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2022.11.30

【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第27回「箱根駅伝が醸し出す文化~選手・関係者・ファンが〝共創〟するために~」


山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第27回「箱根駅伝が醸し出す文化~選手・関係者・ファンが〝共創〟するために~」

醸す(かもす)という言葉がある。

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麹(こうじ)を発酵させて酒や醤油などを作る過程や、醸造する時に使われる言葉だ。あるいは特有の文化や雰囲気を生み出すことにも使われる。

「醸し出す」と表現すれば、人や物がその場特有の雰囲気を作り出す場合などに用いられる。

100年の歴史を紡いできた箱根駅伝はどのようなスポーツ文化を“醸して”きたのだろうか。はたまた、「新春の風物詩」とまで形容されるようになったのは、どのような雰囲気を“醸し出して”いるからなのだろうか?

腕を組み、しばし沈思黙考……。

歴史を振り返れば、戦禍を耐え、地震や災害を凌ぎ、過去様々な困難を乗り越え、その時代の叡智と献身により今日を迎えているからだろう。

箱根駅伝(予選会を含む)は過去3年間を振り返るだけでも、感染症対策を施しつつ、厳しい自己規制のなか、様々な問題点をはらみながらも多くの方のご協力により無事開催することができた。心から感謝を申し上げたい。

過去から学び、今後を見据えるとすれば、99回大会も感染状況など社会情勢を鑑みて、安心・安全を極力担保した運営を心がけなければならないと気の引き締まる思いだ。

例えば、10月に行われた予選会は、3年ぶりに同じ立川自衛隊駐屯地スタート、立川市街地を経て国営昭和記念公園でフィニッシュするコースでの開催となった。

しかし、コロナ感染症拡大以前の開催方法に戻すということではなかった。大切なことは、コロナ禍の中にあって開催してきた知見をもとに、現在までの社会状況を俯瞰し、これからのスポーツ文化の醸成のための開催方法を実施するべきである。そう捉え、運営の一端を担わせていただいた。

10月の箱根駅伝予選会は3年ぶりに国営昭和記念公園をフィニッシュするコースで開催

そして、いよいよ1ヵ月後に迫った箱根駅伝を新たな視点で捉えてみたいとペンを取った。

箱根駅伝を開催するにあたり、箱根駅伝がどのような大会であるかを再確認する必要があると考えたからだ。

箱根駅伝は東京・大手町を起点に首都圏を開催地とする広域・大規模・移動型競技会である。しかも、完全生中継や報道体制の充実もあり、広く世間に対する拡散力や影響力を持った競技会であることを再認識しなければならない。

生活や経済活動の基盤である幹線道路を使用しての競技会開催は、安心・安全を担保するためにも交通機関や人の流れと同時に、感染症対策などさらなる困難を解決した中で運営しなければならない宿命にあると言っても過言ではない。

公道を使用する競技でもあるので、警視庁・神奈川県警は総力を上げて交通規制及び走路上の走者の安全確保に努めていただいている。さらには、道路以外の歩道又はそれに隣接する施設等での雑踏整備及び警備に関しても、大会主催者が今まで以上に責任を持って対応していかなければならないこととなる。

特に主要交通機関であるコース沿線の、J R・小田急・箱根登山鉄道の車両や駅構内と併せて、一般道と高速道路等の混雑は年々増加傾向にある。それらをふまえて利用者はもちろん、観戦者・地域住民・商業施設に対する安全と環境を阻害する行為など対処しなければならない事案も散見されてきている。

たとえ小さな事案であっても複合的かつ度重なる蓄積や長期にわたる未改善案件や放置事案などが散発することがあってはならない。

100年の歴史を紡いできた箱根駅伝の開催運営は、まさに醸造家が酒やワイン・味噌や醤油を“醸す”ように慈しみ、発酵に適切な環境を保つことによって個性あふれる作品に“醸し出す”作業にも通じるものがある。

スポーツを「する・みる・支える」と言う立場の違いはあれど、三者が協力し合い“競走”を応援する人たちに支えられ、がんばる“協創”。そして大会を運営する役員補助員などを含めた“共創”となるよう一体となってこそ、箱根駅伝という大会が持つスポーツの文化が“醸し出される”のだと思う。

大会を終えた時、すべての選手たちの健闘ぶりが存分に称えられる大会として、そしてそれを支えるすべての関係者やファンの皆様方が誇りに思える大会を開催(協奏)したいと願っている。
※「物議を醸す」事態だけは避けたいものである……。

100年間の歴史を紡いできた箱根駅伝。写真は山梨学院大が初優勝した1992年大会6区(廣瀬諭史)

さてさて、箱根駅伝話題でとらわれてしまいそうになるが、年末には中学駅伝・高校駅伝の全国大会も控えている。

いずれもレベルアップの波がグングン押し上げるように迫ってくる気配を感じている。

そんななか、指導者としてがんばっている教え子の明るいニュースが飛び込んできた。

全中駅伝出場をかけ、激戦の千葉県大会において、大会新記録で出場を決めたのが柏市立酒井根中学。指導に当たっているのは山梨学院大学(2009~13年)で主務を務めた小川健太先生だ。

