2025.05.22

今年9月、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。
これまで数々のスーパースター、名勝負が生まれた世界陸上の各大会の様子を紹介する『世界陸上プレイバック』。2003年にフランスのパリで行われた第9回大会を振り返る。
18歳・キプチョゲが5000mで大金星
史上空前の争いとなったのが男子5000m。1500mの世界記録保持者で、今大会4連覇を達成したヒシャム・エルゲルージ(モロッコ)、10000mを26分49秒57の大会新で制したケネニサ・ベケレ(エチオピア)に、18歳の新鋭エリウド・キプチョゲ(ケニア)が挑む構図となった。
レースは前半からベケレが先頭を引っ張り、最初の1000mを2分31秒94のハイペースで通過。その後はペースが落ち着き、残り2周でスパート勝負に分があるエルゲルージが先頭に立つ。勝負は決したかのように見えたが、残り100mでキプチョゲが追い上げる。
キプチョゲがフィニッシュ寸前でエルゲルージを交わし、12分52秒79の大会新記録で金メダルを獲得。0.04秒差でエルゲルージが続き、3位にベケレが入った。
18歳にして世界のトップに立ったキプチョゲは、その後もトラックやマラソンで活躍。マラソンでは世界記録を2度更新し、非公認でも人類初の2時間切りを達成した。40歳になった今もなお、世界トップクラスのランナーとして活躍している。
男子競歩の2種目では世界記録が誕生した。50km競歩は35歳のロベルト・コジェニョフスキ(ポーランド)が自身の持つ世界記録を36秒上回る3時間36分03秒で3連覇に花を添えた。
1997年アテネ大会と2001年エドモントン大会は終盤のスパート勝負を制するレースパターンだったが、今回は22km付近でペースアップし、先頭集団から抜け出す。30kmの時点では世界記録から41秒遅れていたが、40kmでは14秒まで縮まっていた。
だが、簡単に勝たせてはもらえない。ゲルマン・スクリギン(ロシア)が終盤に猛追を見せ、45kmの時点で6秒差まで詰め寄られる。それでも持ち味のラストスパートを炸裂させ、最終的には39秒差をつけて優勝した。
コジェニョフスキとってこれが最後の世界陸上となり、翌年のアテネ五輪でも金メダルに輝き、現役から退いた。
20km競歩ではジェファーソン・ペレス(エクアドル)が1時間17分21秒で金メダルを獲得。フランシスコ・ハビエル・フェルナンデス(スペイン)が保持していた世界記録を1秒更新した。レースは世界記録保持者のフェルナンデスが前半からリード。10kmの時点で2位のペレスに32秒差をつけていた。しかし、ペレスが後半にペースを上げ、15kmの時点で16秒差に迫ると、17km付近で逆転。前半が39分10秒、後半が38分11秒というネガティブスプリットで世界新記録を打ち立てた。
男子110mハードルではアレン・ジョンソン(米国)が13秒12(+0.3)で2大会連続4回目の金メダルを獲得。ハードルを多く倒すことから「ハードルなぎ倒し男」の異名を持っていた。
女子七種競技は1999年セビリア大会を制した地元・フランスのユニス・バルベルが2大会ぶり金メダルを期待されていた。しかし、20歳のカロリナ・クリュフト(スウェーデン)が自己ベストを300点以上更新する7001点で優勝。史上3人目の7000点超えとなった。
それでもバルベルは走幅跳で6m99(+0.4)を跳んで金メダルを獲得し、見事な巻き返しに国中が湧いた。またフランスは男子4×400mリレーと女子4×100mリレーでも優勝し、3つの金メダルを獲得するなど大会を盛り上げた。
200m・末續慎吾が同種目初のメダル
日本からは男子28選手、女子21選手が出場。史上最多の4つのメダルを獲得し、8つの入賞を果たす活躍ぶりだった。
