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2022.10.18

【学生長距離トピックス】駅伝シーズンを迎えて〝鉄紺軍団〟さらに結束


東洋大を引っ張る主力選手たち。前列左から柏優吾、前田義弘、児玉悠輔、中列左から清野太雅、佐藤真優、九嶋恵舜、後列左から石田洸介、松山和希

今季の前半戦、絶好調だった東洋大学長距離ブロック。この夏も、北海道マラソンで柏優吾が日本人トップの2位、清野太雅が6位と大活躍を見せた。さらに、9月中旬にはミドルディスタンスサーキット in TOKYOの1500mで多くの選手がハイパフォーマンスを披露。スピード型、スタミナ型、それぞれ武器となる得意分野をレベルアップさせた。駅伝シーズンは、チャレンジと位置付けた出雲駅伝を経て、全日本大学駅伝と箱根駅伝は優勝を目標に掲げる。充実した夏を送り、駅伝シーズンの主役の座を奪いに行く――。

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思考を変えた新たな取り組みにチャレンジ

「何か思考を変えるということがすごく大事だと思います。学生のうちは、失敗しても学びがあれば、経験値になる。ウチは勝って当たり前というチームではないので、毎年アップデートして新しいことをやっていくのもおもしろいかなと思っています。学生たちも『次は何が来るのかな』と思っているのでは・・・・・」

駅伝シーズンを迎え、練習前のミーティングも緊張感が増してきた

酒井俊幸監督がこう話すように、今夏の東洋大の取り組みは斬新に映った。

8月28日には、柏優吾(4年)、清野太雅(4年)、村上太一(3年)の3選手が北海道マラソンに出場し、前田義弘(4年)も女子のペースメーカーを務めた。そして、箱根駅伝未出場の柏が、2時間11分41秒の好記録で日本人トップの2位と大健闘。2024年パリ五輪の日本代表選考レースとなる来年のマラソン・グランド・チャンピオンシップ(MGC)の出場権をも獲得した。清野は2時間12分20秒で6位と好走。村上も2時間16分34秒で17位と奮闘した。チーム内でスタミナ自慢の選手たちが、しっかりと結果を残した。


常に新たな取り組みにチャレンジしている酒井俊幸監督

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打って変わって、9月17日に駒沢競技場で開催されたミドルディスタンスサーキット in TOKYO(MDC)には石田洸介(2年)、梅崎蓮(2年)、児玉悠輔(4年)ら主力が大挙して1500mに出場した。1着の及川瑠音(4年)が3分44秒64、2着の奥山輝(3年)が3分44秒85と、それぞれ大学歴代3位、4位の好記録をマークしたのを始め、出場した12選手中8人が自己新記録と、磨き上げたスピードを披露した。さらに翌週の早大競技会5000mでも好記録が続出。奥山、児玉、甲木康博、小林亮太(ともに2年)が13分50秒台の自己ベストを樹立した。「箱根駅伝と全日本大学駅伝で優勝するという目標がそんな簡単なことではないのは十分に承知しています。箱根で言えば、前回の結果から1人1分詰めていっても、まだ青山学院さんには届きませんから。でも、そこであきらめるのではなく、何か違うアプローチでスピード、スタミナを付けていかなければと思いました。北海道マラソンもMDCもそういったアプローチの一つです」と酒井監督。

今季の前半戦は東洋大の選手たちの活躍が目立った。関東インカレ(男子1部)では中長距離種目だけで33点を挙げ、短距離の活躍もあってトラック優勝を果たした。全日本大学駅伝関東選考会では各組で積極的なレースを見せて2位通過している。そして、今夏は、マラソンと1500mという両極端な距離のレースに挑みながら、ともに上々の成果を上げた。


夏合宿後は駅伝での競り合いに備えてスピード練習も増えた

もちろん夏に北海道マラソンに挑んだチームは東洋大が初めてではないし、駅伝シーズン開幕前に主力が1500mに出場するケースも珍しいわけではない。ただ、その両方を高い水準でこなすとなると……。東洋大は、大学長距離界に話題を提供しただけでなく、その話題性に見合った大きなインパクトを残したと言っていいだろう。

