2020.09.14
【女子1500m特別対談】田中希実×小林祐梨子
前日本記録保持者が聞く
「新時代の日本新」と未来
9月4日に21歳の誕生日を迎えた田中(右)と前日本記録保持者の小林さん
セイコーゴールデングランプリ2020東京の女子1500m。田中希実(豊田自動織機TC)が目指したものはただ1つ。ずっと大きな目標にしてきた日本記録「4分07秒86」を更新することだった。その記録を2006年から保持していたのが、兵庫県小野市出身の田中にとって、地元の大先輩である小林祐梨子さん(当時・須磨学園高3兵庫)。すでに競技を離れ、現在はテレビ、ラジオのコメンテーターとしてレギュラー番組を持つなど多方面で活躍、3歳の男の子を育てるママでもある。
そんな小林さんは活躍をそばでずっと見守ってきた「のんちゃん(田中の愛称)」が、自らの記録を大幅に破ってくれたことに大喜び。田中にとっても、挑めば挑むほど、大きな壁と感じさせられた記録をついに塗り替え、大きな達成感を得ている。そこで快挙の余韻覚めやらぬ9月上旬、新旧日本記録保持者の対談を企画。小林さんにメインインタビュアー役をお願いし、田中の強さの秘密、素顔を引き出してもらった。
●構成/小川雅生 撮影/弓庭保夫
「記録狙い」だからこそ踏ん張れた
小林 1500mの記録って最後までわからないものだと思うけど、最初の400mの時点で、自分は走っていないのに確信していました(笑)。これはいけるって思うくらいの動きの余裕度はあったよね。「0.01秒更新はやめて~」って思っていて、大幅にサーッと抜いてほしかったので、想像以上の走りに自分のことのようにうれしいです。日本新が出るというのは、いつ確信したの?
田中 残り100mです。ラスト200mくらいで放送が聞こえて、余裕あるかなとは思いました。でも、本当にいけそうって思ったのは最後の100mです。
小林 レース中の通過タイムは気になった?
田中 800m通過は、やっぱり日本記録ペースで行きたいという思いがありました。今までにない速さ、2分11秒か12秒で通過したら、それで日本記録を目指している卜部さん(蘭、積水化学)じゃない限り、そのハイペースに驚いたり、セーブしたりするので、人数を絞れると思っていたんです。
小林 私が日本記録を狙った時は環境も整えられていて、引っ張ってくれる選手につくだけだからストレスはなかった。でも、1人で引っ張って記録を出そうというストレスとプレッシャーは、想像できない。スタートラインに立った時に、やばい、みたいな気持ちはなかった?
田中 当日の朝練習の感触は良くなかったんです。レース展開も、私が日本記録を狙っているというのはみんなわかっていたし、誰も走ったことのないペースで行くから誰も前に出てくれないだろうと考えていました。だから、どうしようっていう緊張がすごくあって。前にも出たくないし、後ろについても記録は出ないし、迷いもすごくありました。でも、祐梨子さんが、私が「記録を気にせずに行こうと思います」って言ったら「それで本当に大丈夫だから」と後押ししてくれたので、そこで張り詰めていたものが一つ取れて、レース前にシューズのことでバタバタして完全に取れました(笑)。
セイコーゴールデングランプリ2020東京の女子1500mで4分05秒27の日本新を樹立した田中
小林 1500mにはラストに止まってしまう恐怖があるものだから、引っ張るのはなかなかできないこと。そこの恐怖はなかった?
田中 反対に、日本選手権みたいに、優勝とか順位狙いの時は、自分がしんどいのか、自分が相手より余裕があるのかということをすごく気にしちゃうし、脚が固まってきたら「ちょっとやばいかも」って不安になっちゃうんです。でも、今回は順位よりタイム。「今まで誰も走ったことのないペースで走ってるからしんどくて当たり前だ」と思えました。800mの2分12秒通過はかなりしんどかったけど、「これだけのペースなんだから」と思ってました。
小林 私が一番きついと感じていたのはラスト300mのバックストレート。振り返ってみて、一番きつかったポイントは?
田中 やっぱり800mあたりですね。そこから1000mを過ぎたあたりでは、あとはラストを上げればいいって思えました。
小林 気持ち的に? 身体的に?
