2024.07.10
平地で暮らす人々は通常、「1気圧、酸素濃度20.9%」という環境の中で生活している。気圧を上げれば空気が凝縮されて酸素濃度も上がるため、気圧を高めた環境では通常よりも多くの酸素を体内に取り込むことが可能となる。酸素が身体の隅々の細胞に行き渡れば血流が促進され、疲労回復や睡眠の質の向上などさまざまな効果が期待できるエビデンスが出ている。
スポーツ界では、2002年のワールドカップ・サッカー日韓共催大会の際、足の甲を骨折して出場が危ぶまれていたイングランド代表のデビッド・ベッカム選手が、酸素カプセルを利用して驚異的な回復をしたことが有名だ。また、2006年夏の全国高校野球大会において猛暑下の連投に耐えてチームの優勝に貢献した〝ハンカチ王子〟こと斎藤佑樹投手が同じような機器でコンディションを整えたことも話題になった。そのようなこともきっかけに酸素カプセルは次第に世の中に普及。限られたトップアスリートだけでなく、一般の人々も整骨院や接骨院、整体サロンなどで簡単に利用できるようになった。
もっとも、酸素カプセルに対しては「狭くて圧迫感がある」、「一人で入るのは不安」、「出入口が狭くて上部にあるためケガをしている人は入るのが大変」といった声も寄せられていた。そのような課題を解消するため、静岡市に本社を構える日本気圧バルク工業株式会社が2015年、広くて複数人でも一緒に入ることができ、エアコンやテレビの設置も可能な〝部屋型〟の設備を日本で最初に開発。これを「酸素ルーム」と称して販売した。
同社は、疲労回復やケガの治癒促進などに役立つ高気圧酸素ルーム、高地トレーニング環境をつくれる低圧低酸素ルーム、両方の環境を1台で実現する2way酸素ルームをいずれも「O2Room®」のブランド名で展開。酸素を活用した機器を初めて販売した1995年以降一度も事故がなく、故障が少ない点もユーザーから高い信頼を得ている。「安心・安全」を第一に考えて確かな製品を提供している〝酸素ルーム業界のパイオニア〟の企業理念に迫った。
日本体力医学会に加入して大学や病院と共同研究
「研究データこそが当社製品の最大の価値」(天野社長)
「当社が扱う製品は、スポーツ選手だけでなく一般の方々も利用できる民生用の健康器具です。ですから、ゼロ歳児から100歳を超える高齢者まで、誰もが安心して入れるものであることを大前提にしています」
日本気圧バルク工業の天野英紀社長は、酸素ルームづくりのポリシーについてそのように話した。
安心して入れる酸素ルームとは、「からだに過度な負担がかからず、事故や故障が起こらない高い品質と性能があり、なおかつ使いやすさが伴った製品」と言うことができるだろう。
同社では、「自信を持ってお客様に提供できるもの、お客様が求めることに対して結果が出せる健康器具であること」を念頭に置いて製品づくりに取り組んでいる。そのためのポイントは、確かなエビデンスに基づいた製品開発だ。
巷にはさまざまな種類の酸素カプセルや酸素ルームが販売されているが、以前はその効果を科学的に証明したものはなく、使用方法や適用にはっきりとした基準がないため混乱を招いていた。
そこで日本気圧バルク工業では、会社として、また営業スタッフが個人としても日本体力医学会(1949年設立)に加入し、酸素や気圧が人々に与える影響に関して知識を深めていった。その中で、京都大学、名古屋大学、神戸大学をはじめとする数々の大学、内科、整形外科、産婦人科、歯科などさまざまな分野の病院と連携して共同研究を重ね、学会では毎年論文を発表。大学の研究者や病院の医師と情報を共有し、多くのエビデンス、科学的な裏付けを基にして自社製品を開発しており、「研究データこそが当社製品の最大の価値です」と言って天野社長は胸を張った。
同社の高気圧酸素ルームは「1.3気圧、酸素濃度35~40%」を採用。これは京都大学の石原昭彦教授の研究で「1.25~1.3気圧、酸素濃度35%~40%の軽度高気圧環境が適切」ということがわかり、安全でもっとも効果的な気圧と酸素濃度としてその環境を製品に取り入れた。