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水分補給にも工夫
ミネラル入り麦茶を積極活用

今年の夏は例年以上に暑かった。今夏の東洋大の流れを簡単に説明すると、8月中に北塩原村(福島)で走り込んで脚作りをし、蔵王坊平(山形)でもクロスカントリーコースを走って脚筋力を養成した。8月下旬から9月上旬にかけては、より標高の高い菅平(長野)でトラック練習を入れつつ、クロスカントリーコースを走り込んだ。そして、9月中旬には裾野(静岡)でスピードを磨いた。「今夏は本当に暑い期間が長かった。1回熱中症になると、ダメージが残って走れない期間が長引くので、チームとしても熱中症を出さないように気をつけていました」(酒井監督)

その対策に、コンディショニング飲料としてミネラル入り麦茶を積極的に活用している。練習内容に応じて経口補水液やスポーツドリンクを使い分けしつつ、暑かった夏を乗り切った。「湿度も高かったので、1日に摂取する水分量を決めていました。練習の前後やフィジカルトレーニング中にも麦茶を飲むようにしており、他のスポーツドリンク等と合わせると、1日にだいたい3?くらいは各自で飲んでいたと思います」


スピード練習後、ミネラル入り麦茶を飲む主将の前田

水分の摂り方も指導している。一度に多量に飲むのではなく、時間をかけてこまめに飲むように徹底。また、〝ゴクッ〟と一口だけ飲むのではなく、〝ゴクゴクゴク〟としっかりと数口飲むようにしている。「将来的にマラソンの給水にもつながることですから、学生のうちに身につけてほしい」と酒井監督。

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チームで取り組む栄養指導もそうだが、水分補給に関しても、将来を見据えた指導を行なっている。「普段に比べたら、今年の夏は1日に飲む量が多かったです。体の深部体温を下げる目的でも、ミネラル入り麦茶をしっかり飲むようにしていました」と話すのは4年生の児玉。「練習の時だけでなく、日常生活においても水分補給に活用しています。ポイント練習などハードなトレーニングではスポーツドリンクを飲みますが、麦茶は糖分が入っていないのでさっぱり飲めるし、体重増加を気にしなくてもいい」

児玉は普段からミネラル入り麦茶を1日にペットボトル(650m?)2本ほどを目安に飲み、コンディションを整えているという。

駅伝では1区を担うことが多い児玉は、今季はトラックでも活躍。5月の関東インカレでは10000mで3位を占め、東洋大勢として2013年の設楽悠太(現・Honda)以来9年ぶりに表彰台に上がった。今夏は7月後半から8月中旬まで実業団チームの合宿に参加。同じ4年生の柏や清野がスタミナを養成したのと対称的に、児玉は質の高い練習に取り組み、武器となるスピードを磨いた。そして、MDCでは1500mで3分48秒31、翌週の早大競技会では5000mで13分53秒48といずれも自己新記録をマークし、駅伝シーズンに弾みを付けた。「1500mでスピードを入れたことはラストスパートなどに生きてくると思う。他の区間でも走れるように心構えをしていますが、1区が一番勝負できる区間だと思うので、そこで勝負したいです」と、得意の1区でチームを勢いづける走りを誓う。


選手たちは常に小まめな水分補給を心がけている

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3年生主任の佐藤が4年生不在時のチーム牽引

今夏は多くの4年生が実業団チームの合宿に参加していたため、チームの夏合宿は3年生以下が主体となることが多かった。その中でリーダーシップを発揮してチームを牽引していたのが3年生の佐藤真優だった。「3年生の主任を任せていただいているので、4年生がいない中、自分がチームを引っ張らないといけない、まとめなきゃいけないと感じていました。今年は4年生が本当に良いチームを作ってくださっているので、その大変さを実感しましたし、自分ができていないことも痛感しました」

佐藤は、茨城・東洋大牛久高時代からの先輩でもある主将の前田と密に連絡を取り合って、練習の消化具合などチーム状況の報告を行なった。

佐藤自身もこの夏は順調に練習を消化した。これまでは「夏はダメージが大きくて、熱中症になることも多かった」と言うが、今夏は例年よりも「水分をかなり摂ること」をテーマにした。「去年の夏は、必要だと思った時にしか水分を摂っていませんでした。今年は1日に飲む量を意識したので、それが良かったのかなと思います。ジョグだけの日や食事の際などにはミネラル入り麦茶を、ポイント練習や長い距離を走る日はスポーツドリンクをと、使い分けていました」


