写真/時事
◇東京五輪(7月30日~8月8日/国立競技場)陸上競技6日目
陸上競技6日目のモーニングセッション。男子110mハードルで決勝進出を狙って準決勝に臨んだ金井大旺(ミズノ)は、8台目でバランスを崩して転倒し、26秒11(+0.1)の8着でフィニッシュした。
金井らしい飛び出しでリードしたものの、徐々に動きが崩れ、8台目を前に転倒。夢のファイナルがついえた。
「後半、脚が崩れてしまって転倒しました。前半は予選の課題を修正して飛び出せたのですが、後半は刻みきれず噛み合いませんでした。力不足です」
それでも、金井は残っていた目の前のハードルを飛び越えた。それはこれまでの人生でもそうであったように。
「これまでいろいろあって……」。そういうと言葉を詰まらせた。普段、感情の起伏をほとんど表に出さない照れ屋な男の声が震える。「感謝しています」。
東京五輪を最初で最後のオリンピックと決めている。物心ついた時から父の姿を見て、「医療従事者になりたい」と心に決めていた。だが、陸上競技への愛、ハードルへの愛がつのればつのるほど、歯科医となる道へ進むことを決めていたはずなのに、「迷ったこともあった」。
高校卒業前も、大学卒業前も区切りをつけようと思った。その度に翻意し、もう少しだけハードルを跳びたい、と続けた。大学卒業時に「東京五輪までやりたい」と、関係者に伝えた。家族はいつも応援してくれた。恩師の法大・苅部俊二監督も背中押し、福井陸協が、ミズノが手を差し伸べてくれた。みんなが応援してくれた。
「もう一度やれと言われたらできない」。そう言うほど冬季練習をこなせたのは、「東京五輪を区切りに」決めていから。だからこそ、結果を出したかった。
「合宿や練習をするたびに、これで最後かな」と寂しくなることもあった。夢のファイナルへあと一歩。「詰めが甘い。悔しいです」。
金井は陸上競技について「突き詰めると切りがなくて、修正したら次の課題が出てくる。完成することはないんです」と言っていた。陸上競技の難しさと奥深さ。それを東京五輪でも感じ取ったことだろう。
だからこそ、思う。もう少し、金井大旺のハードルが見てみたい、と。
文/向永拓史
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