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2025.05.31

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【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第57回「節目の関東インカレ~チームメイトの声援を身に纏って~」


山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第57回「節目の関東インカレ~チームメイトの声援を身に纏って~」

今年の春のシーズンは今までにない過密スケジュールで競技会が開催されている。9月には東京で世界選手権が開催されることから、ほとんどの主要競技会が前半シーズンに組み込まれている。

4月の日本学生個人選手権(ワールドユニバーシティゲームズ選考会)を皮切りに、5月には関東インカレ、その直後に全日本大学駅伝関東地区選考会、そして、アジア選手権と続いている。6月早々には日本インカレ、7月には世界選手権の代表選考会となる日本選手権、そして、ユニバが控えている。

その間に各グランプリシリーズやホクレン・ディスタンスチャレンジが予定されているので、指導者だけでなく選手のみなさんもコンディショニングとピーキングにはかなり気を遣われていると拝察する。

104回目を迎えた関東インカレは神奈川・相模原ギオンスタアジアムで、5月8日から4日間の日程で熱戦が繰り広げられた。男子は1部16校・657人、2部65校・720人の選手がエントリーされ、覇を競い合った。

男子総合優勝は最終種目の4×400mリレーへともつれ込み、1点差を追う順大と逃げ切りたい東海大との激しい鍔迫り合いがスタンドを大いに盛り上げた。最終結果は東海大が14大会ぶり8度目の優勝、女子は日体大が5年連続13度目の優勝で幕を閉じた。

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今年の関東インカレも大声援の中で行われた

少し過去を振り返ってみたい。山梨学大として創部した1985年から2部校として参加したことを思い起こすことができる。翌年の86年、箱根駅伝予選会を6位で突破する年の65回大会で福田正志が1500m優勝、5000m2位、本田正義が1500m5位、5000m5位、鈴木治が20kkm4位、夏目勝也3000障害6位、市川保紀は10000m競歩2位。26点で総合7位だった(当時は1位6点、6位1点)。

2部での総合順位は7-4-2-2-3-3-2-2-2と続き、創部して7年目に箱根駅伝の初優勝を味わうも、関東インカレ1部昇格への道のりは険しかった。創部11年目の第74回大会(1995年)に悲願の1部昇格を果たした。

北村智弘が800m優勝、藤脇友介が2位に続き、1500mでは優勝。小嶋厚は1500mで2位、大﨑悟史(現・監督)は1500mで3位、ステファン・マヤカが5000mと10000mで2冠を飾った。

中馬大輔は5000m7位、10000m4位、中村祐二は10000m2位、里内正幸がハーフマラソン2位、川口智弘は3000m障害優勝、南忍が4位に続いた。総合得点は84点で優勝し、翌年の75回大会からは1部校としてインカレの舞台で戦えることになった。

今でも当時キャプテンだった藤脇(福岡・自由ケ丘高教)やマヤカ(桜美林大総監督)は顔を合わせると、「自分たちが最終学年で1部に昇格しましたが、1部の舞台で競えなかったことが残念でした。けれど、後輩たちが1部残留を懸けて熱く競い合ってくれていることに喜びと誇りを感じます」と語ってくれる。

30年連続で1部校として競い合い、30回目の節目となる年が今回の104回大会だった。

なぜ節目なのかと言えば、私は来年の1月で67歳となり、本学の規定により定年退官の年を迎えるからだ。大学教員としてチームの指導を司り、最後のインカレで2部降格や中距離コーチとして得点に貢献できずに終えたくはないとの思いが強かったからだ。結果は、総合得点54点で8位、トラック部門は3位であった。

山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!

第57回「節目の関東インカレ~チームメイトの声援を身に纏って~」

今年の春のシーズンは今までにない過密スケジュールで競技会が開催されている。9月には東京で世界選手権が開催されることから、ほとんどの主要競技会が前半シーズンに組み込まれている。 4月の日本学生個人選手権(ワールドユニバーシティゲームズ選考会)を皮切りに、5月には関東インカレ、その直後に全日本大学駅伝関東地区選考会、そして、アジア選手権と続いている。6月早々には日本インカレ、7月には世界選手権の代表選考会となる日本選手権、そして、ユニバが控えている。 その間に各グランプリシリーズやホクレン・ディスタンスチャレンジが予定されているので、指導者だけでなく選手のみなさんもコンディショニングとピーキングにはかなり気を遣われていると拝察する。 104回目を迎えた関東インカレは神奈川・相模原ギオンスタアジアムで、5月8日から4日間の日程で熱戦が繰り広げられた。男子は1部16校・657人、2部65校・720人の選手がエントリーされ、覇を競い合った。 男子総合優勝は最終種目の4×400mリレーへともつれ込み、1点差を追う順大と逃げ切りたい東海大との激しい鍔迫り合いがスタンドを大いに盛り上げた。最終結果は東海大が14大会ぶり8度目の優勝、女子は日体大が5年連続13度目の優勝で幕を閉じた。 [caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"] 今年の関東インカレも大声援の中で行われた[/caption] 少し過去を振り返ってみたい。山梨学大として創部した1985年から2部校として参加したことを思い起こすことができる。翌年の86年、箱根駅伝予選会を6位で突破する年の65回大会で福田正志が1500m優勝、5000m2位、本田正義が1500m5位、5000m5位、鈴木治が20kkm4位、夏目勝也3000障害6位、市川保紀は10000m競歩2位。26点で総合7位だった(当時は1位6点、6位1点)。 2部での総合順位は7-4-2-2-3-3-2-2-2と続き、創部して7年目に箱根駅伝の初優勝を味わうも、関東インカレ1部昇格への道のりは険しかった。創部11年目の第74回大会(1995年)に悲願の1部昇格を果たした。 北村智弘が800m優勝、藤脇友介が2位に続き、1500mでは優勝。小嶋厚は1500mで2位、大﨑悟史(現・監督)は1500mで3位、ステファン・マヤカが5000mと10000mで2冠を飾った。 中馬大輔は5000m7位、10000m4位、中村祐二は10000m2位、里内正幸がハーフマラソン2位、川口智弘は3000m障害優勝、南忍が4位に続いた。総合得点は84点で優勝し、翌年の75回大会からは1部校としてインカレの舞台で戦えることになった。 今でも当時キャプテンだった藤脇(福岡・自由ケ丘高教)やマヤカ(桜美林大総監督)は顔を合わせると、「自分たちが最終学年で1部に昇格しましたが、1部の舞台で競えなかったことが残念でした。けれど、後輩たちが1部残留を懸けて熱く競い合ってくれていることに喜びと誇りを感じます」と語ってくれる。 30年連続で1部校として競い合い、30回目の節目となる年が今回の104回大会だった。 なぜ節目なのかと言えば、私は来年の1月で67歳となり、本学の規定により定年退官の年を迎えるからだ。大学教員としてチームの指導を司り、最後のインカレで2部降格や中距離コーチとして得点に貢献できずに終えたくはないとの思いが強かったからだ。結果は、総合得点54点で8位、トラック部門は3位であった。

