2023.12.29
2024年1月2、3日で第100回記念大会を迎える箱根駅伝。正月の風物詩として歴史を刻んできたなかで、“山の神”と呼ばれた男たちがいる。
今井正人(順大)と柏原竜二(東洋大)――。それぞれが語る箱根駅伝の思い出と魅力とは。
【箱根駅伝】“山の神”柏原竜二「今でも、箱根駅伝に生かされている」フィルターをとおして何ができるかを考える日々 を読む
1年目は2区、2年時から箱根の山へ
――いつ頃から箱根駅伝を意識されたのでしょう。
今井 父や兄の影響で見始めました。順大と駒大の“紫紺対決”を見ていた世代で、順大クインテット(入船満、岩水嘉孝、奥田真一郎、坂井隆則、野口英盛)にあこがれました。それで、順大で走りたいと思うようになりました。
福島には藤田敦史さんや小川博之さん、佐藤敦之さんといった先輩たちがいましたし、そういう世代を見て育ったというのは、福島の良さかな、と感じています。
――順大に進学され、今井さんの1年目は2区を走られています。(※2区区間10位)
今井 僕が入学した頃は上級生が少なかったこともあり、1年生から走るのは当然、という強い思いで入学しました。ただ、夏合宿まではうまく走れなくて、結果も出ていなかったので仲村明監督に「泣きながら走っているぞ」って言われたのを覚えています。
――2区を今井さん、9区を同期で現・順大監督の長門俊介さん。1年生の2人が主要区間を走られましたね。
今井 仲は良かったですが、一番意識していたライバルです。11月くらいからは練習でも意識し、先に走ったほうの練習結果を見て、後に走るほうがさらに良い記録を狙っていました。先輩たちから「押さえろ! 熱くなりすぎだぞ!」と言われていました(笑)
――2年時から3年連続で5区を走ることになります。
今井 実は1年生の夏合宿のとき、3、4人でジョグをしていたら、澤木啓祐先生に「お前は5区だ」って言われたことがあるんです。その時は、「誰のこと?」という感じでしたが、後になって思うと「自分だったんだな」と。
4年間、2区を走って他大学のエースと勝負したいという思いもありましたが、決まってからは早く切り替えることができて、「よし、勝負しよう」と覚悟を決めました。箱根駅伝で“山”を走るのは5区と6区だけ。そこで結果を出せたら注目してもらえる、というが大きなモチベーションになりました。
――山を上る練習というのはされるのですか。
今井 トラックや他の駅伝などもあるので、年間をとおして上りの練習をするわけではありません。ただ、練習で上りを走る時は意識していました。また、感覚で走るタイプなので、コースの事や走り方など誰かに聞くこともあまり多くなかったと思います。実際にコースの情報はあまり頭に入っていませんでした(笑)
その中で、全日本大学駅伝が終わってから膝の使い方や前傾の取り方を意識するなど少しずつ切り替えていきます。順大は校舎が小高い丘の上に建っているので、朝練習でそこまでの坂を何本も上るなどして、箱根仕様にしていきます。3、4年生の時はそれをさらに鮮明にしていきました。
――今井さんや柏原さん、神野さんたちの活躍で変わりましたね。
今井 僕らの頃は5区配置の位置づけも今と違ったように思います。当時の5区できれば走りたくない人が多かったです(笑)。先輩の中には「5区を走るくらいなら、箱根駅伝は走らなくてもいい」と言っていた人もいたくらいです。そういう区間でしたね。
――5区を走るためのポイントは?
