2022.12.29
箱根駅伝では“挑戦者”
前々回の箱根駅伝優勝時は、全日本ではメンバー外だった選手の活躍が効いた。いわゆる“箱根男”の台頭だ。今年もそこが充実している。
全日本メンバー外「8人」の顔ぶれは、全学年にわたりバラエティに富む。最初で最後のチャンスをつかんだ4年生・小野恵崇や、ケガからの再復帰にかける3年生エースの鈴木芽吹、進境著しい1年生も。いずれも他校では主力となれる選手たちだ。
準備と言えば5、6区の「山」が重要だが、前回区間4位の金子伊吹(3年)に加え、山野、全日本4区区間賞の山川拓馬と、「山」の字を抱く2人が5区出走を希望。「ここにきて山志望の選手がいい動きをしている」(大八木監督)と、自信の度合いが増しそうだ。
下りの6区も、前回出走の準備をしていた篠原倖太朗が平地に回っても、高い水準が維持されるだろう。
もちろん前提として、学生長距離界のエース・田澤廉(4年)の存在は欠かせない。主軸の篠原や花尾恭輔、山野らが一段上の力をつけたことも大きな要素だ。
出雲、全日本の「最大の勝因」と指揮官から高評価を受けた佐藤圭汰は初の20km超えレースに挑む。箱根駅伝では上級生が役割を増し、大型ルーキーの負担を軽減するはずだ。
大八木監督らスタッフが緻密に選手の個性に応じて細分化したプログラムを組み、練り上げた1年。それらの人材を、熟練の大八木采配が稼働させていく。
勝ちパターンを持つ青学大を崩すのは、容易なミッションではない。困難だからこそ、それを成し遂げた時の喜びが増し、評価が高まる。
大八木監督は言う。「今まで以上に準備してきたつもりです。選手たちが本気になってやってくれれば、その(3冠の)可能性は高いと思います」。
駒大は強い。しかし、あくまでも“挑戦者”として悲願の3冠に挑む。
文/奥村 崇
出雲と全日本はともに大会新
駒大は史上5校目の学生駅伝3冠を懸けて箱根駅伝に臨む。 「2冠」の数は、今年度も入れて随一の9回。出雲、全日本を制して迎える「3冠がかかった箱根駅伝」は、1998年度と2013年度(ともに箱根駅伝は2位)に続く3度目だ。 1995年にコーチとして就任し、04年に現職へ昇格した大八木弘明監督が「私も長くやってきたので一度くらいは……と思いますが、こればっかりは運もあります」と語るように、3冠は駒大の悲願だ。 今季の出雲駅伝、全日本大学駅伝ともに“圧勝”だった。出雲は2区で、全日本では3区で先頭に立って主導権を握り、その後トップを“守る”のでなく、さらに攻撃的に、リードを広げた。非の打ち所がない内容だ。 出雲、全日本ともに大会新。全日本にいたっては、自校が保持していた5時間11分08秒を一気に4分21秒も更新。2位との差は3分21秒ついた。両駅伝で2位だった國學院大・前田康弘監督が「駒大の壁はエベレストよりも高い」とコメントするほどだ。 駒大OBの前田監督は、全日本と箱根の初優勝メンバーであり、元主将だ。それだけに母校の強さ、恩師・大八木監督の情熱を肌身に感じている。 両駅伝でのあまりの強さから、今回の箱根駅伝の大本命に挙げる声も少なくない。 しかし、そう簡単でないことは指揮官も、選手たちも理解している。前回大会も優勝候補に挙げられながら3位に終わった。今回は「挑戦者」の立場で臨む。 駒大を挑戦者たらしめる存在は前回覇者の青学大だ。 青学大は前回、10時間43分42秒という異次元の大会新を樹立。2位・順大との差は10分51秒に広げた。 この時、駒大は8区にレース中の故障発生というアクシデントもあり、青学大から11分15秒遅れの3位。この時のタイムが、箱根駅伝における駒大の「自己ベスト」だ。 青学大は至近8年で箱根駅伝6勝。旧コースも含めて10時間50分切りを3度も達成しており、「再現能力」も高い。一方、駒大にとっての10時間40分台は未知の領域である。 全日本に関しては、駒大こそ絶対王者だが、箱根駅伝に関しては、チャンピオン・青学大に挑む側なのだ。 次のページ スタミナ、選手層、山の充実スタミナ、選手層、山の充実