医療界で用いられる2気圧の環境に比べると1.3気圧は数字的にはだいぶ低い。通常、1.3気圧であれば酸素濃度は27.2%だが、酸素濃縮器を用いて酸素濃度を35~40%に高める日本気圧バルク工業の高気圧酸素ルームは、正常に機能した2気圧での高気圧酸素療法と同等の効果があることが研究データで証明されており、実際にユーザーからは「ケガの回復が早まった」、「からだの不調が治った」などの声が続々と届いている。
医療現場の高気圧酸素療法は、一酸化炭素中毒、減圧症(スキューバダイビング後に起こる病気)、重度の火傷や凍傷、脳梗塞、腸閉塞など、主に救急を要する症状の患者に有効的なものとして確立されている保険適用の療法で、日本では1960年代から導入されている。
厚生労働省は「2気圧以上で、100%の純酸素(酸素濃度100%)を1時間以上呼吸すること」と高気圧酸素療法の基準として定めているが、2気圧は水深10mの海の中の圧力と同等で人体にかなり負担がかかるほか、取り扱い自体が難しい環境のため使用される機会が減っているという。
高気圧酸素療法は純酸素を用いるため発火や爆発の危険性がある上、人体には合併症や副作用が出てしまう恐れもある。肺外傷や気胸、鼓膜外傷などの既往歴を持っている人は疾患悪化の可能性があり、息苦しさや呼吸困難、めまいやけいれん、視力・視野障害といった酸素中毒の症状が出現することもある。
「医療用が2気圧だからといって、民生用でもそれに限りなく近い気圧が適しているわけではありません。1.5気圧以上の環境では過剰な酸素が作用を及ぼす〝酸素毒性〟が認められ、1.75気圧を超えると生活習慣病の原因となり、老化を促進させる〝活性酸素〟が過剰に産生されることが指摘されています。1.5気圧以上の環境ではそのようなリスクを伴いますので、体調改善を目的に酸素ルームを利用された方が、逆にもっと体調が悪くなる場合もある。ですから、当社ではお客様に安心・安全にご利用いただけるよう、人体への負担がほとんどない中で医療用の2気圧と同等の効果が期待できる1.3気圧の軽度高気圧酸素を採用しているのです」と天野社長は力を込めて話す。
日本気圧バルク工業の「O2Room®」は、整骨院や接骨院、整体サロン、スポーツチームのほか、一般企業の福利厚生用や個人の家庭にも納品されているが、このところ増えてきたのが整形外科をはじめとした病院からの注文だ。
「病院の先生方は、以前は健康器具である民生用の高気圧酸素ルームはエビデンスが少なかったため好意的に受け止めておりませんでしたが、口コミなどで当社の製品に興味を持っていただいたようです。いろいろな業者がある酸素ルーム業界の中で当社の製品を選んでいただいた決め手をうかがうと、『論文でしっかり発表されているし、論文サイト(医療関係者しか閲覧できないサイト)で〝日本気圧バルク工業〟と検索すると、いろいろな論文やデータが出てくるので、これはすごいと思った』と評価してくださった先生方が多くいらっしゃいました。当社でも自信を持って製品を世の中に出しておりますが、病院の先生方にそのように評価していただけるのは大変光栄です」と天野社長。
日本気圧バルク工業の「O2Room®」は、医療業界でも頼りにされている健康器具なのだ。
加圧および減圧のスピードは10段階チェックシステム
「ブロワー式減圧」は日本気圧バルク工業の特許技術
気圧と酸素濃度の設定値以外にも、日本気圧バルク工業の「O2Room®」には安心・安全のための工夫が随所にある。
加圧および減圧のスピードチェックシステムもその一つ。加圧や減圧のスピードが速すぎると人体に大きな負荷をかけてしまうが、「O2Room®」は10段階にわたってそのスピードを確認するシステムを導入している。時間的には、高気圧酸素ルームで1気圧から1.3気圧に上げるのに「10~12分」、低圧低酸素ルームで標高3000mの高地と同じ環境(0.7気圧)にするためには「12~15分」確保することを基準に設定。万が一、プログラムされたスピードを超えてしまったら自動的にシステムが停止するバックアップ体制を組んで万全を期している。
また、低圧低酸素ルームの気圧調整には、高気圧酸素ルームの気圧調整と同じく風を用いた「ブロワー式」を採用しており、低圧低酸素ルームにブロワー式を搭載することは日本気圧バルク工業の特許技術という。
