9月21日に行われた東京世界陸上9日目の男4×100mリレー決勝。小池祐貴(住友電工)、栁田大輝(東洋大)、桐生祥秀(日本生命)、鵜澤飛羽(JAL)とつないだ日本は38秒35で6位入賞を果たしたが、37秒29で2連覇した米国、37秒55で2位のカナダ、自国新の37秒81で3位のオランダらのメダル争いには加われなかった。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ってもらった。
◇ ◇ ◇
率直に言って、完敗でしたね。あえて「我々」と言いますが、我々が行きたいところはここ(入賞)ではないし、今の日本代表はこんなレベルではないと思っているので。本人たちが一番感じていると思いますが、勝負すらさせてもらえてないよね、と。
もちろん自国開催、あれだけどの歓声の中で期待に応えないといけないプレッシャーはあったかもしれません。しかし、ここでやれなくてどうするのか。予選でジャマイカ、南アフリカなどが脱落し、メダルを取れる環境は整っていたのではないかと思います。雨が降ってきたり、ちょっと涼しいコンディションになったりはしましたが、それでも米国は37秒29を出しました。速かったです。良かった点を見つけるほうが難しいのではないか、というぐらいの完敗だったと感じています。
この結果を踏まえてやるべきことは、この結果に至るまでの過程をしっかりと見つめ直すことでしょう。今大会やシーズンをとおしての個人の結果、リレー代表や最終的な4人の選考方法、世界リレーの戦い方など、すべてを振り返った時に、果たしてしっかりと戦える準備を整えられていたのか。これは選手、スタッフだけに限らず、組織としてもどういう思いであの場所にそれぞれが立っていたのか、見ていたのかを検証するべきでしょう。これまでやってきたことを一度リセットしてでも、しっかりと見つめ直さないといけない。
個々の走りについて、世界陸連のリザルトに示された区間タイムは、日本チームが通常用いている地点のものではないので、あくまでも参考として捉えています。ただ、それぞれのバトンパスを見た限り、1、2走については、栁田大輝選手の加速を最大限に引き出すために、もう一歩待てる勇気があっても良かったと感じます。それは、2、3走にも言えること。桐生選手がそもそもベストのパフォーマンスを出せないのか、ベストパフォーマンスにつながるバトンパスができていなかったのか。4走の鵜澤飛羽選手についても、抜かれてはいけない役割の区間で、抜かれた事実があるということは彼の最大限を引き出せていなかったのかもしれない。「それぞれが最大限のパフォーマンスを発揮するためのバトンパス」というところまで、ちゃんと考えられているのかという点に、少し疑問を感じました。
バトンパスのクオリティとは何か。日本代表は30mあるテイクオーバーゾーンの入り口から、出口の先10mまでの40m間を「3秒75」でつないでいくことを目安にしてきました。ただ、そのタイムはあくまでもバトンパス区間のタイムです。全体の流れ、それぞれが走る区間全体における良さを引き出す流れが作れているか。それこそが、バトンパスのクオリティとして最も大切なだと思います。特に、世界大会の決勝で勝負に行かなければいけない場面では、それぞれが100%に近いパフォーマンスを発揮するためにはどうすればいいのか、というアプローチが必要。2019年ドーハ世界陸上の銅メダル以降、メダルに届いていない事実を踏まえ、バトンパスについても今一度、再検証していく必要があるのではないでしょうか。
メダルを狙うには、予選でギリギリ通過という状況を作っていては話にならないでしょう。今回も英国、南アフリカの失敗がなければ、予選敗退の可能性がありました。常にトップ5を争う位置にて、37秒台中盤を出していく。そこをスタート地点にできるチーム作りができれば、世界とは十分に戦っていけると思います。計算式の部分をしっかりと振り返り、正確性を持って強化を進めていってほしいと思います。
優勝した米国は、やはりそれだけのメンバーがいたということ。雨のコンディションでなければ36秒台も普通にあったのではないでしょうか。渡しているだけというバトンパスで、このタイムを出されると、走力の差を痛感させられます。個々の水準の高さはこれからも変わらないでしょうから、最大目標の金メダル獲得のための大きな壁であり続けるでしょう。
カナダはここ数年同じようなメンバー、ベテランの域に入っている選手が多く、バトンパスの安定感があります。この選手たちが入り続けているうちは、やはり上位候補の一角になるでしょう。オランダも個々の走力がまた上がってきた印象ですし、ガーナなどアフリカ勢は今後、急成長の可能性を秘めています。
それ以上に、今回はバトンパスにミスが出たジャマイカ、英国、南アフリカの存在は非常に大きい。特にジャマイカは、決勝に出ていれば米国を上回っていたかもしれません。
再来年の北京世界陸上。2028年のロサンゼルス五輪に向けて、立て直しは急務です。個々には、国際大会で力を発揮できる強さを持つためにはどうすればいいのか。チームとしては今回、多くの選手が代表に入ったことで、悔しさをその場で共有できる人数も多くなりました。だからこそ、日本にとって「リレー」がいかに重要であるかも肌で感じたはず。個人とリレーとの兼ね合いについての再検討なども含め、やるべきことは山積みだと思います。
しかし、米国やジャマイカらと、堂々と戦うことが日本の4×100mリレーのステージであり、伝統です。そのバトンを、しっかりとつないでいってほしいと願います。
◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)
【動画】雨中の決戦!男子4×100mR決勝
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