HOME 国内、大学

2023.09.16

【コラム】110mH日本記録の村竹ラシッド「こんな思いをするくらいなら…」悔しさやケガをはね除け追い越したあの日の背中
【コラム】110mH日本記録の村竹ラシッド「こんな思いをするくらいなら…」悔しさやケガをはね除け追い越したあの日の背中

順大の村竹ラシッド

◇第92回日本インカレ(9月14日~17日/埼玉・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場)

日本インカレ3日目。男子110mハードルで村竹ラシッド(順大)が日本タイ記録となる13秒04(-0.9)で2年ぶり3度目の優勝を果たした。

広告の下にコンテンツが続きます

村竹には忘れられない光景がある。2021年6月27日、大阪。東京五輪代表を懸けた日本選手権の決勝で、村竹は不正スタートで失格となってしまった。

まだ大学2年生。前日の予選で13秒28というとてつもない走りを見せて東京五輪参加標準記録をここで初めて突破。決勝で3位に入ればいきなり地元開催のオリンピック代表という立場になった。

「当時は急にオリンピックが目の前に来た。心が追いつかなかった。自分なんかが出ていいのかな」

そうした心の迷いが焦りを生み、身体が動いた。村竹はスタート地点にとどまり、繰り広げられる東京五輪代表決定の瞬間から目を離さなかった。110m先で、同じ順大のユニフォームを着たあこがれの泉谷駿介(現・住友電工)が13秒06という日本人初の13秒0台という歴史的な日本新記録(当時)を打ち立てて東京五輪を決めた。

それからしばらくは部屋に引きこもり、1週間はグラウンドに足を運べなかった。「こんなにつらい思いをするくらいなら陸上なんてやらないほうがいいんじゃないか」。そんなことも考えたという。

それでも、時間が解決してくれた。グラウンドには「頼もしい先輩、後輩がいる」。山崎一彦先生がいる。そして、ともに切磋琢磨できる同期がいた。

昨年の日本選手権でも3位以内に入ればオレゴン世界選手権代表になれる状況。「正直、少し思い出します」。それでもしっかり泉谷に次いで2位となって、一緒に世界選手権代表となった。

今年は3月に13秒25をマーク。ブダペスト世界選手権の参加標準記録を早々に破ったが、4月の織田記念で左脚を肉離れ。今度は塞ぎ込むことなく、ケガをしない、地道な身体作りをした。強くなって戻る。その答えは、復帰戦となった7月のレースで13秒18というパリ五輪の参加標準記録突破として表われた。

ダイヤモンドリーグにも初参戦。そして、2023年9月16日。あのとき、ジッと見届けた偉大な先輩の背中を0.02秒越え、日本人で2人目の13秒0台に突入し、泉谷が今年6月に出した日本記録と肩を並べた。

