2021.05.17
狙っているのか、図らずも、なのか。熾烈な中距離戦線で、後方から一気に〝まくる〟松本純弥(法大)の走りに、いつもスタンドは沸き上がる。法大に進学した年から日本インカレの男
子800m2連覇中。若手を中心に勢いを増す中距離戦線で、松本は〝いつもの場所〟から主役の座を定位置にすべく、虎視眈々とその瞬間を狙っている。
文/福本ケイヤ 写真/船越陽一郎
レーススタイルは中学時代から
松本純弥(法大3年)の800mのレース運びは、いつも見ている側のほうが冷や冷やしてしまう。決まって最後尾からのスタート。第2コーナーを曲がってオープンレーンとなった時点で、先行する選手とはだいぶ差が開いていることもある。
「さすがに、怖いっちゃ怖いですよ」
松本自身、心の内に〝追いつけないかもしれない〟という恐怖が芽生えることもあるという。それでも、身長178㎝のクレバーな大型ランナーはいたって冷静だ。
「他の選手の力は事前にわかっていますし、どのぐらいの差であれば大丈夫かは、経験でわかっていますから。あとは、前半に力を溜めている分、後半に出せるので、その力をどこで使うかを考えています」
号砲が鳴る前に、頭の中ではさまざまな計算がなされているのだという。
「必要かなと思ったら、先行逃げ切りのレースをやるかもしれませんよ」と口にするが、最後尾からスタートし、後半にじわりじわりと追い上げ、ラストスパートを炸裂させるのが、今の松本の代名詞とも言えるレーススタイルだ。
このレーススタイルが確立されたのは中学時代のことだ。錦台中(神奈川)に入学してから本格的に陸上を始め、当初は1500mを中心に長距離に取り組んでいた。
「その頃は足が遅くて、800mでは最初の200mで周りについていけなかったんです。無理についていくと、しんどくなっちゃって……。それで、前半を抑えていくレースをしていました。それだと、位置取り争いに巻き込まれることもないので」
その走り方が、現在のレーススタイルに反映されていた。
松本はメキメキと力をつけて、中学3年では全国大会出場を狙えるまでになった。もっとも、結果的に全中の参加標準記録を破り、全国に駒を進めたのは、メインとしていた1500mではなく800mだったのだが。
その全中では、予選通過したものの、準決勝では組最下位(8着)に終わる屈辱を味わった。
「やっぱり悔しかったですね。自己ベストぐらいのタイムで走れれば、決勝に残ることができていましたから。全国大会の雰囲気にのまれてしまったところがあったと思います」
初の全国の舞台は、力を出し切れず、悔しさばかりが残った。
強力なライバルの陰で着実に成長
高校は神奈川の強豪・法政二高に進む。入学する前年には全国高校駅伝に出場しており、松本は高校でも1500mを軸に長距離に取り組むつもりだった。実際、高1の夏には1500mで調子も上向いてきて、いよいよ1500mでも本領を発揮しようとしていた。ところが、その頃から、長い距離を全力で走ると息苦しくなる症状が出るようになる。運動誘発性喘息という診断だった。なんとか800mであれば走り切ることができたが、1500mになると苦しく、秋の県新人戦では4分29秒16もかかってしまう。
「長い距離が走れなくなっちゃったので、1500mはあきらめて、800m に絞ることにしました」
自身にとっては不本意なかたちだったが、松本は800mに特化していくことになった。
とはいえ、長距離ブロックに身を置いており、当時は持久系のトレーニングに取り組むことが多かったという。それでも、ポイント練習は800m用のメニューを立ててもらい、冬季には短距離ブロックに交じって、短い距離を走り込んだり、ウエイトトレーニングに取り組んだりした。こうして800m走者としてのベースが築かれていった。
2年生になると、一躍全国区の選手に成長。インターハイ路線は、激戦区の神奈川県大会、南関東大会と1位で全国進出を決めた。全国インターハイは予選敗退に終わったが、秋のU18日本選手権では2位に食い込む活躍を見せた。
松本が成長を見せる一方、同じ神奈川県に強力なライバルが台頭する。1学年下のクレイ・アーロン竜波(相洋高→現・テキサスA&M大)だ。