低圧低酸素ルームの減圧システムは大きく分けて2種類。日本気圧バルク工業が採用しているブロワー式と、他社が取り入れている真空ポンプ式がある。
ブロワー式の場合、加圧も減圧も一般的な家電製品と同じ100ボルトの電流を用いる。日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームは人体に無理な負担がかからぬよう、高地民族が住んでいる場所とほぼ同じ標高3000mの環境(0.7気圧)までに制限している。
一方、真空ポンプ方式の低圧低酸素ルームは、200ボルトの電流を使ってピストンのシリンダを動かし、それが下がる時にバルブ(電磁弁)から空気を抜いて減圧するシステムだ。
真空ポンプ式はバルブ(電磁弁)が1つしかない。それに対し、ブロワー式のバルブ(電磁弁)は20以上もあり、仮に1つのバルブが動かなくなっても残りのバルブでカバーできるほか、緊急用の手動コックもあるため二重、三重のバックアップ体制が整っている。そもそもブロワー式は弱い電力で動かすため、万が一、誤作動があっても標高3200mまでの環境にするのが精いっぱいだそうで、安全性が担保されている。
低圧低酸素の「O2Room®」は自然界にある高地と同じ環境を実現できるのが特徴で、低酸素による赤血球の増加、低圧による血管の拡張が相俟って毛細血管網が発達し、筋肉により多くの酸素を運ぶことができるため持久力向上につながる。
毛細血管は人間の血管のなんと99%を占めているが、ケガや病気で動かないでいると筋肉内の毛細血管がどんどん減少し、4週間何も動かないと毛細血管はほぼ半減するという研究データがある。ただし、低圧低酸素環境に居るだけで毛細血管の著しい減少を防いで一定の基礎代謝が保たれるので、ケガや病気の人が体力の低下を抑える効果が期待できるのだ。ヒマラヤ、アンデス、コーカサスなどの高地民族に長寿者が多いのはその影響と言われている。
なお、酸素ルーム内はそれほど大きな空間ではないので、低圧低酸素ルームで激しい運動をする際、「使用者が吐き出す二酸化炭素(毎分約8ℓほど)が中に充満しているのでは」と心配する声があるが、二酸化炭素は比重が重いので酸素ルームの下部に集まり、排気弁から外に排出されるので安心だ。そもそも内部にエアコンを装備できる空間なので、中に二酸化炭素が充満する心配はない。
自社開発・自社生産の自信と誇り
10年、20年使える丈夫な製品づくり
日本気圧バルク工業では、自信を持って提供できる製品にするため製品開発は自社で行っているが、生産自体も本社のある静岡県内の2つの工場および検品・出荷センターに集約。「自社開発・自社生産」を誇りとしている。
「日本の産業界は効率性を求めて生産を国内の下請け会社にお願いしたり、労働コストの安い海外の下請け会社に委ねるケースが伝統的にありました。しかし当社では、作るものに対して我々がすべてを負える自信が持てるよう、販売だけでなく、製品の開発から資材となる鉄選び、生産に至るまでを自社で行う方針でこれまで取り組んでまいりました。当社の酸素ルームは5年、10年はもちろん、数十年にわたって利用できる製品ですので、お客様が安心・安全にご利用いただけることを一番に考えています」(天野社長)
工場では熟練の職人が、作った製品に責任が持てるよう、1台分の酸素ルームの鉄の加工や溶接は基本的に1人で行う「責任生産性」を取り、仕上がった後は担当者の屋号(名前)を刻印。流れ作業だと責任の所在がどうしても甘くなってしまうため、それを防ぐための生産体制だ。
「高気圧酸素ルームの場合、1.3気圧までに制限している当社の製品でも、部屋の内側から外側へ3トンの重さがかかると言われています。業者によっては1.5気圧であったり、1.9気圧まで上げられる製品もありますが、とてつもない力が加わりますから、作りが脆弱な酸素ルームは気圧漏れが起きてしまいます。当社ではそのようなことがないよう細心の注意を払って溶接し、連結部分のネジ穴がしっかり合っているかなど、きめ細かいところまで検品します。検品においては24項目のチェックポイントを確認するのですが、1人だけでなく複数人が同じチェックを行い、機械による数値データも駆使してあらゆる角度から細かく確認するのが当社の検品・出荷センターの売りになっています」と天野社長。
