2023.03.02
地元国体を経て、目指すは「陸上の聖地」
今年秋、20年から延期になった鹿児島国体がついにやって来る。JAG大崎が生まれるきっかけになった出来事でもあり、延期決定後の月日をともに過ごしてきたと言ってもいいだろう。
鹿児島陸協強化部長で、国体陸上チームの監督を務めることになる新開浩一氏(鹿児島南高教)は、「県内には、トップ選手が来てくれるような大会がこれまでにはありませんでした。JAG大崎にトップ選手が来てくれることが、県内の中高生にとっては一番大事なこと。間近で競技を見るだけでも勉強になりますし、室内だからこそ感じやすい選手たちの迫力は大いに刺激をもらえます」と話す。
国体に向けた強化合宿も、すでにこの施設で年末、年始、2月と3度実施したが、念願の地元国体イヤーを迎えたことで選手たちの目の色が変わってきているという。鶴田も、「大学(大東大)を卒業する時に、鹿児島国体のために地元に戻ることを決めました。ずっと目標にしてきた大会。(延期というかたちで)1度途切れてしまいましたが、その後も国体への想いを持ってずっとやってきました」と力強く語った。
JAG大崎、国体の盛り上がりとも合わせて、大崎町が目指すのは「陸上の聖地」。それは、JAG大崎の実行委員会の名前にも添えるほどの熱意を持って、取り組んでいる。
ジャパンアスリートトレーニングセンター大隅は、国内屈指の設備を求めて全国から選手やチームが集まり、今や「合宿のメッカ」となっている。そこに、JAG大崎のさらなるレベルアップを果たすことができれば――。そのための取り組みは、すでに始まっている。
「日本グランプリシリーズ入りも視野に入れています。まだまだ、集客の面をはじめ課題は多いですが、変えるべきところは変えて、鹿児島陸協、大会関係者や地域のみなさんの協力を得て、一緒に盛り上げていきたい。今後も『アスリートのみなさんへ合宿の成果を提供する』、『鹿児島の子供たちへの励みに』、そして『陸上の聖地』を目指して、第3回大会実施に向けて準備を進めていきます」(隈本さん)
2年ぶりのJAG大崎。アスリート、関係者、地域、さまざまな人たちの想いが実り、さらに大きな花を咲かせそうな予感を漂わせる、そんな大会だった。
文/小川雅生
2023年JAG大崎の女子60m[/caption]2月26日に第2回大会が開催された「Japan Athlete Games in Osaki」(JAG大崎)。鹿児島県大崎町に建設された、国内唯一の公認室内100m直走路を備えるトレーニング施設「ジャパンアスリートトレーニングセンター大隅」を舞台に、地元鹿児島が誇る東京五輪代表・鶴田玲美(南九州ファミリーマート)、男子円盤投の日本記録保持者・堤雄司(ALSOK群馬)をはじめ、多くのトップアスリートが参戦して大会を盛り上げた。また、男子短距離の桐生祥秀(日本生命)が、自身が主宰する「Sprint 50 Challenge」を実施。前日の予選でタイム上位だった小学生との「桐生Final」では、自らスパイクを履いて50m真剣勝負を繰り広げ、会場を大いに沸かせた。この光景を、大会関係者たちはずっと待ちわびていた。当日は息つく間もなく運営に奔走していたのだが、どこかこみ上げる喜びをかみしめているようにも見える。1年前のことを思えば、それもそうだろう。鹿児島陸協とともに大会を主催する「大崎町陸上競技の聖地創り実行委員会」の隈本祐貴さんは、「昨年はほぼ準備が完了していた中で、コロナ禍の影響で中止の決断をせざるを得ませんでした。今年は無事に開催できて本当に良かったです」と晴れやかな表情で振り返った。「あの大会ね」地域の理解得て第2回大会実現へ
