2022.01.27

2022年の箱根駅伝で光り輝いた大学生ランナーたち。最終学年を迎えた選手の中には実業団に進んで世界を目指す選手もいれば、ここを区切りに新たな道へ進む学生もいる。お届けするのは、最後の箱根駅伝できらりと光った4年生たち幾人かの物語――。
5区への未練は「まったくない」
「福神漬けのような存在です」
駒大・大八木弘明監督は佃康平(4年)をこう評する。「メインのカレーライスではない。でも、その脇になくてはならない存在なんです」。
出雲駅伝では、1、2年生を起用するために佃が外れてくれた。全日本大学駅伝は前半最重要の3区に適役がいなくて、『佃ならなんとかしてくれる』とチーム事情を背負ってくれた。
そして箱根駅伝。4年生でただ1人出走した佃は、「6区」を務めた。大会1ヵ月前。大八木監督は「下りは秘密兵器がいる」と語っていたが、その正体が佃だった。
意外だった。12月上旬、佃自らは「僕が5区に入ることで平地の爆発力が増す。チームのためにも5区を向けた強化を進めています」と語っていたからだ。
当初のエントリー補欠枠。平地と特殊区間のどちらもこなせる佃が、リスク管理のためにも補員として登録されたのは自然なこと。1月2日の往路。5区は金子伊吹(2年)がそのまま出走した。翌日、佃はどこを走るのか。経験がある8区に入るのだろうか――。
これも違った。佃は1年の篠原倖太朗と交代する形で6区に入ったのだ。
「僕が5区を走れるかどうかが、チーム成績のカギだと感じています」との言葉に、嘘偽りはない。佃自身、故障がちだった1、2年目を経て、3年時に5区を目標に定めてから、どんどん力がついてきた。「5区を走るための練習を、自分なりに考えて取り組んできました。3年時は5区ではなかったのですが、それが8区に生きて、しっかり安定した走りができたと思います」。前回は8区4位。創価大を22秒詰め、逆転優勝への布石となった。そしてさらに1年、再び「5区」を目指してきた。
急転したのは12月に入ってから。大八木監督が裏事情を説明する。「金子がどんどん伸びてきて、佃と遜色のないところまできました。どちらがよいのかと悩んでいたのですが、佃は下りも速いんですよ。もしかして、下り(6区)をやってみたらいけるんじゃないかと」。
6区の準備をしていた選手たちがやや精細を欠いたこともあり、佃を抜擢した。ずっと目指してきた5区への未練はなかったのだろうか。
「まったくありませんでした」。佃はきっぱりと答えた。「チームの必要なところに置いてもらえれば、それが自分にとってうれしいことです」と。
後輩たちの活躍がうれしい
大八木監督の中には構想があったが、実際に6区出走が佃に伝えられたのは12月10日。準備は限られている。「12月に入って調子が戻り始めて、どの区間でも安定して走れる自信はありました。いつも通りの調整を行う中で、自分で坂道を少し走ってみたり、動画を観てイメージしたりしました」。往路3位を受け、佃は3分28秒先行する青学大、51秒先の2位・帝京大を追ってスタート。しかし得意なはずの前半5kmが伸びない。
「気温の低さと緊張ではじめは身体が動かなくて……」。焦りはあったが、「復路の平地に入った後輩たちに前の見える位置で走ってもらいたい」との思いが勝る。
急坂を駆け下りるうちに、コツをつかんできた。「下りは限界を決めなければいける」。帝京大を抜いて2位へ浮上。青学大との差も10秒詰めた。58分53秒で区間6位タイ。堂々とスペシャリストに割って入る成績だった。
「上りで強みを出すことができませんでしたが、悔いはありません。この時の100%は出すことができました」。7区の白鳥哲汰(2年)には「任せた!」と叫んでタスキを託した。白鳥に向けた発破は、次の駒大時代を創る後輩たち全員に伝わっただろう。
千葉・市船橋高時代は5000m14分39秒66がベスト。全国高校駅伝では2年時に6区区間3位と好成績だったが、トラックではインターハイも出られず。決してエリートではなかった。
「入学した頃は実力もなく、人間もできていなくて、チームにとても迷惑をかけてきました。3年、4年と上がるにつれてチームのことを考えて行動するようになってから、自分自身の力が少しずつ花開いてきたんです」
今年度は主将の座を3年生の田澤廉に譲ることになり、4年生の一員として責任を感じた。田澤を全力でサポート。練習では前に出て「後輩を引っ張る」役目を買ってきた。