常に分水嶺に立たされる緊張感を背負う

2019年から中距離コーチとして指導する身とすれば、ケニア人留学生が得る得点で1部残留を果たすのではなく、トラック&フィールドのチームとして、それぞれのブロックでいかに貢献できるかが肝心であるとの思いが根底にあるからだ。 短距離ブロックは入月誠ノ介(2年)が400mで7位、競歩ブロックは今年度から栁澤哲を専任指導者として迎え、10000m競歩で中島佑之(3年)が優勝。赤澤晃成(3年)が5位となり、14点を挙げた。 私が指導する中距離ブロックからは、初日の1500m予選では2人とも決勝進出を逃した。しかしながら、800mで寺西満輝(4年)と北村魁士(4年)が3位、5位と健闘した(4年の米田拓海が準決勝で敗退したのは残念であった)。 3000m障害に出場した伊藤要(4年)は最後のインカレに懸ける思いで、昨年の12月に長距離ブロックから中距離ブロックへ。自ら志願し、移籍してきた選手であった。 彼は、4月のシーズンインからなかなかコンディションが上向きにならず、苦しい状態で直前まで苦悩していた。しかしながら、その苦しんだ時間が無駄ではなかったかのようにスタンドの大声援を身に纏い、予選で復調を印象づける走りをしてくれた。決勝もその勢いを消すことなく、最後の直線で先行の選手をかわして2位となった。中距離ブロックでは17点を積み上げた。 [caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"] 自ら志願して中距離ブロックへ移った伊藤要。関東インカレ3000m障害で2位に入った[/caption] 総合得点で1部と2部の入れ替えがされる関東インカレは、常に分水嶺に立たされる緊張感を背負っている。 この40年の間に1部校は15校から16校に増えた。そのうえで、1部校の総合下位2校が2部へ降格となり、2部校の上位2校と入れ替わる方式になった。近年では箱根駅伝による全体のレベルアップの影響を受け、中長距離種目では800mと3000m障害以外は参加標準記録が1部校と2部校ともに同じである。 いずれのステージも苛烈なレベルでの競い合いとなることを思えば、30回の分水嶺に立った中で積み重ねてきた歴史を崩すわけにはいかないと、心に刻みグラウンドに立ち続けた。 思い起こせば、山梨学大の監督になった当初、恩師の澤木啓祐先生(元順大名誉総監督)からは「箱根駅伝で戦うことを願うのであれば、関東インカレで戦える選手育成をすべきだぞ」との言葉をいただいた。 同じ時期に当時関東学連の会長であった故・釜本文男先生(1985〜1993年)からは「上田君、関東インカレの“陸上競技対校選手権”という名称の通り、トラック&フィールドのチームとして今後は育成してくださいよ。陸上競技部が原点であり、基本ですからね」と激励されたことに端を発する。関東インカレとはそのような大会である。 参加選手やチーム応援のみならず、競技役員は次呂久直子幹事長を筆頭に審判員は391人。学生補助員は約700人の氏名がプログラムには掲載されている。1000人を超える人の手と思いが、今回の大会を支えてくれている。104回の歴史はこのようにして積み重ねてきていることは事実だ。 そのように思えば、歴史の延長線上にある関東インカレという雰囲気の中で、刹那的なほんの一瞬でも競技できることは学生たちにとって無常の幸せであると思ってしまう。挫折や苦悩、葛藤や逡巡の日々を過ごしつつ、自己の可能性を追求した者たちが集う関東インカレ。「チームメイトの声援を身に纏って競い合う」という表現を思わずしてしまった理由はそこにある。 関東インカレプログラム1ページの植田恭史会長の挨拶の文章に、「関東インカレは対校戦であり、これまで多くの先輩たちが築いてきた歴史と伝統があります。母校のため、仲間のため、本人自身のため悔いのない競技をして欲しいと願っています」と記されている。 まさに、そのような思いで競技をする者が、チームメイトの声援を纏うことができるのだろう。 そして104回目の歴史をこの場所で、4日間熱く時を紡いだ学生諸君の心に永遠に刻むことができたと信じている。 [caption id="attachment_131862" align="alignnone" width="800"] 関東インカレは多くの審判や補助員に支えられている[/caption]
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。

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