2021.01.14
駒大が初めて箱根駅伝を制したのが2000年。それから02~05年(4連覇)、08年と6度の優勝を誇るなど、2000年代は「黄金時代」を謳歌していた。だが、全日本大学駅伝の優勝こそあれど、不思議と箱根駅伝だけは栄光から遠ざかり、09、18年にはシード落ちする憂き目も見る時期があった。
しかし、19年に世代トップクラスの実力者である田澤廉が入学したあたりからチームは変わり始め、下級生の突き上げにより2020年は11月の全日本で6年ぶりの日本一。その勢いのまま、13年ぶりに箱根路も制した。悲願の「V7」達成の余韻が残る大会2日後、大八木弘明監督にインタビュー。言葉の節々からは、2000年代に続く「黄金時代」復活への熱意がひしひしと伝わってきた。
全日本大学駅伝優勝直後の大八木監督インタビュー22冠指揮官 駒大・大八木弘明監督 指導への想い再熱「老体にムチを打って朝練」
創価大の健闘に苦戦
――あらためて、優勝おめでとうございます。偶然にも、1年生を3人起用して優勝したのは2000年に初優勝した時と同じでした。それ以外にも共通点が多いのですが……。
大八木 あの時は1区・島村(清孝)、3区・布施(知進)、5区・松下(龍治)、1年生3人使って往路優勝したんです。それから前日の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)で富士通が初優勝した時に、駒澤も初優勝した。今年勝てれば、あの時と一緒だなと思っていました。
――気づかれていたんですね。
大八木 気づいていましたよ。気づいていましたけど、9区を終えた時点では(3分19秒差もあって)「もう2番だなぁ」と思っていました(笑)。こんな若いチームだから仕方ないか、と。「来年へ向けて」という意識でチームを作っていた面がありますので、「絶対に優勝」とは思っていませんでした。夏あたりから1年生が良くなってきたので、「全日本大学駅伝は勝てるかもしれない」と思い始めました。
さらに10月になると、全体で13人ほどがものすごくいい練習ができていました。(練習での10000mを)1年生が軽く29分30秒くらいで走れるし、変化走などすべての練習で良い手応えがありましたね。箱根も「往路優勝するか3番以内でいって、復路で流れに乗ったら、もしかしたらもしかする」と選手を送り出しました。そして6区の花崎(悠紀)に「お前次第だぞ」と言っていたんです。
――花崎選手はプレッシャーに強い性格のようですね。
大八木 そうですね。まったく動じませんでした。(花崎が区間賞を取り)本当は8区、9区で創価大との差を詰めようと思っていたのですが、逆に引き離されて、「ええ? こんなに創価大学は強いのか!」と思いました。「俺の計算、狂ったな。お手上げだなぁ」と。
箱根駅伝は10000mの持ちタイムで実力が測れないものですが、創価大9区の石津(佳晃)君よりウチの9区・山野(力)のほうが1分ほど自己ベストは速いのです(石津:29分34秒46、山野:28分36秒18)。9区も「同じくらいではいけるだろう。10区で勝負だな」と思っていましたが……。9区を終えて3分以上(3分19秒)の差では、もう無理だろうと思っていました。
―― しかし、10区・石川拓慎選手は走り出しからキレのある動きでした。
大八木 区間賞狙いでいきましたから。「去年はラストに抜かれて恥をかいているんだから、区間賞を取って堂々とゴールしろ」とレース前に声をかけたら、「はい。区間賞を狙いにいきます」と返ってきました。最初から突っ込み、5㎞14分40秒くらいの感覚でずっと押していきました。そしたら、15kmの時には先頭がはっきり見えてきた。「ペースを落とすなよ!」と鼓舞して、ガンガンいきましたよ。

インタビューで大会を振り返る大八木監督
3年生の浮上、1年生からの刺激
―― 今回走った10人は、全日本の優勝メンバーから様変わりしました。
