2023.07.15
学生駅伝の〝主役〟へ返り咲く準備着々
細く、強く、しなやかに。厚底シューズの登場で長距離ランナーに求められる身体は変わりつつある。東洋大は2009年より外部のメディカルスタッフに依頼して高精度体成分分析装置『InBody(インボディ)』での測定を定期的に実施していたが、今季からは部の専用として寮内に最新機種を導入。部位別の筋肉量や水分量も知ることができるようになり、測定頻度も高まったことで日々のコンディショニングに大いに役立っている。
理想のカラダを自分で作る
16年連続で三大駅伝すべてに参戦する東洋大。激動の学生長距離界で安定した成績を残している理由のひとつに定期的な〝フィジカルチェック〟があるだろう。酒井俊幸監督が就任した2009年から、選手たちは高精度体成分分析装置『InBody』で測定を行っているのだ。
「体重の数値だけでなく、筋肉量や体脂肪量などもわかります。まずは現状を知るのが大事ですし、身体の変化に関心を持って、自分で理想の身体を作り出してほしいと思っています」と酒井監督。女子栄養大のメディカルスタッフの協力のもと、月に一度、InBodyの測定と血液検査を実施してきた。骨格筋量は同じ体重の選手でも1㎏ほどの差があり、体脂肪率も選手によって5%ほど違うという。
「骨格筋量が増えているときはバランスが崩れやすく、相澤晃(旭化成)も2年時の前半まで疲労骨折をしました。その間、骨格筋量が3㎏ぐらい増えたんです。よく『身体ができた』という言葉を使いますが、骨格筋量が増えてから故障しなくなり、駅伝でも区間賞を獲得するようになったんです」
東洋大は大学卒業後、マラソンや10000mで日本記録を樹立したり、世界大会に羽ばたく選手たちが多い。学生時代から自分のコンディションを客観的に把握する習慣を養ったことが、実業団での活躍につながっているようだ。
最高機種『InBody970』で細かくチェック
骨格筋量を増やすことをテーマに取り組んでいる東洋大は、今季から最新にして医療用の最高機種である『InBody970』を寮に設置。骨格筋量や体脂肪量だけでなく、部位別の筋肉量や水分量なども測定できるようになった。コンディションを保つだけでなく、試合へのピーキングを考えても、長距離ランナーにとって自身の体成分を知っておくことは非常に重要だと酒井監督は言う。
「かつては体重の数値だけで状態を判断していましたが、今は筋肉量と体脂肪量も数字として出ます。しかも、どの部位の筋肉量が少ないのかもわかるようになったのは大きいですね。体幹が弱い選手は疲労骨折をしやすいですし、体重が軽ければいいというわけではありません。近年は厚底シューズがメインになり、以前よりも筋力が必要になってきています」
厚底シューズは硬質なカーボンプレートをグッと踏み込むことで反発力を得られる仕組みになっている。筋力がないとレース終盤までシューズのメリットを享受できない。それどころか骨盤まわりのダメージが大きくなり、ケガにつながってしまうのだ。
「長距離ランナーの身体は細いだけでなく、強さとしなやかさが必要です。そうでないと厚底シューズを履きこなし、連戦で結果を残して、かつ長い競技人生を実現するのは難しいと思います。トラックは左回りなので、左右差が生まれやすいのですが、部位別の筋肉量がわかるようになり、左右差の調整もできるようになりました。
また、これからの季節は熱中症や脱水症状に注意しないといけません。筋肉にある水分量がどれぐらいなのか。選手自身が身体の変化を興味深く持てるかなと思います」
〝今の状態〟を把握して日々の生活を改善
寮内に『InBody970』が常設されたことで、選手たちの測定頻度は上がっているという。そのなかで選手たちはどこをポイントにしているのだろうか。
主将の佐藤真優(4年)は、「一番は骨格筋量と体脂肪量ですね。以前から月に一度は測っていたので、自分が一番走れているときのコンディションとどれだけ違うのか。数値を比較することで、現在のコンディションを確認しています。また、新機種は部位ごとの数値もわかるので、左右差があるときはフィジカルトレーニングなどで調整するようにしています」と話す。
今季5000mで自己ベストを20秒以上更新している増田涼太(3年)も部位別筋肉量をチェックしているという。「発達度のパーセンテージが出るので参考にしています。下半身は100%を超えるのですが、上半身は足りていない部分もある。脚の力だけで走ろうとすると最後まで持ちません。腕や体幹の筋肉量を増やすことで後半も崩れない走りになるので意識していますね」