今も伝説として語り継がれのが男子200mの末續慎吾(ミズノ)。20秒38(+0.1)で3位となり、男子スプリント種目で日本勢初のメダル獲得者となった。
同年の日本選手権で現在も破られていない20秒03(+0.6)の日本記録を樹立した末續。準決勝で20秒22(+0.0)のセカンドベスト(当時)をマークして、日本人初のファイナル進出を果たした。
決勝ではスタートの際に脚の位置で審判から注意を受け、その影響からかスタートはやや出遅れたが、中盤から上位争いに加わる。「途中で脚がちぎれそうになった」とレース後に語るほどの懸命な走りで、フィニッシュラインに駆け込んだ。
1位のジョン・カペル(米国)、2位のダービス・パットン(米国)はすぐ電光掲示板に表示されたが、3位がなかなか表示されない。それだけ混戦だったのだ。
約1分半後に結果が表示され、末續の銅メダルが確定。4位の選手とはわずか0.01秒差だった。結果を知ると、末續は高野進コーチのもとに駆け寄り、抱き合いながら涙を流して喜んだ。

男子200mで銅メダルを獲得した末續慎吾
2人は東海大の先輩。後輩の関係にあたり、1991年東京大会の400mで高野が世界陸上の短距離種目で初の決勝進出(7位)。メダルの夢を後輩に託し、それが実現した瞬間だった。
女子マラソンでは野口みずき(グローバリー)が2時間24分14秒で銀メダル、千葉真子(豊田自動織機)が2時間25分09秒で銅メダルを獲得。坂本直子(天満屋)も2時間25分25秒で4位に入り、日本のレベルの高さを世界に見せつけた。
レースは33km付近でキャサリン・ヌデレバ(ケニア)がスパート。野口、千葉、坂本は懸命に追いかけるも、ヌデレバには誰も追いつくことができなかった。それでも3人は最後までペースは落ちることなく、団体で金メダルに輝いた。
男子ハンマー投では室伏広治(ミズノ)が80m12で銅メダル。前回から順位を一つ落としたが、2大会連続メダルの快挙だった。
室伏は6月に当時世界歴代3位となる84m86をマーク。優勝候補にも挙がっていたが、大会直前に腰や右腕を負傷して本調子ではなかった。
それでも1投目から79m87を投げると、5投目に80m12まで記録を伸ばす。2位から5位まで68㎝にひしめく大混戦の中でメダルを勝ち取った。
男子マラソンでは中国電力トリオが躍動。油谷繁が2時間9分26秒で5位入賞。さらに佐藤敦之が2時間10分38秒で10位、尾方剛が2時間10分39秒で12位となり、女子と同様に団体で金メダルを獲得している。
男子4×100mリレーは、土江寛裕(富士通)、宮崎久(ビケンテクノ)、松田亮(広島経大)、朝原宣治(大阪ガス)のオーダーで挑み39秒05で6位。4×400mリレーでは山口有希(東海大)、山村貴彦(富士通)、田端健児(ミズノ)、佐藤光浩(仙台大)が出場し、3分03秒15で7位入賞を果たした。
18歳・キプチョゲが5000mで大金星
史上空前の争いとなったのが男子5000m。1500mの世界記録保持者で、今大会4連覇を達成したヒシャム・エルゲルージ(モロッコ)、10000mを26分49秒57の大会新で制したケネニサ・ベケレ(エチオピア)に、18歳の新鋭エリウド・キプチョゲ(ケニア)が挑む構図となった。 レースは前半からベケレが先頭を引っ張り、最初の1000mを2分31秒94のハイペースで通過。その後はペースが落ち着き、残り2周でスパート勝負に分があるエルゲルージが先頭に立つ。勝負は決したかのように見えたが、残り100mでキプチョゲが追い上げる。 キプチョゲがフィニッシュ寸前でエルゲルージを交わし、12分52秒79の大会新記録で金メダルを獲得。0.04秒差でエルゲルージが続き、3位にベケレが入った。 18歳にして世界のトップに立ったキプチョゲは、その後もトラックやマラソンで活躍。