ハンガリー・ブダペストで開催された第19回世界選手権(8月19日~27日)で、田中希実(New Balance)が女子5000mで8位入賞の快挙を成し遂げた。同種目の男女世界トップについての総評を含め、2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に、振り返ってもらった。
◇ ◇ ◇
田中希実選手の5000m8位入賞は、本当に素晴らしい。同種目では1997年アテネ大会の弘山晴美さん以来の快挙。当時よりもアフリカ勢を中心に、競技人口が増えていることを考えると、その価値は非常に高いと言えます。これで世界は「Tanaka Nozomi」という選手を認知し、意識することになるでしょう。
リズムも、ピッチも、ストライドも、すべてにおいて世界基準でした。国内では常に世界を意識してレースを組み立てていて、人に頼ることなく、自分自身で全体をコントロールしていました。タイムは出づらいのですが、その積み重ねが今回の結果につながったのだと思います。
快挙へのポイントは「余裕度」ではないかと考えます。
まずは、やはり予選の日本新(14分37秒98)で大きな自信を得たのではないでしょうか。決勝の走る姿からもそれが感じられ、ペースの上げ下げがある中でも常に余裕が感じられました。
加えて、ラスト1周で順位を取れるという手応えを持っていたことも、レース中の余裕を生んでいたでしょう。これは、前述した今季の取り組みから生まれているものです。
今季は、どんな展開のレースでもラスト1周を60秒で回ることを目指し、そのためのトレーニングを継続していました。そして、それを見事に発揮して、決勝は61秒12でカバーしています。ハイペースにならなかったことも彼女にとって味方しましたが、とはいえラスト1周が62秒かかっていたら入賞はできていません。
今季は、なかなかタイムが出ない中で葛藤はあったと思います。自分に厳しく、根を詰めて考えるタイプでもありますが、いい意味で予選で吹っ切れたのではないかと感じています。
ハイペースで記録を狙うレースがあれば、今は14分20秒台が出てもおかしくないでしょう。国内では、そのレベルで引っ張り切れる選手がいないため、海外レースでしか実現できないかもしれません。海外でいろいろなチャレンジをしていることから、むしろ海外のリズムのほうが合うのではないでしょうか。
今後の田中選手のお手本となるのは、やはり優勝を争った選手たちでしょう。金メダルのフェイス・キピエゴン選手(ケニア)、銀メダルのシファン・ハッサン選手(オランダ)、銅メダルのベアトリス・チェベト選手(ケニア)はいずれもラスト1周を56秒台でカバーしています。
そしてキピエゴン選手は、自分が絶対に勝てるというタイミングをわかっていて、ラスト400mを切って動き出しました。こういった走りは参考になるはずです。
男子5000mは、ヤコブ・インゲブリグトセン選手(ノルウェー)が2連覇を飾り、2位にはモハメド・カティル選手(スペイン)が銀メダルと、欧州勢が上位を占めました。日本男子にとっては、ここに世界と戦うためのヒントがあると感じます。
欧州では1マイルや1500mが盛んで、そこで「スピード」と「勝負」が磨かれています。スローペースになった決勝や、着順通過のみとなった予選は、そういった点で欧州勢に有利に働いたのではないでしょうか。
それならば、日本もそういったアプローチが必要なのではないかと思います。1500mや3000mのスピードを持って、5000mに挑む。それも、やはり年単位で腰を据えて強化をすべきでしょう。
日本の遠藤日向選手(住友電工)、塩尻和也選手(富士通)ともに、自身の力は出し切ったと思います。そのうえで予選が壁になったのは、根本的な力が届いていないということなのでしょう。
今回のレース全体で感じたのが、1000mで2分30秒を切る力を、1000m、2000mと出せないといけなということです。1000m1本なら2分30秒を切れるのかもしれませんが、それを続けて出す力がないと、今の世界の5000mでは通用しないと感じました。
では、どうすればそういった力をつけられるのか。そこに近道はありません。じっくりと走り込むことと、スピード能力を高めること、そしてそれを高いレベルで両立させていくこと。この取り組みをケガなく、継続して実施することではじめて身につくものだと考えます。
インゲブリグトセン選手はここ数年、常に高い水準でパフォーマンスを維持しています。これは良いトレーニングを継続できているからに他なりません。世界に追いつくための一歩目はそこにあるのではないでしょうか。
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.08.21
ダイヤモンドリーグ・ブリュッセルに田中希実と真野友博がエントリー!
-
2025.08.21
-
2025.08.21
-
2025.08.21
-
2025.08.21
2025.08.16
100mH・福部真子12秒73!!ついに東京世界選手権参加標準を突破/福井ナイトゲームズ
-
2025.08.19
2025.08.16
100mH・福部真子12秒73!!ついに東京世界選手権参加標準を突破/福井ナイトゲームズ
-
2025.07.24
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.08.21
ダイヤモンドリーグ・ブリュッセルに田中希実と真野友博がエントリー!
世界最高峰シリーズのダイヤモンドリーグ(DL)第14戦、レギュラーシリーズの最終戦となるブリュッセル大会(ベルギー)のエントリー選手が発表されている。 女子5000mに日本記録保持者の田中希実(New Balance)が […]
2025.08.21
【高校生FOCUS】男子400m・小澤耀平(城西高)広島インターハイを制覇!次に狙うはタイムで“師匠超え”
FOCUS! 高校生INTERVIEW 小澤耀平 Ozawa Yohei 城西3東京 広島インターハイからまもなく1ヵ月。男子400mを高校歴代8位タイの46秒38で制した小澤耀平選手(城西3東京)にフォーカスします。今 […]
2025.08.21
【世界陸上プレイバック】―19年ドーハ―走高跳・バルシムが地元V 日本が男子競歩2種目で金独占 4継はアジア新で銅メダル
今年9月、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。 これ […]
2025.08.21
【大会結果】アジア投てき選手権(2025年8月21日~22日)
【大会結果】アジア投てき選手権(2025年8月21日~22日/韓国・木浦) 男子 砲丸投 金 張浩辰(中国) 19m84 銀 邢家梁(中国) 19m76 銅 I.イワノワ(カザフスタン) 18m58 円盤投 金 呉南軍( […]
2025.08.21
30歳ブレイクが100m9秒95、33歳ブラウン20秒27、カナダのベテランが好走!ジェームス400mV/北中米カリブ選手権
8月15~17日、バハマで北中米カリブ(NACAC)選手権が開催され、男子ショートスプリントではカナダ勢がタイトルを独占。100mではJ.ブレイク(カナダ)が自己新の9秒95(+0.4)で、200mはA.ブラウン(カナダ […]
Latest Issue
最新号

2025年9月号 (8月12日発売)
衝撃の5日間
広島インターハイ特集!
桐生祥秀 9秒99