この続きは2021年5月14日発売の『月刊陸上競技6月号』をご覧ください。
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レーススタイルは中学時代から
松本純弥(法大3年)の800mのレース運びは、いつも見ている側のほうが冷や冷やしてしまう。決まって最後尾からのスタート。第2コーナーを曲がってオープンレーンとなった時点で、先行する選手とはだいぶ差が開いていることもある。 「さすがに、怖いっちゃ怖いですよ」 松本自身、心の内に〝追いつけないかもしれない〟という恐怖が芽生えることもあるという。それでも、身長178㎝のクレバーな大型ランナーはいたって冷静だ。 「他の選手の力は事前にわかっていますし、どのぐらいの差であれば大丈夫かは、経験でわかっていますから。あとは、前半に力を溜めている分、後半に出せるので、その力をどこで使うかを考えています」 号砲が鳴る前に、頭の中ではさまざまな計算がなされているのだという。 「必要かなと思ったら、先行逃げ切りのレースをやるかもしれませんよ」と口にするが、最後尾からスタートし、後半にじわりじわりと追い上げ、ラストスパートを炸裂させるのが、今の松本の代名詞とも言えるレーススタイルだ。 このレーススタイルが確立されたのは中学時代のことだ。錦台中(神奈川)に入学してから本格的に陸上を始め、当初は1500mを中心に長距離に取り組んでいた。 「その頃は足が遅くて、800mでは最初の200mで周りについていけなかったんです。無理についていくと、しんどくなっちゃって……。それで、前半を抑えていくレースをしていました。それだと、位置取り争いに巻き込まれることもないので」 その走り方が、現在のレーススタイルに反映されていた。 松本はメキメキと力をつけて、中学3年では全国大会出場を狙えるまでになった。もっとも、結果的に全中の参加標準記録を破り、全国に駒を進めたのは、メインとしていた1500mではなく800mだったのだが。 その全中では、予選通過したものの、準決勝では組最下位(8着)に終わる屈辱を味わった。 「やっぱり悔しかったですね。自己ベストぐらいのタイムで走れれば、決勝に残ることができていましたから。全国大会の雰囲気にのまれてしまったところがあったと思います」 初の全国の舞台は、力を出し切れず、悔しさばかりが残った。強力なライバルの陰で着実に成長
高校は神奈川の強豪・法政二高に進む。入学する前年には全国高校駅伝に出場しており、松本は高校でも1500mを軸に長距離に取り組むつもりだった。実際、高1の夏には1500mで調子も上向いてきて、いよいよ1500mでも本領を発揮しようとしていた。ところが、その頃から、長い距離を全力で走ると息苦しくなる症状が出るようになる。運動誘発性喘息という診断だった。なんとか800mであれば走り切ることができたが、1500mになると苦しく、秋の県新人戦では4分29秒16もかかってしまう。 「長い距離が走れなくなっちゃったので、1500mはあきらめて、800m に絞ることにしました」 自身にとっては不本意なかたちだったが、松本は800mに特化していくことになった。 とはいえ、長距離ブロックに身を置いており、当時は持久系のトレーニングに取り組むことが多かったという。それでも、ポイント練習は800m用のメニューを立ててもらい、冬季には短距離ブロックに交じって、短い距離を走り込んだり、ウエイトトレーニングに取り組んだりした。こうして800m走者としてのベースが築かれていった。 2年生になると、一躍全国区の選手に成長。インターハイ路線は、激戦区の神奈川県大会、南関東大会と1位で全国進出を決めた。全国インターハイは予選敗退に終わったが、秋のU18日本選手権では2位に食い込む活躍を見せた。 松本が成長を見せる一方、同じ神奈川県に強力なライバルが台頭する。1学年下のクレイ・アーロン竜波(相洋高→現・テキサスA&M大)だ。 この続きは2021年5月14日発売の『月刊陸上競技6月号』をご覧ください。
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