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2020.09.29

【コラム】望月次朗の2020DL取材記~「雑ネタ」「裏話」を気の向くままに~(1)
【コラム】望月次朗の2020DL取材記~「雑ネタ」「裏話」を気の向くままに~(1)

望月次朗
2020ダイヤモンドリーグ
~「雑ネタ」「裏話」を気の向くままに~
世界中を飛び回るカメラマン・望月次朗(Agence SHOT)による取材記!
望月次朗(Agence SHOT)

DLの実質開幕戦であるモナコ大会の男子5000mで世界新記録を樹立したジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)/Jiro Mochizuki(Agence SHOT)

ようやくDLが開幕

 新型コロナウイルスのパンデミックで、世界陸連(WA)は安全対策などを考慮して、最終的に5月までの公式大会をキャンセルした。

 6月11日、本来なら4月に始まる予定だったダイヤモンドリーグ(DL)が、オスロ大会でようやく開幕。男子300mハードルでは地元のスター選手、カールステン・ワルホルム(ノルウェー)が単独でのレースながら世界新記録を樹立。オスロとケニア・ナイロビをテレビ中継で結び、男子1500mで両国の選手が“リモート対決”をするなど、エキシビションマッチの形式だった。

 7月9日のDLチューリヒは、チューリヒと米国で男女棒高跳のリモート試合を実施したほか、無観客試合で、縮小されたプログラムでの開催。主催者も手探り状態で、試験的な試みだったと言えようか。

 誰も予測がつかないウイルスの猛威に振り回される状況から、ようやくなんらかの解決策を得て、8月14日に今季初めての本格的なDLが、モナコで開催されるに至った。続くストックホルム(8月23日)、ローザンヌ(9月2日)、ブリュッセル(9月4日)の各大会も含めて、大会規模は大きく縮小され、主催者側の独自のプログラム構成で行うことで合意した。

 DLモナコのディレクター、ジャン-ピエール・ショーベル氏は「選手、観客、取材者を含め、あらゆる観点から考慮して安全対策を取った。種目も通常の半分以下だが、これほど開催までに苦労した大会は初めてだ」と苦難を語った。

 モナコは観客数を3000人以下に限定。取材側のカメラマンは極度に縮小され、フィールド内側に4人、トラック外側は6人とこれまで経験したことのないほどの小規模だった。筆者は、DLは初回からずっと、毎年14大会のうち13大会を取材。個人的に最多数取材歴があるので、当初は取材枠に入れてもくれなかったが、フォトチーフと交渉した結果、フィニッシュ地点正面のポジションに入る許可を獲得できた。

DLモナコは観客を入れて行われたが、警官がソーシャルディスタンス、 マスク着用などを厳重にチェックしていた/Jiro Mochizuki(Agence SHOT)
 この経験から各大会取材予定のフォトチーフにメール、電話連絡を入れ、なんとか取材証確保に奔走した。ストックホルム、ローザンヌ、ブリュッセルからはインフィールド取材が許可されたが、、ローマの知人Mから「外国人は全員断ったが……、お前が来るなら」と言われ、モナコ並みにやっとフィニッシュ正面のフォトポジション取材が許可されれた。

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 テレビ局の取材エリアは、フィールド内側に特設され、マスクをつけたインタビュアー以外、選手とのコンタクトは厳禁。選手は短いインタビューが終わると、そのまま通路を通ってホテルに直行。また、観客席では、モナコ警察の警官が観客席を歩きながら、観客の「ソーシャルディスタンス」「マスク着用」を厳重にチェックしていた。

 我々も撮影エリアから動くことは厳禁とされ、常にマスクを着けて撮影をすることが義務づけられた。困ったことにカメラを構えると、吐く息がファインダーを曇らせてしまうことがある。慌ててファインダーを拭いて、また撮影してと、なかなか忙しかった。

 男子5000mではジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ、23歳)が、後半を独走して12分35秒36の世界新記録を樹立した。ケネニサ・ベケレ(エチオピア)の記録を16年ぶりに1秒99更新した。アフリカ、米国の選手たちを2週間前から欧州に呼び寄せて隔離、コロナ感染の有無を確かめるなど、万全を期した苦労があった。チェプテゲイは、イスタンブール到着後、ウガンダ大統領が手配してくれた小型機に乗り換えてモナコに到着。14日間の待機期間を経ての快挙だった。

