HOME 国内、世界陸上、日本代表
泉谷駿介110mH初ファイナルの快挙へ13秒0台連発、DL転戦で「自信がついた」/ブダペスト世界陸上
泉谷駿介110mH初ファイナルの快挙へ13秒0台連発、DL転戦で「自信がついた」/ブダペスト世界陸上

ブダペスト世界選手権男子110mHで初のファイナル、そして12秒台の期待が掛かる泉谷駿介

8月19日から始まるブダペスト世界陸上。注目の日本代表たちをピックアップする。

泉谷駿介(住友電工)の口からは、何度も「自信」という言葉が出た。男子110mハードルの日本記録保持者は、記録だけではなく実績でも世界トップクラスとして世界に望むことになる。

今季は5月のセイコーゴールデングランプリで13秒07、6月の日本選手権では自身の日本記録を2年ぶりに更新する13秒04をマークして優勝した。それだけでではなく、6月30日のダイヤモンドリーグ(DL)ローザンヌ大会では初出場ながら、全種目を通じて日本男子DL初優勝を飾る。

そして7月23日のDLロンドンでは、世界選手権連覇中のグラント・ホロウェイ(米国)をあと一歩まで追い詰める2位。海外、しかも最高峰のメンバーがそろったDLで2位、そして固い木製ハードルで13秒06を叩き出したところにも大きな価値がある。

だからこそ、その後に行われた合同会見では「自信がついた」という言葉が何度も出た。

昨年までのパフォーマンスと異なる点は中盤からの強さにある。代名詞だった爆発的な加速から勝負を決めていたため“前半型”のイメージだった泉谷。しかし、「力を使い過ぎると最後までもたない」と考え、前半は「焦らず落ち着いて」入り、ハードルを越えるごとに流れを作っていくパターンに変更した。

広告の下にコンテンツが続きます

これまで、ハードルだけではなく、多くの種目において「日本人は先行して粘る」という概念を大きく覆したと言える。ただし、「落ち着いて入って」も足るだけの走力やバネが備わっていることは大前提でもある。

山崎一彦コーチが「世界一」だと言うハードル間の『インターバルラン』。それはスプリンター顔負けのスピードはもちろん、ハードルを跳ぶための「アクセルワーク」(山崎コーチ)、つまりコントロールも含めて類い稀なセンスを持ち合わせている。これは、走高跳から始まって混成競技、三段跳など、中学時代からさまざま種目にチャレンジしていたこととも無関係ではないだろう。

もう一つ、大きな成長は“精神的なハードル”が取り除かれたこと。昨年のオレゴン世界選手権は、東京五輪に続いて準決勝の壁が突破できず。「海外選手は腰の高さが違う。これ以上、何をすればいいのか」とこぼしていた。

しかし、今季の転戦では「昨年まで圧倒されていましたが、海外の動きを見ていても差を感じなかった」。それは昨年からの転戦という経験に加え、「自分のパフォーマンスが上がっていて、自分のほうが速い」という確かな自信が身についたから。

13秒04はエントリーランキングでは5番目。2年前の東京五輪でもランキングでは3番目で出場となったが、今回は「自信」と「実績」において比較にならない。実際に、海外メディアからもメダル候補に挙げられる。

ただ、泉谷は「まだ決勝に行ったことがないので、チャレンジャーとしてまずは決勝進出を目標にしています」と語り、「今後、金メダルを取りたいので、先につながるレースにしたい」。

そのためには「予選で今の形をしっかり作って、そこで出た課題を修正して準決勝に臨みたい」。そして、もし決勝に行ければ「勝ちに行くけど意識しすぎない。残り1本、力を出し切るだけ」と言う。

