HOME 特集

2020.10.10

クローズアップ/走幅跳インターハイ3連覇の高良彩花が助走を変えたワケ
クローズアップ/走幅跳インターハイ3連覇の高良彩花が助走を変えたワケ

 関東インカレ2日目、女子走幅跳で優勝した高良彩花(筑波大)。高校時代はインターハイ3連覇を成し遂げた高良が大学に入って「助走を変えた」という。成功し続けてきたものを変えてまで見据えているものとは。

広告の下にコンテンツが続きます

3つの局面にわける助走に手応え

 10月1日の日本選手権、女子走幅跳を制した高良彩花(筑波大)はその9日後、相模原ギオンスタジアムにいた。台風14号の影響で強い雨と風の中で、その強いまなざしを砂場に向ける。疲労、そして厳しいコンディションで、記録的に厳しいことは百も承知。それでも6本すべて試技を使い、2回目に6m04(+2.3)、3回目に6m09(+3.1)を跳んだ。

 ただ1人6mを超えて大会連覇。「本当なら優勝と記録を狙って臨むのですが、この寒さと風では……悔しいけど……」と苦笑いした。

 日本選手権から「疲労を抜きつつ調整してきて、あまり練習はできていません」と高良。棄権することも考えたが、残り“数少ない”チャンスに少しでも可能性があるなら、と臨んだ。

「U20日本記録の単独保持者になりたい」

広告の下にコンテンツが続きます

 6m44の自己ベストは、U20・U18日本記録であり、高校記録でもあるが、そのすべてが兵庫の先輩・中野瞳(現・和食山口)との“タイ記録”だ。早生まれの大学2年生の高良は、今年がU20資格を持つ最後の1年。それが、コロナ禍で前半シーズンが流れ、限られたチャンスに懸けて臨んでいる。

 高良は“超”がつくエリート街道を歩んできたジャンパーだ。全中優勝、インターハイ3連覇、高校2、3年で日本選手権を連覇。高3時には、アジアジュニア選手権を高校タイ記録で制し、U20世界選手権は日本勢初となる銀メダルを獲得した。記録・成績の両面でこれほど実績を残した選手はいない。

 そんな高良が、筑波大に進学してから「助走を変えた」という。昨年はアジア選手権2位、U20日本選手権で6m35の優勝を残したものの、日本選手権3位、狙っていたユニバーシアードは12位にとどまった。

 2年目の今年、感覚をつかむのに「時間がかかってしまった」という助走が、「最近、本当に少しずつ安定してきたと思います」。

 高校時代は「とにかく速く走って跳ぶ」イメージだったものが、「前半、中盤、後半の3つに分けて考えています」という。まずは最初の6歩で「グッと押して」加速、それを生かしながら10歩目くらいで身体を起こし始め、中盤は骨盤を立てて「脚を引きつけて下ろす」タイミングとスピードを合わせる。そして最後は「刻んで真上から下ろして踏み切りに入る」のだという。

 数々の記録を残してきた高校時の跳躍を見ると「脚が流れていてもったいないと思う跳躍もあるんです」と分析。もちろん、その時はその勢いとスピードが大事であり、今の土台の一つとなっている。

 なぜ、高良は成功していた自分を一度壊してまで、新しい技術に挑戦しているのだろうか。

U20日本記録を「絶対に跳びたい」

「これでは全然、世界で戦えない」

 高良は世界と戦う上で自らの特徴も、課題もつかんできた。身長157cmの自分が戦うには何が必要なのか。国内で獲得できる大会はほぼ手中にした。ジュニアの記録は世界に出しても恥ずかしくない。だが、シニアのトップは、遠い。

 自身の伸びしろや将来について、不安がないはずがなかった。それでも、大学に進学してから、さまざまなデータを調べ、同じ身長の選手が6m後半を跳んでいる選手がいることを知る。

「来年のユニバーシアードや、世界選手権も目標にしています。東京で世界選手権も、という報道も見て、いくつも目標ができた感じがしています」。高良は視線を再び世界へと向けている。

 もしかすると何も変えずにいるほうが楽にある程度の記録は出たかもしれない。だが、世界を見据え、過去の自分をはるかに超えるために、高良は“変化”に挑み、“進化”しようとしている。

 成功体験を持ちながら変化することがどれだけ険しい道か。これは競技者ではなく、どんな場面でも同じ。高良はそこから逃げなかった。今年は日本選手権で2年ぶりの優勝。日本ランキングもトップに立った。