自分の走り以外では何が印象的だったかと問われ、「やっぱり、後輩たちが活躍してくれたことが一番うれしいです。彼らが1年の頃から見てきているので、親心のような気持ちが芽生えています」と、照れ笑い混じりに答えた。
卒業後は一線を退き、千葉県警に務める。スター軍団の中にも、こうして時代のタスキをつなぐ“なくてはならない”選手がいる。

佃康平(つくだ・こうへい:駒大)/1999年7月16日生まれ。千葉県鎌ケ谷市出身。市船橋高卒。自己ベストは5000m13分59秒51、10000m29分15秒94、ハーフ1時間4分47秒。
文/奥村 崇
※一部記事の誤りを修正し、表現を変更しました。
2022年の箱根駅伝で光り輝いた大学生ランナーたち。最終学年を迎えた選手の中には実業団に進んで世界を目指す選手もいれば、ここを区切りに新たな道へ進む学生もいる。お届けするのは、最後の箱根駅伝できらりと光った4年生たち幾人かの物語――。5区への未練は「まったくない」
「福神漬けのような存在です」駒大・大八木弘明監督は佃康平(4年)をこう評する。「メインのカレーライスではない。でも、その脇になくてはならない存在なんです」。出雲駅伝では、1、2年生を起用するために佃が外れてくれた。全日本大学駅伝は前半最重要の3区に適役がいなくて、『佃ならなんとかしてくれる』とチーム事情を背負ってくれた。そして箱根駅伝。4年生でただ1人出走した佃は、「6区」を務めた。大会1ヵ月前。大八木監督は「下りは秘密兵器がいる」と語っていたが、その正体が佃だった。意外だった。12月上旬、佃自らは「僕が5区に入ることで平地の爆発力が増す。チームのためにも5区を向けた強化を進めています」と語っていたからだ。当初のエントリー補欠枠。平地と特殊区間のどちらもこなせる佃が、リスク管理のためにも補員として登録されたのは自然なこと。1月2日の往路。5区は金子伊吹(2年)がそのまま出走した。翌日、佃はどこを走るのか。経験がある8区に入るのだろうか――。これも違った。佃は1年の篠原倖太朗と交代する形で6区に入ったのだ。「僕が5区を走れるかどうかが、チーム成績のカギだと感じています」との言葉に、嘘偽りはない。佃自身、故障がちだった1、2年目を経て、3年時に5区を目標に定めてから、どんどん力がついてきた。「5区を走るための練習を、自分なりに考えて取り組んできました。3年時は5区ではなかったのですが、それが8区に生きて、しっかり安定した走りができたと思います」。前回は8区4位。創価大を22秒詰め、逆転優勝への布石となった。そしてさらに1年、再び「5区」を目指してきた。急転したのは12月に入ってから。大八木監督が裏事情を説明する。「金子がどんどん伸びてきて、佃と遜色のないところまできました。どちらがよいのかと悩んでいたのですが、佃は下りも速いんですよ。もしかして、下り(6区)をやってみたらいけるんじゃないかと」。6区の準備をしていた選手たちがやや精細を欠いたこともあり、佃を抜擢した。ずっと目指してきた5区への未練はなかったのだろうか。「まったくありませんでした」。佃はきっぱりと答えた。「チームの必要なところに置いてもらえれば、それが自分にとってうれしいことです」と。後輩たちの活躍がうれしい
大八木監督の中には構想があったが、実際に6区出走が佃に伝えられたのは12月10日。準備は限られている。「12月に入って調子が戻り始めて、どの区間でも安定して走れる自信はありました。いつも通りの調整を行う中で、自分で坂道を少し走ってみたり、動画を観てイメージしたりしました」。往路3位を受け、佃は3分28秒先行する青学大、51秒先の2位・帝京大を追ってスタート。しかし得意なはずの前半5kmが伸びない。「気温の低さと緊張ではじめは身体が動かなくて……」。焦りはあったが、「復路の平地に入った後輩たちに前の見える位置で走ってもらいたい」との思いが勝る。急坂を駆け下りるうちに、コツをつかんできた。「下りは限界を決めなければいける」。帝京大を抜いて2位へ浮上。青学大との差も10秒詰めた。58分53秒で区間6位タイ。堂々とスペシャリストに割って入る成績だった。「上りで強みを出すことができませんでしたが、悔いはありません。この時の100%は出すことができました」。7区の白鳥哲汰(2年)には「任せた!」