HOME 特集

2023.04.27

やり投・北口榛花 世界3位も「まだまだ上を目指す」スピードに適応した投げの実現で「狙ってメダル」と日本記録更新へ
やり投・北口榛花 世界3位も「まだまだ上を目指す」スピードに適応した投げの実現で「狙ってメダル」と日本記録更新へ

ブダペスト世界陸上でのメダルを狙う北口榛花(JAL)

いよいよ始まった2023年のトラックシーズン。夏に控えるブダペスト世界選手権、そして来年のパリ五輪に向けて重要な1年となる。今年も陸上界を盛り上げそうな選手たちのインタビューをお届け!(※スペイン合宿中にリモート取材)

充実のチェコでの日々

昨年、オレゴン世界選手権で3位、世界最高峰のダイヤモンドリーグ(DL)ファイナルでも3位となるなど、女子やり投の北口榛花(JAL)は「良すぎたシーズン」と振り返るほど充実の時を過ごした。だが、それだけ結果を残して心境に大きな変化はない。

広告の下にコンテンツが続きます

「気持ちとしてはあまり変わりませんでした。元々、浮かれるタイプではないのですが、まだまだ上を目指そうという気持ちが強いので。コーチも『それが良かった。本当に変わらないんだな』と言ってくれました」

ただ、世界3位になったからこそ、「ところどころ、練習で必要以上に緊張することもありました」。悪い投げが続くと気持ちがピッとなることもある。だが、それを「自分で感じられていること」と、抱え込まずに「コーチにしっかり伝えられる」ところに精神面の成長もある。

2018年シーズン後からチェコを拠点としている北口。今年も1月中旬頃からチェコへ。3月まで、2度のスペイン合宿を経て4月中旬に帰国した。

「今年もしっかり冬季トレーニングを積むことができました。ケガもなくて、痛いのは筋肉痛くらい(笑)。土台を上げていくというのは変わらず。自分の中でもいろんなところが良くなっているという実感はあります」

広告の下にコンテンツが続きます

実際にウエイトトレーニングをはじめ、計測するメニューでは「数値が上がっています」。ウエイトでは「これまでのマックスから少し軽い重量を3回くらい上がります。安定してくればマックスもすぐ更新できると思います」。継続してきた下半身強化でもコーチから「普通に速く走れるじゃないか!」と言われるくらいだという。

タッグを組むディヴィッド・シェケラック・コーチはやり投王国・チェコのジュニアナショナルコーチも務める。北口の他にも将来を期待される若手選手たちが日々、トレーニングに励んでいる。そんな選手たちにとって『世界3位』のスロワーが身近にいる意味は小さくない。

「でも、体力的に私が優れているわけではないので、若い選手にとってもいい競争相手なんです(笑)。いつも『もう一本、もう一本』に付き合わされています。こっちのジュニアの選手たちはやり投が本当に大好き。早く投げたい、一生投げていたい、というのが伝わります。好きなメニューになると目がキラキラしますし、数値の計測でもすごく負けず嫌い。私もそういうところに元気や刺激をもらっています」

海外では日本でいうところの実業団の制度はほとんどない。高校や大学を卒業してからやり投を続けられるのは、世界トップを目指すほんの一握り。「学校以外の時間は、やり投のことだけ考えて生活しています。競技を続けるのが簡単ではないということを、聞いたり見たりしているからだと思います。だからそういう気持ちが芽生えるんだな、と」。

広告の下にコンテンツが続きます

高校から陸上を始め、2018年当時は心身ともに良い意味で未成熟かつポテンシャルを秘めていた北口にとって、この上ない環境に出会えた。それも北口自身がもがき、苦しみ、行動したからでもある。

いよいよ始まった2023年のトラックシーズン。夏に控えるブダペスト世界選手権、そして来年のパリ五輪に向けて重要な1年となる。今年も陸上界を盛り上げそうな選手たちのインタビューをお届け!(※スペイン合宿中にリモート取材)