東洋大長距離ブロックはミネラル入り麦茶やスポーツドリンクをうまく活用してコンディションを整えている

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そのおかげもあって、体調を崩すことなく夏を乗り切った。

佐藤は、今年の箱根駅伝(3区8位)が終わってから、ここまで好調をキープ。3月の日本学生ハーフマラソン選手権は、公認で初ハーフながら1時間2分55秒と好走。関東インカレは10000mに出場し、28分49秒54の自己ベストで7位入賞を果たした。「昨年は箱根が終わってから春先まで故障していましたが、今年は故障もなくスムーズに来ている。その分、しっかり走り込みができたことが、関東インカレまでのかなり良い流れの要因かなと思っています」と充実のシーズンを送っている。

どちらかと言えば、トラックよりもロードを得意としている選手。まだまだスピードに課題を感じているというが、駅伝シーズンは一段高い活躍を見せてくれそうだ。


3年生主任としてリーダーシップを発揮している佐藤

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エース候補・石田も順調に夏を送る

酒井監督が「チームのエース格にならなくてはいけない選手」と大きな期待を寄せる石田も、ケガで走れなかった昨夏とは異なり、2年目の夏は順調に過ごした。

今季は4月に自転車で転倒した影響で出遅れた。だが、「裏方に回って違う目線でチームを見ることができましたし、〝自分にとって走ることって何だろう〟と自問自答していた時期でもあったので、気持ちを切り替えるきっかけにもなりました」と、走れなかった期間を前向きに捉えた。そして、充実の夏につなげた。「合宿では、走ったことのない距離を詰め込んだので、最初は走り切るのが精一杯でした。でも、苦しい思いを乗り越えたら、2回目の合宿からは動きも良くなってきて、そこからは全部の練習を完璧に消化しました。確かに積み上げてきたものが、去年よりも明らかにあるのを感じています」と、夏の手応えを口にする。実際、2月の日本選手権クロスカントリー以来のレースとなったMDCの1500mは3分52秒09でまとめ、翌週の早大競技会では5000mで13分56秒65と、ともに自己新ではなかったものの、まずまずの走りを見せた。

また、7月にはオレゴン世界選手権を現地観戦した。「マラソンと10000mを観戦しましたが、世界は一歩先どころではなく、何歩先にも行ってしまっていると感じました。自分もそこを目指しているだけに、どうしなければいけないんだろうと考えさせられました。それに、日本人が戦えないと言われるのが悔しかったですし、選手としてではなく観客としてスタンドにいることに劣等感を感じました」

胸中は複雑だったが、世界のレベルの高さを目の当たりにし、大きな刺激を受け、世界を目指す決意をいっそう強く持った。

世界へのステップとして、石田は駅伝にも全力を注ぐつもりだ。「個人的な目標として区間賞はもちろん狙いますが、やっぱりエースって言われるぐらいの成長をして、他大学のエースと戦いたい」と活躍を誓う。「夏に走り込めたので、次はスピードを磨き、その次はどんどん距離を延ばしていって箱根に向かっていきたい」。昨年は出雲、全日本と区間賞を獲得しながらも、「憧れの舞台」という箱根を走ることはできなかった。それだけに、箱根への思いはひとしおのようだ。


エース候補の石田(中央)も調子を取り戻しつつあり、役者がそろってきた。左は9月中旬に1500mでチーム歴代3位となる3分44秒64をマークした及川瑠音、右は〝1区のスペシャリスト〟である副将の児玉

出雲駅伝のメンバーからエースの松山和希(3年)が外れるなど、主力に故障者も出た。だが、「今ちょっと抜けても、年間を通して練習ができている選手が多い。走ることができない期間も、(高地トレーニング環境を実現する)低圧低酸素ルームを活用していますし、フィジカルトレーニングで他の部分を強化できています」と、指揮官が慌てることはない。

主将の前田も「今まではバラバラしていたところもありましたが、まとまりが出てきて、一人ひとりが目的を持って練習に取り組んでいる。みんな、変わった」とチームの成長を実感している。