と叫んでタスキを託した。白鳥に向けた発破は、次の駒大時代を創る後輩たち全員に伝わっただろう。千葉・市船橋高時代は5000m14分39秒66がベスト。全国高校駅伝では2年時に6区区間3位と好成績だったが、トラックではインターハイも出られず。決してエリートではなかった。「入学した頃は実力もなく、人間もできていなくて、チームにとても迷惑をかけてきました。3年、4年と上がるにつれてチームのことを考えて行動するようになってから、自分自身の力が少しずつ花開いてきたんです」今年度は主将の座を3年生の田澤廉に譲ることになり、4年生の一員として責任を感じた。田澤を全力でサポート。練習では前に出て「後輩を引っ張る」役目を買ってきた。自分の走り以外では何が印象的だったかと問われ、「やっぱり、後輩たちが活躍してくれたことが一番うれしいです。彼らが1年の頃から見てきているので、親心のような気持ちが芽生えています」と、照れ笑い混じりに答えた。卒業後は一線を退き、千葉県警に務める。スター軍団の中にも、こうして時代のタスキをつなぐ“なくてはならない”選手がいる。
佃康平(つくだ・こうへい:駒大)/1999年7月16日生まれ。千葉県鎌ケ谷市出身。市船橋高卒。自己ベストは5000m13分59秒51、10000m29分15秒94、ハーフ1時間4分47秒。文/奥村 崇※一部記事の誤りを修正し、表現を変更しました。RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2026.10.12
多田修平がこどもたちへ走りのコツを伝授!スポーツ測定イベントに特別講師で参加
2026.10.12
2026.10.08
走高跳・髙橋渚がデサントとアドバイザリー契約「ともにさらなる高みを目指し、挑戦を続ける」
2026.10.12
2026.10.08
走高跳・髙橋渚がデサントとアドバイザリー契約「ともにさらなる高みを目指し、挑戦を続ける」
2026.10.05
ロサンゼルス五輪マラソン代表懸けたMGCのコース発表!名古屋城、テレビ塔をめぐるコースに
2026.09.18
Latest articles 最新の記事
2026.10.12
ダイヤモンドリーグ 2027年の日程が決定!! 5月7日に開幕 ファイナルは8月25日、26日
世界陸連(WA)は10月12日に、2027年のダイヤモンドリーグ(DL)の日程と開催地を発表した。 DLは陸上競技の世界最高峰シリーズとして、例年15試合前後が行われる。各大会の順位に応じてポイントが付与され、シーズン最 […]
2026.10.12
青学大・鳥井健太がコモディイイダに内定 関東インカレハーフ4位 チームメイトの熊井渓人も加入
コモディイイダは10月12日、来春から青学大の鳥井健太と熊井渓人がチームに加入すると発表した。 鳥井は大阪府出身。中学時代に全中、都道府県対抗駅伝に出場し、清風高ではエースとしてインターハイや全国高校駅伝を経験した。 広 […]
2026.10.12
多田修平がこどもたちへ走りのコツを伝授!スポーツ測定イベントに特別講師で参加
10月12日の「スポーツの日」にちなみ、都内で「スマイルおむすび プロジェクト」親子スポーツ測定イベントが開催され、特別ゲストとしてアジア大会代表の多田修平(住友電工)が参加した。多田は講師を務め、子どもたちに走り方のポ […]
2026.10.12
「もうひとつの出雲駅伝」 中大・佐藤蓮が14分01秒82でトップ 「勝ち切れたことは自信になる」/出雲市記録会
出雲駅伝で各大学のメンバー外だった選手たちが出場する第4回出雲市陸協記録会、通称「もうひとつの出雲駅伝」が10月12日に島根県浜山公園補助競技場で行われた。 5000mを2組実施し、計36人が出場。出雲駅伝で5位だった中 […]
2026.10.12
前半攻めた中大は5位「思っているよりも動かなかった」 青学大は2年連続苦戦の11位/出雲駅伝
◇第38回出雲駅伝(10月12日/6区間45.1km:島根・出雲大社正面鳥居前スタート、出雲ドームフィニッシュ) 学生駅伝シーズンの幕開けを告げる出雲駅伝が行われ、早大が2時間5分56秒の大会新記録で16年ぶり3回目の優 […]
Latest Issue
最新号

2026年10月号 (9月14日発売)
アジア大会総展望
山口全中&日本インカレ
サウェ特集