JAG大崎が産声を上げたのは2021年。前年に予定されていた鹿児島国体が2023年に延期となったことを受け、「アスリートに練習の成果を発揮する場を提供したい」「鹿児島の中高生や子供たちの励みになるものを」という熱意を実現させたもの、それが日本屈指の合宿施設を活用したこの大会だ。その中心となったのが隈本さんや、長谷川勝哉さんら、大崎町役場で勤務する実行委員会のメンバーたちだ。大崎町で唯一の高校が閉校となり、2019年にその跡地に建設されたこのトレーニングセンターを使って「陸上の大会をしたいね」という話は当時から出ていたという。それを具体化させるための熱を生むきっかけになったのが、世界中に広がったコロナ禍だった。人々の生活がさまざまな面で止まったのは、大崎町ももちろん例外ではない。だが、時が経つとともに、合宿に訪れるアスリートが徐々に増えてきた。学生時代、隈本さんは剣道で汗を流し、長谷川さんは十種競技に取り組んでいた。スポーツの力を信じる人たちの手によって、大会はゼロから作られていったのだ。そして、彼らの想いは2021年2月の第1回大会開催で、一つの形になった。男子100mで山縣亮太(セイコー)が10秒39の室内日本最高をマークするなど、国内トップ選手がハイレベルのパフォーマンスを披露。その話題は各地へ発信された。もともと、ジャパンアスリートトレーニングセンター大隅で合宿をする人たち向けに、近隣の鹿屋市や志布志市をはじめ大隅半島全体と宿泊施設の提携をするなど関係が深かったこともあるが、1度の大会開催だけで多くの人たちがJAG大崎を認知している。それは隈本さんが、「地元企業に協賛のお願いに行くと、『あの大会ね』とすぐに理解してくださるところばかりでした」と驚くほど。志布志市内ではタクシーの運転手や、飲食店の店主からその客まで、「あの大会ね」と口にしている。昨年はコロナ禍の急拡大を受けて大会2週間前に中止を余儀なくされたが、実行委員会の人たちをはじめ大会に関係するすべての人、さらには地域も巻き込む「熱」は、むしろ第2回大会開催に向けてより高まっていったのだ。次ページ 「桐生とのコラボ」「物産展」「有観客」と選手たちの想い[caption id="attachment_94646" align="alignnone" width="800"]
男子短距離の桐生祥秀(日本生命)(2023年JAG大崎)[/caption]「桐生とのコラボ」「物産展」「有観客」と選手たちの想い
今回は、いくつかの新たな挑戦があった。その1つが、桐生の「Sprint 50 Challenge」とのコラボだ。実は中止になった1年前もすでに企画されたものだったのだが、それをそのままスライド開催することができたのは、桐生自身が「去年と同じスポンサーがサポートしてくれたお陰です」と語るように、周囲のサポートがあってこそ。男女合わせて100人近い小学生が参加し、前日の予選から桐生が待つ決勝をはじめ翌日のレースに進むために懸命にトラックを駆け抜ける。「子供たちのチャレンジを応援する」という桐生の想いともマッチし、桐生は昨年6月の日本選手権以来となるスパイクを履いてのレースを、この日に選んだ。6秒07というタイムは、本格復帰前でスターティングブロックをつけた練習をまだ組み込んでいない段階の桐生にとっては、文字通り「ガチ勝負」をした結果のもの。「子供たちが笑顔で走っている姿を見て、僕も楽しかったです」と話す桐生も満面の笑顔だった。[caption id="attachment_94647" align="alignnone" width="800"]
2023年JAG大崎で子供たちと写真に収まる桐生祥秀(日本生命)[/caption]2つ目が物産展の開催だ。施設から道路を挟んだ駐車場内に、大崎町をはじめ近隣の名産品を販売するブースを設け、大会の盛り上げに一役買った。うなぎ丼ぶりの味は、とても500円とは思えないほどで、サイコロステーキと一緒に競技の合間の腹ごしらえは豪華なものになった。3つ目が、初めて有観客としたこと。室内トラックには午前中の走幅跳や棒高跳は砂場やマットの脇に、午後のスプリント種目ではレーンのすぐ近くに観客席が設けられ、事前予約をした人たちが、選手のパフォーマンスを間近で観戦した。この試みは、室内ならではの効果も相まって、陸上の迫力を直に伝えるものになった。