大八木 4年生には申し訳なかったですが、ケガがあったり、レース内容が芳しくなかったり、1年生との比較で先々を考えて決めた区間がありました。それぞれに理由があって外すことになりましたね。要因の1つには、3年生(3人)を育てていった面がありますね。3年生は全日本に1人も出場しないで、箱根に絞って育成していました。トラックを軸に進めた1、2年生との違いですね。
――1年生が5人エントリーされて3人出走しました。
大八木 今の1年生が入って、チームの意識が変わったのです。1年生たちはみんな、ジョグもポイント練習も一生懸命にやる。「意識のスタート地点」が高いから、どんどん伸びていった。例えば、青柿(響)のような選手が現れるわけです。5000m14分30~40秒で入ってきたような選手が、10000m28分20秒台をポンッと出すんですよ。上級生は「俺たち、情けないな」と思い始め、「自分たちもやらなくては」と意識の高さが波及していきました。下からの改革でしたね。
――とはいえ、4年生が環境作りに尽力したとも聞いています。
大八木 4年生や上級生の働きと言えば、神戸(駿介)主将を中心に練習のサポートをよくしてくれましたね。ケガで練習ができない選手は、サブマネージャーとして働き、下級生が走りやすいように給水を準備するなどしています。
今年度はサブマネージャーを志願してサポートに回る者が多かったです。メインマネージャー4人とは別に、サブマネージャーに回った者は10人くらいいます。これは感染症対策しながら練習しなくてはいけない中で、大きな力になりました。
―― 新年度のキャプテンには2年生の田澤選手を指名したそうですね。
大八木 田澤はこれから人としても成長していかなくてはいけませんから。1年の時に中村匠吾(富士通)と合宿をやることで意識が変わってきましたが、ここまでは先輩の背中を見ながらついてきた感じです。責任感のある人間に成長してもらいたいという願いが、理由の1つです。どうやったら自分が強くなるのか、常に考えて過ごす必要があります。練習以外の生活時間の中でも、どこか頭の片隅に陸上のことを置いておくのです。
――チームメイトからは「田澤選手に負担をかけ過ぎないように支えていく」という声が出ています。
大八木 そういう波及効果もありますね。日本を代表する選手になっていく田澤の負担を、周りが減らすようにしなくてはいけません。そういう動きが出てきた時に、4年になった段階でチームでの田澤の在り方に変化が出てきます。それがチーム。チームはそういうふうに成長していかなくてはなりません。今はおもしろい、良いチームになり始めたかな。振り返ると、選手に何か言っても響いているのか響いていないのか、反応に乏しい時期がありました。そういう時のチームはやはり弱かったのかなと思います。
――最後に今後の抱負をお願いします。
大八木 全日本大学駅伝も連覇が懸かりますし、(昨年中止となった)出雲駅伝も開催されれば三大駅伝を取りにいきたいです。
■三大駅伝優勝回数ランキング
23回/駒 大(箱根7回、全日本13回、出雲3回)
21回/日体大(箱根10回、全日本11回)
20回/早 大(箱根13回、全日本5回、出雲2回)
20回/日 大(箱根12回、全日本3回、出雲5回)
15回/順 大(箱根11回、全日本1回、出雲3回)
※1月14日発売の「月刊陸上競技」2021年2月号では、区間配置や1年間の練習具合、各学年の総評などより深いインタビュー、さらに優勝メンバー座談会も掲載。
◎おおやぎ・ひろあき/1958年7月30日生まれ、62歳。福島県出身。会津工業高を卒業後、小森印刷(現・小森コーポレーション)に就職し、社業の傍ら練習に励んだ。24歳で駒大(夜間部)に入学し、昼間は働きながら走り続け、箱根駅伝には84年から86年の3度出場。84年5区、86年2区で区間賞を獲得した。95年にコーチに就任し、駒大を立て直すと、2004年に監督に就く。駒大は今年度の全日本大学駅伝と箱根駅伝を制し、出雲・全日本・箱根の三大駅伝で最多優勝を23に更新。そのすべてで指導の現場に立っている。日本トップクラスの選手になった教え子は数えきれず、東京五輪マラソン代表の中村匠吾(富士通)もその一人。
駒大・大八木弘明監督インタビュー