1.3気圧の軽度高気圧酸素であっても、酸素ルームの壁には大きな力がかかるため、全体的に1cmほどは膨張するという。そのような力をうまく逃がすため、「O2Room®」の主力製品は天井の両サイドに丸みを持たせたR構造を採用し、全体の形状は食パンが焼きあがった時のような「ブレッドタイプ」になっている。
また、同社の製品では高気圧酸素ルームなら外側、低圧低酸素ルームなら内側に耐圧リブ(ひだ)がいくつもついているものが多いが、これは強度を高める重要な役割がある。
「外側にある耐圧リブはビジュアル的に好ましくないとおっしゃるお客様がいらっしゃいますが、耐圧リブがあるとないのとでは強度が格段に異なります。ビジュアルを気にされるお客様にはデザインが自由に選べる外装ボードで本体を覆うことができるオプションをお勧めしています。当社の製品と同じようなサイズの他社製品で耐圧リブがないものを見かけますが、気圧漏れにつながらないか心配ですね」と日本気圧バルク工業のベテラン営業マンは話す。
自社開発・自社生産のメリットは他にもある。
「問題解決に悩むお客様のご要望の中には一刻を争うものもあります。それらに迅速に対応できるのが自社開発・自社生産の一貫体制なのです。『O2Room®』はオーダーメイドやカスタマイズサービスが可能で、酸素ルームのサイズ、分割数、内装のカラーや材質、外装のカラーやデザインなどをお客様のご要望通りに製作できるのが持ち味です。自社開発・自社生産、なおかつ本社、工場、検品・出荷センターが近くにあることで密な連携が可能なため、ご注文に対して素早く対応できるのです」と岩瀬隆弘さんはきっぱり話す。
きめ細かいアフターサービス
「納品してからお客様との本当のお付き合いが始まる」
販売においても業界歴10年以上の経験豊富なスタッフが対応しているが、前述のように同社の営業スタッフのすべてが日本体力医学会や日本気圧メディカル協会にも所属して酸素や気圧に対する知識を深め、「健康気圧マスター」の資格(日本気圧メディカル協会が発行しているライセンス)を持っている。
「当社の営業スタッフ全員が〝気圧のプロ〟であり、どうしてその気圧がいいのか、どうしてその気圧がだめなのかしっかり説明できる知識を持っており、それが他社との大きな違いです。当社では、販売前の丁寧な説明はもちろんのこと、ご希望によっては納品後に使い方講習会や気圧に関する研修会も実施しています。納品したら終わりではなく、納品してからお客様との本当のお付き合いが始まるのです」
そう話す野村拓摩さんは、お客様との信頼関係を特に大切にしており、すぐに頼っていただけるような関係の構築に努めているという。
「O2Room®」の本体は5年保証付き、外部にある酸素濃縮器は1年保証付きで販売しているが、10年から20年近く経っても「まったく問題ない」というお客様ばかりだそうで、メンテナンスも消耗品である出入口部のゴムパッキンを交換する程度。
スポーツチームの担当が多い藤澤秋子さんは、「製品に何も問題がなくてもご利用状況や血中酸素飽和度測定の数値などを定期的にうかがったり、当社から公表できる新たなエビデンスや情報が生じた時には随時共有するようにしています」とまめなアフターフォローを心がけている。
*
「体調がとても良くなった」「ケガが予想以上に早く治った」「大会で好成績が出せた」……。お客様から寄せられるそんな声は酸素ルームメーカーにとって大きな喜びであるとともに、より良い製品づくりを目指す活力となる。
誰もが安心して入れる製品、お客様の期待に応えられる製品であるために、〝酸素ルーム業界のパイオニア〟日本気圧バルク工業は日々努力を重ねている。
※この記事は『月刊陸上競技』2024年8月号にも掲載しています
日本体力医学会に加入して大学や病院と共同研究 「研究データこそが当社製品の最大の価値」(天野社長)