 女子5000mに14分45秒11で5位だったシャノン・ロウバリー(米国、35歳)は、息の長いベテラン選手だ。五輪には1500mで3回出場。2008年北京7位、12年ロンドンと16年リオは惜しくも4位に終わっているが、世界選手権では銅メダルを2度獲得している。2015年のDLモナコで3分56秒29の米国記録を樹立。マリー・スレイニーの記録を32年ぶりに更新した。2歳の娘の母でもあり、5000mで4大会連続の五輪出場に挑戦するとか。

コロナ禍の影響があちこちに

 8月半ば、フランスは恒例のバカンスの真っ最中だ。8月初め、所要があってコペンハーゲンに飛んだ。パリ市内から郊外電車(RER)で空港に行くのだが、本数がいつもより少なかった。パンデミックの影響で、飛行機の便数も圧倒的に少ない。

 最近はフランス国内でも「マスク」の重要性が徐々に理解、浸透してきたのだろうか、店、公共の場所、乗り物はもちろん、飛行機でも搭乗の際は空港内からマスク着用が義務づけられた。違反には罰金が科せられる。また、エールフランス航空を利用する人は、搭乗口で保健所から「特命」を受けた係員が、旅行の「必要・不必要」に関する証明書の持参の有無を問いただし、持参していない場合は彼らの権限で搭乗禁止令をすることができる。

 そんな規則は知らされていない筆者は引っ掛かり、この頑固一徹な係員にいくら説明してもムダだった。最終的に1便遅らせ、コペンハーゲンから招待状をメールで受け取り、やっと問題を解決して搭乗。係員が「コペンハーゲンで到着時に行われるチェックは非常に厳格だ」と脅かされたが、コペンハーゲン空港は呆気ないほど平常通りだった。また、コペンハーゲン空港から一歩外に出れば、電車、バスの乗客、市内を歩いている人たちの90%は「マスクなし」だったのは怖かった。

 8月23日、DLストックホルムが開催された。先に行われたモナコ以上に好記録が期待された。しかし、出発前からなんとなく怖い気がしていた。と言うのも、スウェーデンは、欧州で唯一「ロックダウン」政策を取らず、「集団免疫」の獲得を目指した国だ。人口100万人当たりの死者数を見ると、スウェーデンの多さは突出している。

 通常の乗客数が少ない。当然、便数が減っているので朝早い便がない。ストックホルム到着から競技開始時間まで2時間45分足らずだ。ちょっとでも便が遅れれば間に合わないだろうと思っていたが、幸い定時に飛び立ち、目的地にも定時より10分前に到着した。預けた荷物も便数が少ないので予想外に早く出てきた。外に出て案内所で確かめると、バスの方が電車より早くて安いと聞き、バスの往復切符を購入して飛び乗った。

 この日は日曜日のため、交通量が比較的少なく、所要時間45分できっちり中央駅に到着。タクシーを探したものの見つからなかったため、時間も十分あるのを確かめて、1912年ストックホルム五輪のメイン会場の「オリンピック・スタディオン」まで2km弱の道を、ゆっくり市内を見物しながら歩くことにした。ホテルへのチェックインは、取材後にした。

 古色蒼然とした100年以上の歴史を持つスタジアムは赤煉瓦の外壁で、四角なタワーを備えている。1912年当時の原型をそのまま保持しながら手入れを隅々まで入念に行い、同時に近代化を整えてきた素晴らしい施設だと思う。世界で最も美しい競技場と言う人もいる。

 競技場前に来ても、いつものように観衆で混雑する様子は一向に見られず。静かな日曜日の昼下がりの雰囲気だった。ここでも新型コロナウイルス感染を恐れて、最終的に無観客で行うことを決定したようだ。受付で取材証を受け取り、勝手知ったるカメラマン室に向かい、フォトチーフのTに会った。彼の奥さんも毎年、スウェーデンの西海岸にあるイエテボリから、東海岸にあるストックホルムまでやってくる。他に数人の顔見知りと挨拶を交わす。

 ビブスを受け取ると、弁当、コーヒー、水、果物がついてくる。機材を準備しながら、いただいた「ランチボックス」を開ける。頂いた食べ物に小言を並べたくはないが……、食欲が湧きそうにもない味だし、どうせ用意してくれるならぬるいコーヒーより熱いコーヒーを飲みたかった。水ボトル、リンゴを食べてからフィールド内に入った。

