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2021.05.03

クローズアップ/立命大・壹岐あいこ「辞めたいと思った」から200mで3年ぶり自己新
クローズアップ/立命大・壹岐あいこ「辞めたいと思った」から200mで3年ぶり自己新


5月3日の静岡国際。女子短距離陣のトップ層は遠くポーランドで世界リレーに出場していたため、有力メンバーが不在。そのなかで輝きを放ったのが壹岐あいこ(立命大)だった。女子200mで23秒71(+0.2)をマークして優勝。上半身をしなるように走る独特のフォームで推進力を生むと、「得意」と言う後半で先頭に躍り出る。「持ち味が出せたと思います」。実に3年ぶりの自己ベスト更新だった。

壹岐は滋賀県出身。姉・いちこ(現・ユティック)とともに「壹岐姉妹」として、女子スプリントを沸かせてきた。滋賀・南郷中時代には、2年時に4×100mリレーで頂点に立つと、3年時の北海道全中では200mで中学歴代7位(当時)の24秒50で優勝。100m5位、連覇を狙った4×100mリレーは2位、壹岐は勝っても負けても泣いていた。

姉と同じ京都橘高でも力をつけると、4×100mリレーでは1年時4位、2年時2位と悔し涙に暮れた。迎えた3年の三重インターハイでは、100m6位、4×100mリレー2位、4×400mリレー3位。ここでも目を真っ赤にしていたが、200mでは3年ぶり日本一となる優勝を果たす。23秒78は高校歴代7位(当時)。この記録が、壹岐の背中に大きくのしかかった。

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大学も姉と同じ立命大に進学。「インターハイというのは『特別』というのがあって、大学の間で記録を更新できるか不安でした」。大学1年時の200mのシーズンベストは24秒46。日本選手権こそ7位に入ったが、日本インカレは予選落ち。「高校時代とのギャップもあって辞めたいと思うこともあった」と心境を打ち明ける。

それでも、昨年は100mで11秒62と自己新。日本インカレでも100m2位、200m3位と再び上位争いに顔を出した。「競技をしていて良い時期ばかりではないし、先輩たちや年上の選手が(苦しんだあとに)自己ベストを更新している姿を見て」勇気をもらった。しんどい時期も、「多くの人が応援してくださっているのを実感して、あきらめずにやりたい、と思いました」と言う。

「200mが遅い時は100mが遅い」という壹岐は、100mのスピード強化に特化。その結果、200mで前半から攻める走りができ、得意の後半につながるようになった。「去年は100mで自己新を出せましたが、200mで持ち味を出せなかった」が、静岡国債では「一次加速と二次加速の局面を意識した」というように、「まだもう少し」だったが、それでも大きく遅れることなく、自信を持って加速でき、「100mの通過でもスピードに乗っている感じがありました」と振り返る。

200mでは久しぶりの会心のレースに“涙”ではなく、笑顔。だが、キッとその表情を引き締める。「世界リレーに出場されている上の選手がいらっしゃらないので」と壹岐。世界リレーでは同じく関西の大学生である齋藤愛美(大阪成蹊大)、青山華依(甲南大)といった同じ若い世代が4×100mリレーで、東京五輪と来年のユージン世界選手権の出場権を獲得。「日本代表に選ばれるように、もっと速くなりたい」。日本選手権の結果次第では、メンバー入りの可能性はある。ちなみに、得意なのは200mだが、実は「100mのほうが好き」。泣きじゃくっていた負けず嫌いの少女は、日本女子スプリントを牽引する存在になるべく、さらなる成長を目指して走り続ける。

文/向永拓史

5月3日の静岡国際。女子短距離陣のトップ層は遠くポーランドで世界リレーに出場していたため、有力メンバーが不在。そのなかで輝きを放ったのが壹岐あいこ(立命大)だった。女子200mで23秒71(+0.2)をマークして優勝。上半身をしなるように走る独特のフォームで推進力を生むと、「得意」と言う後半で先頭に躍り出る。「持ち味が出せたと思います」。実に3年ぶりの自己ベスト更新だった。 壹岐は滋賀県出身。姉・いちこ(現・ユティック)とともに「壹岐姉妹」として、女子スプリントを沸かせてきた。滋賀・南郷中時代には、2年時に4×100mリレーで頂点に立つと、3年時の北海道全中では200mで中学歴代7位(当時)の24秒50で優勝。100m5位、連覇を狙った4×100mリレーは2位、壹岐は勝っても負けても泣いていた。 姉と同じ京都橘高でも力をつけると、4×100mリレーでは1年時4位、2年時2位と悔し涙に暮れた。迎えた3年の三重インターハイでは、100m6位、4×100mリレー2位、4×400mリレー3位。ここでも目を真っ赤にしていたが、200mでは3年ぶり日本一となる優勝を果たす。23秒78は高校歴代7位(当時)。この記録が、壹岐の背中に大きくのしかかった。 大学も姉と同じ立命大に進学。「インターハイというのは『特別』というのがあって、大学の間で記録を更新できるか不安でした」。大学1年時の200mのシーズンベストは24秒46。日本選手権こそ7位に入ったが、日本インカレは予選落ち。「高校時代とのギャップもあって辞めたいと思うこともあった」と心境を打ち明ける。 それでも、昨年は100mで11秒62と自己新。日本インカレでも100m2位、200m3位と再び上位争いに顔を出した。「競技をしていて良い時期ばかりではないし、先輩たちや年上の選手が(苦しんだあとに)自己ベストを更新している姿を見て」勇気をもらった。しんどい時期も、「多くの人が応援してくださっているのを実感して、あきらめずにやりたい、と思いました」と言う。 「200mが遅い時は100mが遅い」という壹岐は、100mのスピード強化に特化。その結果、200mで前半から攻める走りができ、得意の後半につながるようになった。「去年は100mで自己新を出せましたが、200mで持ち味を出せなかった」が、静岡国債では「一次加速と二次加速の局面を意識した」というように、「まだもう少し」だったが、それでも大きく遅れることなく、自信を持って加速でき、「100mの通過でもスピードに乗っている感じがありました」と振り返る。 200mでは久しぶりの会心のレースに“涙”ではなく、笑顔。だが、キッとその表情を引き締める。「世界リレーに出場されている上の選手がいらっしゃらないので」と壹岐。世界リレーでは同じく関西の大学生である齋藤愛美(大阪成蹊大)、青山華依(甲南大)といった同じ若い世代が4×100mリレーで、東京五輪と来年のユージン世界選手権の出場権を獲得。「日本代表に選ばれるように、もっと速くなりたい」。日本選手権の結果次第では、メンバー入りの可能性はある。ちなみに、得意なのは200mだが、実は「100mのほうが好き」。泣きじゃくっていた負けず嫌いの少女は、日本女子スプリントを牽引する存在になるべく、さらなる成長を目指して走り続ける。 文/向永拓史

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