2024.05.20
国立競技場で開催されたセイコーゴールデングランプリ(5月19日)の男子100mは、昨年のブダペスト世界陸上代表のサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)、坂井隆一郎(大阪ガス)、栁田大輝(東洋大)がそろい踏みしたなか、栁田が10秒21(-0.1)で制した。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、そのレースを振り返ってもらった。
◇ ◇ ◇
決勝進出者全員が日本人選手というレースにはなりましたが、サニブラウン・アブデル・ハキーム選手という世界のファイナリストがいるということは、それだけで奮い立つものがあります。
ただ、全体的に見ても記録が出る雰囲気がなかなか出なかったので、難しい条件だったと言えるでしょう。そのムードを一変させられる選手の1人がサニブラウン選手だと思っていましたが、予選から決勝までの間が1時間45分程度というインターバルの短さも、それを難しくしたかもしれません。近年の世界大会における準決勝と決勝の間と同等か、それよりも短いものです。
その中で優勝した栁田大輝選手は、大会カテゴリーの高いこのレースで勝ったことが、代表争いにおいてすごく大事なこと。もちろん、五輪参加標準記録(10秒00)を目指している栁田選手自身としてはタイムは物足りないかもしれませんが、決して状態良いとは言えない中でも勝ち切った姿に、彼の中で「背負うもの」ができ始めているのかなと感じました。
5月上旬の世界リレーでは、日本の2走として五輪出場権獲得に大きく貢献しています。昨年は世界陸上の個人種目で初めて出場し、アジア選手権100mも制した。そういった日本代表としての自覚と覚悟。それが、サニブラウン選手、坂井隆一郎選手と、ともにブダペスト世界陸上に出場した同志が脚のケイレンでスピードダウンするレースでも、他の選手に負けないというところにつながったのではないでしょうか。
タイムは、東田旺洋選手(関彰商事)、和田遼選手(ミキハウス)らにひっくり返される可能性は十分ある水準ですが、それでも勝たないといけないのがトップ選手の宿命。20歳ながら、栁田選手はすでにそのゾーンに入っていると言えるでしょう。今後は、サニブラウン選手が昨年のブダペストの準決勝で自己タイの9秒97を出したように、「大事な場面で出せばいい」というスタンスを作れるかどうか。必要な時に必要な力の発揮ができる選手になるためには経験をどんどん積むことが必要で、学生らしく挑んでいってほしいと思います。
サニブラウン選手も、坂井選手も、予選はしっかりと存在感を示してくれました。サニブラウン選手は10秒07(+1.0)を出していただけに、決勝でもう一段階上げられなかったのは、シーズン序盤とはいえ海外のメダリストたちの領域にまではもう一歩。
標準突破をすれば代表に内定することから、早めに決めておきたいところでしょう。五輪選考が懸かった日本選手権の独特な雰囲気は何が起きてもおかしくない。その中で3位以内を取るためのエネルギーは、サニブラウン選手をもってしても大きなものが必要になるはずです。五輪本番を見据えると、それを避けられる状況を作れるなら、それに越したことはないはずです。
坂井選手については、1週間前の木南記念でシーズンインという段階から、10秒10まできっちりと持ってきたのはやはり力がある証拠。あとは、日本選手権に向けて予選から決勝まで、3本をしっかりとまとめる体力を作れるかどうかでしょう。サニブラウン選手と同じことが言えますが、五輪選考会の重圧はいつも以上にエネルギーを要します。
今回のレースを受けて、サニブラウン選手が日本選手権に出場したと仮定した場合、やはり栁田選手、坂井選手を含む3人がリードしている状況だと感じました。そこに、すでに10秒1台を出している小池祐貴選手(住友電工)、世界リレーに出場した三輪颯太選手(慶大)、山本匠真選手(広島大)、今回上位の東田選手や和田選手などがどう絡むか。
追い風など絶好の条件で10秒1台、0台を出している選手が増えてきましたが、世界とどう戦うかを常に考える選手たちとの差は明確にあると思います。その差を埋めるための取り組みが、日本選手権までにできるのかどうか。そうやって切磋琢磨することが、日本のスプリントをさらに底上げすることにつながるでしょう。
◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)
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