 フィールド内に一歩入ると、おなじみの赤いTシャツを着た顔見知りのオメガ社のタイム、計測係の技術者らとの再会を喜んだ。

 好調のワルホルムは、モナコでは「次のストックホルムは400mを走る」と言っていたが、今季初の400mハードルで自己2番目の好記録(47秒10)を叩き出したので、急きょ2週連続で世界新記録への挑戦を決定した。最終ハードルを引っ掛けて惜しくも快挙は逃したが、歴代2位の自己ベストを0.05秒短縮する46秒87をマークした。

 男子800mではドナヴァン・ブレイジャー(米国)が、最後のカーブを抜けてから猛ダッシュ。キレのあるスピードで先行する数人を簡単に抜き去ってトップでゴール。1分43秒15で今季無敗の10連勝。足底筋膜炎を起こしながら、今季最終戦を飾った。レースの翌日、ストックホルムから離陸した時はなんとなくホッとした。

DLストックホルムでわずかの差で世界記録更新を逃し、舌を出して苦笑した男子400mHのカールステン・ワルホルム(ノルウェー)/Jiro Mochizuki(Agence SHOT)

パリからローザンヌ、ブリュッセルへ

 39度の猛暑に襲われたパリも、8月半ばから急激に気温が下がり、たちまち気温20度を切るようになり、肌寒くなってしまった。9月2日、早朝のパリの気温は11度。リヨン駅から出るTGVでローザンヌに向かったが、寒くてコートが必要だった。ローザンヌ市まで所要時間約3時間20分。

 今年のDLローザンヌは男女棒高跳の2種目のみが、市内駐車場内に特設された2本の助走路で開催された。観衆は1000人に限定され、無料だ。

 男子は新旧世界気記録保持者、五輪、世界選手権覇者らを一堂に集めた、現時点で世界最高レベルのメンバー。期待に違わぬスリリングな試合となり、どんどんとバーが上がっていく。感染症対策で、落下地点を1回ごとに散布機を使って消毒していた。

 世界記録保持者のアルマンド・デュプランティス(スウェーデン)が6m07で快勝。今年の室内シーズンから、彼の強さはかつてのセルゲイ・ブブカ(ウクライナ)と同じような、ちょっと役者が違う存在だ。この記録は26年ぶりの快挙。また、世界選手権2連覇中のサム・ケンドリックス(米国)も6m02を記録。同じ大会での複数選手の6m超えは史上初の快挙だった。

 取材制限が厳しかったが、5名に限定されたインフィールド撮影許可のビブスを獲得。観衆に交じってテレビカメラの後方から選手を正面にとらえたり、試合会場を高い位置から撮影したりなど、動き回って取材した。
 
 翌日の早朝、まだ外が暗いうちにホテルを出て、徒歩でローザンヌの中央駅に向かって急な坂道を10分ほど下った。カプチーノ、クロワッサン、サンドウィッチ、水を購入。ホームで通勤ラッシュを眺めながら朝飯を食べた。バカンスが終了したため、TGVは行きも帰りも乗客率は50%以下だったろう。写真編集をしながら、あっという間にパリに到着した。

 パリからブリュッセルまで、タリスで約1時間20分ほどで到着。ブリュッセル・ミディと呼ばれる駅で下車。目の前のホテルにチェックイン。ここからベルギー国立競技場までメトロで約20分。幸い、パリからブリュッセルまで快晴だった。

 しかし、タリス内でカメラバックから2台のカメラを盗まれてしまった。この盗難事件は次回で詳しく話したい。

市内の駐車場を使って男女棒高跳のみを実施したDLローザンヌ/Jiro Mochizuki(Agence SHOT)

望月次朗の 2020ダイヤモンドリーグ ~「雑ネタ」「裏話」を気の向くままに~ 世界中を飛び回るカメラマン・望月次朗(Agence SHOT)による取材記! 望月次朗(Agence SHOT) DLの実質開幕戦であるモナコ大会の男子5000mで世界新記録を樹立したジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)/Jiro Mochizuki(Agence SHOT)