「室内だからこそ、選手がブロックを蹴る音や1歩1歩の接地の音、息づかい、そしてトップスピードで駆け抜ける時の風をより感じることができます」と隈本さん。実行委員会では、「自称『日本一近くで見られる大会』」としているが、説得力は十分にあった。また、今大会から加わった屋外トラックでの投てき種目は、当日受付で観戦可能に。トラック上に設けられた観客席では、国内トップスロワーの鮮やかな技術、投げの瞬間に発せられる力強い雄叫び、円盤やハンマーが空気を切り裂いてはるか向こうに飛んでいく様子に、たびたび感嘆の声が上がっていた。こういった新たな取り組みに加え、選手たちにも大会を盛り上げようという想いがある。地元オリンピアンとして注目を集めた鶴田は、「鹿児島の走る機会はなっかなかないので、地元の人たちに走りを見てもらえて良かったです」。レース後にあちこちでサインや写真撮影を求められたが、それに丁寧に応じる姿に、地元への感謝が伝わってきた。棒高跳の選手たちも、地元の高校生が自己新をクリアすると、グータッチで祝福。その様子を見た隈本さんは、「トップアスリートがそういったメッセージを中高生たちに送ってくれたことは、本当にありがたいことです」。[caption id="attachment_94644" align="alignnone" width="800"]
2023年JAG大崎で開かれた物産展の様子[/caption]次ページ 地元国体を経て、目指すは「陸上の聖地」[caption id="attachment_94643" align="alignnone" width="800"]
JAG大崎の会場となったジャンパンアスリートトレーニングセンター大隅[/caption]地元国体を経て、目指すは「陸上の聖地」
今年秋、20年から延期になった鹿児島国体がついにやって来る。JAG大崎が生まれるきっかけになった出来事でもあり、延期決定後の月日をともに過ごしてきたと言ってもいいだろう。鹿児島陸協強化部長で、国体陸上チームの監督を務めることになる新開浩一氏(鹿児島南高教)は、「県内には、トップ選手が来てくれるような大会がこれまでにはありませんでした。JAG大崎にトップ選手が来てくれることが、県内の中高生にとっては一番大事なこと。間近で競技を見るだけでも勉強になりますし、室内だからこそ感じやすい選手たちの迫力は大いに刺激をもらえます」と話す。国体に向けた強化合宿も、すでにこの施設で年末、年始、2月と3度実施したが、念願の地元国体イヤーを迎えたことで選手たちの目の色が変わってきているという。鶴田も、「大学(大東大)を卒業する時に、鹿児島国体のために地元に戻ることを決めました。ずっと目標にしてきた大会。(延期というかたちで)1度途切れてしまいましたが、その後も国体への想いを持ってずっとやってきました」と力強く語った。JAG大崎、国体の盛り上がりとも合わせて、大崎町が目指すのは「陸上の聖地」。それは、JAG大崎の実行委員会の名前にも添えるほどの熱意を持って、取り組んでいる。ジャパンアスリートトレーニングセンター大隅は、国内屈指の設備を求めて全国から選手やチームが集まり、今や「合宿のメッカ」となっている。そこに、JAG大崎のさらなるレベルアップを果たすことができれば――。そのための取り組みは、すでに始まっている。「日本グランプリシリーズ入りも視野に入れています。まだまだ、集客の面をはじめ課題は多いですが、変えるべきところは変えて、鹿児島陸協、大会関係者や地域のみなさんの協力を得て、一緒に盛り上げていきたい。今後も『アスリートのみなさんへ合宿の成果を提供する』、『鹿児島の子供たちへの励みに』、そして『陸上の聖地』を目指して、第3回大会実施に向けて準備を進めていきます」(隈本さん)2年ぶりのJAG大崎。アスリート、関係者、地域、さまざまな人たちの想いが実り、さらに大きな花を咲かせそうな予感を漂わせる、そんな大会だった。文/小川雅生RECOMMENDED おすすめの記事
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