2025.09.05

今年9月、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。
これまで数々のスーパースター、名勝負が生まれた世界陸上の各大会の様子を紹介する『世界陸上プレイバック』。2年前の前回大会、ハンガリーのブダペストで行われた第19回大会を振り返る。
ライルズがスプリント3冠
この大会で主役となったのがノア・ライルズ(米国)。2015年北京大会のウサイン・ボルト(ジャマイカ)以来となる100m、200m、4×100mリレーのスプリント3冠を達成した。
日本のアニメ好きで、『ドラゴンボール』の「かめはめ波」や「元気玉」のポーズなどを披露することでも知られているライルズ。
初日の100mは予選を9秒95(-0.6)、決勝の2時間30分前に行われた準決勝は9秒87(+0.3)とそれぞれ組1着で通過し、好調さをアピール。決勝では中盤以降の伸びのある走りで、80m付近でトップに立ち、4年ぶり自己新となる9秒83(±0)で初優勝を飾った。
連覇中だった200mでは、序盤こそ競り合う展開になったが、50mからどんどん加速すると、前半の100mを10秒26のトップで通過。後半もリードを広げ、19秒52(-0.2)で3連覇を成し遂げた。2位ナイトンに0.23秒もの大差をつけた。
4×100mリレーでは4走で出場。1走に2019年ドーハ大会100m金メダルのクリスチャン・コールマン、2走に2022年オレゴン大会100m金メダルのフレッド・カーリー、3走には100m10秒01を持つブランドン・カーンズ、4走がライルズの豪華メンバーでスタートする。
ライルズは3走のカーンズからトップでバトンを受けると一気に突き抜け、先頭でフィニッシュ。右指を3本立てて「3冠」をアピールした。
女子ロングスプリントではフェムケ・ボル(オランダ)が400mハードルと4×400mリレーの2冠。初日の男女混合4×400mリレーでアンカーを務めたボルは、トップを快走していたが、フィニッシュ直前で転倒し途中棄権。レースは米国が3分08秒80の世界新で制した。悔しい開幕となったが、6日目に行われた本職の400mハードルでは、セカンドベストの51秒70で自身初の金メダルに輝く。
最終日に行われた4×400mリレーでも同じく4走を任されたボルは、3番手でバトンを受け取ると、残り50mほどで英国、ラスト5mでジャマイカを大逆転。オランダ新記録となる3分20秒72で母国に五輪・世界陸上通じて同種目初の金メダルをもたらした。
女子中長距離では同年に1500m(3分49秒11)と5000m(14分05秒20)の世界記録を樹立したフェイス・キピエゴン(ケニア)が世界陸上史上初となる1500mと5000mの2冠の偉業を成し遂げた。
2連覇が懸かった1500mでは1周目から先頭に立ち、レースを支配。残り1周でギアを上げ、3分54秒87で連覇を達成した。
5000mでは10000mを制したグダフ・ツェガイ(エチオピア)、ドーハ大会で1500mと10000mの2冠に輝いているシファン・ハッサン(オランダ)らとのマッチレースとなる。残り700mからギアを上げると、ハッサンらの追い上げをかわして、14分53秒88で制した。
ハイレベルな戦いとなった女子スプリント。100mはシャキャーリ・リチャードソン(米国)が世界歴代5位タイの10秒65(-0.2)で優勝。200mはシェリカ・ジャクソン(ジャマイカ)が世界記録にあと0.07に迫る21秒41(+0.1)で2連覇を飾った。
競歩ではスペイン勢が五輪を含めて史上初の4種目完全制覇。男子はアルヴァロ・マルティン、女子はマリア・ペレスがともに2冠に輝いた。
男子砲丸投は世界記録保持者のライアン・クルーザー(米国)が世界記録に5㎝と迫る23m51で2連覇。男子円盤投ではダニエル・ストール(スウェーデン)が大会新記録の71m46で2大会ぶりの金メダルを獲得した。
女子三段跳ではユリマール・ロハス(ベネズエラ)が15m08(±0)で4連覇を達成。女子個人種目での4連覇は砲丸投のV.アダムス(ニュージーランド)以来、史上2人目だった。男子10000mのジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)と男子110mハードルのグラント・ホロウェイ(米国)は3連覇を成し遂げた。
北口が4位から大逆転V
日本からは男子48名、女子28名が出場。金メダル1、銅メダル1を含む過去最多の入賞11という成績を上げた。
女子やり投では北口榛花(JAL)が66m73で金メダルを獲得した。マラソン以外の種目で日本の女子選手が世界一になるのは初めてのことで、投てき種目での優勝は11年テグ大会の男子ハンマー投・室伏広治以来2人目という快挙だった。
