HOME 国内、特集、日本代表
【高平慎士の視点】「今できる最大限」を発揮した男子4×100mRの銀 ブダペスト世界陸上5位の流れ継ぎ、パリ五輪へさらなる選手層アップを
【高平慎士の視点】「今できる最大限」を発揮した男子4×100mRの銀 ブダペスト世界陸上5位の流れ継ぎ、パリ五輪へさらなる選手層アップを

経験豊富な桐生、小池と新鋭の上山、宇野のメンバーで銀メダルを手にした男子4×100mR

中国・杭州で開催されている第19回アジア大会の5日目午後セッションに行われた男子4×100mリレー決勝。日本は1走から桐生祥秀(日本生命)、小池祐貴(住友電工)、上山紘輝(住友電工)、宇野勝翔(順大)のオーダーで臨み、地元・中国(38秒29)に次ぐ38秒44の銀メダルだった。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、そのレースを振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇

100mで決勝に進出できず、リザーブが不在。200mで上山紘輝選手が金メダルを獲得しましたが、難しい状況の中で、連覇は達成できませんでしたが、メダルを確保できたことは一定の評価ができると思います。

広告の下にコンテンツが続きます

レース展開としては、それぞれが「今、できる最大限のことに集中」して、トータルでタイムを狙う、とうスタンスだったと思います。それぞれが体力的に厳しい状態だったでしょうけど、それでも、1、2走で中国がもたついた隙をついて2走の小池祐貴選手が、1つ外側を走る100m王者の中国・謝震業をよく追いかけていました。

日本が金メダルを取るなら、3走の上山選手で抜け出す展開だったと思います。トップに立ったので、ある程度は理想の流れにもっていけたと言えますが、やはり3、4走の2人は前日の200m決勝の疲れが見えました。バトンうんぬんというよりは、それぞれがリレーに必要な「120mを走り切る」ことが難しかった。どの区間も、後半の失速が中国選手以上に見られました。

もちろん、走った4人たちが一番悔しい思いをしていると思います。それでも、アジア大会という場で、日本代表として出場している以上、日本が目指す4×100mリレーとして勝てるタイムだったと思いますし、勝てる相手だったと思います。そして、勝たないといけないチームなのです。それほどの期待を背負う種目であり、またそれを達成できるポテンシャルがあったと思います。

広告の下にコンテンツが続きます

38秒44は混合チーム(13年東アジア大会)の学生記録と同じタイムなので、シニアの代表としてはクリアしないといけない水準です。38秒前半が勝負と見られた中で、中国が出した38秒29に日本が「たどりつかなかった」。それが今回の結果とだいうことです。

収穫は、もちろんあります。ブダペスト世界陸上から、小池選手が引き続きメンバーに入って5位入賞の流れをつないでくれたと思います。その姿を、チームの後輩である上山選手がブダペストから間近で見続けたことは、得難い経験となるでしょう。

リレー要員での代表入りから個人種目出場を果たした宇野勝翔選手は、体力的にもきつかったと思いますが、こういったチャンスを生かすことはアスリートとして大切なこと。そして、桐生祥秀選手が東京五輪以来の日本代表入りで、日本4継の伝統を後輩たちに伝えてくれたと思います。

これがパリ五輪につながるかどうかは、正直のところ何とも言えません。順当にいけばブダペストのメンバーが中心になるでしょうし、そこに割って入るには個人で五輪代表に入る力を見せる必要があるのは言うまでもありません。

これまでの「3走・桐生」のように、絶対的な存在がいるオーダーがあることも重要な武器となります。経験豊富な選手たちが、チームに良いものをもたらしてくれるであろうことも間違いのないことです。

そのうえで、ベテランたちを上回る次の世代の選手が台頭してきていることも事実。桐生選手、小池選手が本来のパフォーマンスをしても、それでもメンバーに入れない。そんな4×100mリレーチームを目指すことが、東京五輪で手にできなかった金メダルをパリ五輪でつかむために、求められるものだと思います。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