絶好調のトラックシーズンに始まり、充実した夏を経て、秋冬の駅伝シーズンに、東洋大はさらなる飛躍を遂げそうだ。

文/福本ケイヤ 写真/樋口俊秀

※この記事は『月刊陸上競技』2022年11月号に掲載しています

東洋大を引っ張る主力選手たち。前列左から柏優吾、前田義弘、児玉悠輔、中列左から清野太雅、佐藤真優、九嶋恵舜、後列左から石田洸介、松山和希 今季の前半戦、絶好調だった東洋大学長距離ブロック。この夏も、北海道マラソンで柏優吾が日本人トップの2位、清野太雅が6位と大活躍を見せた。さらに、9月中旬にはミドルディスタンスサーキット in TOKYOの1500mで多くの選手がハイパフォーマンスを披露。スピード型、スタミナ型、それぞれ武器となる得意分野をレベルアップさせた。駅伝シーズンは、チャレンジと位置付けた出雲駅伝を経て、全日本大学駅伝と箱根駅伝は優勝を目標に掲げる。充実した夏を送り、駅伝シーズンの主役の座を奪いに行く――。

思考を変えた新たな取り組みにチャレンジ

「何か思考を変えるということがすごく大事だと思います。学生のうちは、失敗しても学びがあれば、経験値になる。ウチは勝って当たり前というチームではないので、毎年アップデートして新しいことをやっていくのもおもしろいかなと思っています。学生たちも『次は何が来るのかな』と思っているのでは・・・・・」 駅伝シーズンを迎え、練習前のミーティングも緊張感が増してきた 酒井俊幸監督がこう話すように、今夏の東洋大の取り組みは斬新に映った。 8月28日には、柏優吾(4年)、清野太雅(4年)、村上太一(3年)の3選手が北海道マラソンに出場し、前田義弘(4年)も女子のペースメーカーを務めた。そして、箱根駅伝未出場の柏が、2時間11分41秒の好記録で日本人トップの2位と大健闘。2024年パリ五輪の日本代表選考レースとなる来年のマラソン・グランド・チャンピオンシップ(MGC)の出場権をも獲得した。清野は2時間12分20秒で6位と好走。村上も2時間16分34秒で17位と奮闘した。チーム内でスタミナ自慢の選手たちが、しっかりと結果を残した。 常に新たな取り組みにチャレンジしている酒井俊幸監督 打って変わって、9月17日に駒沢競技場で開催されたミドルディスタンスサーキット in TOKYO(MDC)には石田洸介(2年)、梅崎蓮(2年)、児玉悠輔(4年)ら主力が大挙して1500mに出場した。1着の及川瑠音(4年)が3分44秒64、2着の奥山輝(3年)が3分44秒85と、それぞれ大学歴代3位、4位の好記録をマークしたのを始め、出場した12選手中8人が自己新記録と、磨き上げたスピードを披露した。さらに翌週の早大競技会5000mでも好記録が続出。奥山、児玉、甲木康博、小林亮太(ともに2年)が13分50秒台の自己ベストを樹立した。「箱根駅伝と全日本大学駅伝で優勝するという目標がそんな簡単なことではないのは十分に承知しています。箱根で言えば、前回の結果から1人1分詰めていっても、まだ青山学院さんには届きませんから。でも、そこであきらめるのではなく、何か違うアプローチでスピード、スタミナを付けていかなければと思いました。北海道マラソンもMDCもそういったアプローチの一つです」と酒井監督。 今季の前半戦は東洋大の選手たちの活躍が目立った。関東インカレ(男子1部)では中長距離種目だけで33点を挙げ、短距離の活躍もあってトラック優勝を果たした。全日本大学駅伝関東選考会では各組で積極的なレースを見せて2位通過している。そして、今夏は、マラソンと1500mという両極端な距離のレースに挑みながら、ともに上々の成果を上げた。 夏合宿後は駅伝での競り合いに備えてスピード練習も増えた もちろん夏に北海道マラソンに挑んだチームは東洋大が初めてではないし、駅伝シーズン開幕前に主力が1500mに出場するケースも珍しいわけではない。ただ、その両方を高い水準でこなすとなると……。東洋大は、大学長距離界に話題を提供しただけでなく、その話題性に見合った大きなインパクトを残したと言っていいだろう。