7月に67m04の日本新をマークし、堂々のリストトップで大会に臨んだ北口。予選の1投目は59m04に終わるも、2投目に63m27をマークし、組2位で2大会連続のファイナル進出を決める。
決勝では1投目に61m78とまずまずの滑り出しを見せるも、直後にフロル・デニス・ルイス・フルタド(コロンビア)が65m47のビッグアーチ。北口は3投目に63m00を投げて、2位でトップ8に進出した。4投目、5投目はともに62m台をマークするも、記録は伸ばせず、最終6投目に入る直前では4位まで順位を落とした。
追い込まれた運命の最終投てき。北口が放ったやりは高く飛んでいき、暫定首位のフルタドの65m47のラインを大きく越えた。記録は66m73。北口、チームスタッフは歓喜に沸いた。

ブダペスト世界選手権メダルセレモニーで笑顔を見せる北口榛花
2位に落ちたフルタドは最終投てきで記録は伸ばせず、北口の優勝が決定。劇的な逆転勝利で金メダルに輝いた。この年はDLファイナル優勝、世界ランク1位と名実ともに世界一となった。
男子110mハードルでは泉谷駿介(住友電工)が13秒19(±0)で日本人初入賞となる5位に入った。
6月の日本選手権を13秒04の日本新で制していた。予選を組2着で通過すると、準決勝では13秒00のベストを持つ、D.ロバーツ(米国)に競り勝ち、組1着で日本人初の決勝進出を決めた。
決勝ではスタート直後に両脚のふくらはぎをつりながらも、13秒19で5位に入り、ファイナルを駆け抜けた。
サニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)は男子100mで2大会連続の決勝進出を果たした。予選は10秒07(-0.4)で悠々と1着通過。ライルズと同組だった準決勝では9秒97(+0.3)の2着に入り、着順でファイナルを決めた。2大会連続となった決勝は10秒04(±0)で6位となり、前回から順位を一つ上げたが、フィニッシュ後には悔しさをにじませた。
サニブラウンが4走を担った男子4×100mリレーは、坂井隆一郎(大阪ガス)、栁田大輝(東洋大)、小池祐貴(住友電工)、サニブラウンとつなぎ37秒83で5位で、2大会ぶりの入賞となった。
男子35km競歩では川野将虎(旭化成)が2時間25分12秒で銅メダルを獲得。野田明宏(自衛隊体育学校)が2時間25分50秒で6位に入った。
オレゴン大会では金メダルと1秒差の銀メダルだった川野。序盤から冷静に集団の中でレースを進めると、30kmを過ぎてからは20km金メダルのアルヴァロ・マルティン(スペイン)、ブリアン・ダニエル・ピンタド(エクアドル)との三つ巴の優勝争いを展開する。32.5kmを過ぎてから後退したが、2大会連続メダルとなる3位を死守した。
男子3000m障害では三浦龍司(順大)が8分13秒70で6位。前回オレゴン大会は予選落ちに終わったが、7位だった2021年東京五輪に続く世界大会での入賞を果たした。
女子10000mは廣中璃梨佳(日本郵政グループ)が31分35秒12で7位。日本勢では5大会ぶりの入賞となった。女子35km競歩では園田世玲奈(NTN)が2分46秒32で7位。前回のオレゴン大会では9位と惜しくも入賞を逃しており、その悔しさを晴らす結果となった。
男子走高跳は予選を全体トップタイで通過した赤松諒一(アワーズ)が2m25で8位。この種目では前回の真野友博(九電工)に続いて2大会連続で入賞者が誕生した。
女子5000mでは田中希実(New Balance)が14分58秒99で8位。予選では14分37秒98で、従来の日本記録を約12秒も更新した。3大会連続となった決勝は、海外勢のペースの上げ下げに対応した。1997年アテネ大会の弘山晴美(資生堂)以来となる26年ぶりの入賞だった。
男子400mでは佐藤拳太郎(富士通)が予選で日本人2人目の44秒台となる44秒77をマーク。この記録は同種目のレジェンド・髙野進の日本記録を32年ぶりに更新するものだった。続く佐藤風雅(ミズノ)も44秒97を叩き出し、中島佑気ジョセフ(富士通)も含め3人が準決勝へ進んだ。いずれも準決勝の高い壁に阻まれたが、日本ロングスプリント界にとって大きな一歩となった。
ライルズがスプリント3冠
