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2025.06.01

【高平慎士の視点】スケールアップした200m連覇の鵜澤飛羽 “通過点”の19秒台、そしてファイナルへの期待感十分/アジア選手権
【高平慎士の視点】スケールアップした200m連覇の鵜澤飛羽 “通過点”の19秒台、そしてファイナルへの期待感十分/アジア選手権

25年アジア選手権200mで連覇を飾った鵜澤飛羽

5月31日に韓国・クミで行われたアジア選手権の男子200m決勝。鵜澤飛羽(JAL)が日本歴代4位、大会新の20秒12(+0.8)で2連覇を飾った。。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ったもらった。

◇ ◇ ◇

こういった舞台で、自己新での優勝。水準が確実に上がっていることを感じる走りで、純粋にすごいなと感じました。

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2位のA.A.アタフィ(サウジアラビア)が20秒31、3位のA.クジュール(インド)が20秒32。F.オグノデ(カタール)や謝震業(中国)といった19秒台スプリンターは不在でしたが、レベルが低いわけでは決してない。そういう中で勝てる鵜澤選手の強さが、高い水準にあるということです。

今季の鵜澤は選手は、自力で走らなくてもしっかりと走れているという印象。加速、スピードの乗せ方をはじめすべての面でレベルアップし、前半から行くというプランとそれを実行に移す身体がマッチしています。今回はすごく調子を合わせたという感じではなく、条件も国内の高速トラックなどと比べれば良いというわけではありません。

その中でも「前半に行って、後半にがんばる」のではなく、「前半に行くイメージで、そのまま後半の上がっていく」走りができていました。「前半に行かないといけない」という点ばかりに捉われすぎると、後半の良さを消してしまうこともあります。しかし、今季の鵜澤選手は「後半」という自分の良いところにつなげる前半の走りができています。1段階スケールアップしていて、もう1段階上もありそうですね。

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世界のファイナルはもちろん見えているでしょう。ただ、ハイレベルだった21年の東京五輪は20秒13、22年のオレゴン世界選手権は20秒10が決勝進出の最低タイム。今の水準がまさに準決勝通過ラインになると思って臨むことが大切
で、どの組に入っても、誰がいてもしっかりと残れるだけの力をつけるというのは簡単ではないでしょう。海外勢が本格的に始動するのはこれから。今季の勢力図はまだまだ見えませんが、東京世界選手権の舞台が高速トラックの国立競技場ということを考えれば、東京五輪と同様にハイレベルになると見るべき。男子100mと同様に、ファイナルへの壁はそれなりに厚いということは間違いないでしょう。

すごくいい記録が出る時は、身体へのダメージもあるもの。タイムを出すことだけで終わる身体ではないフィジカルが、きちんとできているかは気になるところですが、その段階を超えた先に、次のステージが見られるのではないでしょうか。世界選手権の参加標準記録を2度クリアし、追い風参考ですが20秒0台も出しています。19秒台をやっと出すのではなく、通過点の19秒台に。その扉の先を見せてくれる期待感が、十分にある選手です。

日本選手権も勝ち負けの緊張感を持たずに、自分との戦いに持っていけるでしょう。ケガには注意が必要ですが、気にし過ぎてもいけない。行けるところまで行ってほしいですが、9月を見据えてどんなレースをするのか楽しみにしたいと思います。

20秒66で4位だった飯塚翔太選手(ミズノ)は、メダルラインには食い込みたかったところでしょう。今季は順位は取れていますが、タイムが今ひとつついてきていない印象です。前半の入り方が気になるところで、攻めるところを攻めないと、後半にグンと伸びる飯塚選手らしさも出ません。23年ブダペスト世界選手権の予選で20秒27を出しているように、まだまだ十分戦える選手。日本選手権の優勝を目指さないといけない選手の1人だと思っています。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

5月31日に韓国・クミで行われたアジア選手権の男子200m決勝。鵜澤飛羽(JAL)が日本歴代4位、大会新の20秒12(+0.8)で2連覇を飾った。。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ったもらった。 ◇ ◇ ◇ こういった舞台で、自己新での優勝。水準が確実に上がっていることを感じる走りで、純粋にすごいなと感じました。 2位のA.A.アタフィ(サウジアラビア)が20秒31、3位のA.クジュール(インド)が20秒32。F.オグノデ(カタール)や謝震業(中国)といった19秒台スプリンターは不在でしたが、レベルが低いわけでは決してない。そういう中で勝てる鵜澤選手の強さが、高い水準にあるということです。 今季の鵜澤は選手は、自力で走らなくてもしっかりと走れているという印象。加速、スピードの乗せ方をはじめすべての面でレベルアップし、前半から行くというプランとそれを実行に移す身体がマッチしています。今回はすごく調子を合わせたという感じではなく、条件も国内の高速トラックなどと比べれば良いというわけではありません。 その中でも「前半に行って、後半にがんばる」のではなく、「前半に行くイメージで、そのまま後半の上がっていく」走りができていました。「前半に行かないといけない」という点ばかりに捉われすぎると、後半の良さを消してしまうこともあります。しかし、今季の鵜澤選手は「後半」という自分の良いところにつなげる前半の走りができています。1段階スケールアップしていて、もう1段階上もありそうですね。 世界のファイナルはもちろん見えているでしょう。ただ、ハイレベルだった21年の東京五輪は20秒13、22年のオレゴン世界選手権は20秒10が決勝進出の最低タイム。今の水準がまさに準決勝通過ラインになると思って臨むことが大切 で、どの組に入っても、誰がいてもしっかりと残れるだけの力をつけるというのは簡単ではないでしょう。海外勢が本格的に始動するのはこれから。今季の勢力図はまだまだ見えませんが、東京世界選手権の舞台が高速トラックの国立競技場ということを考えれば、東京五輪と同様にハイレベルになると見るべき。男子100mと同様に、ファイナルへの壁はそれなりに厚いということは間違いないでしょう。 すごくいい記録が出る時は、身体へのダメージもあるもの。タイムを出すことだけで終わる身体ではないフィジカルが、きちんとできているかは気になるところですが、その段階を超えた先に、次のステージが見られるのではないでしょうか。世界選手権の参加標準記録を2度クリアし、追い風参考ですが20秒0台も出しています。19秒台をやっと出すのではなく、通過点の19秒台に。その扉の先を見せてくれる期待感が、十分にある選手です。 日本選手権も勝ち負けの緊張感を持たずに、自分との戦いに持っていけるでしょう。ケガには注意が必要ですが、気にし過ぎてもいけない。行けるところまで行ってほしいですが、9月を見据えてどんなレースをするのか楽しみにしたいと思います。 20秒66で4位だった飯塚翔太選手(ミズノ)は、メダルラインには食い込みたかったところでしょう。今季は順位は取れていますが、タイムが今ひとつついてきていない印象です。前半の入り方が気になるところで、攻めるところを攻めないと、後半にグンと伸びる飯塚選手らしさも出ません。23年ブダペスト世界選手権の予選で20秒27を出しているように、まだまだ十分戦える選手。日本選手権の優勝を目指さないといけない選手の1人だと思っています。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

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