水分補給にも工夫 ミネラル入り麦茶を積極活用

今年の夏は例年以上に暑かった。今夏の東洋大の流れを簡単に説明すると、8月中に北塩原村(福島)で走り込んで脚作りをし、蔵王坊平(山形)でもクロスカントリーコースを走って脚筋力を養成した。8月下旬から9月上旬にかけては、より標高の高い菅平(長野)でトラック練習を入れつつ、クロスカントリーコースを走り込んだ。そして、9月中旬には裾野(静岡)でスピードを磨いた。「今夏は本当に暑い期間が長かった。1回熱中症になると、ダメージが残って走れない期間が長引くので、チームとしても熱中症を出さないように気をつけていました」(酒井監督) その対策に、コンディショニング飲料としてミネラル入り麦茶を積極的に活用している。練習内容に応じて経口補水液やスポーツドリンクを使い分けしつつ、暑かった夏を乗り切った。「湿度も高かったので、1日に摂取する水分量を決めていました。練習の前後やフィジカルトレーニング中にも麦茶を飲むようにしており、他のスポーツドリンク等と合わせると、1日にだいたい3?くらいは各自で飲んでいたと思います」 スピード練習後、ミネラル入り麦茶を飲む主将の前田 水分の摂り方も指導している。一度に多量に飲むのではなく、時間をかけてこまめに飲むように徹底。また、〝ゴクッ〟と一口だけ飲むのではなく、〝ゴクゴクゴク〟としっかりと数口飲むようにしている。「将来的にマラソンの給水にもつながることですから、学生のうちに身につけてほしい」と酒井監督。 チームで取り組む栄養指導もそうだが、水分補給に関しても、将来を見据えた指導を行なっている。「普段に比べたら、今年の夏は1日に飲む量が多かったです。体の深部体温を下げる目的でも、ミネラル入り麦茶をしっかり飲むようにしていました」と話すのは4年生の児玉。「練習の時だけでなく、日常生活においても水分補給に活用しています。ポイント練習などハードなトレーニングではスポーツドリンクを飲みますが、麦茶は糖分が入っていないのでさっぱり飲めるし、体重増加を気にしなくてもいい」 児玉は普段からミネラル入り麦茶を1日にペットボトル(650m?)2本ほどを目安に飲み、コンディションを整えているという。 駅伝では1区を担うことが多い児玉は、今季はトラックでも活躍。5月の関東インカレでは10000mで3位を占め、東洋大勢として2013年の設楽悠太(現・Honda)以来9年ぶりに表彰台に上がった。今夏は7月後半から8月中旬まで実業団チームの合宿に参加。同じ4年生の柏や清野がスタミナを養成したのと対称的に、児玉は質の高い練習に取り組み、武器となるスピードを磨いた。そして、MDCでは1500mで3分48秒31、翌週の早大競技会では5000mで13分53秒48といずれも自己新記録をマークし、駅伝シーズンに弾みを付けた。「1500mでスピードを入れたことはラストスパートなどに生きてくると思う。他の区間でも走れるように心構えをしていますが、1区が一番勝負できる区間だと思うので、そこで勝負したいです」と、得意の1区でチームを勢いづける走りを誓う。 選手たちは常に小まめな水分補給を心がけている