「調子も維持できているので、自分を信じて落ち着いて走りたい」

110mハードルが「世界から最も遠いスプリント種目」と言われたのも今は昔。日本人初のファイナルに向けて、泉谷駿介の挑戦が始まる。

文/向永拓史

■男子110mH(※日本時間)
予 選 8月20日(日) 20時05分~
準決勝 8月21日(月) 深夜3時05分~
決 勝 8月21日(月) 深夜4時40分~

8月19日から始まるブダペスト世界陸上。注目の日本代表たちをピックアップする。 泉谷駿介(住友電工)の口からは、何度も「自信」という言葉が出た。男子110mハードルの日本記録保持者は、記録だけではなく実績でも世界トップクラスとして世界に望むことになる。 今季は5月のセイコーゴールデングランプリで13秒07、6月の日本選手権では自身の日本記録を2年ぶりに更新する13秒04をマークして優勝した。それだけでではなく、6月30日のダイヤモンドリーグ(DL)ローザンヌ大会では初出場ながら、全種目を通じて日本男子DL初優勝を飾る。 そして7月23日のDLロンドンでは、世界選手権連覇中のグラント・ホロウェイ(米国)をあと一歩まで追い詰める2位。海外、しかも最高峰のメンバーがそろったDLで2位、そして固い木製ハードルで13秒06を叩き出したところにも大きな価値がある。 だからこそ、その後に行われた合同会見では「自信がついた」という言葉が何度も出た。 昨年までのパフォーマンスと異なる点は中盤からの強さにある。代名詞だった爆発的な加速から勝負を決めていたため“前半型”のイメージだった泉谷。しかし、「力を使い過ぎると最後までもたない」と考え、前半は「焦らず落ち着いて」入り、ハードルを越えるごとに流れを作っていくパターンに変更した。 これまで、ハードルだけではなく、多くの種目において「日本人は先行して粘る」という概念を大きく覆したと言える。ただし、「落ち着いて入って」も足るだけの走力やバネが備わっていることは大前提でもある。 山崎一彦コーチが「世界一」だと言うハードル間の『インターバルラン』。それはスプリンター顔負けのスピードはもちろん、ハードルを跳ぶための「アクセルワーク」(山崎コーチ)、つまりコントロールも含めて類い稀なセンスを持ち合わせている。これは、走高跳から始まって混成競技、三段跳など、中学時代からさまざま種目にチャレンジしていたこととも無関係ではないだろう。 もう一つ、大きな成長は“精神的なハードル”が取り除かれたこと。昨年のオレゴン世界選手権は、東京五輪に続いて準決勝の壁が突破できず。「海外選手は腰の高さが違う。これ以上、何をすればいいのか」とこぼしていた。 しかし、今季の転戦では「昨年まで圧倒されていましたが、海外の動きを見ていても差を感じなかった」。それは昨年からの転戦という経験に加え、「自分のパフォーマンスが上がっていて、自分のほうが速い」という確かな自信が身についたから。 13秒04はエントリーランキングでは5番目。2年前の東京五輪でもランキングでは3番目で出場となったが、今回は「自信」と「実績」において比較にならない。実際に、海外メディアからもメダル候補に挙げられる。 ただ、泉谷は「まだ決勝に行ったことがないので、チャレンジャーとしてまずは決勝進出を目標にしています」と語り、「今後、金メダルを取りたいので、先につながるレースにしたい」。 そのためには「予選で今の形をしっかり作って、そこで出た課題を修正して準決勝に臨みたい」。そして、もし決勝に行ければ「勝ちに行くけど意識しすぎない。残り1本、力を出し切るだけ」と言う。 「調子も維持できているので、自分を信じて落ち着いて走りたい」 110mハードルが「世界から最も遠いスプリント種目」と言われたのも今は昔。日本人初のファイナルに向けて、泉谷駿介の挑戦が始まる。 文/向永拓史 ■男子110mH(※日本時間) 予 選 8月20日(日) 20時05分~ 準決勝 8月21日(月) 深夜3時05分~ 決 勝 8月21日(月) 深夜4時40分~

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.04.30

水戸招待のエントリー発表! 棒高跳に柄澤智哉、山本聖途、諸田実咲ら男女トップ集結 戸邉直人、城山正太郎も出場予定

5月5日に行われる日本グランプリシリーズ第7戦「2025水戸招待陸上」のエントリー選手が発表された。男子棒高跳には東京五輪代表の山本聖途(トヨタ自動車)、江島雅紀(富士通)や世界選手権代表経験のある柄澤智哉(東京陸協)ら […]

NEWS 【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」

2025.04.30

【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」

山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます! 第56回「昭和100年とスポーツ用具の進化」 昨年は記念大会となる第100回箱根駅伝が開催され […]

NEWS 【高校生FOCUS】男子競歩・山田大智(西脇工高)インターハイで昨夏の雪辱誓う 高校記録更新にも挑戦

2025.04.30

【高校生FOCUS】男子競歩・山田大智(西脇工高)インターハイで昨夏の雪辱誓う 高校記録更新にも挑戦

FOCUS! 高校生INTERVIEW 山田大智 Yamada Daichi 西脇工高3兵庫 2025年シーズンが本格的に始まり、高校陸上界では記録会、競技会が次々と開かれています。その中で好記録も生まれており、男子50 […]

NEWS 5.3静岡国際、パリ五輪代表の坂井隆一郎、200m世界陸上標準突破の水久保漱至らが欠場

2025.04.30

5.3静岡国際、パリ五輪代表の坂井隆一郎、200m世界陸上標準突破の水久保漱至らが欠場

5月3日に行われる静岡国際のエントリーリストが更新され、現時点で欠場届を提出した選手が判明した。 男子100mはパリ五輪代表の坂井隆一郎(大阪ガス)が欠場。坂井は4月13日の出雲陸上で脚を痛め、29日の織田記念の出場も見 […]

NEWS 26年ブダペスト開催の「世界陸上アルティメット選手権」やり投・北口榛花が出場権獲得

2025.04.30

26年ブダペスト開催の「世界陸上アルティメット選手権」やり投・北口榛花が出場権獲得

世界陸連(WA)は4月29日、2026年に新設する「世界陸上アルティメット選手権」の大会500日前を受け、昨年のパリ五輪の金メダリストに出場資格を与えることを発表した。女子やり投で金メダルを獲得した北口榛花(JAL)も含 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年4月号 (3月14日発売)

2025年4月号 (3月14日発売)

東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL) 
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)

page top