田中 両方です。身体的には、800m通過の時が一番脚が固まっていました。
小林 めちゃくちゃ意外やね。
田中 たぶん、800mを2分12秒で通過できたことで、安心して、ペースを気持ち落としたと思うんです、1000mにかけて。そこでちょっと気持ちと身体にもう1回、余裕を作り直すことができました。
小林 私の記録(4分07秒86)は超えられると思っていたけど、4分05秒は想定内?
田中 いつかはそこくらいまで行けたら、とは思っていました。祐梨子さんがさっき言われたように、0.01秒だけ更新とか、そういうのは私自身もイヤだったので、できれば4分06秒台にはいきたいとは思っていました。
この続きは2020年9月14日発売の『月刊陸上競技10月号』をご覧ください。
定期購読はこちらから
【女子1500m特別対談】田中希実×小林祐梨子
前日本記録保持者が聞く 「新時代の日本新」と未来
9月4日に21歳の誕生日を迎えた田中(右)と前日本記録保持者の小林さん
セイコーゴールデングランプリ2020東京の女子1500m。田中希実(豊田自動織機TC)が目指したものはただ1つ。ずっと大きな目標にしてきた日本記録「4分07秒86」を更新することだった。その記録を2006年から保持していたのが、兵庫県小野市出身の田中にとって、地元の大先輩である小林祐梨子さん(当時・須磨学園高3兵庫)。すでに競技を離れ、現在はテレビ、ラジオのコメンテーターとしてレギュラー番組を持つなど多方面で活躍、3歳の男の子を育てるママでもある。
そんな小林さんは活躍をそばでずっと見守ってきた「のんちゃん(田中の愛称)」が、自らの記録を大幅に破ってくれたことに大喜び。田中にとっても、挑めば挑むほど、大きな壁と感じさせられた記録をついに塗り替え、大きな達成感を得ている。そこで快挙の余韻覚めやらぬ9月上旬、新旧日本記録保持者の対談を企画。小林さんにメインインタビュアー役をお願いし、田中の強さの秘密、素顔を引き出してもらった。
●構成/小川雅生 撮影/弓庭保夫
「記録狙い」だからこそ踏ん張れた
小林 1500mの記録って最後までわからないものだと思うけど、最初の400mの時点で、自分は走っていないのに確信していました(笑)。これはいけるって思うくらいの動きの余裕度はあったよね。「0.01秒更新はやめて~」って思っていて、大幅にサーッと抜いてほしかったので、想像以上の走りに自分のことのようにうれしいです。日本新が出るというのは、いつ確信したの? 田中 残り100mです。ラスト200mくらいで放送が聞こえて、余裕あるかなとは思いました。でも、本当にいけそうって思ったのは最後の100mです。 小林 レース中の通過タイムは気になった? 田中 800m通過は、やっぱり日本記録ペースで行きたいという思いがありました。今までにない速さ、2分11秒か12秒で通過したら、それで日本記録を目指している卜部さん(蘭、積水化学)じゃない限り、そのハイペースに驚いたり、セーブしたりするので、人数を絞れると思っていたんです。 小林 私が日本記録を狙った時は環境も整えられていて、引っ張ってくれる選手につくだけだからストレスはなかった。でも、1人で引っ張って記録を出そうというストレスとプレッシャーは、想像できない。スタートラインに立った時に、やばい、みたいな気持ちはなかった? 田中 当日の朝練習の感触は良くなかったんです。レース展開も、私が日本記録を狙っているというのはみんなわかっていたし、誰も走ったことのないペースで行くから誰も前に出てくれないだろうと考えていました。だから、どうしようっていう緊張がすごくあって。前にも出たくないし、後ろについても記録は出ないし、迷いもすごくありました。でも、祐梨子さんが、私が「記録を気にせずに行こうと思います」って言ったら「それで本当に大丈夫だから」と後押ししてくれたので、そこで張り詰めていたものが一つ取れて、レース前にシューズのことでバタバタして完全に取れました(笑)。
セイコーゴールデングランプリ2020東京の女子1500mで4分05秒27の日本新を樹立した田中
小林 1500mにはラストに止まってしまう恐怖があるものだから、引っ張るのはなかなかできないこと。そこの恐怖はなかった?
