2020.10.15
SPOT LIGHT 女子スプリント新時代の幕開け
兒玉芽生 (福岡大)
自分の走りを追い求め、
0.1秒でも、0.01秒でも速く――。
日本インカレで3冠、日本選手権も100mを制するなど、2020年の女子スプリント界を沸かせた兒玉
9月の日本インカレで兒玉芽生(福岡大)は日本の女子短距離界に大きな衝撃を与えた。100m、200m、4×100mリレーで3冠。100mでは日本歴代3位となる11秒35の好タイムをマークした。さらに続く10月の日本選手権は、100mで11秒36をマークして初優勝、200mは鶴田玲美(南九州ファミリーマート)に続く2位ながら、23秒44(日本歴代7位)の自己新。女子短距離のニューヒロインとして取り上げられている兒玉だが、決して〝新星〟ではなく、小学校時代から世代のトップをひた走ってきた。大学3年目。タイムは飛躍を遂げたものの、その裏には心身ともに着実に1段ずつ成長してきた過程がある。
文/向永拓史
衝撃だった11秒3台を2本
3日間、スプリントを8本。日本インカレで3つのタイトルを獲得して数日後、「あんなに走ったのはインターハイ以来。さすがに疲れました」と兒玉芽生(福岡大)は笑った。
100m11秒35(-0.2)は日本歴代3位、学生歴代2位、200mも23秒68(-0.8)の自己新。大学で指導を受ける信岡沙希重コーチの大学時代のベスト23秒74を上回った。「もう100mはとっくに超えられていましたから」と信岡コーチ。兒玉は、「まだ先生の大学での記録を抜いただけです」と応えた。
福岡大では信岡沙希重コーチ(左)に師事。厳しいトレーニングも明るい雰囲気の中で乗り越えれている
11秒35のインパクトは絶大だった。
「友人や小学校の頃にクラブチームでお世話になった方々や、これまで面識のなかった大学のOB・OG、大分陸協の方々など、お祝いのメッセージをもらいました。そんなにすごいことをしたつもりはないのですが、想像以上の反響でうれしかったです」
練習での調子から、11秒4台は出そうな感触はつかめていた。だから11秒51(+1.2)でまとめた準決勝までは「想定内」。だが、決勝は「想定外」だったという。「4継で勝った後というのもあってノリノリでした」。公式には向かい風0.2mだが、「追い風じゃなかったかな?」と向かい風は感じなかったという。それでも「どんな状況でも走れない人は走れないタイム」と信岡コーチ。レース直後には「今後苦しくなるよ。11秒3とか11秒2を狙うのではなくて、11秒5台を安定させて来年につなげよう」と声をかけたという。自身もスプリンターとして活躍してきた経験があるからこその言葉だ。
11秒3よりも、「11秒5を確実に出せたことのほうが大きかった」と兒玉。「11秒3はいったん忘れて、もう一回やるべきことをしていきます」。コーチの思いはしっかり伝わっていた。
インカレの100m決勝は「ちゃんと練習通りにできた」。今シーズン取り組んできたのは加速局面。これまでは20mほどで加速を終えてしまい、フィニッシュまで「そのまま普通に走ってしまっていた」と言う。現在は一次加速、そして55mあたりの二次加速までしっかりとスピードを上げていくことを意識。8月のゴールデングランプリ(11秒62 /1着)では「アップまでは加速の動きができていたのに、レースでは少し身体が起きてしまってうまくいかなかった」が、インカレでは低い姿勢を保ち、「一次加速と二次加速のつなぎもうまくいきました」と言うように一気に他を突き放した。
日本インカレは個人では初優勝。2年前、先輩の久保山晴菜がタイトルを獲得するのを目にし、「自分も勝ちたい」と強く思った。その久保山は、現役引退を決めていたがインカレを機に翻し、卒業後も今村病院所属でともに練習に励む。兒玉にとっても転機となる大会となった。
それから約3週間後の日本選手権。同じ新潟を舞台に、100mは11秒36(+0.5)で初優勝。再び11秒3台をマークし、「注目されたプレッシャーの中でも勝ち切れました」。連覇を狙った200mは23秒44(-0.1)の自己ベストながら鶴田玲美(南九州ファミリーマート)に敗れ2位。大会後、プレッシャーもあり何度も涙を見せていたことを明かしている。200mは脚の状態を考慮して棄権する選択もあったようだ。それだけインカレからの疲労、そして重圧と戦っていたのだろう。
この続きは2020年10月14日発売の『月刊陸上競技11月号』をご覧ください。
定期購読はこちらから
SPOT LIGHT 女子スプリント新時代の幕開け 兒玉芽生 (福岡大)
自分の走りを追い求め、 0.1秒でも、0.01秒でも速く――。
日本インカレで3冠、日本選手権も100mを制するなど、2020年の女子スプリント界を沸かせた兒玉
9月の日本インカレで兒玉芽生(福岡大)は日本の女子短距離界に大きな衝撃を与えた。100m、200m、4×100mリレーで3冠。100mでは日本歴代3位となる11秒35の好タイムをマークした。さらに続く10月の日本選手権は、100mで11秒36をマークして初優勝、200mは鶴田玲美(南九州ファミリーマート)に続く2位ながら、23秒44(日本歴代7位)の自己新。女子短距離のニューヒロインとして取り上げられている兒玉だが、決して〝新星〟ではなく、小学校時代から世代のトップをひた走ってきた。大学3年目。タイムは飛躍を遂げたものの、その裏には心身ともに着実に1段ずつ成長してきた過程がある。
文/向永拓史
衝撃だった11秒3台を2本