今井 それを伝えるのは難しくて、選手によって走り方も違います。山上りに強い選手で共通しているのは、山に対して「嫌だな」というネガティブな気持ちではなく、腹を括って、覚悟を持って向かっていく気持ち。これはみんな共通していると思います。
――卒業されて2年後、柏原さんが1年生で5区を制して『二代目・山の神』と呼ばれるようになりました。
今井 もちろん、悔しさもありましたが、うれしさが上回りました。柏原君のことは高校の恩師から聞いて知っていましたし、都道府県対抗男子駅伝の際に、僕に5区に関していろいろ聞いてくれていました。有言実行してくれたんだな、と。
あっさり抜かれちゃったので、「あれ? 自分ってこんなもんだったのかな」と思いましたが(笑)。柏原君の人間性も含めて、同じ福島の後輩に抜かれたことでスッキリしました。だからこそ、「よし、また次に向かって頑張ろう」と思えました。
――『山の神』と呼ばれることについて、思うところはありますか。
今井 そうして覚えてもらったり、応援してもらったりしたのはすごくありがたいことです。大学入学時には、そういうインパクトのある活躍をしたいと思っていましたから。ただ、その“山の神”を未だに超えられていないと思うので、そこは「超えるんだ!」と、現役を続ける一つのモチベーションになっています。
――100回目を迎える箱根駅伝、そして選手へのメッセージをお願いします。
今井 100回目だから、というのは走っている本人たちはそれほど意識していないと思います。ただ、そうした節目だからこそ、1歩目を踏み出してくださった方々や、戦争で走れなかった方々など、諸先輩に感謝して思い切って走ってほしいなと思います。
自分たちが走った事実はずっと残ります。学生主体で大きな目標に向かい、仲間と共感したり、時にはぶつかったりしながら共に進んでいく。将来、思い出話をしながら酒を飲めたら最高ですよね。
それが学生スポーツの醍醐味の一つですし、そんな仲間と熱くチャレンジできるのも今しかありません。箱根駅伝がどんな思いで創設し、開催されるようになったのか。そういった思いは変えてはいけない部分だと思います。
しかし、開催の仕方や方法は時代の流れの中で、どんどん変化させていって良い部分であるとも思っています。学生が主体となって開催していく。その情熱の中で、さらに箱根駅伝が受け継がれていってほしいです。
在学中から卒業後はマラソンでオリンピックを目指す思いで競技していましたが、箱根駅伝を通過点という意識では走っていませんでした。今のすべてを出し切った先に次のステージが待っている。「やり切った」思いがあるからこそ、今の自分があると思っています。
◎いまい・まさと/1984年4月2日生まれ、39歳。福島県相馬郡(現・南相馬市)出身。福島・原町高→順大→トヨタ自動車九州。
■箱根駅伝成績
1年時(80回/04年)2区10位 1時間10分10秒 (総合5位)
2年時(81回/05年)5区1位 1時間 9分12秒 (総合5位)
3年時(82回/06年)5区1位 1時間18分30秒 (総合4位)
4年時(83回/07年)5区1位 1時間18分05秒 (総合1位)
構成/向永拓史
1年目は2区、2年時から箱根の山へ
――いつ頃から箱根駅伝を意識されたのでしょう。 今井 父や兄の影響で見始めました。順大と駒大の“紫紺対決”を見ていた世代で、順大クインテット(入船満、岩水嘉孝、奥田真一郎、坂井隆則、野口英盛)にあこがれました。それで、順大で走りたいと思うようになりました。 福島には藤田敦史さんや小川博之さん、佐藤敦之さんといった先輩たちがいましたし、そういう世代を見て育ったというのは、福島の良さかな、と感じています。 ――順大に進学され、今井さんの1年目は2区を走られています。(※2区区間10位) 今井 僕が入学した頃は上級生が少なかったこともあり、1年生から走るのは当然、という強い思いで入学しました。ただ、夏合宿まではうまく走れなくて、結果も出ていなかったので仲村明監督に「泣きながら走っているぞ」って言われたのを覚えています。 ――2区を今井さん、9区を同期で現・順大監督の長門俊介さん。1年生の2人が主要区間を走られましたね。 今井 仲は良かったですが、一番意識していたライバルです。11月くらいからは練習でも意識し、先に走ったほうの練習結果を見て、後に走るほうがさらに良い記録を狙っていました。先輩たちから「押さえろ! 熱くなりすぎだぞ!」と言われていました(笑) ――2年時から3年連続で5区を走ることになります。 今井 実は1年生の夏合宿のとき、3、4人でジョグをしていたら、澤木啓祐先生に「お前は5区だ」って言われたことがあるんです。その時は、「誰のこと?」という感じでしたが、後になって思うと「自分だったんだな」と。 4年間、2区を走って他大学のエースと勝負したいという思いもありましたが、決まってからは早く切り替えることができて、「よし、勝負しよう」と覚悟を決めました。