「身体も大きくなって、お尻周りも強化してきました。それを地面に加えられている感じはあります。あとはその流れを殺さずに、最後の踏み切りまでの局面でブレーキをかけずに行ければと跳べると思います」

 きゅっと結んだ髪も、ピットに立った時のオーラも、「行きます!」の大きな声も変わらない。記録も、まだ更新できていない。だが、この2年で高良は競技者として、間違いなく大きくなった。U20記録を更新する残されたチャンスは、2週間後に広島で行われるU20大会だけ。

「強い思いがあります。絶対に跳びたい。ラストは全力で跳びます」

 そういえば、高良はいつも勝負が懸かった“ここ一番”で、とてつもなく強い。

◎こうら・あやか/2001年3月22日生まれ。兵庫県出身。西宮浜中→園田学園高→筑波大。15年北海道全中優勝。16~18年インターハイ走幅跳3連覇。18年アジアジュニア選手権金メダル、U20世界選手権銀メダル。日本選手権は17、18、20年の3回優勝。自己記録は6m44(=U20、18日本タイ記録、高校タイ記録)。

文/向永拓史

 関東インカレ2日目、女子走幅跳で優勝した高良彩花(筑波大)。高校時代はインターハイ3連覇を成し遂げた高良が大学に入って「助走を変えた」という。成功し続けてきたものを変えてまで見据えているものとは。

3つの局面にわける助走に手応え

 10月1日の日本選手権、女子走幅跳を制した高良彩花(筑波大)はその9日後、相模原ギオンスタジアムにいた。台風14号の影響で強い雨と風の中で、その強いまなざしを砂場に向ける。疲労、そして厳しいコンディションで、記録的に厳しいことは百も承知。それでも6本すべて試技を使い、2回目に6m04(+2.3)、3回目に6m09(+3.1)を跳んだ。  ただ1人6mを超えて大会連覇。「本当なら優勝と記録を狙って臨むのですが、この寒さと風では……悔しいけど……」と苦笑いした。  日本選手権から「疲労を抜きつつ調整してきて、あまり練習はできていません」と高良。棄権することも考えたが、残り“数少ない”チャンスに少しでも可能性があるなら、と臨んだ。 「U20日本記録の単独保持者になりたい」  6m44の自己ベストは、U20・U18日本記録であり、高校記録でもあるが、そのすべてが兵庫の先輩・中野瞳(現・和食山口)との“タイ記録”だ。早生まれの大学2年生の高良は、今年がU20資格を持つ最後の1年。それが、コロナ禍で前半シーズンが流れ、限られたチャンスに懸けて臨んでいる。  高良は“超”がつくエリート街道を歩んできたジャンパーだ。全中優勝、インターハイ3連覇、高校2、3年で日本選手権を連覇。高3時には、アジアジュニア選手権を高校タイ記録で制し、U20世界選手権は日本勢初となる銀メダルを獲得した。記録・成績の両面でこれほど実績を残した選手はいない。  そんな高良が、筑波大に進学してから「助走を変えた」という。昨年はアジア選手権2位、U20日本選手権で6m35の優勝を残したものの、日本選手権3位、狙っていたユニバーシアードは12位にとどまった。  2年目の今年、感覚をつかむのに「時間がかかってしまった」という助走が、「最近、本当に少しずつ安定してきたと思います」。  高校時代は「とにかく速く走って跳ぶ」イメージだったものが、「前半、中盤、後半の3つに分けて考えています」という。まずは最初の6歩で「グッと押して」加速、それを生かしながら10歩目くらいで身体を起こし始め、中盤は骨盤を立てて「脚を引きつけて下ろす」タイミングとスピードを合わせる。そして最後は「刻んで真上から下ろして踏み切りに入る」のだという。  数々の記録を残してきた高校時の跳躍を見ると「脚が流れていてもったいないと思う跳躍もあるんです」と分析。もちろん、その時はその勢いとスピードが大事であり、今の土台の一つとなっている。  なぜ、高良は成功していた自分を一度壊してまで、新しい技術に挑戦しているのだろうか。