充実のチェコでの日々

昨年、オレゴン世界選手権で3位、世界最高峰のダイヤモンドリーグ(DL)ファイナルでも3位となるなど、女子やり投の北口榛花(JAL)は「良すぎたシーズン」と振り返るほど充実の時を過ごした。だが、それだけ結果を残して心境に大きな変化はない。 「気持ちとしてはあまり変わりませんでした。元々、浮かれるタイプではないのですが、まだまだ上を目指そうという気持ちが強いので。コーチも『それが良かった。本当に変わらないんだな』と言ってくれました」 ただ、世界3位になったからこそ、「ところどころ、練習で必要以上に緊張することもありました」。悪い投げが続くと気持ちがピッとなることもある。だが、それを「自分で感じられていること」と、抱え込まずに「コーチにしっかり伝えられる」ところに精神面の成長もある。 2018年シーズン後からチェコを拠点としている北口。今年も1月中旬頃からチェコへ。3月まで、2度のスペイン合宿を経て4月中旬に帰国した。 「今年もしっかり冬季トレーニングを積むことができました。ケガもなくて、痛いのは筋肉痛くらい(笑)。土台を上げていくというのは変わらず。自分の中でもいろんなところが良くなっているという実感はあります」 実際にウエイトトレーニングをはじめ、計測するメニューでは「数値が上がっています」。ウエイトでは「これまでのマックスから少し軽い重量を3回くらい上がります。安定してくればマックスもすぐ更新できると思います」。継続してきた下半身強化でもコーチから「普通に速く走れるじゃないか!」と言われるくらいだという。 タッグを組むディヴィッド・シェケラック・コーチはやり投王国・チェコのジュニアナショナルコーチも務める。北口の他にも将来を期待される若手選手たちが日々、トレーニングに励んでいる。そんな選手たちにとって『世界3位』のスロワーが身近にいる意味は小さくない。 「でも、体力的に私が優れているわけではないので、若い選手にとってもいい競争相手なんです(笑)。いつも『もう一本、もう一本』に付き合わされています。こっちのジュニアの選手たちはやり投が本当に大好き。早く投げたい、一生投げていたい、というのが伝わります。好きなメニューになると目がキラキラしますし、数値の計測でもすごく負けず嫌い。私もそういうところに元気や刺激をもらっています」 海外では日本でいうところの実業団の制度はほとんどない。高校や大学を卒業してからやり投を続けられるのは、世界トップを目指すほんの一握り。「学校以外の時間は、やり投のことだけ考えて生活しています。競技を続けるのが簡単ではないということを、聞いたり見たりしているからだと思います。だからそういう気持ちが芽生えるんだな、と」。 高校から陸上を始め、2018年当時は心身ともに良い意味で未成熟かつポテンシャルを秘めていた北口にとって、この上ない環境に出会えた。それも北口自身がもがき、苦しみ、行動したからでもある。

ブダペストで狙ってメダル、そして日本記録の更新へ

山を走ったり、クロスカントリーをしたり。シーズンに向けては投げない時期で作ってきた土台を「どう投げにつなげていくか」が大きなポイントになる。 「今は全体的に速く動くというのを試しています。私の特徴は『大きく・長く』でしたが、今以上を目指すためには、リスクを負ってでも記録を狙いにいく力が必要。もちろん、普通に投げて70m以上が投げられればいいですが、調子が良い時に狙って記録を出せるようになりたいです」 そのため、「自分のテンポを少しズラして、それでも長所の長くやりに力を加える」投げに着手。これがやはり「難しい」。ゆっくりならできる技術も、速く動くと「きれいに動けない」し、「タイミングがズレる」。ただ、「今まで頑張らないと速く走れなかったのですが、今は走るのが上手になっています」と笑った。 これまではシーズンが始まるとフォームが大きく変わって「別人」のようになっていたが、今年はそれがなさそう。ただ、「ちょっと力強さが増して見えるかもしれません。腕に力を入れなくてもパワフルな感じ」。だからこそ、「その力が全部(やりに)伝わった時には飛ぶと思います」とイメージができる。 今季の目標は「ブダペスト世界選手権のメダル獲得と、ダイヤモンドリーグ・ファイナルにもう一度出る」こと。世界選手権では「オレゴンでは取れちゃった」ところから「狙って取りにいく」。 4月29日の織田記念がシーズンイン。「世界選手権が去年より1ヵ月遅いので、織田記念と木南記念(5月6日)はいろいろ試しながら」。5月21日のセイコーゴールデングランプリで「しっかり投げられれば」と見据える。昨年のシーズンインは59m63、セイコーゴールデングランプリでは63m93。このあたりを超えてくれば順調の証だ。 6月の日本選手権まで国内で調整を続ける。オレゴンの銅メダル獲得により、日本選手権までにブダペスト世界選手権の参加標準記録(63m80)を投げた時点で代表に内定。「日本選手権の後は怒濤のスケジュールになりそうです」。DLパリを皮切りに欧州転戦となる。 北口はもちろん、サニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC)らの影響もあり、海外留学や海外拠点、転戦を試みる選手も増えてきた。それは北口も感じている。「そういうのが増えているのはうれしいです。オリンピックや世界選手権も大事だけど、常に世界のトップと競い合うのも大事だと思っています」。 シーズン前は「最初は楽しみなのですが、試合が近づくにつれて不安も増していきます」。だが、そう語る表情に曇りはない。普段から練習では「あまり飛ばないタイプ」だが、「前は53~54mだったのが、今は55~56m、良い時は58mくらい」飛んでいる。 「参加標準記録は気にしていませんが、それくらいをアベレージにできれば」。毎年狙っているという2019年に出した日本記録66m00の更新も、そう遠くなさそうだ。 誰も見たことがない景色、世界一の景色を見るために。笑顔満開になる2023年シーズンが幕を開ける。 [caption id="attachment_100129" align="alignnone" width="800"] 女子やり投の北口榛花[/caption] きたぐち・はるか/1998年3月16日生まれ。北海道旭川市出身。北海道教育大附旭川中→旭川東高→日大→JAL。自己ベストは66m00(日本記録) 文/向永拓史