ようやくDLが開幕

 新型コロナウイルスのパンデミックで、世界陸連(WA)は安全対策などを考慮して、最終的に5月までの公式大会をキャンセルした。  6月11日、本来なら4月に始まる予定だったダイヤモンドリーグ(DL)が、オスロ大会でようやく開幕。男子300mハードルでは地元のスター選手、カールステン・ワルホルム(ノルウェー)が単独でのレースながら世界新記録を樹立。オスロとケニア・ナイロビをテレビ中継で結び、男子1500mで両国の選手が“リモート対決”をするなど、エキシビションマッチの形式だった。  7月9日のDLチューリヒは、チューリヒと米国で男女棒高跳のリモート試合を実施したほか、無観客試合で、縮小されたプログラムでの開催。主催者も手探り状態で、試験的な試みだったと言えようか。  誰も予測がつかないウイルスの猛威に振り回される状況から、ようやくなんらかの解決策を得て、8月14日に今季初めての本格的なDLが、モナコで開催されるに至った。続くストックホルム(8月23日)、ローザンヌ(9月2日)、ブリュッセル(9月4日)の各大会も含めて、大会規模は大きく縮小され、主催者側の独自のプログラム構成で行うことで合意した。  DLモナコのディレクター、ジャン-ピエール・ショーベル氏は「選手、観客、取材者を含め、あらゆる観点から考慮して安全対策を取った。種目も通常の半分以下だが、これほど開催までに苦労した大会は初めてだ」と苦難を語った。  モナコは観客数を3000人以下に限定。取材側のカメラマンは極度に縮小され、フィールド内側に4人、トラック外側は6人とこれまで経験したことのないほどの小規模だった。筆者は、DLは初回からずっと、毎年14大会のうち13大会を取材。個人的に最多数取材歴があるので、当初は取材枠に入れてもくれなかったが、フォトチーフと交渉した結果、フィニッシュ地点正面のポジションに入る許可を獲得できた。 DLモナコは観客を入れて行われたが、警官がソーシャルディスタンス、 マスク着用などを厳重にチェックしていた/Jiro Mochizuki(Agence SHOT)  この経験から各大会取材予定のフォトチーフにメール、電話連絡を入れ、なんとか取材証確保に奔走した。ストックホルム、ローザンヌ、ブリュッセルからはインフィールド取材が許可されたが、、ローマの知人Mから「外国人は全員断ったが……、お前が来るなら」と言われ、モナコ並みにやっとフィニッシュ正面のフォトポジション取材が許可されれた。  テレビ局の取材エリアは、フィールド内側に特設され、マスクをつけたインタビュアー以外、選手とのコンタクトは厳禁。選手は短いインタビューが終わると、そのまま通路を通ってホテルに直行。また、観客席では、モナコ警察の警官が観客席を歩きながら、観客の「ソーシャルディスタンス」「マスク着用」を厳重にチェックしていた。  我々も撮影エリアから動くことは厳禁とされ、常にマスクを着けて撮影をすることが義務づけられた。困ったことにカメラを構えると、吐く息がファインダーを曇らせてしまうことがある。慌ててファインダーを拭いて、また撮影してと、なかなか忙しかった。  男子5000mではジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ、23歳)が、後半を独走して12分35秒36の世界新記録を樹立した。ケネニサ・ベケレ(エチオピア)の記録を16年ぶりに1秒99更新した。アフリカ、米国の選手たちを2週間前から欧州に呼び寄せて隔離、コロナ感染の有無を確かめるなど、万全を期した苦労があった。チェプテゲイは、イスタンブール到着後、ウガンダ大統領が手配してくれた小型機に乗り換えてモナコに到着。14日間の待機期間を経ての快挙だった。  女子5000mに14分45秒11で5位だったシャノン・ロウバリー(米国、35歳)は、息の長いベテラン選手だ。五輪には1500mで3回出場。2008年北京7位、12年ロンドンと16年リオは惜しくも4位に終わっているが、世界選手権では銅メダルを2度獲得している。2015年のDLモナコで3分56秒29の米国記録を樹立。マリー・スレイニーの記録を32年ぶりに更新した。2歳の娘の母でもあり、5000mで4大会連続の五輪出場に挑戦するとか。