マラソンでは世界記録を2度更新し、非公認でも人類初の2時間切りを達成した。40歳になった今もなお、世界トップクラスのランナーとして活躍している。 男子競歩の2種目では世界記録が誕生した。50km競歩は35歳のロベルト・コジェニョフスキ(ポーランド)が自身の持つ世界記録を36秒上回る3時間36分03秒で3連覇に花を添えた。 1997年アテネ大会と2001年エドモントン大会は終盤のスパート勝負を制するレースパターンだったが、今回は22km付近でペースアップし、先頭集団から抜け出す。30kmの時点では世界記録から41秒遅れていたが、40kmでは14秒まで縮まっていた。 だが、簡単に勝たせてはもらえない。ゲルマン・スクリギン(ロシア)が終盤に猛追を見せ、45kmの時点で6秒差まで詰め寄られる。それでも持ち味のラストスパートを炸裂させ、最終的には39秒差をつけて優勝した。 コジェニョフスキとってこれが最後の世界陸上となり、翌年のアテネ五輪でも金メダルに輝き、現役から退いた。 20km競歩ではジェファーソン・ペレス(エクアドル)が1時間17分21秒で金メダルを獲得。フランシスコ・ハビエル・フェルナンデス(スペイン)が保持していた世界記録を1秒更新した。レースは世界記録保持者のフェルナンデスが前半からリード。10kmの時点で2位のペレスに32秒差をつけていた。しかし、ペレスが後半にペースを上げ、15kmの時点で16秒差に迫ると、17km付近で逆転。前半が39分10秒、後半が38分11秒というネガティブスプリットで世界新記録を打ち立てた。 男子110mハードルではアレン・ジョンソン(米国)が13秒12(+0.3)で2大会連続4回目の金メダルを獲得。ハードルを多く倒すことから「ハードルなぎ倒し男」の異名を持っていた。 女子七種競技は1999年セビリア大会を制した地元・フランスのユニス・バルベルが2大会ぶり金メダルを期待されていた。しかし、20歳のカロリナ・クリュフト(スウェーデン)が自己ベストを300点以上更新する7001点で優勝。史上3人目の7000点超えとなった。 それでもバルベルは走幅跳で6m99(+0.4)を跳んで金メダルを獲得し、見事な巻き返しに国中が湧いた。またフランスは男子4×400mリレーと女子4×100mリレーでも優勝し、3つの金メダルを獲得するなど大会を盛り上げた。200m・末續慎吾が同種目初のメダル
日本からは男子28選手、女子21選手が出場。史上最多の4つのメダルを獲得し、8つの入賞を果たす活躍ぶりだった。 今も伝説として語り継がれのが男子200mの末續慎吾(ミズノ)。20秒38(+0.1)で3位となり、男子スプリント種目で日本勢初のメダル獲得者となった。 同年の日本選手権で現在も破られていない20秒03(+0.6)の日本記録を樹立した末續。準決勝で20秒22(+0.0)のセカンドベスト(当時)をマークして、日本人初のファイナル進出を果たした。 決勝ではスタートの際に脚の位置で審判から注意を受け、その影響からかスタートはやや出遅れたが、中盤から上位争いに加わる。「途中で脚がちぎれそうになった」とレース後に語るほどの懸命な走りで、フィニッシュラインに駆け込んだ。 1位のジョン・カペル(米国)、2位のダービス・パットン(米国)はすぐ電光掲示板に表示されたが、3位がなかなか表示されない。それだけ混戦だったのだ。 約1分半後に結果が表示され、末續の銅メダルが確定。4位の選手とはわずか0.01秒差だった。結果を知ると、末續は高野進コーチのもとに駆け寄り、抱き合いながら涙を流して喜んだ。 [caption id="attachment_170853" align="alignnone" width="800"]
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