次ページ:

ページ: 1 2

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2024.05.19

葛西潤が英国で10000m27分34秒14 ポイント重ね五輪出場圏内に浮上 相澤晃は28分02秒84

5月18日、英国・ロンドンで「Night of the 10,000m PBs」が行われ、葛西潤と相澤晃(ともに旭化成)が出場し、葛西が27分34秒14で5位に入った。 葛西は1000mを2分41秒、2000m5分23秒 […]

NEWS 北口、サニブラウンら国立競技場で“世界”を体感!!セイコーゴールデンGP今日5/19開催

2024.05.19

北口、サニブラウンら国立競技場で“世界”を体感!!セイコーゴールデンGP今日5/19開催

◇セイコーゴールデングランプリ(5月19日/東京・国立競技場) 世界陸連(WA)コンチネンタルツアー・ゴールドのセイコーゴールデングランプリが今日5月19日に国立競技場で行われる。WAの試合の格付けでは日本選手権よりも高 […]

NEWS 山西利和が復活V 金メダリスト抑える殊勲 五輪代表池田向希は5位 柳井綾音が自己新の1時間29分44秒/WA競歩ツアー

2024.05.19

山西利和が復活V 金メダリスト抑える殊勲 五輪代表池田向希は5位 柳井綾音が自己新の1時間29分44秒/WA競歩ツアー

5月18日に世界陸連(WA)競歩ツアー・ゴールドの第37回ラ・コルーニャ国際グランプリ(スペイン)が行われ、男子20km競歩の山西利和(愛知製鋼)が1時間17分47秒で5年ぶり2回目の優勝を飾った。 同大会はゴールドラベ […]

NEWS 男子400m中島佑気ジョセフが45秒63のシーズンベスト ノーマン44秒53で快勝/ロサンゼルスGP

2024.05.19

男子400m中島佑気ジョセフが45秒63のシーズンベスト ノーマン44秒53で快勝/ロサンゼルスGP

5月18日、WAコンチネンタルツアー・ゴールド第3戦のロサンゼルスGPが米国カリフォルニア州で行われ、男子400mの中島佑気ジョセフ(富士通)が45秒63のシーズンベストで7位に入った。 この春に社会人となった中島は5月 […]

NEWS 5000m競歩で濱西諒が4年ぶり日本新!デーデー・ブルーノが100m10秒32で快勝!男女1500mで大会新ラッシュ/東日本実業団

2024.05.19

5000m競歩で濱西諒が4年ぶり日本新!デーデー・ブルーノが100m10秒32で快勝!男女1500mで大会新ラッシュ/東日本実業団

◇第66回東日本実業団選手権(5月18日~19日/埼玉・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場) 東日本実業団選手権の1日目が行われ、男子5000m競歩で濱西諒(サンベルクス)が18分16秒97の日本新記録をマークした。従来の記 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2024年6月号 (5月14日発売)

2024年6月号 (5月14日発売)

別冊付録学生駅伝ガイド

page top