「当社が扱う製品は、スポーツ選手だけでなく一般の方々も利用できる民生用の健康器具です。ですから、ゼロ歳児から100歳を超える高齢者まで、誰もが安心して入れるものであることを大前提にしています」 日本気圧バルク工業の天野英紀社長は、酸素ルームづくりのポリシーについてそのように話した。 安心して入れる酸素ルームとは、「からだに過度な負担がかからず、事故や故障が起こらない高い品質と性能があり、なおかつ使いやすさが伴った製品」と言うことができるだろう。 同社では、「自信を持ってお客様に提供できるもの、お客様が求めることに対して結果が出せる健康器具であること」を念頭に置いて製品づくりに取り組んでいる。そのためのポイントは、確かなエビデンスに基づいた製品開発だ。 巷にはさまざまな種類の酸素カプセルや酸素ルームが販売されているが、以前はその効果を科学的に証明したものはなく、使用方法や適用にはっきりとした基準がないため混乱を招いていた。 そこで日本気圧バルク工業では、会社として、また営業スタッフが個人としても日本体力医学会(1949年設立)に加入し、酸素や気圧が人々に与える影響に関して知識を深めていった。その中で、京都大学、名古屋大学、神戸大学をはじめとする数々の大学、内科、整形外科、産婦人科、歯科などさまざまな分野の病院と連携して共同研究を重ね、学会では毎年論文を発表。大学の研究者や病院の医師と情報を共有し、多くのエビデンス、科学的な裏付けを基にして自社製品を開発しており、「研究データこそが当社製品の最大の価値です」と言って天野社長は胸を張った。 [caption id="attachment_140369" align="alignnone" width="800"] 「お客様に安心して酸素ルームを利用していただけるように、科学的な裏付けのある製品を提供することを当社のモットーにしています」と話す日本気圧バルク工業の天野英紀社長[/caption] 同社の高気圧酸素ルームは「1.3気圧、酸素濃度35~40%」を採用。これは京都大学の石原昭彦教授の研究で「1.25~1.3気圧、酸素濃度35%~40%の軽度高気圧環境が適切」ということがわかり、安全でもっとも効果的な気圧と酸素濃度としてその環境を製品に取り入れた。 [caption id="attachment_140370" align="alignnone" width="800"] 京都大学・石原昭彦教授(左)との共同研究により日本気圧バルク工業の高気圧酸素ルームは「1.3気圧、酸素濃度35~40%」の軽度高気圧酸素を採用している[/caption] 医療界で用いられる2気圧の環境に比べると1.3気圧は数字的にはだいぶ低い。通常、1.3気圧であれば酸素濃度は27.2%だが、酸素濃縮器を用いて酸素濃度を35~40%に高める日本気圧バルク工業の高気圧酸素ルームは、正常に機能した2気圧での高気圧酸素療法と同等の効果があることが研究データで証明されており、実際にユーザーからは「ケガの回復が早まった」、「からだの不調が治った」などの声が続々と届いている。 医療現場の高気圧酸素療法は、一酸化炭素中毒、減圧症(スキューバダイビング後に起こる病気)、重度の火傷や凍傷、脳梗塞、腸閉塞など、主に救急を要する症状の患者に有効的なものとして確立されている保険適用の療法で、日本では1960年代から導入されている。 厚生労働省は「2気圧以上で、100%の純酸素(酸素濃度100%)を1時間以上呼吸すること」と高気圧酸素療法の基準として定めているが、2気圧は水深10mの海の中の圧力と同等で人体にかなり負担がかかるほか、取り扱い自体が難しい環境のため使用される機会が減っているという。 高気圧酸素療法は純酸素を用いるため発火や爆発の危険性がある上、人体には合併症や副作用が出てしまう恐れもある。肺外傷や気胸、鼓膜外傷などの既往歴を持っている人は疾患悪化の可能性があり、息苦しさや呼吸困難、めまいやけいれん、視力・視野障害といった酸素中毒の症状が出現することもある。 「医療用が2気圧だからといって、民生用でもそれに限りなく近い気圧が適しているわけではありません。1.5気圧以上の環境では過剰な酸素が作用を及ぼす〝酸素毒性〟が認められ、1.75気圧を超えると生活習慣病の原因となり、老化を促進させる〝活性酸素〟が過剰に産生されることが指摘されています。1.5気圧以上の環境ではそのようなリスクを伴いますので、体調改善を目的に酸素ルームを利用された方が、逆にもっと体調が悪くなる場合もある。