2025.07.27

7月26日に行われた広島インターハイ2日目の男子100m決勝。清水空跳(星稜2石川)が高校新記録、東京世界選手権参加標準記録突破となる10秒00(+1.7)で優勝を飾った。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ったもらった。
◇ ◇ ◇
予選で10秒30(-1.1)をマークした段階で、決勝は追い風であれば10秒0台はあり得ると感じていました。
その中で、決勝の1組で同学年の菅野翔唯選手(東農大二2群馬)が追い風参考ながら10秒06(+2.4)。高校生にとって、これを上回るタイムを狙って出せるものではないでしょう。それでも清水選手は、日本選手権の準決勝を戦って得た自信と、同学年のライバルにやられたらやり返すという思いが走りにも表れていました。
ひょっとしたら9秒台が出るかもという思いもよぎりましたが、こういった状況の中で10秒00を公認で出したことは本当に素晴らしいです。わずか5分程度前に10秒06を出されても、それを上回るだけの準備をしてきたという証拠。それを高校生がやってのけたことは、本人もインタビューで「自分でもビックリ」と語っていましたが、私も驚愕の一言です。
通常の予選、準決勝、決勝の3ラウンド制から、予選、タイムレース決勝に変更された今回のレギュレーションだからこそ生まれた記録かもしれませんし、清水選手と菅野選手が一緒に走っていたらどうなっていたかなど、見方はいろいろとあり、そういった話題は尽きないかもしれません。ただ、高校生が2013年に桐生祥秀選手(洛南・京都/現・日本生命)が出した高校記録(10秒01)を塗り替え、U18世界最高、さらには東京世界選手権参加標準記録を突破したということは事実であり、その価値は計り知れないものです。
走りを振り返ってみると、前述したように「狙いに行った」走りだったと感じました。ゼロ地点から加速局面へ自分のやるべきことをこなし、10秒00に到達するだけの加速を作り出しています。正面からの動画を観ても、横ブレがまったくなく、それは1歩1歩をしっかり踏めている証拠。そして残り30mは記録を狙いに行き、80mまでは今できる完璧な走りができていたのではないでしょう。
残り10mは脚が回っていなかったので、「100%うまくいっていれば……」とは思います。それでも、残り20mを大崩れすることなくまとめていたと思いますし、残り10mのミスがあってこのタイムということは、トップスピードは相当な水準になっていたのではないでしょうか。だからこそ「まだまだ先がある」レースだと言えます。
身長はスプリンターとして大きな部類ではなく、体格的にもそこまで筋肉質というタイプではありません。それでも、これだけのタイムを出せる要因としては、前への推進力に変える能力の高さだと感じています。桐生選手はムチのように滑らかに、速く身体を動かせるタイプ。清水選手は、日本記録保持者の山縣亮太選手(セイコー)に似ているかもしれません。
少し飛び跳ねるような走りですが、それでも上下のブレがなく、1歩1歩地面に伝えて得られた力を、まっすぐ前に変えられています、エンジン自体も良いものを持っていて、なおかつそれを生かせるだけのクオリティの高いフィジカルを持っている。スピードを生み出すための身体の動かし方の質が、ものすごく高いという印象です。私も上半身と下半身の連動やタイミングを常に意識していましたが、その感覚にも優れているのではないでしょうか。
将来的には、これから「9秒台」への期待を背負っていくことになるでしょう。しかし、インタビューからもその“覚悟”を持っているように感じました。桐生選手の時は9秒台を出した選手がまだおらず、「日本人初」という大きな称号がかかる状況でしたが、今は先輩たちが築いてきたものがあります。
また、女子100mを含めて追い風参考が続出した条件下でのレースだったことも忘れてはいけません。もちろん、前述したように今回の記録が本物であることに疑いはありませんが、同じ水準の走りを何回も出していくことが、彼のキャリアにおいてこの記録が“本物”であることの証明にもなります。この記録を特別なこととせず、9秒台へとどう切り開いていくか。世界を見れば9秒8台でなければ戦えない状況にあり、豪州のガウト・ガウト選手のように10代のホープたちが世界には次々と現れています。
清水選手がこれからどんな成長曲線を描いていくのか。また、来年のインターハイでも清水選手と菅野選手の対決が見られることを、楽しみに待ちたいと思います。
◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)
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