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2021.06.13

中村明彦2年連続4度目Vも五輪届かずも自己ベストへ手応え「次は楽しい十種競技を」/日本選手権混成
中村明彦2年連続4度目Vも五輪届かずも自己ベストへ手応え「次は楽しい十種競技を」/日本選手権混成


◇日本選手権・混成競技(6月12、13日/長野)

第105回日本選手権・混成競技の十種競技が行われ、2日間を終えて中村明彦(スズキ)が2年連続4度目の優勝を飾った。

最終種目の1500mを終えたあとは涙が溢れた。「いろんな感情があります。家族の(顔を見た)安心感だったり、オリンピックに対して応援してもらっている中で(届かなかった)申し訳なさだったり、感謝だったり」。

簡単な戦いではなかった。12年ロンドン五輪は400mハードルで出場し、16年リオ五輪では十種競技で夢の舞台に立った。それから5年。「いつの間にか」30歳の「ベテラン」になって迎えた東京五輪の選考会だったが、参加標準記録は8350点と高いもの。大会前から「現実的に限りなくゼロに近い」のはわかっている。それでも戦い続けた。

初日は4061点の2位。砲丸投で自己記録を更新するなど、まずまずの滑り出しをみせた。2日目は110mハードルで14秒34(-0.6)、円盤投で34m81を投げるなどしたが、食い下がる奥田啓祐(第一学院高教)と競り合いに。それでも、棒高跳で4m80を跳ぶと、やり投でも56m18の自己新を投げて逆転。最後は得意の1500mでしっかりと逃げ切った。

7833点は昨年の日本選手権優勝時(7739点)を上回る記録。目指していた8000点には届かなかったが、投てき2種目の自己新で、目指してきた「スピード型からオールラウンダー」への移行が実を結んだ。

ここ2、3年は「100mのタイムが出なくて、試行錯誤をしてズレた方向にいっていた」。その結果、100mや400mなど得意としていたスプリントで思ったような記録が出ないことが多くなった。「このまま辞めるのか、投てきをきちっとやっていくのか」。中京大時代の恩師である本田陽監督が2018年に他界。「本田先生とは『スピードを伸ばせるところまで伸ばして、パワーと技術をつければ長い間戦える』という計画を立てていた」という中村は、亡き師の言葉を思い返した。昨年までは引退の二文字もちらついたが、眞鍋芳明・現監督や仲間、チーム、家族が、自分以上に「自分の可能性を信じてくれた」。

昨年から続くコロナ禍もあり、海外遠征ができず、国際大会も軒並み中止。現実的に3大会連続のオリンピックが難しい状況となった。そうした中で競技への向き合い方を見直し、「良い記録を出す、勝負に勝つ、そういったオリンピックとは違う価値を見出せるようになった」のがこの半年間だったという。

リオ五輪が終わってから「自分で苦しめている部分があって、競技を楽しめていない部分があった」と中村。オリンピックに「絶対に出たい」と思う自分と「行けないのかな」と考えてしまう自分がいた。今回の結果、3大会連続のオリンピック、東京五輪の道は事実上潰えたが、「オリンピックの道から降りられてホッとしているところもある」と、安堵感も大きい。それと同時に、投てきで自己新を出すなど、8000点、そして30歳を超えてなお自己ベストの可能性が広がった充実感もある4回目の優勝となった。

今回の日本選手権は10年間続いた長野開催に一区切り。初めて日本選手権に立ったのは、この長野の地だった。「いい思いも、悪い思いもさせてくれた」。右代とともに引っ張ってきたここ数年。「(3年後の)パリ五輪は難しい」。だが、次のステップが見えている以上、十種競技選手として進化をあきらめるつもりはない。

「僕の前には田中宏昌さんがいて、右代啓祐さんがいて、カッコイイ姿を見てあこがれて、頑張っていたらいつの間にか30歳になっていました。後輩たちにも同じように思ってもらえたらうれしい。でも、教えたりはしないですけどね」

競技生活の終わりは、確かに近づいている。「現実問題、あと何回、十種競技をできるかなと考えたら……。次は楽しい十種競技がしたい。今は記録が出そうな手応えがあってワクワクしています」。初めて日本選手権の応援に駆けつけた9ヵ月の愛娘を抱いて、「わかるようになるまで、あと2回くらいは」と、2021年の王者は思い出いっぱいの長野のスタジアムをあとにした。

◇2位の奥田が日本歴代7位の7768点
初日トップで折り返した奥田啓祐(第一学院高教)が7768点の自己新。日本歴代7位に入る好記録だった。「7800点に乗せたかった」と悔しい気持ちのほうが勝るが、「苦手だった1500mでベストの4分38秒70を出せたのは評価したい」と振り返る。スピードを武器に大学時代から存在感を放っていたが、卒業後の2年間は試行錯誤の繰り返し。だが、「競技に対する姿勢が変わった」と、1種目ずつ考えて取り組むようになり、着実に全体をレベルアップ。「8000点が現実的になってきた」と言い、練習をともにする機会の多い、右代、中村を追う一番手として「追い抜くのが一番の恩返し」と力強く宣言した。