ですから、当社ではお客様に安心・安全にご利用いただけるよう、人体への負担がほとんどない中で医療用の2気圧と同等の効果が期待できる1.3気圧の軽度高気圧酸素を採用しているのです」と天野社長は力を込めて話す。 日本気圧バルク工業の「O2Room®」は、整骨院や接骨院、整体サロン、スポーツチームのほか、一般企業の福利厚生用や個人の家庭にも納品されているが、このところ増えてきたのが整形外科をはじめとした病院からの注文だ。 「病院の先生方は、以前は健康器具である民生用の高気圧酸素ルームはエビデンスが少なかったため好意的に受け止めておりませんでしたが、口コミなどで当社の製品に興味を持っていただいたようです。いろいろな業者がある酸素ルーム業界の中で当社の製品を選んでいただいた決め手をうかがうと、『論文でしっかり発表されているし、論文サイト(医療関係者しか閲覧できないサイト)で〝日本気圧バルク工業〟と検索すると、いろいろな論文やデータが出てくるので、これはすごいと思った』と評価してくださった先生方が多くいらっしゃいました。当社でも自信を持って製品を世の中に出しておりますが、病院の先生方にそのように評価していただけるのは大変光栄です」と天野社長。 日本気圧バルク工業の「O2Room®」は、医療業界でも頼りにされている健康器具なのだ。加圧および減圧のスピードは10段階チェックシステム 「ブロワー式減圧」は日本気圧バルク工業の特許技術
気圧と酸素濃度の設定値以外にも、日本気圧バルク工業の「O2Room®」には安心・安全のための工夫が随所にある。 加圧および減圧のスピードチェックシステムもその一つ。加圧や減圧のスピードが速すぎると人体に大きな負荷をかけてしまうが、「O2Room®」は10段階にわたってそのスピードを確認するシステムを導入している。時間的には、高気圧酸素ルームで1気圧から1.3気圧に上げるのに「10~12分」、低圧低酸素ルームで標高3000mの高地と同じ環境(0.7気圧)にするためには「12~15分」確保することを基準に設定。万が一、プログラムされたスピードを超えてしまったら自動的にシステムが停止するバックアップ体制を組んで万全を期している。 [caption id="attachment_140371" align="alignnone" width="800"] 神戸大学大学院・藤野英己教授(左から3人目)も重要な共同研究者。日本気圧バルク工業では、実際にO2Room®を使用して研究している藤野研究室に何度も足を運んでデータを確認し、それを製品開発に活かしている。左から九州医療スポーツ専門学校の水嶋章陽理事長、天野社長、藤野教授、修文大学の近藤浩代教授。学会などを通して意見交換しているメンバーだ[/caption] また、低圧低酸素ルームの気圧調整には、高気圧酸素ルームの気圧調整と同じく風を用いた「ブロワー式」を採用しており、低圧低酸素ルームにブロワー式を搭載することは日本気圧バルク工業の特許技術という。 低圧低酸素ルームの減圧システムは大きく分けて2種類。日本気圧バルク工業が採用しているブロワー式と、他社が取り入れている真空ポンプ式がある。 ブロワー式の場合、加圧も減圧も一般的な家電製品と同じ100ボルトの電流を用いる。日本気圧バルク工業の低圧低酸素ルームは人体に無理な負担がかからぬよう、高地民族が住んでいる場所とほぼ同じ標高3000mの環境(0.7気圧)までに制限している。 一方、真空ポンプ方式の低圧低酸素ルームは、200ボルトの電流を使ってピストンのシリンダを動かし、それが下がる時にバルブ(電磁弁)から空気を抜いて減圧するシステムだ。 真空ポンプ式はバルブ(電磁弁)が1つしかない。それに対し、ブロワー式のバルブ(電磁弁)は20以上もあり、仮に1つのバルブが動かなくなっても残りのバルブでカバーできるほか、緊急用の手動コックもあるため二重、三重のバックアップ体制が整っている。そもそもブロワー式は弱い電力で動かすため、万が一、誤作動があっても標高3200mまでの環境にするのが精いっぱいだそうで、安全性が担保されている。 