3日間、スプリントを8本。日本インカレで3つのタイトルを獲得して数日後、「あんなに走ったのはインターハイ以来。さすがに疲れました」と兒玉芽生(福岡大)は笑った。 100m11秒35(-0.2)は日本歴代3位、学生歴代2位、200mも23秒68(-0.8)の自己新。大学で指導を受ける信岡沙希重コーチの大学時代のベスト23秒74を上回った。「もう100mはとっくに超えられていましたから」と信岡コーチ。兒玉は、「まだ先生の大学での記録を抜いただけです」と応えた。
福岡大では信岡沙希重コーチ(左)に師事。厳しいトレーニングも明るい雰囲気の中で乗り越えれている
11秒35のインパクトは絶大だった。
「友人や小学校の頃にクラブチームでお世話になった方々や、これまで面識のなかった大学のOB・OG、大分陸協の方々など、お祝いのメッセージをもらいました。そんなにすごいことをしたつもりはないのですが、想像以上の反響でうれしかったです」
練習での調子から、11秒4台は出そうな感触はつかめていた。だから11秒51(+1.2)でまとめた準決勝までは「想定内」。だが、決勝は「想定外」だったという。「4継で勝った後というのもあってノリノリでした」。公式には向かい風0.2mだが、「追い風じゃなかったかな?」と向かい風は感じなかったという。それでも「どんな状況でも走れない人は走れないタイム」と信岡コーチ。レース直後には「今後苦しくなるよ。11秒3とか11秒2を狙うのではなくて、11秒5台を安定させて来年につなげよう」と声をかけたという。自身もスプリンターとして活躍してきた経験があるからこその言葉だ。
11秒3よりも、「11秒5を確実に出せたことのほうが大きかった」と兒玉。「11秒3はいったん忘れて、もう一回やるべきことをしていきます」。コーチの思いはしっかり伝わっていた。
インカレの100m決勝は「ちゃんと練習通りにできた」。今シーズン取り組んできたのは加速局面。これまでは20mほどで加速を終えてしまい、フィニッシュまで「そのまま普通に走ってしまっていた」と言う。現在は一次加速、そして55mあたりの二次加速までしっかりとスピードを上げていくことを意識。8月のゴールデングランプリ(11秒62 /1着)では「アップまでは加速の動きができていたのに、レースでは少し身体が起きてしまってうまくいかなかった」が、インカレでは低い姿勢を保ち、「一次加速と二次加速のつなぎもうまくいきました」と言うように一気に他を突き放した。
日本インカレは個人では初優勝。2年前、先輩の久保山晴菜がタイトルを獲得するのを目にし、「自分も勝ちたい」と強く思った。その久保山は、現役引退を決めていたがインカレを機に翻し、卒業後も今村病院所属でともに練習に励む。兒玉にとっても転機となる大会となった。
それから約3週間後の日本選手権。同じ新潟を舞台に、100mは11秒36(+0.5)で初優勝。再び11秒3台をマークし、「注目されたプレッシャーの中でも勝ち切れました」。連覇を狙った200mは23秒44(-0.1)の自己ベストながら鶴田玲美(南九州ファミリーマート)に敗れ2位。大会後、プレッシャーもあり何度も涙を見せていたことを明かしている。200mは脚の状態を考慮して棄権する選択もあったようだ。それだけインカレからの疲労、そして重圧と戦っていたのだろう。
この続きは2020年10月14日発売の『月刊陸上競技11月号』をご覧ください。
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
-
2025.10.19
-
2025.10.19
2025.10.18
【大会結果】第102回箱根駅伝予選会/個人成績(2025年10月18日)
2025.10.18
【大会結果】第102回箱根駅伝予選会/チーム総合(2025年10月18日)
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2023.04.01
-
2022.12.20
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.10.25
連覇狙う立命大・杉村監督「最後に勝ちきるレースを」 関西3位も「調子上がっている」/全日本大学女子駅伝
◇第43回全日本大学女子駅伝(10月26日/宮城・弘進ゴムアスリートパーク仙台発着6区間38.0km) 第43回全日本大学女子駅伝を翌日に控えた10月25日、開会式と前日会見が行われた。 会見に参加したのは、前回1~8位 […]
2025.10.25
最長5区に立命大主将・土屋舞琴、2年連続区間賞の大東大・ワンジル、名城大ルーキー・橋本和叶/全日本大学女子駅伝
◇第43回全日本大学女子駅伝(10月26日/宮城・弘進ゴムアスリートパーク仙台発着6区間38.0km) 第43回全日本大学女子駅伝を翌日に控えた10月25日、各チームの区間エントリーが発表された。 3強と目されるのは連覇 […]
2025.10.24
「3強」立命大の連覇か、名城大のV奪還か、大東大の初優勝か?城西大、大阪学大らも追随/全日本大学女子駅伝見どころ
第43回全日本大学女子駅伝対校選手権大会は10月26日、宮城県仙台市の弘進ゴムアスリートパーク仙台(仙台市陸上競技場)をスタート・フィニッシュとする6区間38.0kmで開催される。 前回8位までに入ってシード権を持つ立命 […]
2025.10.24
競歩新距離で日本初開催!世界陸上メダリスト・勝木隼人、入賞の吉川絢斗も登録 アジア大会選考がスタート/高畠競歩
来年の名古屋アジア大会の代表選考会を兼ねた第62回全日本競歩高畠大会が10月26日に山形県高畠町で開かれる。 競歩はこれまで20㎞、35㎞(以前は50㎞)という2種目で行われてきたが、世界陸連(WA)はハーフマラソン(2 […]
Latest Issue
最新号
2025年11月号 (10月14日発売)
東京世界選手権 総特集
箱根駅伝予選会&全日本大学駅伝展望