◇日本選手権・混成競技(6月12、13日/長野) 第105回日本選手権・混成競技の十種競技が行われ、2日間を終えて中村明彦(スズキ)が2年連続4度目の優勝を飾った。 最終種目の1500mを終えたあとは涙が溢れた。「いろんな感情があります。家族の(顔を見た)安心感だったり、オリンピックに対して応援してもらっている中で(届かなかった)申し訳なさだったり、感謝だったり」。 簡単な戦いではなかった。12年ロンドン五輪は400mハードルで出場し、16年リオ五輪では十種競技で夢の舞台に立った。それから5年。「いつの間にか」30歳の「ベテラン」になって迎えた東京五輪の選考会だったが、参加標準記録は8350点と高いもの。大会前から「現実的に限りなくゼロに近い」のはわかっている。それでも戦い続けた。 初日は4061点の2位。砲丸投で自己記録を更新するなど、まずまずの滑り出しをみせた。2日目は110mハードルで14秒34(-0.6)、円盤投で34m81を投げるなどしたが、食い下がる奥田啓祐(第一学院高教)と競り合いに。それでも、棒高跳で4m80を跳ぶと、やり投でも56m18の自己新を投げて逆転。最後は得意の1500mでしっかりと逃げ切った。 7833点は昨年の日本選手権優勝時(7739点)を上回る記録。目指していた8000点には届かなかったが、投てき2種目の自己新で、目指してきた「スピード型からオールラウンダー」への移行が実を結んだ。 ここ2、3年は「100mのタイムが出なくて、試行錯誤をしてズレた方向にいっていた」。その結果、100mや400mなど得意としていたスプリントで思ったような記録が出ないことが多くなった。「このまま辞めるのか、投てきをきちっとやっていくのか」。中京大時代の恩師である本田陽監督が2018年に他界。「本田先生とは『スピードを伸ばせるところまで伸ばして、パワーと技術をつければ長い間戦える』という計画を立てていた」という中村は、亡き師の言葉を思い返した。昨年までは引退の二文字もちらついたが、眞鍋芳明・現監督や仲間、チーム、家族が、自分以上に「自分の可能性を信じてくれた」。 昨年から続くコロナ禍もあり、海外遠征ができず、国際大会も軒並み中止。現実的に3大会連続のオリンピックが難しい状況となった。そうした中で競技への向き合い方を見直し、「良い記録を出す、勝負に勝つ、そういったオリンピックとは違う価値を見出せるようになった」のがこの半年間だったという。 リオ五輪が終わってから「自分で苦しめている部分があって、競技を楽しめていない部分があった」と中村。オリンピックに「絶対に出たい」と思う自分と「行けないのかな」と考えてしまう自分がいた。今回の結果、3大会連続のオリンピック、東京五輪の道は事実上潰えたが、「オリンピックの道から降りられてホッとしているところもある」と、安堵感も大きい。それと同時に、投てきで自己新を出すなど、8000点、そして30歳を超えてなお自己ベストの可能性が広がった充実感もある4回目の優勝となった。 今回の日本選手権は10年間続いた長野開催に一区切り。初めて日本選手権に立ったのは、この長野の地だった。「いい思いも、悪い思いもさせてくれた」。右代とともに引っ張ってきたここ数年。「(3年後の)パリ五輪は難しい」。だが、次のステップが見えている以上、十種競技選手として進化をあきらめるつもりはない。 「僕の前には田中宏昌さんがいて、右代啓祐さんがいて、カッコイイ姿を見てあこがれて、頑張っていたらいつの間にか30歳になっていました。後輩たちにも同じように思ってもらえたらうれしい。でも、教えたりはしないですけどね」 競技生活の終わりは、確かに近づいている。「現実問題、あと何回、十種競技をできるかなと考えたら……。次は楽しい十種競技がしたい。今は記録が出そうな手応えがあってワクワクしています」。初めて日本選手権の応援に駆けつけた9ヵ月の愛娘を抱いて、「わかるようになるまで、あと2回くらいは」と、2021年の王者は思い出いっぱいの長野のスタジアムをあとにした。 ◇2位の奥田が日本歴代7位の7768点 初日トップで折り返した奥田啓祐(第一学院高教)が7768点の自己新。日本歴代7位に入る好記録だった。「7800点に乗せたかった」と悔しい気持ちのほうが勝るが、「苦手だった1500mでベストの4分38秒70を出せたのは評価したい」と振り返る。スピードを武器に大学時代から存在感を放っていたが、卒業後の2年間は試行錯誤の繰り返し。だが、「競技に対する姿勢が変わった」と、1種目ずつ考えて取り組むようになり、着実に全体をレベルアップ。「8000点が現実的になってきた」と言い、練習をともにする機会の多い、右代、中村を追う一番手として「追い抜くのが一番の恩返し」と力強く宣言した。

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