筋肉量が減っていれば食事量を増やすなど、選手たちは日々の食事も意識。InBodyでの測定による数値はトレーニングだけでなく、日々の生活を見直すきっかけにもなっている。昨年度はエースの松山和希(4年)が不在だったこともあり、学生駅伝の最高順位は8位と振るわなかった。
今季は「チームの底上げと土台作り」(酒井監督)を目標に取り組んできたという。5月の関東インカレ(1部)は1500mで奥山輝(4年)が3位、田中純(1年)が5位。10000mは小林亮太(3年)が28分43秒15の自己ベストで8位に食い込んだ。ハーフマラソンでは梅崎連(3年)が日本人トップ争いを演じて3位に入ると、村上太一(4年)は7位、8位だった他大学の選手と同タイムの9位と健闘した。
「小林や梅崎は関東インカレでもしっかり走ってくれましたし、まずまずの流れかなと思います。他にも同じようなトレーニングができている選手がいるので、チームの地力は高まっている。主力が戻ってくれば駅伝シーズンはおもしろい戦いができる」と酒井監督。
松山は6月24日の男鹿駅伝で1月の都道府県対抗駅伝以来5ヵ月ぶりにレース復帰した。InBodyの最新機種を導入した東洋大。己の肉体を見つめながら、学生駅伝の〝主役〟に返り咲く準備が進んでいる。
文/酒井政人、撮影/小川和行、DREAM ONE
体成分分析装置『InBody』で
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※この記事は『月刊陸上競技』2023年8月号に掲載しています
理想のカラダを自分で作る
16年連続で三大駅伝すべてに参戦する東洋大。激動の学生長距離界で安定した成績を残している理由のひとつに定期的な〝フィジカルチェック〟があるだろう。酒井俊幸監督が就任した2009年から、選手たちは高精度体成分分析装置『InBody』で測定を行っているのだ。 「体重の数値だけでなく、筋肉量や体脂肪量などもわかります。まずは現状を知るのが大事ですし、身体の変化に関心を持って、自分で理想の身体を作り出してほしいと思っています」と酒井監督。女子栄養大のメディカルスタッフの協力のもと、月に一度、InBodyの測定と血液検査を実施してきた。骨格筋量は同じ体重の選手でも1㎏ほどの差があり、体脂肪率も選手によって5%ほど違うという。 [caption id="attachment_106972" align="alignnone" width="800"] 女子栄養大学のメディカルスタッフによる月1回のInBodyでの測定と血液検査は2009年から継続している[/caption] 「骨格筋量が増えているときはバランスが崩れやすく、相澤晃(旭化成)も2年時の前半まで疲労骨折をしました。その間、骨格筋量が3㎏ぐらい増えたんです。よく『身体ができた』という言葉を使いますが、骨格筋量が増えてから故障しなくなり、駅伝でも区間賞を獲得するようになったんです」 東洋大は大学卒業後、マラソンや10000mで日本記録を樹立したり、世界大会に羽ばたく選手たちが多い。学生時代から自分のコンディションを客観的に把握する習慣を養ったことが、実業団での活躍につながっているようだ。最高機種『InBody970』で細かくチェック
骨格筋量を増やすことをテーマに取り組んでいる東洋大は、今季から最新にして医療用の最高機種である『InBody970』を寮に設置。骨格筋量や体脂肪量だけでなく、部位別の筋肉量や水分量なども測定できるようになった。コンディションを保つだけでなく、試合へのピーキングを考えても、長距離ランナーにとって自身の体成分を知っておくことは非常に重要だと酒井監督は言う。 「かつては体重の数値だけで状態を判断していましたが、今は筋肉量と体脂肪量も数字として出ます。しかも、どの部位の筋肉量が少ないのかもわかるようになったのは大きいですね。体幹が弱い選手は疲労骨折をしやすいですし、体重が軽ければいいというわけではありません。近年は厚底シューズがメインになり、以前よりも筋力が必要になってきています」 [caption id="attachment_106973" align="alignnone" width="800"] InBodyでの測定データはWi-Fiの電波で選手個人のスマートフォンに送られるほか、監督やスタッフが使用するパソコンでも情報共有できる[/caption] [caption id="attachment_106975" align="alignnone" width="705"] InBodyでの測定結果はプリンタで印刷して詳細までチェックできる[/caption] 厚底シューズは硬質なカーボンプレートをグッと踏み込むことで反発力を得られる仕組みになっている。