箱根駅伝で“山”を走るのは5区と6区だけ。そこで結果を出せたら注目してもらえる、というが大きなモチベーションになりました。 ――山を上る練習というのはされるのですか。 今井 トラックや他の駅伝などもあるので、年間をとおして上りの練習をするわけではありません。ただ、練習で上りを走る時は意識していました。また、感覚で走るタイプなので、コースの事や走り方など誰かに聞くこともあまり多くなかったと思います。実際にコースの情報はあまり頭に入っていませんでした(笑) その中で、全日本大学駅伝が終わってから膝の使い方や前傾の取り方を意識するなど少しずつ切り替えていきます。順大は校舎が小高い丘の上に建っているので、朝練習でそこまでの坂を何本も上るなどして、箱根仕様にしていきます。3、4年生の時はそれをさらに鮮明にしていきました。 ――今井さんや柏原さん、神野さんたちの活躍で変わりましたね。 今井 僕らの頃は5区配置の位置づけも今と違ったように思います。当時の5区できれば走りたくない人が多かったです(笑)。先輩の中には「5区を走るくらいなら、箱根駅伝は走らなくてもいい」と言っていた人もいたくらいです。そういう区間でしたね。 ――5区を走るためのポイントは? 今井 それを伝えるのは難しくて、選手によって走り方も違います。山上りに強い選手で共通しているのは、山に対して「嫌だな」というネガティブな気持ちではなく、腹を括って、覚悟を持って向かっていく気持ち。これはみんな共通していると思います。 [caption id="attachment_124946" align="alignnone" width="800"] 2年から3年連続で5区を務め前を行く大学を次々とかわしていく[/caption] ――卒業されて2年後、柏原さんが1年生で5区を制して『二代目・山の神』と呼ばれるようになりました。 今井 もちろん、悔しさもありましたが、うれしさが上回りました。柏原君のことは高校の恩師から聞いて知っていましたし、都道府県対抗男子駅伝の際に、僕に5区に関していろいろ聞いてくれていました。有言実行してくれたんだな、と。 あっさり抜かれちゃったので、「あれ? 自分ってこんなもんだったのかな」と思いましたが(笑)。柏原君の人間性も含めて、同じ福島の後輩に抜かれたことでスッキリしました。だからこそ、「よし、また次に向かって頑張ろう」と思えました。 ――『山の神』と呼ばれることについて、思うところはありますか。 今井 そうして覚えてもらったり、応援してもらったりしたのはすごくありがたいことです。大学入学時には、そういうインパクトのある活躍をしたいと思っていましたから。ただ、その“山の神”を未だに超えられていないと思うので、そこは「超えるんだ!」と、現役を続ける一つのモチベーションになっています。 ――100回目を迎える箱根駅伝、そして選手へのメッセージをお願いします。 今井 100回目だから、というのは走っている本人たちはそれほど意識していないと思います。ただ、そうした節目だからこそ、1歩目を踏み出してくださった方々や、戦争で走れなかった方々など、諸先輩に感謝して思い切って走ってほしいなと思います。 自分たちが走った事実はずっと残ります。学生主体で大きな目標に向かい、仲間と共感したり、時にはぶつかったりしながら共に進んでいく。将来、思い出話をしながら酒を飲めたら最高ですよね。 それが学生スポーツの醍醐味の一つですし、そんな仲間と熱くチャレンジできるのも今しかありません。箱根駅伝がどんな思いで創設し、開催されるようになったのか。そういった思いは変えてはいけない部分だと思います。 しかし、開催の仕方や方法は時代の流れの中で、どんどん変化させていって良い部分であるとも思っています。学生が主体となって開催していく。その情熱の中で、さらに箱根駅伝が受け継がれていってほしいです。 在学中から卒業後はマラソンでオリンピックを目指す思いで競技していましたが、箱根駅伝を通過点という意識では走っていませんでした。今のすべてを出し切った先に次のステージが待っている。「やり切った」思いがあるからこそ、今の自分があると思っています。 ◎いまい・まさと/1984年4月2日生まれ、39歳。福島県相馬郡(現・南相馬市)出身。福島・原町高→順大→トヨタ自動車九州。 ■箱根駅伝成績 1年時(80回/04年)2区10位 1時間10分10秒 (総合5位) 2年時(81回/05年)5区1位 1時間 9分12秒 (総合5位) 3年時(82回/06年)5区1位 1時間18分30秒 (総合4位) 4年時(83回/07年)5区1位 1時間18分05秒 (総合1位) 構成/向永拓史
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