前回の青学大から負った「11分15秒差」をひっくり返すために、駒大には何が必要で、彼らは何を準備してきたのか。 前回の駒大に不足していたものに、大八木監督は「スタミナ」と「選手層」を挙げている。駒大は以前より、トラック強化の比重を大きくしている。レギュラーの最大層を形成する3年生の多くがスピードタイプ。以前より年月をかけてゆっくりと、スタミナ養成を行っている面がある。 スタミナ力を示すハーフマラソンの平均タイム(エントリー選手上位10人)が、前回の駒大は出場チーム中19位(1時間5分40秒)だった。これはほとんどレースに参加しなかったためで、そのまま受け止めてはいけないが、今年のデータ(1時間2分14秒)では他校をすべてごぼう抜きしてトップに躍り出た。 今季はハーフマラソンに積極的に参加したことと、実際にスタミナがアップしたことを示すデータだ。2月の全日本実業団ハーフマラソンで主将の山野力(現4年)が1時間0分40秒の日本人学生最高を樹立したほか、篠原倖太朗(現2年)と花尾恭輔(現3年)が1時間1分台をマーク。11月の上尾シティハーフでも円健介(4年)が1時間1分51秒と好走したことが大きい。 もう1つの「選手層」について、大八木監督は「今回は格段に違いますよ」と自信を持つ。 [caption id="attachment_89905" align="alignnone" width="800"]
悲願達成へ、指導にも熱が入る大八木弘明監督[/caption]
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箱根駅伝では“挑戦者”
前々回の箱根駅伝優勝時は、全日本ではメンバー外だった選手の活躍が効いた。いわゆる“箱根男”の台頭だ。今年もそこが充実している。 全日本メンバー外「8人」の顔ぶれは、全学年にわたりバラエティに富む。最初で最後のチャンスをつかんだ4年生・小野恵崇や、ケガからの再復帰にかける3年生エースの鈴木芽吹、進境著しい1年生も。いずれも他校では主力となれる選手たちだ。 準備と言えば5、6区の「山」が重要だが、前回区間4位の金子伊吹(3年)に加え、山野、全日本4区区間賞の山川拓馬と、「山」の字を抱く2人が5区出走を希望。「ここにきて山志望の選手がいい動きをしている」(大八木監督)と、自信の度合いが増しそうだ。 下りの6区も、前回出走の準備をしていた篠原倖太朗が平地に回っても、高い水準が維持されるだろう。 もちろん前提として、学生長距離界のエース・田澤廉(4年)の存在は欠かせない。主軸の篠原や花尾恭輔、山野らが一段上の力をつけたことも大きな要素だ。 出雲、全日本の「最大の勝因」と指揮官から高評価を受けた佐藤圭汰は初の20km超えレースに挑む。箱根駅伝では上級生が役割を増し、大型ルーキーの負担を軽減するはずだ。 [caption id="attachment_89903" align="alignnone" width="800"]
雨の中で走り込む駒大の選手たち(右から佐藤圭汰、篠原倖太朗、花尾恭輔、田澤廉)[/caption]
大八木監督らスタッフが緻密に選手の個性に応じて細分化したプログラムを組み、練り上げた1年。それらの人材を、熟練の大八木采配が稼働させていく。
勝ちパターンを持つ青学大を崩すのは、容易なミッションではない。困難だからこそ、それを成し遂げた時の喜びが増し、評価が高まる。
大八木監督は言う。「今まで以上に準備してきたつもりです。選手たちが本気になってやってくれれば、その(3冠の)可能性は高いと思います」。
駒大は強い。しかし、あくまでも“挑戦者”として悲願の3冠に挑む。
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