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クローズアップ/10000m相澤晃・同郷の偉大な先輩と同じ24歳で挑む初五輪 狙うは日本人21年ぶり入賞

1年延期でチャンスをつかむ

東京五輪の1年延期によって、その舞台に立つことが叶わなかったアスリートもいれば、もちろんその逆の場合だってある。男子10000m代表の相澤晃(旭化成)がまさに後者のケースだった。

相澤の東洋大時代の活躍は今さら説明不要かもしれないが、特に大学4年時は無双状態。ユニバーシアード・ナポリ大会でハーフマラソンの大学世界一に輝くと、学生三大駅伝では出雲駅伝3区、全日本大学駅伝3区、箱根駅伝2区と全ての駅伝で区間新記録を樹立し、区間賞を獲得した。

特に箱根駅伝2区では、それまで多くの留学生もが成し得なかった1時間5分台のタイムを史上初めて叩き出した。また、今回ともに東京五輪に出場する伊藤達彦(東京国際大→Honda)との激闘は今も語りぐさとなっている。

社会人1年目で迎える予定だった東京五輪は、学生時代から10000mで出場を目指しており、大学4年時の勢いからしても当然有力候補の1人だった。

しかし、当時の相澤の自己記録は18年4月にマークした28分17秒81。五輪の参加標準記録どころか、五輪の選考レースとなる日本選手権に出場するための資格記録さえも、資格期間内に突破していなかった。大学4年時の11月、八王子ロングディスタンスで記録を狙うプランもあったが、箱根に向けて出場を回避。2月のクロカン日本選手権は体調不良で欠場した(優勝すれば日本選手権10000mの出場権を得られた)。

その後はコロナ禍で多くのレースが中止になり、当初は6月に予定されていた日本選手権の参加標準記録を狙う機会にも恵まれず。さらに、旭化成に入社後の5月には右脚を故障し、走れない日々が続いた。

もし予定通りにオリンピックが2020年に開催されていたら、相澤はその選考レースのスタートラインにさえも立てていなかったことになる。もちろんコロナ禍は望むべきものではないが、1年延期で相澤がチャンスを得たのは事実だ。

故障が癒えた相澤は10月の記録会で自身初の10000m27分台となる27分55秒76をマークし12月に延期された日本選手権の出場資格を得ると、その舞台では従来の記録を10秒以上更新する27分18秒75の日本新記録を樹立して優勝。五輪参加標準記録(27分28秒00)をも突破し、代表内定を勝ち取った。

円谷と同じ年齢、種目で東京五輪出場

相澤を語る上で切っても切り離せないのが、同郷の英雄の存在だ。57年前、1964年の東京五輪で一躍脚光を浴びたのが、相澤と同じ福島県須賀川市出身の円谷幸吉だった。

円谷は大会最終日の男子マラソンで銅メダルを獲得したが、実は大会初日には10000mでも6位入賞を果たしている。奇しくも、この時の円谷は24歳で、7月18日が誕生日の相澤も24歳で五輪を迎えることになる。しかも、ともに10000mの日本代表。これも、1年延期になったゆえの偶然だ。

円谷の座右の銘だった“忍耐”という言葉を、相澤も大事にしており、苦しい場面でも粘り強く耐えることができるのが相澤の持ち味でもある。

五輪内定を決めた日本選手権後には右膝のケガがあったが、今年5月の復帰戦で5000mの自己新となる13分29秒47をマークすると、6月には3000mで日本歴代6位の7分49秒66。さらに6月の日本選手権5000mでは「走るからには優勝して、自分も5000mの代表争いに加わりたいなと思った」と積極的なレースを見せて4位に入った。5月の時点では5000mの五輪切符は狙う予定はないと話していただけに、それほど調子が上がってきていると見ることもできそうだ。

伊藤とともに世界へ挑む


相澤だけでなく、伊藤の存在も忘れてはいけない。

箱根駅伝も、ユニバーシアードも、そして、昨年の日本選手権も相澤の後塵を拝す結果になったが、相澤が快挙を成し遂げる時はいつも、果敢に相澤に戦いを挑む伊藤の存在がある。

昨年の日本選手権では、伊藤も従来の日本記録と五輪参加標準記録を突破していたが、相澤に敗れて即内定とはならなかった。 その後、今年の元日のニューイヤー駅伝では、レース中に両脚の大腿骨を疲労骨折し、右脚のハムストリングスの肉離れにも見舞われた。五輪は絶望かと思われたが、驚異の回復を見せ、今年5月の日本選手権で優勝し、相澤に続いて内定を決めた。

その伊藤は胸の内で相澤へのライバル心をたぎらせている。

「相澤選手が先にオリンピックを決めたのは悔しかった。オリンピックでは相澤選手には絶対に負けたくないという思いで臨みます」

五輪の舞台では相澤に勝利するつもりだ。相澤にとっても伊藤は意識すべき存在で、もちろん負けるつもりはない。

五輪本番では、ともに8位入賞を目標に掲げる。相澤は、さらに日本人初の26分台をも見据えている。

「前回の日本選手権で、日本人が26分台を出すことは不可能ではないんだなって改めて実感しました。26分台は、昔の自分だったら届かない記録って思っていたんですけど、こうやって日本記録を更新できて一歩前に進めたと思います」

参考までに、16年のリオ五輪は、モハメド・ファラー(イギリス)の優勝タイムが27分05秒17で、8位が27分23秒86。また、19年のドーハ世界選手権は、金メダルに輝いたジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)の26分48秒36を筆頭に6位までが26分台で、入賞ラインの8位は27分10秒76だった。
勝負重視のレースには駆け引きやコンディションによって記録は左右されるものであり、必ずしもそうとは言い切れないが、26分台をマークすれば入賞できる可能性は高いだろう。

男子10000mで入賞すれば2000年シドニー五輪7位の高岡寿成以来。世界記録(26分11秒00)保持者のチェプテゲイら海外勢を相手に、2人がどんなレースをするか。レースは陸上競技の初日、つまり明日7月30日のイブニングセッション、20時30分にスタートする。

文/和田悟志



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