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2024.01.02

トヨタ自動車「勝利の継承」2連覇知る大石港与、田中秀幸が伝えたかった熱き意思「駅伝で勝ち続けるために」/ニューイヤー駅伝
トヨタ自動車「勝利の継承」2連覇知る大石港与、田中秀幸が伝えたかった熱き意思「駅伝で勝ち続けるために」/ニューイヤー駅伝

24年ニューイヤー駅伝で8年ぶり優勝を飾り、アンカーの主将・服部勇馬を胴上げして喜ぶトヨタ自動車

◇第68回全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝/1月1日、群馬県庁発着・7区間100km)

久しぶりに赤城おろしが猛威を振るった今年の全日本実業団対抗駅伝。今や日本長距離界のエースに成長した太田智樹が最長2区(21.9km)で首位に立ち、その後はどこにも先頭を明け渡さなかったトヨタ自動車が、4時間49分02秒で8年ぶり4回目の優勝を飾った。

2022年から指揮を執る熊本剛監督は、2011年の初優勝時のアンカー。そして、2015~16年の連覇に貢献したのが、今回1区の大石港与(35歳)と5区の田中秀幸(33歳)。田中は当時6区で2年連続の区間賞。大石も15年に5区で区間賞を取っている。今年は初の5区で区間賞に輝いた田中。レース後に語った熱い言葉が、じんわりと後輩たちの胸に響いた。

「トヨタ自動車が駅伝で勝ち続けるには、大石さんがラストランになる今年、絶対に勝っておく必要があったんです」

2016年以降、優勝はなかったが、2位と3位が3回ずつ。一番悪くても22年の5位だから、トヨタ自動車の安定感はずば抜けている。しかも、夏場のオリンピックや世界選手権にはマラソンで代表を送り出し、個人でもチームとしても好成績を残してきた。

それでも大石は、駅伝で勝てなかったこの7年間、「どこかに失敗があって自滅していた。優勝できるのにできなかったもどかしさがあった」と明かす。田中も「優勝を狙っての負けで、1月1日に7人全員がそろってピークを合わせる難しさを感じていた」と言う。

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だからこそ、大石が最後の駅伝と決めた今回、きっちりと勝っておきたい。優勝経験のあるベテラン2人は、その意思をしっかりと走りで示した。ここ3年、1区を務めてきた田中を後半の要になる5区にまわし、大石が初めての1区。これには駅伝の戦略に長けている佐藤敏信総監督の思惑があった。

「大石は12月の日本選手権10000mで14位でしたけど、途中5000mを13分59秒で通過して、フィニッシュタイムも28分10秒50です。あの走りを見て『駅伝の1区もありだな』と思いました。田中はマラソン練習をやるようになって、高いポテンシャルを発揮し始めました。これだったら5区でも行けるな、と」

もちろん2区に太田、3区にスーパールーキーの田澤廉と、最初に主要区間のピースをはめられたからこそのオーダーだが、ベテラン2人はこの起用に応えて、大石は先頭と4秒差の4位スタート。5区の田中はライバル・Hondaとの差を1分29秒に拡大して優勝を決定づけた。

「プレッシャーと戦えなくなってきた」ことを引退の理由に挙げた大石が、最後のプレッシャーと戦って1区の役割を十二分に果たした。その姿に、田中は「ものすごく勇気をもらった」と、自分自身のスイッチを入れ直した。2年連続でアンカーを任されたキャプテンの服部勇馬は、大石の駅伝ラストランの話を聞いて「これは絶対に優勝しないといけない」と思ったそうだ。

1区の大石が作った流れは今回、途切れることなく最終区まで続き、2区の太田、5区の田中、6区の西山雄介と区間賞が3つ。優勝を経験している2人が身をもって伝えたかった「勝利の継承」が成立し、大石は「最高の終わり方ができました」と笑顔を見せた。

文/小森貞子

◇第68回全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝/1月1日、群馬県庁発着・7区間100km) 久しぶりに赤城おろしが猛威を振るった今年の全日本実業団対抗駅伝。今や日本長距離界のエースに成長した太田智樹が最長2区(21.9km)で首位に立ち、その後はどこにも先頭を明け渡さなかったトヨタ自動車が、4時間49分02秒で8年ぶり4回目の優勝を飾った。 2022年から指揮を執る熊本剛監督は、2011年の初優勝時のアンカー。そして、2015~16年の連覇に貢献したのが、今回1区の大石港与(35歳)と5区の田中秀幸(33歳)。田中は当時6区で2年連続の区間賞。大石も15年に5区で区間賞を取っている。今年は初の5区で区間賞に輝いた田中。レース後に語った熱い言葉が、じんわりと後輩たちの胸に響いた。 「トヨタ自動車が駅伝で勝ち続けるには、大石さんがラストランになる今年、絶対に勝っておく必要があったんです」 2016年以降、優勝はなかったが、2位と3位が3回ずつ。一番悪くても22年の5位だから、トヨタ自動車の安定感はずば抜けている。しかも、夏場のオリンピックや世界選手権にはマラソンで代表を送り出し、個人でもチームとしても好成績を残してきた。 それでも大石は、駅伝で勝てなかったこの7年間、「どこかに失敗があって自滅していた。優勝できるのにできなかったもどかしさがあった」と明かす。田中も「優勝を狙っての負けで、1月1日に7人全員がそろってピークを合わせる難しさを感じていた」と言う。 だからこそ、大石が最後の駅伝と決めた今回、きっちりと勝っておきたい。優勝経験のあるベテラン2人は、その意思をしっかりと走りで示した。ここ3年、1区を務めてきた田中を後半の要になる5区にまわし、大石が初めての1区。これには駅伝の戦略に長けている佐藤敏信総監督の思惑があった。 「大石は12月の日本選手権10000mで14位でしたけど、途中5000mを13分59秒で通過して、フィニッシュタイムも28分10秒50です。あの走りを見て『駅伝の1区もありだな』と思いました。田中はマラソン練習をやるようになって、高いポテンシャルを発揮し始めました。これだったら5区でも行けるな、と」 もちろん2区に太田、3区にスーパールーキーの田澤廉と、最初に主要区間のピースをはめられたからこそのオーダーだが、ベテラン2人はこの起用に応えて、大石は先頭と4秒差の4位スタート。5区の田中はライバル・Hondaとの差を1分29秒に拡大して優勝を決定づけた。 「プレッシャーと戦えなくなってきた」ことを引退の理由に挙げた大石が、最後のプレッシャーと戦って1区の役割を十二分に果たした。その姿に、田中は「ものすごく勇気をもらった」と、自分自身のスイッチを入れ直した。2年連続でアンカーを任されたキャプテンの服部勇馬は、大石の駅伝ラストランの話を聞いて「これは絶対に優勝しないといけない」と思ったそうだ。 1区の大石が作った流れは今回、途切れることなく最終区まで続き、2区の太田、5区の田中、6区の西山雄介と区間賞が3つ。優勝を経験している2人が身をもって伝えたかった「勝利の継承」が成立し、大石は「最高の終わり方ができました」と笑顔を見せた。 文/小森貞子

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