田中 反対に、日本選手権みたいに、優勝とか順位狙いの時は、自分がしんどいのか、自分が相手より余裕があるのかということをすごく気にしちゃうし、脚が固まってきたら「ちょっとやばいかも」って不安になっちゃうんです。でも、今回は順位よりタイム。「今まで誰も走ったことのないペースで走ってるからしんどくて当たり前だ」と思えました。800mの2分12秒通過はかなりしんどかったけど、「これだけのペースなんだから」と思ってました。
小林 私が一番きついと感じていたのはラスト300mのバックストレート。振り返ってみて、一番きつかったポイントは?
田中 やっぱり800mあたりですね。そこから1000mを過ぎたあたりでは、あとはラストを上げればいいって思えました。
小林 気持ち的に? 身体的に?
田中 両方です。身体的には、800m通過の時が一番脚が固まっていました。
小林 めちゃくちゃ意外やね。
田中 たぶん、800mを2分12秒で通過できたことで、安心して、ペースを気持ち落としたと思うんです、1000mにかけて。そこでちょっと気持ちと身体にもう1回、余裕を作り直すことができました。
小林 私の記録(4分07秒86)は超えられると思っていたけど、4分05秒は想定内?
田中 いつかはそこくらいまで行けたら、とは思っていました。祐梨子さんがさっき言われたように、0.01秒だけ更新とか、そういうのは私自身もイヤだったので、できれば4分06秒台にはいきたいとは思っていました。
この続きは2020年9月14日発売の『月刊陸上競技10月号』をご覧ください。
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.12.16
中央学大がTKK株式会社とスポンサー契約 同大卒業生が代表取締役
-
2025.12.16
-
2025.12.16
-
2025.12.16
-
2025.12.16
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝女子(2025年12月14日)
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝男子(2025年12月14日)
2025.12.14
中学駅伝日本一決定戦がいよいよ開催 女子11時10分、男子12時15分スタート/全中駅伝
-
2025.12.14
-
2025.12.14
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝女子(2025年12月14日)
2025.12.14
【大会結果】第33回全国中学校駅伝男子(2025年12月14日)
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.12.16
中央学大がTKK株式会社とスポンサー契約 同大卒業生が代表取締役
中央学大駅伝部が「TKK株式会社」とスポンサー契約を結んだことを発表した。 同社は千葉県八千代市に本社を構え、主にプレキャストコンクリート鋼製型枠を取り扱うメーカー。中央学大卒業の安保誠司氏が代表取締役を務めており、「未 […]
2025.12.16
今年度限りでの「引退」を表明した村澤明伸インタビュー【前編】 大学3・4年時はトラックと駅伝の両立に挑戦したが「バランスを取るのが難しかった」
全国高校駅伝で日本一に輝き、箱根駅伝は花の2区で快走。日本選手権10000mでも上位に食い込んだのが、村澤明伸(SGホールディングス、34歳)だ。紆余曲折を経て、今年度限りでの「引退」を表明したが、どんな競技生活を過ごし […]
2025.12.16
赤﨑優花が自身の思いと感謝綴る 移籍は「前向きな決断」「この道を正解にします」
12月15日で第一生命グループを退社し、夫の赤﨑暁も所属するクラフティア(前・九電工)へ移籍加入した赤﨑優花(旧姓・鈴木)が自身のSNSを更新し、改めて思いを綴った。 昨年のパリ五輪女子マラソン6位入賞の赤﨑。「決して悲 […]
2025.12.16
お詫びと訂正(月刊陸上競技2026年1月号)
月刊陸上競技2026年1月号別冊付録「全国高校駅伝総展望」に掲載したデータに誤りがございました。 正しいデータの情報を掲載するとともに、関係者の皆様にお詫びをし、訂正いたします。 男子 今治北(愛媛) 誤 都大路学校最高 […]
Latest Issue
最新号
2026年1月号 (12月12日発売)
箱根駅伝観戦ガイド&全国高校駅伝総展望
大迫傑がマラソン日本新
箱根駅伝「5強」主将インタビュー
クイーンズ駅伝/福岡国際マラソン
〔新旧男子100m高校記録保持者〕桐生祥秀×清水空跳