低圧低酸素の「O2Room®」は自然界にある高地と同じ環境を実現できるのが特徴で、低酸素による赤血球の増加、低圧による血管の拡張が相俟って毛細血管網が発達し、筋肉により多くの酸素を運ぶことができるため持久力向上につながる。 毛細血管は人間の血管のなんと99%を占めているが、ケガや病気で動かないでいると筋肉内の毛細血管がどんどん減少し、4週間何も動かないと毛細血管はほぼ半減するという研究データがある。ただし、低圧低酸素環境に居るだけで毛細血管の著しい減少を防いで一定の基礎代謝が保たれるので、ケガや病気の人が体力の低下を抑える効果が期待できるのだ。ヒマラヤ、アンデス、コーカサスなどの高地民族に長寿者が多いのはその影響と言われている。 なお、酸素ルーム内はそれほど大きな空間ではないので、低圧低酸素ルームで激しい運動をする際、「使用者が吐き出す二酸化炭素(毎分約8ℓほど)が中に充満しているのでは」と心配する声があるが、二酸化炭素は比重が重いので酸素ルームの下部に集まり、排気弁から外に排出されるので安心だ。そもそも内部にエアコンを装備できる空間なので、中に二酸化炭素が充満する心配はない。自社開発・自社生産の自信と誇り 10年、20年使える丈夫な製品づくり
日本気圧バルク工業では、自信を持って提供できる製品にするため製品開発は自社で行っているが、生産自体も本社のある静岡県内の2つの工場および検品・出荷センターに集約。「自社開発・自社生産」を誇りとしている。 「日本の産業界は効率性を求めて生産を国内の下請け会社にお願いしたり、労働コストの安い海外の下請け会社に委ねるケースが伝統的にありました。しかし当社では、作るものに対して我々がすべてを負える自信が持てるよう、販売だけでなく、製品の開発から資材となる鉄選び、生産に至るまでを自社で行う方針でこれまで取り組んでまいりました。当社の酸素ルームは5年、10年はもちろん、数十年にわたって利用できる製品ですので、お客様が安心・安全にご利用いただけることを一番に考えています」(天野社長) 工場では熟練の職人が、作った製品に責任が持てるよう、1台分の酸素ルームの鉄の加工や溶接は基本的に1人で行う「責任生産性」を取り、仕上がった後は担当者の屋号(名前)を刻印。流れ作業だと責任の所在がどうしても甘くなってしまうため、それを防ぐための生産体制だ。 [caption id="attachment_140372" align="alignnone" width="800"] 日本気圧バルク工業は自社開発・自社生産が売り。本社と同じ静岡県内の工場で熟練の職人が丁寧に製品づくりをしている[/caption] 「高気圧酸素ルームの場合、1.3気圧までに制限している当社の製品でも、部屋の内側から外側へ3トンの重さがかかると言われています。業者によっては1.5気圧であったり、1.9気圧まで上げられる製品もありますが、とてつもない力が加わりますから、作りが脆弱な酸素ルームは気圧漏れが起きてしまいます。当社ではそのようなことがないよう細心の注意を払って溶接し、連結部分のネジ穴がしっかり合っているかなど、きめ細かいところまで検品します。検品においては24項目のチェックポイントを確認するのですが、1人だけでなく複数人が同じチェックを行い、機械による数値データも駆使してあらゆる角度から細かく確認するのが当社の検品・出荷センターの売りになっています」と天野社長。 1.3気圧の軽度高気圧酸素であっても、酸素ルームの壁には大きな力がかかるため、全体的に1cmほどは膨張するという。そのような力をうまく逃がすため、「O2Room®」の主力製品は天井の両サイドに丸みを持たせたR構造を採用し、全体の形状は食パンが焼きあがった時のような「ブレッドタイプ」になっている。 また、同社の製品では高気圧酸素ルームなら外側、低圧低酸素ルームなら内側に耐圧リブ(ひだ)がいくつもついているものが多いが、これは強度を高める重要な役割がある。 「外側にある耐圧リブはビジュアル的に好ましくないとおっしゃるお客様がいらっしゃいますが、耐圧リブがあるとないのとでは強度が格段に異なります。ビジュアルを気にされるお客様にはデザインが自由に選べる外装ボードで本体を覆うことができるオプションをお勧めしています。