駒大が初めて箱根駅伝を制したのが2000年。それから02~05年(4連覇)、08年と6度の優勝を誇るなど、2000年代は「黄金時代」を謳歌していた。だが、全日本大学駅伝の優勝こそあれど、不思議と箱根駅伝だけは栄光から遠ざかり、09、18年にはシード落ちする憂き目も見る時期があった。
しかし、19年に世代トップクラスの実力者である田澤廉が入学したあたりからチームは変わり始め、下級生の突き上げにより2020年は11月の全日本で6年ぶりの日本一。その勢いのまま、13年ぶりに箱根路も制した。悲願の「V7」達成の余韻が残る大会2日後、大八木弘明監督にインタビュー。言葉の節々からは、2000年代に続く「黄金時代」復活への熱意がひしひしと伝わってきた。
全日本大学駅伝優勝直後の大八木監督インタビュー22冠指揮官 駒大・大八木弘明監督 指導への想い再熱「老体にムチを打って朝練」
創価大の健闘に苦戦
――あらためて、優勝おめでとうございます。偶然にも、1年生を3人起用して優勝したのは2000年に初優勝した時と同じでした。それ以外にも共通点が多いのですが……。 大八木 あの時は1区・島村(清孝)、3区・布施(知進)、5区・松下(龍治)、1年生3人使って往路優勝したんです。それから前日の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)で富士通が初優勝した時に、駒澤も初優勝した。今年勝てれば、あの時と一緒だなと思っていました。 ――気づかれていたんですね。 大八木 気づいていましたよ。気づいていましたけど、9区を終えた時点では(3分19秒差もあって)「もう2番だなぁ」と思っていました(笑)。こんな若いチームだから仕方ないか、と。「来年へ向けて」という意識でチームを作っていた面がありますので、「絶対に優勝」とは思っていませんでした。夏あたりから1年生が良くなってきたので、「全日本大学駅伝は勝てるかもしれない」と思い始めました。 さらに10月になると、全体で13人ほどがものすごくいい練習ができていました。(練習での10000mを)1年生が軽く29分30秒くらいで走れるし、変化走などすべての練習で良い手応えがありましたね。箱根も「往路優勝するか3番以内でいって、復路で流れに乗ったら、もしかしたらもしかする」と選手を送り出しました。そして6区の花崎(悠紀)に「お前次第だぞ」と言っていたんです。 ――花崎選手はプレッシャーに強い性格のようですね。 大八木 そうですね。まったく動じませんでした。(花崎が区間賞を取り)本当は8区、9区で創価大との差を詰めようと思っていたのですが、逆に引き離されて、「ええ? こんなに創価大学は強いのか!」と思いました。「俺の計算、狂ったな。お手上げだなぁ」と。 箱根駅伝は10000mの持ちタイムで実力が測れないものですが、創価大9区の石津(佳晃)君よりウチの9区・山野(力)のほうが1分ほど自己ベストは速いのです(石津:29分34秒46、山野:28分36秒18)。9区も「同じくらいではいけるだろう。10区で勝負だな」と思っていましたが……。9区を終えて3分以上(3分19秒)の差では、もう無理だろうと思っていました。 ―― しかし、10区・石川拓慎選手は走り出しからキレのある動きでした。 大八木 区間賞狙いでいきましたから。「去年はラストに抜かれて恥をかいているんだから、区間賞を取って堂々とゴールしろ」とレース前に声をかけたら、「はい。区間賞を狙いにいきます」と返ってきました。最初から突っ込み、5㎞14分40秒くらいの感覚でずっと押していきました。そしたら、15kmの時には先頭がはっきり見えてきた。「ペースを落とすなよ!」と鼓舞して、ガンガンいきましたよ。
インタビューで大会を振り返る大八木監督
3年生の浮上、1年生からの刺激
