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2021.10.26

【学生長距離Close-upインタビュー】木付琳 出雲駅伝で覚醒した國學院大の頼れる主将
【学生長距離Close-upインタビュー】木付琳 出雲駅伝で覚醒した國學院大の頼れる主将

学生長距離Close-upインタビュー
木付 琳 Kitsuki Rin 國學院大學4

「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。12回目は、10月の出雲駅伝で2区区間賞を獲得した國學院大の主将・木付琳(4年)に話を聞いた。

2年目で箱根駅伝で学生駅伝デビューを飾ると、2学年先輩の土方英和(現・Honda)の後を継いで2年冬からキャプテンに就任。昨年度は10000mで28分27秒59まで記録を短縮し、チームは全日本、箱根ともに9位となった。先日の出雲でも4位に食い込んだが、もちろんその成績には満足はしていない。今季は「2年計画」の集大成として、歴代最強のチームを目指している。

出雲路で学生駅伝初の区間賞を獲得

2年ぶりの開催となった出雲駅伝。「前回王者」の國學院大が今回も強烈なインパクトを残した。1区の島崎慎愛(4年)がトップと8秒差の6位でスタートすると、2区の木付琳(4年)で首位に浮上。3区で7位まで順位を落としたが、4区の中西大翔(3年)で4位、5区の伊地知賢造(2年)で3位まで順位を上げた。

アンカーの平林清澄(1年)は終盤にペースを急落させて4位でのフィニッシュになったが、今年の國學院大は「強い」と感じさせるようなレースだった。

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主将・木付も自身の走りとチームの結果をこう評価する。

「島崎には『先頭から5~8秒差で来てくれたら走りやすいよ』という話をしていたんです。そういう展開になって、すごく走りやすかった。先頭に立ちたいと思っていたんですけど、冷静に走ることができましたね。自分の中では後半勝負を意識していて、ラスト1kmで切り替えました。個人としては狙い通りの走りができたと思います。チームとしては3位以内を目標に掲げていました。結果は4位でしたけど、非常にいいスタートが切れたかなと思っています」

アンカーの平林清澄を出迎える木付(左)

木付と藤木は故障があり、夏合宿は出遅れていたという。その影響で藤木は本領を発揮できなかったが、チームは「2年計画」のクライマックスに向けて、期待感あふれる戦いになった。

前主将の土方英和から託された想い

4年目にして初めて学生駅伝の区間賞を獲得した木付だが、高校入学時のレベルは高くなかった。

中学時代は野球部で、3年時に大分市の駅伝を好走したことで大分東明高に進学した。入学直後の校内3000mトライアルは10分10秒。チーム最下位で、女子選手にも負けたという。

「トラック1周が何メートルなのかも分からない状態でした。1年目はとにかく周りに追いつこうとがんばって練習していたのを思い出しますね。練習は苦しかったんですけど、2年時の都大路でかたちになったのがうれしかったです」

2年時と3年時は全国高校駅伝の2区に選ばれた木付。区間7位、区間18位という成績を残し、チームは2年連続で4位入賞を果たした。

全国高校駅伝は2年連続で2区を疾走。写真は3年時

その後、國學院大・前田康弘監督から勧誘を受けている。

「前田さんが大分まで来てくださって、直接お話を聞きました。前田さんの熱い気持ちと、今後のチームビジョンが伝わってきて、國學院大でやりたいなと思ったんです。初めて大学のチームから声をかけていただいたこともあり、すごく印象に残っています」

さまざまな大学から勧誘を受けた木付だが、國學院大を選び、上京した。当時のチームは土方英和(現・Honda)、浦野雄平(現・富士通)、青木祐人(現・トヨタ自動車)の3年生トリオが主軸で「上昇ムード」にあった。前田監督は土方を主将に任命して「2年計画」で強化を図ると、2018年の全日本で6位、19年の出雲で初優勝、20年の箱根で3位。三大駅伝で過去最高順位を更新して、狙い通りの成果を収めた。