筋力がないとレース終盤までシューズのメリットを享受できない。それどころか骨盤まわりのダメージが大きくなり、ケガにつながってしまうのだ。 「長距離ランナーの身体は細いだけでなく、強さとしなやかさが必要です。そうでないと厚底シューズを履きこなし、連戦で結果を残して、かつ長い競技人生を実現するのは難しいと思います。トラックは左回りなので、左右差が生まれやすいのですが、部位別の筋肉量がわかるようになり、左右差の調整もできるようになりました。 また、これからの季節は熱中症や脱水症状に注意しないといけません。筋肉にある水分量がどれぐらいなのか。選手自身が身体の変化を興味深く持てるかなと思います」 [caption id="attachment_106976" align="alignnone" width="800"] 「自分のコンディションを客観的に把握する習慣を身につけることが大切」と酒井俊幸監督は話す[/caption]〝今の状態〟を把握して日々の生活を改善
寮内に『InBody970』が常設されたことで、選手たちの測定頻度は上がっているという。そのなかで選手たちはどこをポイントにしているのだろうか。 主将の佐藤真優(4年)は、「一番は骨格筋量と体脂肪量ですね。以前から月に一度は測っていたので、自分が一番走れているときのコンディションとどれだけ違うのか。数値を比較することで、現在のコンディションを確認しています。また、新機種は部位ごとの数値もわかるので、左右差があるときはフィジカルトレーニングなどで調整するようにしています」と話す。 今季5000mで自己ベストを20秒以上更新している増田涼太(3年)も部位別筋肉量をチェックしているという。「発達度のパーセンテージが出るので参考にしています。下半身は100%を超えるのですが、上半身は足りていない部分もある。脚の力だけで走ろうとすると最後まで持ちません。腕や体幹の筋肉量を増やすことで後半も崩れない走りになるので意識していますね」 筋肉量が減っていれば食事量を増やすなど、選手たちは日々の食事も意識。InBodyでの測定による数値はトレーニングだけでなく、日々の生活を見直すきっかけにもなっている。昨年度はエースの松山和希(4年)が不在だったこともあり、学生駅伝の最高順位は8位と振るわなかった。 今季は「チームの底上げと土台作り」(酒井監督)を目標に取り組んできたという。5月の関東インカレ(1部)は1500mで奥山輝(4年)が3位、田中純(1年)が5位。10000mは小林亮太(3年)が28分43秒15の自己ベストで8位に食い込んだ。ハーフマラソンでは梅崎連(3年)が日本人トップ争いを演じて3位に入ると、村上太一(4年)は7位、8位だった他大学の選手と同タイムの9位と健闘した。 「小林や梅崎は関東インカレでもしっかり走ってくれましたし、まずまずの流れかなと思います。他にも同じようなトレーニングができている選手がいるので、チームの地力は高まっている。主力が戻ってくれば駅伝シーズンはおもしろい戦いができる」と酒井監督。 松山は6月24日の男鹿駅伝で1月の都道府県対抗駅伝以来5ヵ月ぶりにレース復帰した。InBodyの最新機種を導入した東洋大。己の肉体を見つめながら、学生駅伝の〝主役〟に返り咲く準備が進んでいる。 [caption id="attachment_106974" align="alignnone" width="800"] 学生駅伝の〝主役〟へ返り咲くために東洋大の選手たちは日々のコンディションチェックをしっかり行っている[/caption] 文/酒井政人、撮影/小川和行、DREAM ONE
体成分分析装置『InBody』で 人間の体を構成する4つの要素をチェック[caption id="attachment_106977" align="alignnone" width="800"] 東洋大が導入した『InBody970』[/caption] 人間の体を構成する成分は、水分・タンパク質・ミネラル・体脂肪の4つに大きく分けられる。この4つの体成分を測定し、自分の体の傾向を把握することで、より効果的な健康づくりに活かせるのが、インボディ社の体成分分析装置『InBody』。医療用・専門家用・家庭用の3つの製品カテゴリーがあり、東洋大陸上競技部では最高機種である医療用の『InBody970』を導入している InBody公式ホームページ |
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