法学部で社会科の教員免許は取得していたが、当時はまだ山梨学院大学にスポーツ科学部がなかった時代だったので、科目等履修生として山梨大学に通い、保健体育の教員免許を修得した。

その後は山梨県の白根巨摩中学で常勤講師(14~18年)を務めながら、男女とも全中駅伝のスタートラインに立たせた指導実績もある。千葉県の柏日体(現・日体大柏)高校出身ということもあり、千葉県教員採用試験を受けたところ無事合格。採用先の酒井根中学で4年目の快挙である。

千葉県中学駅伝を大会新記録で制して全中駅伝出場を決めた酒井根中

そして、先日行われた日体大長距離競技会において5000mの高校記録(13分22秒99)を樹立した長野・佐久長聖高校の吉岡大翔君を指導する高見澤勝先生。彼も商業科目の教員免許を取得して2004年に本学を卒業したものの、実業団で競技を継続しつつ、山梨学院で再度科目等履修生として情報処理の資格を習得し、母校・佐久長聖高校の教員として両角速監督の後を引き継いでいる。

資格習得のために講義を受講しつつ、大学のグラウンドでは実業団ランナーとしてトレーニングに励む姿が印象に残っている。特に、北海道マラソンに向けて40km走をグラウンドの外周1kmコースで、給水等マネージャーや後輩の手を借りず黙々とやり遂げた姿を見て、きっと両角先生の後を引き継いでもしっかりやって行けるだろうと確信したことを思い出した。(教員1年目の2008年北海道マラソン2時間12分10秒で優勝)

11月13日の日体大長距離競技会にて。5000mの高校記録を樹立した吉岡大翔選手(中央)と高見澤勝先生(左)

指導する畑の違いはあれど、お二人とも苦労と努力の末に教員採用の道へと進んでいる。選手やチームを作り上げる情熱ある指導者の存在があってこそ、そこで学んだ選手たちが次のステージへと進む道が開けることは共通している。

彼らのように中学・高校で選手育成の情熱を注ぎ込む指導者がおられることで、輝きを増す箱根駅伝のステージでもあると言える。さらに言えば、日本の長距離界を支える原動力とも言えるのではないだろうか。

先ほど語らせていただいたように「すべての関係者やファンの皆様方が誇りに思える大会を開催したい」との思いは、中学や高校で日夜ご指導にあたられている情熱ある指導者たちの支えがあってのことであることも見逃すことはできない。

上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第27回「箱根駅伝が醸し出す文化~選手・関係者・ファンが〝共創〟するために~」