U20日本記録を「絶対に跳びたい」

「これでは全然、世界で戦えない」  高良は世界と戦う上で自らの特徴も、課題もつかんできた。身長157cmの自分が戦うには何が必要なのか。国内で獲得できる大会はほぼ手中にした。ジュニアの記録は世界に出しても恥ずかしくない。だが、シニアのトップは、遠い。  自身の伸びしろや将来について、不安がないはずがなかった。それでも、大学に進学してから、さまざまなデータを調べ、同じ身長の選手が6m後半を跳んでいる選手がいることを知る。 「来年のユニバーシアードや、世界選手権も目標にしています。東京で世界選手権も、という報道も見て、いくつも目標ができた感じがしています」。高良は視線を再び世界へと向けている。  もしかすると何も変えずにいるほうが楽にある程度の記録は出たかもしれない。だが、世界を見据え、過去の自分をはるかに超えるために、高良は“変化”に挑み、“進化”しようとしている。  成功体験を持ちながら変化することがどれだけ険しい道か。これは競技者ではなく、どんな場面でも同じ。高良はそこから逃げなかった。今年は日本選手権で2年ぶりの優勝。日本ランキングもトップに立った。 「身体も大きくなって、お尻周りも強化してきました。それを地面に加えられている感じはあります。あとはその流れを殺さずに、最後の踏み切りまでの局面でブレーキをかけずに行ければと跳べると思います」  きゅっと結んだ髪も、ピットに立った時のオーラも、「行きます!」の大きな声も変わらない。記録も、まだ更新できていない。だが、この2年で高良は競技者として、間違いなく大きくなった。U20記録を更新する残されたチャンスは、2週間後に広島で行われるU20大会だけ。 「強い思いがあります。絶対に跳びたい。ラストは全力で跳びます」  そういえば、高良はいつも勝負が懸かった“ここ一番”で、とてつもなく強い。 ◎こうら・あやか/2001年3月22日生まれ。兵庫県出身。西宮浜中→園田学園高→筑波大。15年北海道全中優勝。16~18年インターハイ走幅跳3連覇。18年アジアジュニア選手権金メダル、U20世界選手権銀メダル。日本選手権は17、18、20年の3回優勝。自己記録は6m44(=U20、18日本タイ記録、高校タイ記録)。 文/向永拓史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.06.30

【高校生FOCUS】男子棒高跳・井上直哉(阿南光高)「全国3冠取りたい」と意気込むボウルターは柔道黒帯

FOCUS! 高校生INTERVIEW 井上直哉 Inoue Naoya 阿南光高3徳島 注目の高校アスリートに焦点を当てる高校生FOCUS。今回はインターハイ徳島県大会男子棒高跳で5m21の県高校新記録をマークし、続く […]

NEWS 【学生長距離Close-upインタビュー】急成長を続ける大東大・大濱逞真 「自信を持ってエースと言えるように」

2025.06.30

【学生長距離Close-upインタビュー】急成長を続ける大東大・大濱逞真 「自信を持ってエースと言えるように」

学生長距離Close-upインタビュー 大濱逞真 Ohama Takuma 大東大2年 「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。49回目は、大東大の大 […]

NEWS 日本陸連・有森裕子新会長が小池百合子都知事訪問 東京世界陸上の成功誓う「素晴らしさと感動ふんだんに味わえるように」

2025.06.30

日本陸連・有森裕子新会長が小池百合子都知事訪問 東京世界陸上の成功誓う「素晴らしさと感動ふんだんに味わえるように」

日本陸連の新会長に就任した有森裕子会長と、同前会長で東京2025世界陸上財団の尾縣貢会長が6月30日に東京都庁を訪問し、小池百合子都知事と面会した。 冒頭で小池都知事は、有森氏が女性初の会長に就任したことに際し祝福し、「 […]

NEWS 64年東京五輪5000m銅のデリンジャー氏が死去 91歳 米国代表やオレゴン大コーチも務める

2025.06.30

64年東京五輪5000m銅のデリンジャー氏が死去 91歳 米国代表やオレゴン大コーチも務める

6月27日、米国の元長距離選手で、後にコーチとしても活躍したビル・デリンジャー氏が逝去した。91歳だった。 デリンジャー氏は5000mで3大会連続してオリンピックに出場(1956年メルボルン、1960年ローマ、1964年 […]

NEWS 100mトンプソンが世界歴代6位の9秒75!! シェリー・アンも最後の国内選手権で3位/ジャマイカ選手権

2025.06.30

100mトンプソンが世界歴代6位の9秒75!! シェリー・アンも最後の国内選手権で3位/ジャマイカ選手権

東京世界選手権の代表選考会となるジャマイカ選手権が6月26日から29日にキングストンで開催された。 男子100mはK.トンプソンが世界歴代6位、今季世界最高の9秒75(+0.8)で優勝した。トンプソンは現在23歳。これま […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年7月号 (6月13日発売)

2025年7月号 (6月13日発売)

詳報!アジア選手権
日本インカレ
IH都府県大会

page top