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2023.12.25

5年ぶり歓喜の神村学園 留学生キャプテンの献身的な姿勢とチームメイトの成長で劇的な結末/全国高校駅伝
5年ぶり歓喜の神村学園 留学生キャプテンの献身的な姿勢とチームメイトの成長で劇的な結末/全国高校駅伝

5年ぶり2度目の優勝を果たした神村学園

◇全国高校駅伝・女子第35回(12月24日/京都・たけびしスタジアム京都発着:5区間21.0975km)

鹿児島県勢初の優勝を遂げた2018年。その翌年から、優勝に挑みながらも2位、2位、3位、3位と跳ね返され続けた神村学園が、1時間7分28秒で5年ぶり2度目となる高校日本一のゴールテープを切った。4区終了時の1分20秒差を最終区でひっくり返すという、大会史に残る大逆転劇。2位の仙台育英(宮城)との差はわずか1秒だった。

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「昨年の今頃は、1年後に優勝できるなんて、これっぽっちも思ってなかったですね。カリバ・カロライン(3年)の力で入賞に滑り込めるかもしれないというぐらい。それぐらい、意識にもなかったですね」。

有川哲蔵監督の言葉通り、初春のチーム状況はかなり厳しかった。3年生は留学生のカリバ・カロラインただ1人、2年生も黒神璃菜と小倉陽菜の2人だけ。新しく入ってくる1年生を含めた全員の成長なくしては、入賞すら危ぶまれるところからスタートした。

ようやくチームらしくなったのは、夏の合宿を経て、駅伝の足音が聞こえ始めた晩夏だった。キャプテンのカロラインは、チームメイトの底上げのために積極的にペースメーカーを務め、日本語で「これはダメだよ」と“甘さ”を指摘した。

小倉は「普段は陽気なカロライン先輩が、心を鬼にして言ってくれているのがわかりました。駅伝が近づくにつれ、下級生一人ひとりの意識も徐々に高まり、チームの結束も高まっていったと思います」。

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ちなみに、カロラインをキャプテンに推したのは、誰よりも彼女のストイックさを知る昨年度の主将・田島愛梨(現・日本郵政グループ)だったそうだ。選手全員の成長にキャプテン・カロラインは欠かせない存在でもあった。

「5区にカロライン先輩がいる」。それは、1区から4区までの4人が1秒を削り出す原動力になった。終盤の逆転劇だけ見れば、カロラインの力で優勝したように見えるが、1秒でも早くつなぎたいという思いで走った4人のタスキリレーが、爆走をお膳立てしたことは間違いない。

カロラインは1分20秒差に「前回は1分15秒差で逆転できなかったから、今回も絶対無理だと思った」とあきらめていたという。でも、中間点で有川監督に「逆転できる」と声をかけられ、競技場でチームメイトに「いける!いける!」と声援を送られたことで力がみなぎった。「まさかあの差を逆転できるなんて信じられない」と、一番驚いていたのはカロラインだ。

コロナ禍という難しい時期に来日。昨年はケニアに住む母、今年4月には日本での生活のいろはを教えてくれた同校の先輩でもあるケニア人ランナー、バイレ・シンシアさんとの別れを経験した。それでも日本や陸上から逃げることなく、強い心でチームを引っ張ったカロライン。有川監督が送った「カロラインが育てたチーム」という言葉に、最大限の賛辞が込められている。

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文/田端慶子

◇全国高校駅伝・女子第35回(12月24日/京都・たけびしスタジアム京都発着:5区間21.0975km) 鹿児島県勢初の優勝を遂げた2018年。その翌年から、優勝に挑みながらも2位、2位、3位、3位と跳ね返され続けた神村学園が、1時間7分28秒で5年ぶり2度目となる高校日本一のゴールテープを切った。4区終了時の1分20秒差を最終区でひっくり返すという、大会史に残る大逆転劇。2位の仙台育英(宮城)との差はわずか1秒だった。 「昨年の今頃は、1年後に優勝できるなんて、これっぽっちも思ってなかったですね。カリバ・カロライン(3年)の力で入賞に滑り込めるかもしれないというぐらい。それぐらい、意識にもなかったですね」。 有川哲蔵監督の言葉通り、初春のチーム状況はかなり厳しかった。3年生は留学生のカリバ・カロラインただ1人、2年生も黒神璃菜と小倉陽菜の2人だけ。新しく入ってくる1年生を含めた全員の成長なくしては、入賞すら危ぶまれるところからスタートした。 ようやくチームらしくなったのは、夏の合宿を経て、駅伝の足音が聞こえ始めた晩夏だった。キャプテンのカロラインは、チームメイトの底上げのために積極的にペースメーカーを務め、日本語で「これはダメだよ」と“甘さ”を指摘した。 小倉は「普段は陽気なカロライン先輩が、心を鬼にして言ってくれているのがわかりました。駅伝が近づくにつれ、下級生一人ひとりの意識も徐々に高まり、チームの結束も高まっていったと思います」。 ちなみに、カロラインをキャプテンに推したのは、誰よりも彼女のストイックさを知る昨年度の主将・田島愛梨(現・日本郵政グループ)だったそうだ。選手全員の成長にキャプテン・カロラインは欠かせない存在でもあった。 「5区にカロライン先輩がいる」。それは、1区から4区までの4人が1秒を削り出す原動力になった。終盤の逆転劇だけ見れば、カロラインの力で優勝したように見えるが、1秒でも早くつなぎたいという思いで走った4人のタスキリレーが、爆走をお膳立てしたことは間違いない。 カロラインは1分20秒差に「前回は1分15秒差で逆転できなかったから、今回も絶対無理だと思った」とあきらめていたという。でも、中間点で有川監督に「逆転できる」と声をかけられ、競技場でチームメイトに「いける!いける!」と声援を送られたことで力がみなぎった。「まさかあの差を逆転できるなんて信じられない」と、一番驚いていたのはカロラインだ。 コロナ禍という難しい時期に来日。昨年はケニアに住む母、今年4月には日本での生活のいろはを教えてくれた同校の先輩でもあるケニア人ランナー、バイレ・シンシアさんとの別れを経験した。それでも日本や陸上から逃げることなく、強い心でチームを引っ張ったカロライン。有川監督が送った「カロラインが育てたチーム」という言葉に、最大限の賛辞が込められている。 文/田端慶子

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