なかでも、木付は土方から大きな刺激を受けたという。

1年目から箱根を走るつもりでいたが、2年時の全日本までは出場することができなかった。そんな折、2年時に同部屋だった土方から「本当にがんばってもらいたい」という言葉を何度もかけてもらった。「箱根は絶対に走らないといけない、という気持ちになったんです」と当時を木付は振り返る。

2年時の夏には土方から「来年はお前がキャプテンをするかもしれないから」という言葉ももらっている。責任感のある木付は奮起。箱根駅伝のメンバーに食い込み、7区を走って(区間11位)、チームの大躍進に貢献した。

そして、当時2年生の木付が土方から「主将」を引き継ぐかたちになり、國學院大の新たな「2年計画」が始まった。

「昨季は前年のチームを超えたい一心で突っ走ってきた感じでした。今考えると、慣れてない部分もたくさんありましたし、自分自身も未熟だったかなと思います。記録は伸びていたんですけど、前年のチームと違って強さがなかったんです」

学生駅伝は3位以内を目標に掲げながら、全日本は9位、箱根も9位。木付も10000mで28分27秒59の自己ベストをマークしながら12月は貧血に苦しんだ。箱根駅伝は3区の候補に挙がっていたが、10区にまわった。区間3位でまとめたものの、納得できる活躍はできなかった。

全日本&箱根では「過去最高成績を目指す」

今季は主将として2年目を迎えたことで、個人の走力アップだけでなく、チーム全体の士気を高めることにも注力している。

「土方さんは下級生を育てるんだという気持ちがすごく強くて、その思いを受け取った自分たちも成長できました。そんな経験もあるので、今度は後輩たちに同じように接したいなと思ってやっています。秋の記録会でも自己ベストが続出していますし、チーム全体で、全日本を走りたい、箱根を走りたい、という気持ちが強くなっているのを感じています」

チームは全日本で過去最高6位を上回る「5位以内」、箱根は「総合優勝」を目標に掲げている。

「練習自体は2年前と同じか、それ以上のレベルでできています。ラストスパートは島崎が強く、自分と藤木も同じくらい。中西大翔と平林はその次ぐらいですね。戦力的には2年前と遜色ないと思っています。ただ前々回の箱根は土方さん、青木さん、浦野さんの3区間(2、3、5区)が強力だったからこそ、総合3位に入ることができました。自分たち主力がしっかり走らないと、2年前の結果は超えれないと思っています」

また、個人での目標については、「全日本では後半よりも前半区間で勝負したい。箱根は下りが得意なので3区か、2区で勝負したいなという思いがあります。箱根で上を狙うには8~10人目のレベルアップが必要ですし、ミスしたチームが負けると思うので、体調管理などは怠りたくない。それぞれがやることをしっかりやってチーム全体で箱根に向かっていきたいです」

マラソンで日本歴代6位の2時間6分26秒をマークした土方、10000mで27分台に突入した青木、今年のニューイヤー駅伝でアンカーとして優勝テープを切った浦野。実業団でさらに強くなった先輩たちの活躍も木付にとっては大きな自信になっている。

「2年計画」の最終ゴールに向けて、全日本&箱根でも攻め続ける。

◎きつき・りん/1999年7月17日生まれ。大分県出身。上野ヶ丘中→大分東明高→國學院大。自己記録5000m13分56秒45、10000m28分27秒59。ハーフマラソン1時間2分42秒。高校時代はインターハイ路線と無縁だったが、全国高校駅伝には2年次から2年連続で2区に出走し、区間7位、区間18位とともにチームの4位入賞に貢献。5000mの高校ベストは14分47秒92だった。國學院大では2年時の箱根駅伝で公式戦デビューし、7区を区間11位で走って大学として過去最高成績となるトップ3入りの力となった。3年目以降は主将としてチームを牽引し、今年は10月10日の出雲駅伝で2区区間賞を獲得。全日本、箱根では國學院大の歴代最高成績を目指している。