当社の製品と同じようなサイズの他社製品で耐圧リブがないものを見かけますが、気圧漏れにつながらないか心配ですね」と日本気圧バルク工業のベテラン営業マンは話す。 [caption id="attachment_140373" align="alignnone" width="800"] できあがった酸素ルームは工場近くの検品・出荷センターにおいて24項目にわたって厳重にチェックされてお客様に納品される[/caption] 自社開発・自社生産のメリットは他にもある。 「問題解決に悩むお客様のご要望の中には一刻を争うものもあります。それらに迅速に対応できるのが自社開発・自社生産の一貫体制なのです。『O2Room®』はオーダーメイドやカスタマイズサービスが可能で、酸素ルームのサイズ、分割数、内装のカラーや材質、外装のカラーやデザインなどをお客様のご要望通りに製作できるのが持ち味です。自社開発・自社生産、なおかつ本社、工場、検品・出荷センターが近くにあることで密な連携が可能なため、ご注文に対して素早く対応できるのです」と岩瀬隆弘さんはきっぱり話す。 [caption id="attachment_140374" align="alignnone" width="800"] 気圧によって大きな力が加わる酸素ルームにおいて耐圧リブの重要性を説明してくれた日本気圧バルク工業の岩瀬隆弘さん[/caption] [caption id="attachment_140375" align="alignnone" width="800"] 高地トレーニング環境を実現する低圧低酸素ルームは内部に耐圧リブがある[/caption]きめ細かいアフターサービス 「納品してからお客様との本当のお付き合いが始まる」
販売においても業界歴10年以上の経験豊富なスタッフが対応しているが、前述のように同社の営業スタッフのすべてが日本体力医学会や日本気圧メディカル協会にも所属して酸素や気圧に対する知識を深め、「健康気圧マスター」の資格(日本気圧メディカル協会が発行しているライセンス)を持っている。 「当社の営業スタッフ全員が〝気圧のプロ〟であり、どうしてその気圧がいいのか、どうしてその気圧がだめなのかしっかり説明できる知識を持っており、それが他社との大きな違いです。当社では、販売前の丁寧な説明はもちろんのこと、ご希望によっては納品後に使い方講習会や気圧に関する研修会も実施しています。納品したら終わりではなく、納品してからお客様との本当のお付き合いが始まるのです」 そう話す野村拓摩さんは、お客様との信頼関係を特に大切にしており、すぐに頼っていただけるような関係の構築に努めているという。 「O2Room®」の本体は5年保証付き、外部にある酸素濃縮器は1年保証付きで販売しているが、10年から20年近く経っても「まったく問題ない」というお客様ばかりだそうで、メンテナンスも消耗品である出入口部のゴムパッキンを交換する程度。 スポーツチームの担当が多い藤澤秋子さんは、「製品に何も問題がなくてもご利用状況や血中酸素飽和度測定の数値などを定期的にうかがったり、当社から公表できる新たなエビデンスや情報が生じた時には随時共有するようにしています」とまめなアフターフォローを心がけている。*
「体調がとても良くなった」「ケガが予想以上に早く治った」「大会で好成績が出せた」……。お客様から寄せられるそんな声は酸素ルームメーカーにとって大きな喜びであるとともに、より良い製品づくりを目指す活力となる。 誰もが安心して入れる製品、お客様の期待に応えられる製品であるために、〝酸素ルーム業界のパイオニア〟日本気圧バルク工業は日々努力を重ねている。 [caption id="attachment_140376" align="alignnone" width="800"] 日本気圧バルク工業では製品の納品後に講習会や研修会を実施している他、外部の講習会でレクチャーすることもある[/caption] ■日本気圧バルク工業 ホームページ ※この記事は『月刊陸上競技』2024年8月号にも掲載していますRECOMMENDED おすすめの記事
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