男子100mで日本人初の9秒台(9秒98)をマークした桐生祥秀(日本生命)と、2003年パリ世界選手権男子200m銅メダリストの末續慎吾(EAGLERUN)が12月26日、アシックスのオンラインイベントで対談した。イベントの様子はインターネットでライブ配信され、シューズ購入者の中から選ばれた3人からの質問にも答えるなど、ファンとの交流を楽しんだ。
2017年に100mで日本記録を塗り替えた桐生と、200mで今も20秒03の日本記録を保持する末續。対談では2人のトップスプリンターが「なぜ速く走れるのか」「どんな感覚で走っているか」をテーマに展開された。
「なぜ違和感が出るのかと考えた」(末續)
「『違和感』と『変化』の違いは難しい」(桐生)
――お互いの走りにどんな印象を持っているか。
末續 走り方というよりは、内面が身体に出る選手だなと思って見ていました。直線的ではなく、回転の良さが出る走り方で、そこは(自分と)似ているかな。
桐生 末續さんは1歩1歩が的確で、ダイナミックではないけどミスすることがない。きれいな走り方をしているようで、骨盤などがすごく動いている。コーナーの抜け方のテクニックを何回も見たりします。
末續 うれしい。僕は競走や集団心理が組み込まれた環境下でのトレーニングが多かったです。その中でいかに勝つかという中で身体の動きを覚えていったから、桐生の言う「確かな技術」というのは僕は考えなくてもできます。考えて表現しようとしているうちは海外の選手が相手だと押さえつけられてしまうので、そういうアプローチでは絶対勝てないだろうなと思い、競走のシーンを増やしました。
――フォームをどのように改良して速くなったか。
末續 僕は痛感が鋭くて、「痛い」「嫌だな」「違和感」という3段階くらいあるんですけど、違和感が出る走りというのはあまりいい走りではない。なぜ違和感が出るのかと考えて、身体の向きを変えたりしてそれが出ないように走り方をしていくと、自然とフォームは身につくんです。僕はそうやって痛みやケガにつながらない走りを追求して、フォームに落とし込んでいきました。
桐生 「違和感」と「変化」の違いは難しくて、中高生の時は何かを変えようとすると違和感があります。それをやるかやらないか、迷ったことはあります。この違和感はいい違和感なのか、悪い違和感なのか、何本も走らないとわかりません。自分の中で試行錯誤しながらやってきました。
――走りやフォームを工夫する中で、ピンのないスパイク(METASPRINT/メタスプリント)はどのような効果があるか。
桐生 ピンがないのは大きな違いですが、走り方を靴に合わせようとはしていません。
末續 僕は40歳なので、筋力や反射といったものは落ちてきます。道具の性能に依存しないタイプなので、以前は反発の弱いシューズのほうが多かったですが、この靴は高反発で、ピンがないので、身体がどちらに向かっていいのかを靴のほうがアプローチしてくれます。反発と誘導性が集約されているので、自分はそれに対して努力しなくていい。補ってくれているのを実感します。
桐生 「スパイクに甘えない」というのはあります。中高生で脚が流れるような選手は、ピンがあるとごまかせるんです。この靴を履くことで、どこに接地をすれば進むかを確かめられるのも良いと思います。
――2人ともリレーでの活躍が印象として強い。
桐生 陸上を見始めたのが北京五輪(2008年)。日本の4×100mリレー(当時銅メダル、後に銀メダルへ変更)を見て、「あんなに感情的になれるスポーツってすごい」と感動しました。
末續 (2016年リオ五輪を見て)仲が良いな、楽しそうだなと感じました。僕らの仲が悪かったわけではないですが、僕らは「絶対に負けたくない」というライバルが仲間になることの信頼感が絶大だった。リオの4人は我の強さと信頼感のバランスが取れていたのかなと思いました。
* *
末續との対談を終えて「話せて良かった」と振り返った桐生。日本男子短距離界の金字塔を打ち立てたレジェンドとの対談は自身の競技活動への刺激になったようだ。

「なぜ違和感が出るのかと考えた」(末續) 「『違和感』と『変化』の違いは難しい」(桐生)
――お互いの走りにどんな印象を持っているか。 末續 走り方というよりは、内面が身体に出る選手だなと思って見ていました。直線的ではなく、回転の良さが出る走り方で、そこは(自分と)似ているかな。 桐生 末續さんは1歩1歩が的確で、ダイナミックではないけどミスすることがない。きれいな走り方をしているようで、骨盤などがすごく動いている。コーナーの抜け方のテクニックを何回も見たりします。 末續 うれしい。僕は競走や集団心理が組み込まれた環境下でのトレーニングが多かったです。その中でいかに勝つかという中で身体の動きを覚えていったから、桐生の言う「確かな技術」というのは僕は考えなくてもできます。考えて表現しようとしているうちは海外の選手が相手だと押さえつけられてしまうので、そういうアプローチでは絶対勝てないだろうなと思い、競走のシーンを増やしました。 ――フォームをどのように改良して速くなったか。 