたい、というのはありますか。 砲丸投と走高跳が今の課題です。砲丸投は得意種目でもあったのですが、18年に12m84を投げてからベストを更新できていません。昨年は感覚も良かったのですが…。今年は13mに乗せたいと思います。 走高跳は安定感がありません。1m70以上をコンスタントに跳べるようしていければいいなと思います。ここで点差が開いてしまうので、出力をしっかり上げて跳べるように調整していきます。大学で大ブレイクを果たした要因は?
――山﨑選手は大学3年時に一気にブレイクされました。何かきっかけはあったのですか。 大学の前半は「全国大会に出られればいいかな」くらいの意識でした。大学生でしたし、遊ぶ時間も楽しかったんです。でも、疋田(晃久)監督から「毎日、一生懸命にやっているのか?」と問われて、ハッと気づいて、「まずは全力でやってみよう」と思いました。これまでいろんな方向に散らばっていたベクトルを競技に向けて、自分の意識が変わったのが一番大きかったです。 高校、大学で辞めようと思っていたくらいですが、人生が変わりましたし、続けて本当に良かったなと思います。可能性のある高校生がたくさんいるのに、継続しない選手も多いです。あきらめずに頑張ってほしいですし、私たちの姿を見て1人でも2人でも、続ける人が増えるとうれしいですね。 ――ヘンプヒル恵選手、大玉華鈴選手はどんな存在ですか。 2人とも明るくて「ザ・混成」というキャラクターですよね。競技スタイルは私も含めて全然違うので、自分の苦手な種目は2人を見てすごいなぁと思っています。 恵ちゃんは100mハードルと走幅跳が強いので、そこで点数を離されないように食らいつきたいです。大玉さんは走高跳が強くて、その他はバランスが良い。スプリント力がつけばもっと記録を伸ばしてきそうですね。私はズバ抜けた種目がないので、どれか単発でも戦えるようになりたいと思っています。 ――日本記録は更新されましたが、中田有紀選手以降、日本の七種競技は世界大会から遠ざかっています。 日本記録から17年開いて、世界との差も広がったと思います。今は上位3人含めてレベルも上がっているので、自分たちの世代でどこまで引き上げられるかが重要です。七種競技の可能性は無限にありますし、日本人でも戦えると思っています。自分自身も、引退するまでにどれだけ能力を発揮できるのかを楽しんでいきます。 ――これからの目標について教えてください。 噛み合えば6000点は自然と出ると思っていますが、6200点前後に到達しないと世界大会に行けません。少なくとも6100点くらいを2試合そろえる必要があります。パリ五輪出場を目指すためには来年が大事で、来年のために、まずはアジア大会に出場することが重要です。 6000点を複数人が超えて争うと注目度も増しますよね。男子100mの9秒台のように、壁が壊れて「誰が勝つのか」となればいいなと思います。 ――七種競技の魅力について、あまり見たことがない人に伝えてください! 混成競技は、競技時間が一番長い。陸上競技が好きな人からすれば、やるほうも見るほうも、もってこいの種目です。2日間でいろんなドラマ、友情関係、ライバル関係がありますし、私も十種競技を見ると泣きそうになるくらいです。そういった部分を楽しんでもらえればと思います!
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