コロナ禍の影響があちこちに

 8月半ば、フランスは恒例のバカンスの真っ最中だ。8月初め、所要があってコペンハーゲンに飛んだ。パリ市内から郊外電車(RER)で空港に行くのだが、本数がいつもより少なかった。パンデミックの影響で、飛行機の便数も圧倒的に少ない。  最近はフランス国内でも「マスク」の重要性が徐々に理解、浸透してきたのだろうか、店、公共の場所、乗り物はもちろん、飛行機でも搭乗の際は空港内からマスク着用が義務づけられた。違反には罰金が科せられる。また、エールフランス航空を利用する人は、搭乗口で保健所から「特命」を受けた係員が、旅行の「必要・不必要」に関する証明書の持参の有無を問いただし、持参していない場合は彼らの権限で搭乗禁止令をすることができる。  そんな規則は知らされていない筆者は引っ掛かり、この頑固一徹な係員にいくら説明してもムダだった。最終的に1便遅らせ、コペンハーゲンから招待状をメールで受け取り、やっと問題を解決して搭乗。係員が「コペンハーゲンで到着時に行われるチェックは非常に厳格だ」と脅かされたが、コペンハーゲン空港は呆気ないほど平常通りだった。また、コペンハーゲン空港から一歩外に出れば、電車、バスの乗客、市内を歩いている人たちの90%は「マスクなし」だったのは怖かった。  8月23日、DLストックホルムが開催された。先に行われたモナコ以上に好記録が期待された。しかし、出発前からなんとなく怖い気がしていた。と言うのも、スウェーデンは、欧州で唯一「ロックダウン」政策を取らず、「集団免疫」の獲得を目指した国だ。人口100万人当たりの死者数を見ると、スウェーデンの多さは突出している。  通常の乗客数が少ない。当然、便数が減っているので朝早い便がない。ストックホルム到着から競技開始時間まで2時間45分足らずだ。ちょっとでも便が遅れれば間に合わないだろうと思っていたが、幸い定時に飛び立ち、目的地にも定時より10分前に到着した。預けた荷物も便数が少ないので予想外に早く出てきた。外に出て案内所で確かめると、バスの方が電車より早くて安いと聞き、バスの往復切符を購入して飛び乗った。  この日は日曜日のため、交通量が比較的少なく、所要時間45分できっちり中央駅に到着。タクシーを探したものの見つからなかったため、時間も十分あるのを確かめて、1912年ストックホルム五輪のメイン会場の「オリンピック・スタディオン」まで2km弱の道を、ゆっくり市内を見物しながら歩くことにした。ホテルへのチェックインは、取材後にした。  古色蒼然とした100年以上の歴史を持つスタジアムは赤煉瓦の外壁で、四角なタワーを備えている。1912年当時の原型をそのまま保持しながら手入れを隅々まで入念に行い、同時に近代化を整えてきた素晴らしい施設だと思う。世界で最も美しい競技場と言う人もいる。  競技場前に来ても、いつものように観衆で混雑する様子は一向に見られず。静かな日曜日の昼下がりの雰囲気だった。ここでも新型コロナウイルス感染を恐れて、最終的に無観客で行うことを決定したようだ。受付で取材証を受け取り、勝手知ったるカメラマン室に向かい、フォトチーフのTに会った。彼の奥さんも毎年、スウェーデンの西海岸にあるイエテボリから、東海岸にあるストックホルムまでやってくる。他に数人の顔見知りと挨拶を交わす。  ビブスを受け取ると、弁当、コーヒー、水、果物がついてくる。機材を準備しながら、いただいた「ランチボックス」を開ける。頂いた食べ物に小言を並べたくはないが……、食欲が湧きそうにもない味だし、どうせ用意してくれるならぬるいコーヒーより熱いコーヒーを飲みたかった。水ボトル、リンゴを食べてからフィールド内に入った。  フィールド内に一歩入ると、おなじみの赤いTシャツを着た顔見知りのオメガ社のタイム、計測係の技術者らとの再会を喜んだ。  好調のワルホルムは、モナコでは「次のストックホルムは400mを走る」と言っていたが、今季初の400mハードルで自己2番目の好記録(47秒10)を叩き出したので、急きょ2週連続で世界新記録への挑戦を決定した。最終ハードルを引っ掛けて惜しくも快挙は逃したが、歴代2位の自己ベストを0.05秒短縮する46秒87をマークした。  男子800mではドナヴァン・ブレイジャー(米国)が、最後のカーブを抜けてから猛ダッシュ。キレのあるスピードで先行する数人を簡単に抜き去ってトップでゴール。1分43秒15で今季無敗の10連勝。足底筋膜炎を起こしながら、今季最終戦を飾った。レースの翌日、ストックホルムから離陸した時はなんとなくホッとした。 DLストックホルムでわずかの差で世界記録更新を逃し、舌を出して苦笑した男子400mHのカールステン・ワルホルム(ノルウェー)/Jiro Mochizuki(Agence SHOT)

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