末續 僕は痛感が鋭くて、「痛い」「嫌だな」「違和感」という3段階くらいあるんですけど、違和感が出る走りというのはあまりいい走りではない。なぜ違和感が出るのかと考えて、身体の向きを変えたりしてそれが出ないように走り方をしていくと、自然とフォームは身につくんです。僕はそうやって痛みやケガにつながらない走りを追求して、フォームに落とし込んでいきました。 桐生 「違和感」と「変化」の違いは難しくて、中高生の時は何かを変えようとすると違和感があります。それをやるかやらないか、迷ったことはあります。この違和感はいい違和感なのか、悪い違和感なのか、何本も走らないとわかりません。自分の中で試行錯誤しながらやってきました。 ――走りやフォームを工夫する中で、ピンのないスパイク(METASPRINT/メタスプリント)はどのような効果があるか。 桐生 ピンがないのは大きな違いですが、走り方を靴に合わせようとはしていません。 末續 僕は40歳なので、筋力や反射といったものは落ちてきます。道具の性能に依存しないタイプなので、以前は反発の弱いシューズのほうが多かったですが、この靴は高反発で、ピンがないので、身体がどちらに向かっていいのかを靴のほうがアプローチしてくれます。反発と誘導性が集約されているので、自分はそれに対して努力しなくていい。補ってくれているのを実感します。 桐生 「スパイクに甘えない」というのはあります。中高生で脚が流れるような選手は、ピンがあるとごまかせるんです。この靴を履くことで、どこに接地をすれば進むかを確かめられるのも良いと思います。 ――2人ともリレーでの活躍が印象として強い。 桐生 陸上を見始めたのが北京五輪(2008年)。日本の4×100mリレー(当時銅メダル、後に銀メダルへ変更)を見て、「あんなに感情的になれるスポーツってすごい」と感動しました。 末續 (2016年リオ五輪を見て)仲が良いな、楽しそうだなと感じました。僕らの仲が悪かったわけではないですが、僕らは「絶対に負けたくない」というライバルが仲間になることの信頼感が絶大だった。リオの4人は我の強さと信頼感のバランスが取れていたのかなと思いました。 * * 末續との対談を終えて「話せて良かった」と振り返った桐生。日本男子短距離界の金字塔を打ち立てたレジェンドとの対談は自身の競技活動への刺激になったようだ。
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.04.30
【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」
-
2025.04.30
-
2025.04.30
-
2025.04.30
-
2025.04.30
-
2025.04.30
2025.04.29
100mH田中佑美が予選トップ通過も決勝棄権「故障ではない」昨年の結婚も明かす/織田記念
-
2025.04.28
-
2025.04.26
2025.04.12
3位の吉居大和は涙「想像していなかったくらい悔しい」/日本選手権10000m
-
2025.04.01
-
2025.04.12
-
2025.04.12
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.04.30
【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます! 第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」 昨年は記念大会となる第100回箱根駅伝が開催され […]
2025.04.30
【高校生FOCUS】男子競歩・山田大智(西脇工高)インターハイで昨夏の雪辱誓う 高校記録更新にも挑戦
FOCUS! 高校生INTERVIEW 山田大智 Yamada Daichi 西脇工高3兵庫 2025年シーズンが本格的に始まり、高校陸上界では記録会、競技会が次々と開かれています。その中で好記録も生まれており、男子50 […]
2025.04.30
5.3静岡国際、パリ五輪代表の坂井隆一郎、200m世界陸上標準突破の水久保漱至らが欠場
5月3日に行われる静岡国際のエントリーリストが更新され、現時点で欠場届を提出した選手が判明した。 男子100mはパリ五輪代表の坂井隆一郎(大阪ガス)が欠場。坂井は4月13日の出雲陸上で脚を痛め、29日の織田記念の出場も見 […]
2025.04.30
26年ブダペスト開催の「世界陸上アルティメット選手権」やり投・北口榛花が出場権獲得
世界陸連(WA)は4月29日、2026年に新設する「世界陸上アルティメット選手権」の大会500日前を受け、昨年のパリ五輪の金メダリストに出場資格を与えることを発表した。女子やり投で金メダルを獲得した北口榛花(JAL)も含 […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL)
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)