醸す(かもす)という言葉がある。麹(こうじ)を発酵させて酒や醤油などを作る過程や、醸造する時に使われる言葉だ。あるいは特有の文化や雰囲気を生み出すことにも使われる。「醸し出す」と表現すれば、人や物がその場特有の雰囲気を作り出す場合などに用いられる。100年の歴史を紡いできた箱根駅伝はどのようなスポーツ文化を“醸して”きたのだろうか。はたまた、「新春の風物詩」とまで形容されるようになったのは、どのような雰囲気を“醸し出して”いるからなのだろうか?腕を組み、しばし沈思黙考……。歴史を振り返れば、戦禍を耐え、地震や災害を凌ぎ、過去様々な困難を乗り越え、その時代の叡智と献身により今日を迎えているからだろう。箱根駅伝(予選会を含む)は過去3年間を振り返るだけでも、感染症対策を施しつつ、厳しい自己規制のなか、様々な問題点をはらみながらも多くの方のご協力により無事開催することができた。心から感謝を申し上げたい。過去から学び、今後を見据えるとすれば、99回大会も感染状況など社会情勢を鑑みて、安心・安全を極力担保した運営を心がけなければならないと気の引き締まる思いだ。例えば、10月に行われた予選会は、3年ぶりに同じ立川自衛隊駐屯地スタート、立川市街地を経て国営昭和記念公園でフィニッシュするコースでの開催となった。しかし、コロナ感染症拡大以前の開催方法に戻すということではなかった。大切なことは、コロナ禍の中にあって開催してきた知見をもとに、現在までの社会状況を俯瞰し、これからのスポーツ文化の醸成のための開催方法を実施するべきである。そう捉え、運営の一端を担わせていただいた。10月の箱根駅伝予選会は3年ぶりに国営昭和記念公園をフィニッシュするコースで開催そして、いよいよ1ヵ月後に迫った箱根駅伝を新たな視点で捉えてみたいとペンを取った。箱根駅伝を開催するにあたり、箱根駅伝がどのような大会であるかを再確認する必要があると考えたからだ。箱根駅伝は東京・大手町を起点に首都圏を開催地とする広域・大規模・移動型競技会である。しかも、完全生中継や報道体制の充実もあり、広く世間に対する拡散力や影響力を持った競技会であることを再認識しなければならない。生活や経済活動の基盤である幹線道路を使用しての競技会開催は、安心・安全を担保するためにも交通機関や人の流れと同時に、感染症対策などさらなる困難を解決した中で運営しなければならない宿命にあると言っても過言ではない。公道を使用する競技でもあるので、警視庁・神奈川県警は総力を上げて交通規制及び走路上の走者の安全確保に努めていただいている。さらには、道路以外の歩道又はそれに隣接する施設等での雑踏整備及び警備に関しても、大会主催者が今まで以上に責任を持って対応していかなければならないこととなる。特に主要交通機関であるコース沿線の、J R・小田急・箱根登山鉄道の車両や駅構内と併せて、一般道と高速道路等の混雑は年々増加傾向にある。それらをふまえて利用者はもちろん、観戦者・地域住民・商業施設に対する安全と環境を阻害する行為など対処しなければならない事案も散見されてきている。たとえ小さな事案であっても複合的かつ度重なる蓄積や長期にわたる未改善案件や放置事案などが散発することがあってはならない。100年の歴史を紡いできた箱根駅伝の開催運営は、まさに醸造家が酒やワイン・味噌や醤油を“醸す”ように慈しみ、発酵に適切な環境を保つことによって個性あふれる作品に“醸し出す”作業にも通じるものがある。スポーツを「する・みる・支える」と言う立場の違いはあれど、三者が協力し合い“競走”を応援する人たちに支えられ、がんばる“協創”。そして大会を運営する役員補助員などを含めた“共創”となるよう一体となってこそ、箱根駅伝という大会が持つスポーツの文化が“醸し出される”のだと思う。大会を終えた時、すべての選手たちの健闘ぶりが存分に称えられる大会として、そしてそれを支えるすべての関係者やファンの皆様方が誇りに思える大会を開催(協奏)したいと願っている。 ※「物議を醸す」事態だけは避けたいものである……。100年間の歴史を紡いできた箱根駅伝。写真は山梨学院大が初優勝した1992年大会6区(廣瀬諭史)さてさて、箱根駅伝話題でとらわれてしまいそうになるが、年末には中学駅伝・高校駅伝の全国大会も控えている。いずれもレベルアップの波がグングン押し上げるように迫ってくる気配を感じている。そんななか、指導者としてがんばっている教え子の明るいニュースが飛び込んできた。全中駅伝出場をかけ、激戦の千葉県大会において、大会新記録で出場を決めたのが柏市立酒井根中学。指導に当たっているのは山梨学院大学(2009~13年)で主務を務めた小川健太先生だ。法学部で社会科の教員免許は取得していたが、当時はまだ山梨学院大学にスポーツ科学部がなかった時代だったので、科目等履修生として山梨大学に通い、保健体育の教員免許を修得した。その後は山梨県の白根巨摩中学で常勤講師(14~18年)を務めながら、男女とも全中駅伝のスタートラインに立たせた指導実績もある。千葉県の柏日体(現・日体大柏)高校出身ということもあり、千葉県教員採用試験を受けたところ無事合格。採用先の酒井根中学で4年目の快挙である。千葉県中学駅伝を大会新記録で制して全中駅伝出場を決めた酒井根中そして、先日行われた日体大長距離競技会において5000mの高校記録(13分22秒99)を樹立した長野・佐久長聖高校の吉岡大翔君を指導する高見澤勝先生。彼も商業科目の教員免許を取得して2004年に本学を卒業したものの、実業団で競技を継続しつつ、山梨学院で再度科目等履修生として情報処理の資格を習得し、母校・佐久長聖高校の教員として両角速監督の後を引き継いでいる。資格習得のために講義を受講しつつ、大学のグラウンドでは実業団ランナーとしてトレーニングに励む姿が印象に残っている。特に、北海道マラソンに向けて40km走をグラウンドの外周1kmコースで、給水等マネージャーや後輩の手を借りず黙々とやり遂げた姿を見て、きっと両角先生の後を引き継いでもしっかりやって行けるだろうと確信したことを思い出した。(教員1年目の2008年北海道マラソン2時間12分10秒で優勝)11月13日の日体大長距離競技会にて。5000mの高校記録を樹立した吉岡大翔選手(中央)と高見澤勝先生(左)指導する畑の違いはあれど、お二人とも苦労と努力の末に教員採用の道へと進んでいる。選手やチームを作り上げる情熱ある指導者の存在があってこそ、そこで学んだ選手たちが次のステージへと進む道が開けることは共通している。彼らのように中学・高校で選手育成の情熱を注ぎ込む指導者がおられることで、輝きを増す箱根駅伝のステージでもあると言える。さらに言えば、日本の長距離界を支える原動力とも言えるのではないだろうか。先ほど語らせていただいたように「すべての関係者やファンの皆様方が誇りに思える大会を開催したい」との思いは、中学や高校で日夜ご指導にあたられている情熱ある指導者たちの支えがあってのことであることも見逃すことはできない。
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。

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