文/酒井政人

学生長距離Close-upインタビュー 木付 琳 Kitsuki Rin 國學院大學4年 「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。12回目は、10月の出雲駅伝で2区区間賞を獲得した國學院大の主将・木付琳(4年)に話を聞いた。 2年目で箱根駅伝で学生駅伝デビューを飾ると、2学年先輩の土方英和(現・Honda)の後を継いで2年冬からキャプテンに就任。昨年度は10000mで28分27秒59まで記録を短縮し、チームは全日本、箱根ともに9位となった。先日の出雲でも4位に食い込んだが、もちろんその成績には満足はしていない。今季は「2年計画」の集大成として、歴代最強のチームを目指している。

出雲路で学生駅伝初の区間賞を獲得

2年ぶりの開催となった出雲駅伝。「前回王者」の國學院大が今回も強烈なインパクトを残した。1区の島崎慎愛(4年)がトップと8秒差の6位でスタートすると、2区の木付琳(4年)で首位に浮上。3区で7位まで順位を落としたが、4区の中西大翔(3年)で4位、5区の伊地知賢造(2年)で3位まで順位を上げた。 アンカーの平林清澄(1年)は終盤にペースを急落させて4位でのフィニッシュになったが、今年の國學院大は「強い」と感じさせるようなレースだった。 主将・木付も自身の走りとチームの結果をこう評価する。 「島崎には『先頭から5~8秒差で来てくれたら走りやすいよ』という話をしていたんです。そういう展開になって、すごく走りやすかった。先頭に立ちたいと思っていたんですけど、冷静に走ることができましたね。自分の中では後半勝負を意識していて、ラスト1kmで切り替えました。個人としては狙い通りの走りができたと思います。チームとしては3位以内を目標に掲げていました。結果は4位でしたけど、非常にいいスタートが切れたかなと思っています」 アンカーの平林清澄を出迎える木付(左) 木付と藤木は故障があり、夏合宿は出遅れていたという。その影響で藤木は本領を発揮できなかったが、チームは「2年計画」のクライマックスに向けて、期待感あふれる戦いになった。

前主将の土方英和から託された想い

4年目にして初めて学生駅伝の区間賞を獲得した木付だが、高校入学時のレベルは高くなかった。 中学時代は野球部で、3年時に大分市の駅伝を好走したことで大分東明高に進学した。入学直後の校内3000mトライアルは10分10秒。チーム最下位で、女子選手にも負けたという。 「トラック1周が何メートルなのかも分からない状態でした。1年目はとにかく周りに追いつこうとがんばって練習していたのを思い出しますね。練習は苦しかったんですけど、2年時の都大路でかたちになったのがうれしかったです」 2年時と3年時は全国高校駅伝の2区に選ばれた木付。区間7位、区間18位という成績を残し、チームは2年連続で4位入賞を果たした。 全国高校駅伝は2年連続で2区を疾走。写真は3年時 その後、國學院大・前田康弘監督から勧誘を受けている。 「前田さんが大分まで来てくださって、直接お話を聞きました。前田さんの熱い気持ちと、今後のチームビジョンが伝わってきて、國學院大でやりたいなと思ったんです。初めて大学のチームから声をかけていただいたこともあり、すごく印象に残っています」 さまざまな大学から勧誘を受けた木付だが、國學院大を選び、上京した。当時のチームは土方英和(現・Honda)、浦野雄平(現・富士通)、青木祐人(現・トヨタ自動車)の3年生トリオが主軸で「上昇ムード」にあった。前田監督は土方を主将に任命して「2年計画」で強化を図ると、2018年の全日本で6位、19年の出雲で初優勝、20年の箱根で3位。三大駅伝で過去最高順位を更新して、狙い通りの成果を収めた。 なかでも、木付は土方から大きな刺激を受けたという。 1年目から箱根を走るつもりでいたが、2年時の全日本までは出場することができなかった。そんな折、2年時に同部屋だった土方から「本当にがんばってもらいたい」という言葉を何度もかけてもらった。「箱根は絶対に走らないといけない、という気持ちになったんです」と当時を木付は振り返る。 2年時の夏には土方から「来年はお前がキャプテンをするかもしれないから」という言葉ももらっている。責任感のある木付は奮起。箱根駅伝のメンバーに食い込み、7区を走って(区間11位)、チームの大躍進に貢献した。 そして、当時2年生の木付が土方から「主将」を引き継ぐかたちになり、國學院大の新たな「2年計画」が始まった。 「昨季は前年のチームを超えたい一心で突っ走ってきた感じでした。今考えると、慣れてない部分もたくさんありましたし、自分自身も未熟だったかなと思います。記録は伸びていたんですけど、前年のチームと違って強さがなかったんです」 学生駅伝は3位以内を目標に掲げながら、全日本は9位、箱根も9位。木付も10000mで28分27秒59の自己ベストをマークしながら12月は貧血に苦しんだ。箱根駅伝は3区の候補に挙がっていたが、10区にまわった。区間3位でまとめたものの、納得できる活躍はできなかった。