中国・杭州で開催されている第19回アジア大会の5日目午後セッションに行われた男子4×100mリレー決勝。日本は1走から桐生祥秀(日本生命)、小池祐貴(住友電工)、上山紘輝(住友電工)、宇野勝翔(順大)のオーダーで臨み、地元・中国(38秒29)に次ぐ38秒44の銀メダルだった。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、そのレースを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ 100mで決勝に進出できず、リザーブが不在。200mで上山紘輝選手が金メダルを獲得しましたが、難しい状況の中で、連覇は達成できませんでしたが、メダルを確保できたことは一定の評価ができると思います。 レース展開としては、それぞれが「今、できる最大限のことに集中」して、トータルでタイムを狙う、とうスタンスだったと思います。それぞれが体力的に厳しい状態だったでしょうけど、それでも、1、2走で中国がもたついた隙をついて2走の小池祐貴選手が、1つ外側を走る100m王者の中国・謝震業をよく追いかけていました。 日本が金メダルを取るなら、3走の上山選手で抜け出す展開だったと思います。トップに立ったので、ある程度は理想の流れにもっていけたと言えますが、やはり3、4走の2人は前日の200m決勝の疲れが見えました。バトンうんぬんというよりは、それぞれがリレーに必要な「120mを走り切る」ことが難しかった。どの区間も、後半の失速が中国選手以上に見られました。 もちろん、走った4人たちが一番悔しい思いをしていると思います。それでも、アジア大会という場で、日本代表として出場している以上、日本が目指す4×100mリレーとして勝てるタイムだったと思いますし、勝てる相手だったと思います。そして、勝たないといけないチームなのです。それほどの期待を背負う種目であり、またそれを達成できるポテンシャルがあったと思います。 38秒44は混合チーム(13年東アジア大会)の学生記録と同じタイムなので、シニアの代表としてはクリアしないといけない水準です。38秒前半が勝負と見られた中で、中国が出した38秒29に日本が「たどりつかなかった」。それが今回の結果とだいうことです。 収穫は、もちろんあります。ブダペスト世界陸上から、小池選手が引き続きメンバーに入って5位入賞の流れをつないでくれたと思います。その姿を、チームの後輩である上山選手がブダペストから間近で見続けたことは、得難い経験となるでしょう。 リレー要員での代表入りから個人種目出場を果たした宇野勝翔選手は、体力的にもきつかったと思いますが、こういったチャンスを生かすことはアスリートとして大切なこと。そして、桐生祥秀選手が東京五輪以来の日本代表入りで、日本4継の伝統を後輩たちに伝えてくれたと思います。 これがパリ五輪につながるかどうかは、正直のところ何とも言えません。順当にいけばブダペストのメンバーが中心になるでしょうし、そこに割って入るには個人で五輪代表に入る力を見せる必要があるのは言うまでもありません。 これまでの「3走・桐生」のように、絶対的な存在がいるオーダーがあることも重要な武器となります。経験豊富な選手たちが、チームに良いものをもたらしてくれるであろうことも間違いのないことです。 そのうえで、ベテランたちを上回る次の世代の選手が台頭してきていることも事実。桐生選手、小池選手が本来のパフォーマンスをしても、それでもメンバーに入れない。そんな4×100mリレーチームを目指すことが、東京五輪で手にできなかった金メダルをパリ五輪でつかむために、求められるものだと思います。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.09.10

ドーハ、ブダペスト女子400mH銅メダルのクレイトンがケガのため棄権/東京世界陸上

9月10日、ブダペスト世界選手権女子400メートルハードル銅メダリストのラシェル・クレイトン(ジャマイカ)が脚のケガのため、13日開幕の東京世界選手権を欠場することがわかった。来日中のジャマイカ陸連関係者が地元メディアの […]

NEWS 中川文華がコモディイイダで競技復帰 中学時代からトラック、駅伝で活躍

2025.09.10

中川文華がコモディイイダで競技復帰 中学時代からトラック、駅伝で活躍

9月10日、コモディイイダは8月30日付で中川文華がチームに加わったことを発表した。 中川は1996年生まれの28歳。埼玉・朝霞三中学時代から全国トップクラスで活躍し、2010年鳥取全中では1500mで2年生優勝を果たし […]

NEWS 100mH福部真子 意地でつかんだ「0.01秒」難病と向き合い、自身3度目の大舞台へ「私が走ることに意味がある」/東京世界陸上

2025.09.10

100mH福部真子 意地でつかんだ「0.01秒」難病と向き合い、自身3度目の大舞台へ「私が走ることに意味がある」/東京世界陸上

女子100mハードル日本記録保持者の福部真子(日本建設工業)は、これまで何度も苦境に立たされてきた。天才少女ともてはやされた高校時代から一転、大学ではタイトルや自己記録更新から遠ざかり、コロナ禍で練習環境に悩み、何度もト […]

NEWS 劇場アニメ『ひゃくえむ。』 スペシャル座談会映像公開! 魚豊さんと松坂桃李さん、染谷将太さんら豪華キャストが作品を語り尽くす

2025.09.10

劇場アニメ『ひゃくえむ。』 スペシャル座談会映像公開! 魚豊さんと松坂桃李さん、染谷将太さんら豪華キャストが作品を語り尽くす

劇場長編アニメ『ひゃくえむ。』が9月19日から公開される。公開を記念して、原作者・魚豊さんと、劇中で個性豊かなスプリンターたちの声を務めたW主演の松坂桃李さん&染谷将太さん、内山昂輝さん、津田健次郎さんの5名による豪華座 […]

NEWS 100mH中島ひとみ 紆余曲折のハードル人生「今までの自分の決断を大切にしたい」とびきり全開パワーで初の大舞台に挑戦/東京世界陸上

2025.09.10

100mH中島ひとみ 紆余曲折のハードル人生「今までの自分の決断を大切にしたい」とびきり全開パワーで初の大舞台に挑戦/東京世界陸上

中学2年生からハードルに挑戦した。「めっちゃ楽しい! それから今まで、ずっと“ゾッコン”なんです」。これが、中島ひとみ(長谷川体育施設)が選んだ、女子100mハードルという道のはじまりだ。中学で日本一になってから、ずっと […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年10月号 (9月9日発売)

2025年10月号 (9月9日発売)

【別冊付録】東京2025世界陸上観戦ガイド
村竹ラシッド/桐生祥秀/中島佑気ジョセフ/中島ひとみ/瀬古優斗
【Coming EKIDEN Season 25-26】
学生長距離最新戦力分析/青学大/駒大/國學院大/中大/

page top