「泉谷さんはコンスタントに13秒0台を出されていますし、経験値の差があります。あまり競技のことは話しませんが…ご飯をおごってもらおうと思います」

順大のユニフォームを着て走った最後の対校戦の110mハードル。「明日はめいっぱい応援します」。そういってチームの副主将は笑顔を浮かべた。

文/向永拓史

◇第92回日本インカレ(9月14日~17日/埼玉・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場)日本インカレ3日目。男子110mハードルで村竹ラシッド(順大)が日本タイ記録となる13秒04(-0.9)で2年ぶり3度目の優勝を果たした。村竹には忘れられない光景がある。2021年6月27日、大阪。東京五輪代表を懸けた日本選手権の決勝で、村竹は不正スタートで失格となってしまった。まだ大学2年生。前日の予選で13秒28というとてつもない走りを見せて東京五輪参加標準記録をここで初めて突破。決勝で3位に入ればいきなり地元開催のオリンピック代表という立場になった。「当時は急にオリンピックが目の前に来た。心が追いつかなかった。自分なんかが出ていいのかな」そうした心の迷いが焦りを生み、身体が動いた。村竹はスタート地点にとどまり、繰り広げられる東京五輪代表決定の瞬間から目を離さなかった。110m先で、同じ順大のユニフォームを着たあこがれの泉谷駿介(現・住友電工)が13秒06という日本人初の13秒0台という歴史的な日本新記録(当時)を打ち立てて東京五輪を決めた。それからしばらくは部屋に引きこもり、1週間はグラウンドに足を運べなかった。「こんなにつらい思いをするくらいなら陸上なんてやらないほうがいいんじゃないか」。そんなことも考えたという。それでも、時間が解決してくれた。グラウンドには「頼もしい先輩、後輩がいる」。山崎一彦先生がいる。そして、ともに切磋琢磨できる同期がいた。昨年の日本選手権でも3位以内に入ればオレゴン世界選手権代表になれる状況。「正直、少し思い出します」。それでもしっかり泉谷に次いで2位となって、一緒に世界選手権代表となった。今年は3月に13秒25をマーク。ブダペスト世界選手権の参加標準記録を早々に破ったが、4月の織田記念で左脚を肉離れ。今度は塞ぎ込むことなく、ケガをしない、地道な身体作りをした。強くなって戻る。その答えは、復帰戦となった7月のレースで13秒18というパリ五輪の参加標準記録突破として表われた。ダイヤモンドリーグにも初参戦。そして、2023年9月16日。あのとき、ジッと見届けた偉大な先輩の背中を0.02秒越え、日本人で2人目の13秒0台に突入し、泉谷が今年6月に出した日本記録と肩を並べた。「泉谷さんはコンスタントに13秒0台を出されていますし、経験値の差があります。あまり競技のことは話しませんが…ご飯をおごってもらおうと思います」順大のユニフォームを着て走った最後の対校戦の110mハードル。「明日はめいっぱい応援します」。そういってチームの副主将は笑顔を浮かべた。文/向永拓史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2026.10.23

大雨予報で2日目・走高跳、棒高跳、円盤投の競技時間繰り下げ 明日8時に追加変更の可能性/U18・16大会

◇第20回U18・第57回U16陸上競技大会(2026年10月23日~25日/三重交通Gスポーツの杜伊勢陸上競技場) 日本陸連は10月23日、第20回U18・第57回U16陸上競技大会の2日目のU16とU18の女子走高跳 […]

NEWS 編集部コラム「陸上と他競技の横のつながり」

2026.10.23

編集部コラム「陸上と他競技の横のつながり」

攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム?? 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。 編集スタッフが週替りで […]

NEWS 中電工・梶山林太郎が引退 25年ニューイヤー駅伝出場 世羅高、中大でも駅伝で力走

2026.10.23

中電工・梶山林太郎が引退 25年ニューイヤー駅伝出場 世羅高、中大でも駅伝で力走

中電工陸上競技部は10月23日、チームのSNSで梶山林太郎の現役引退を発表した。 梶山は広島県出身。坂中時代は3年時の15年全中駅伝1区で区間賞に輝いた。世羅高では、全国高校駅伝に3年連続で出場し、1区を2度務めている。 […]

NEWS 競歩・池田向希が競技復帰へ「権利と競技人生を守るため、正面から向き合った」ドーピング違反無実と裁定

2026.10.23

競歩・池田向希が競技復帰へ「権利と競技人生を守るため、正面から向き合った」ドーピング違反無実と裁定

スポーツ仲裁裁判所(CAS)は10月23日、男子競歩の池田向希(旭化成)のドーピング規則違反に対する世界陸連(WA)の独立不正調査機関「アスレティックス・インテグリティ・ユニット(AIU)」への控訴に対して「支持する」と […]

NEWS 競歩・池田向希の資格停止処分に対する不服申し立てで全面勝訴 無実証明、競技復帰へ

2026.10.23

競歩・池田向希の資格停止処分に対する不服申し立てで全面勝訴 無実証明、競技復帰へ

スポーツ仲裁裁判所(CAS)は10月23日、男子競歩の池田向希(旭化成)のドーピング規則違反に対する世界陸連(WA)の独立不正調査機関「アスレティックス・インテグリティ・ユニット(AIU)」への控訴に対して「支持する」と […]

    SNS

    Latest Issue 最新号最新号

    2026年11月号 (10月14日発売)

    2026年11月号 (10月14日発売)

    アジア大会総特集
    駅伝プレビュー

    page top