この大会で主役となったのがノア・ライルズ(米国)。2015年北京大会のウサイン・ボルト(ジャマイカ)以来となる100m、200m、4×100mリレーのスプリント3冠を達成した。 日本のアニメ好きで、『ドラゴンボール』の「かめはめ波」や「元気玉」のポーズなどを披露することでも知られているライルズ。 初日の100mは予選を9秒95(-0.6)、決勝の2時間30分前に行われた準決勝は9秒87(+0.3)とそれぞれ組1着で通過し、好調さをアピール。決勝では中盤以降の伸びのある走りで、80m付近でトップに立ち、4年ぶり自己新となる9秒83(±0)で初優勝を飾った。 連覇中だった200mでは、序盤こそ競り合う展開になったが、50mからどんどん加速すると、前半の100mを10秒26のトップで通過。後半もリードを広げ、19秒52(-0.2)で3連覇を成し遂げた。2位ナイトンに0.23秒もの大差をつけた。 4×100mリレーでは4走で出場。1走に2019年ドーハ大会100m金メダルのクリスチャン・コールマン、2走に2022年オレゴン大会100m金メダルのフレッド・カーリー、3走には100m10秒01を持つブランドン・カーンズ、4走がライルズの豪華メンバーでスタートする。 ライルズは3走のカーンズからトップでバトンを受けると一気に突き抜け、先頭でフィニッシュ。右指を3本立てて「3冠」をアピールした。 女子ロングスプリントではフェムケ・ボル(オランダ)が400mハードルと4×400mリレーの2冠。初日の男女混合4×400mリレーでアンカーを務めたボルは、トップを快走していたが、フィニッシュ直前で転倒し途中棄権。レースは米国が3分08秒80の世界新で制した。悔しい開幕となったが、6日目に行われた本職の400mハードルでは、セカンドベストの51秒70で自身初の金メダルに輝く。 最終日に行われた4×400mリレーでも同じく4走を任されたボルは、3番手でバトンを受け取ると、残り50mほどで英国、ラスト5mでジャマイカを大逆転。オランダ新記録となる3分20秒72で母国に五輪・世界陸上通じて同種目初の金メダルをもたらした。 女子中長距離では同年に1500m(3分49秒11)と5000m(14分05秒20)の世界記録を樹立したフェイス・キピエゴン(ケニア)が世界陸上史上初となる1500mと5000mの2冠の偉業を成し遂げた。 2連覇が懸かった1500mでは1周目から先頭に立ち、レースを支配。残り1周でギアを上げ、3分54秒87で連覇を達成した。 5000mでは10000mを制したグダフ・ツェガイ(エチオピア)、ドーハ大会で1500mと10000mの2冠に輝いているシファン・ハッサン(オランダ)らとのマッチレースとなる。残り700mからギアを上げると、ハッサンらの追い上げをかわして、14分53秒88で制した。 ハイレベルな戦いとなった女子スプリント。100mはシャキャーリ・リチャードソン(米国)が世界歴代5位タイの10秒65(-0.2)で優勝。200mはシェリカ・ジャクソン(ジャマイカ)が世界記録にあと0.07に迫る21秒41(+0.1)で2連覇を飾った。 競歩ではスペイン勢が五輪を含めて史上初の4種目完全制覇。男子はアルヴァロ・マルティン、女子はマリア・ペレスがともに2冠に輝いた。 男子砲丸投は世界記録保持者のライアン・クルーザー(米国)が世界記録に5㎝と迫る23m51で2連覇。男子円盤投ではダニエル・ストール(スウェーデン)が大会新記録の71m46で2大会ぶりの金メダルを獲得した。 女子三段跳ではユリマール・ロハス(ベネズエラ)が15m08(±0)で4連覇を達成。女子個人種目での4連覇は砲丸投のV.アダムス(ニュージーランド)以来、史上2人目だった。男子10000mのジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)と男子110mハードルのグラント・ホロウェイ(米国)は3連覇を成し遂げた。北口が4位から大逆転V
日本からは男子48名、女子28名が出場。金メダル1、銅メダル1を含む過去最多の入賞11という成績を上げた。 女子やり投では北口榛花(JAL)が66m73で金メダルを獲得した。マラソン以外の種目で日本の女子選手が世界一になるのは初めてのことで、投てき種目での優勝は11年テグ大会の男子ハンマー投・室伏広治以来2人目という快挙だった。 7月に67m04の日本新をマークし、堂々のリストトップで大会に臨んだ北口。予選の1投目は59m04に終わるも、2投目に63m27をマークし、組2位で2大会連続のファイナル進出を決める。 決勝では1投目に61m78とまずまずの滑り出しを見せるも、直後にフロル・デニス・ルイス・フルタド(コロンビア)が65m47のビッグアーチ。北口は3投目に63m00を投げて、2位でトップ8に進出した。4投目、5投目はともに62m台をマークするも、記録は伸ばせず、最終6投目に入る直前では4位まで順位を落とした。 追い込まれた運命の最終投てき。北口が放ったやりは高く飛んでいき、暫定首位のフルタドの65m47のラインを大きく越えた。記録は66m73。北口、チームスタッフは歓喜に沸いた。 [caption id="attachment_112843" align="alignnone" width="800"]
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