―― 今回走った10人は、全日本の優勝メンバーから様変わりしました。 大八木 4年生には申し訳なかったですが、ケガがあったり、レース内容が芳しくなかったり、1年生との比較で先々を考えて決めた区間がありました。それぞれに理由があって外すことになりましたね。要因の1つには、3年生(3人)を育てていった面がありますね。3年生は全日本に1人も出場しないで、箱根に絞って育成していました。トラックを軸に進めた1、2年生との違いですね。 ――1年生が5人エントリーされて3人出走しました。 大八木 今の1年生が入って、チームの意識が変わったのです。1年生たちはみんな、ジョグもポイント練習も一生懸命にやる。「意識のスタート地点」が高いから、どんどん伸びていった。例えば、青柿(響)のような選手が現れるわけです。5000m14分30~40秒で入ってきたような選手が、10000m28分20秒台をポンッと出すんですよ。上級生は「俺たち、情けないな」と思い始め、「自分たちもやらなくては」と意識の高さが波及していきました。下からの改革でしたね。 ――とはいえ、4年生が環境作りに尽力したとも聞いています。 大八木 4年生や上級生の働きと言えば、神戸(駿介)主将を中心に練習のサポートをよくしてくれましたね。ケガで練習ができない選手は、サブマネージャーとして働き、下級生が走りやすいように給水を準備するなどしています。 今年度はサブマネージャーを志願してサポートに回る者が多かったです。メインマネージャー4人とは別に、サブマネージャーに回った者は10人くらいいます。これは感染症対策しながら練習しなくてはいけない中で、大きな力になりました。 ―― 新年度のキャプテンには2年生の田澤選手を指名したそうですね。 大八木 田澤はこれから人としても成長していかなくてはいけませんから。1年の時に中村匠吾(富士通)と合宿をやることで意識が変わってきましたが、ここまでは先輩の背中を見ながらついてきた感じです。責任感のある人間に成長してもらいたいという願いが、理由の1つです。どうやったら自分が強くなるのか、常に考えて過ごす必要があります。練習以外の生活時間の中でも、どこか頭の片隅に陸上のことを置いておくのです。 ――チームメイトからは「田澤選手に負担をかけ過ぎないように支えていく」という声が出ています。 大八木 そういう波及効果もありますね。日本を代表する選手になっていく田澤の負担を、周りが減らすようにしなくてはいけません。そういう動きが出てきた時に、4年になった段階でチームでの田澤の在り方に変化が出てきます。それがチーム。チームはそういうふうに成長していかなくてはなりません。今はおもしろい、良いチームになり始めたかな。振り返ると、選手に何か言っても響いているのか響いていないのか、反応に乏しい時期がありました。そういう時のチームはやはり弱かったのかなと思います。 ――最後に今後の抱負をお願いします。 大八木 全日本大学駅伝も連覇が懸かりますし、(昨年中止となった)出雲駅伝も開催されれば三大駅伝を取りにいきたいです。 ■三大駅伝優勝回数ランキング 23回/駒 大(箱根7回、全日本13回、出雲3回) 21回/日体大(箱根10回、全日本11回) 20回/早 大(箱根13回、全日本5回、出雲2回) 20回/日 大(箱根12回、全日本3回、出雲5回) 15回/順 大(箱根11回、全日本1回、出雲3回) ※1月14日発売の「月刊陸上競技」2021年2月号では、区間配置や1年間の練習具合、各学年の総評などより深いインタビュー、さらに優勝メンバー座談会も掲載。 ◎おおやぎ・ひろあき/1958年7月30日生まれ、62歳。福島県出身。会津工業高を卒業後、小森印刷(現・小森コーポレーション)に就職し、社業の傍ら練習に励んだ。24歳で駒大(夜間部)に入学し、昼間は働きながら走り続け、箱根駅伝には84年から86年の3度出場。84年5区、86年2区で区間賞を獲得した。95年にコーチに就任し、駒大を立て直すと、2004年に監督に就く。駒大は今年度の全日本大学駅伝と箱根駅伝を制し、出雲・全日本・箱根の三大駅伝で最多優勝を23に更新。そのすべてで指導の現場に立っている。日本トップクラスの選手になった教え子は数えきれず、東京五輪マラソン代表の中村匠吾(富士通)もその一人。RECOMMENDED おすすめの記事
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