全日本&箱根では「過去最高成績を目指す」

今季は主将として2年目を迎えたことで、個人の走力アップだけでなく、チーム全体の士気を高めることにも注力している。 「土方さんは下級生を育てるんだという気持ちがすごく強くて、その思いを受け取った自分たちも成長できました。そんな経験もあるので、今度は後輩たちに同じように接したいなと思ってやっています。秋の記録会でも自己ベストが続出していますし、チーム全体で、全日本を走りたい、箱根を走りたい、という気持ちが強くなっているのを感じています」 チームは全日本で過去最高6位を上回る「5位以内」、箱根は「総合優勝」を目標に掲げている。 「練習自体は2年前と同じか、それ以上のレベルでできています。ラストスパートは島崎が強く、自分と藤木も同じくらい。中西大翔と平林はその次ぐらいですね。戦力的には2年前と遜色ないと思っています。ただ前々回の箱根は土方さん、青木さん、浦野さんの3区間(2、3、5区)が強力だったからこそ、総合3位に入ることができました。自分たち主力がしっかり走らないと、2年前の結果は超えれないと思っています」 また、個人での目標については、「全日本では後半よりも前半区間で勝負したい。箱根は下りが得意なので3区か、2区で勝負したいなという思いがあります。箱根で上を狙うには8~10人目のレベルアップが必要ですし、ミスしたチームが負けると思うので、体調管理などは怠りたくない。それぞれがやることをしっかりやってチーム全体で箱根に向かっていきたいです」 マラソンで日本歴代6位の2時間6分26秒をマークした土方、10000mで27分台に突入した青木、今年のニューイヤー駅伝でアンカーとして優勝テープを切った浦野。実業団でさらに強くなった先輩たちの活躍も木付にとっては大きな自信になっている。 「2年計画」の最終ゴールに向けて、全日本&箱根でも攻め続ける。 ◎きつき・りん/1999年7月17日生まれ。大分県出身。上野ヶ丘中→大分東明高→國學院大。自己記録5000m13分56秒45、10000m28分27秒59。ハーフマラソン1時間2分42秒。高校時代はインターハイ路線と無縁だったが、全国高校駅伝には2年次から2年連続で2区に出走し、区間7位、区間18位とともにチームの4位入賞に貢献。5000mの高校ベストは14分47秒92だった。國學院大では2年時の箱根駅伝で公式戦デビューし、7区を区間11位で走って大学として過去最高成績となるトップ3入りの力となった。3年目以降は主将としてチームを牽引し、今年は10月10日の出雲駅伝で2区区間賞を獲得。全日本、箱根では國學院大の歴代最高成績を目指している。 文/酒井政人

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