3年生主任の佐藤が4年生不在時のチーム牽引

今夏は多くの4年生が実業団チームの合宿に参加していたため、チームの夏合宿は3年生以下が主体となることが多かった。その中でリーダーシップを発揮してチームを牽引していたのが3年生の佐藤真優だった。「3年生の主任を任せていただいているので、4年生がいない中、自分がチームを引っ張らないといけない、まとめなきゃいけないと感じていました。今年は4年生が本当に良いチームを作ってくださっているので、その大変さを実感しましたし、自分ができていないことも痛感しました」 佐藤は、茨城・東洋大牛久高時代からの先輩でもある主将の前田と密に連絡を取り合って、練習の消化具合などチーム状況の報告を行なった。 佐藤自身もこの夏は順調に練習を消化した。これまでは「夏はダメージが大きくて、熱中症になることも多かった」と言うが、今夏は例年よりも「水分をかなり摂ること」をテーマにした。「去年の夏は、必要だと思った時にしか水分を摂っていませんでした。今年は1日に飲む量を意識したので、それが良かったのかなと思います。ジョグだけの日や食事の際などにはミネラル入り麦茶を、ポイント練習や長い距離を走る日はスポーツドリンクをと、使い分けていました」 東洋大長距離ブロックはミネラル入り麦茶やスポーツドリンクをうまく活用してコンディションを整えている そのおかげもあって、体調を崩すことなく夏を乗り切った。 佐藤は、今年の箱根駅伝(3区8位)が終わってから、ここまで好調をキープ。3月の日本学生ハーフマラソン選手権は、公認で初ハーフながら1時間2分55秒と好走。関東インカレは10000mに出場し、28分49秒54の自己ベストで7位入賞を果たした。「昨年は箱根が終わってから春先まで故障していましたが、今年は故障もなくスムーズに来ている。その分、しっかり走り込みができたことが、関東インカレまでのかなり良い流れの要因かなと思っています」と充実のシーズンを送っている。 どちらかと言えば、トラックよりもロードを得意としている選手。まだまだスピードに課題を感じているというが、駅伝シーズンは一段高い活躍を見せてくれそうだ。 3年生主任としてリーダーシップを発揮している佐藤

エース候補・石田も順調に夏を送る

酒井監督が「チームのエース格にならなくてはいけない選手」と大きな期待を寄せる石田も、ケガで走れなかった昨夏とは異なり、2年目の夏は順調に過ごした。 今季は4月に自転車で転倒した影響で出遅れた。だが、「裏方に回って違う目線でチームを見ることができましたし、〝自分にとって走ることって何だろう〟と自問自答していた時期でもあったので、気持ちを切り替えるきっかけにもなりました」と、走れなかった期間を前向きに捉えた。そして、充実の夏につなげた。「合宿では、走ったことのない距離を詰め込んだので、最初は走り切るのが精一杯でした。でも、苦しい思いを乗り越えたら、2回目の合宿からは動きも良くなってきて、そこからは全部の練習を完璧に消化しました。確かに積み上げてきたものが、去年よりも明らかにあるのを感じています」と、夏の手応えを口にする。実際、2月の日本選手権クロスカントリー以来のレースとなったMDCの1500mは3分52秒09でまとめ、翌週の早大競技会では5000mで13分56秒65と、ともに自己新ではなかったものの、まずまずの走りを見せた。 また、7月にはオレゴン世界選手権を現地観戦した。「マラソンと10000mを観戦しましたが、世界は一歩先どころではなく、何歩先にも行ってしまっていると感じました。自分もそこを目指しているだけに、どうしなければいけないんだろうと考えさせられました。それに、日本人が戦えないと言われるのが悔しかったですし、選手としてではなく観客としてスタンドにいることに劣等感を感じました」 胸中は複雑だったが、世界のレベルの高さを目の当たりにし、大きな刺激を受け、世界を目指す決意をいっそう強く持った。 世界へのステップとして、石田は駅伝にも全力を注ぐつもりだ。「個人的な目標として区間賞はもちろん狙いますが、やっぱりエースって言われるぐらいの成長をして、他大学のエースと戦いたい」と活躍を誓う。「夏に走り込めたので、次はスピードを磨き、その次はどんどん距離を延ばしていって箱根に向かっていきたい」。昨年は出雲、全日本と区間賞を獲得しながらも、「憧れの舞台」という箱根を走ることはできなかった。それだけに、箱根への思いはひとしおのようだ。 エース候補の石田(中央)も調子を取り戻しつつあり、役者がそろってきた。左は9月中旬に1500mでチーム歴代3位となる3分44秒64をマークした及川瑠音、右は〝1区のスペシャリスト〟である副将の児玉 出雲駅伝のメンバーからエースの松山和希(3年)が外れるなど、主力に故障者も出た。だが、「今ちょっと抜けても、年間を通して練習ができている選手が多い。走ることができない期間も、(高地トレーニング環境を実現する)低圧低酸素ルームを活用していますし、フィジカルトレーニングで他の部分を強化できています」と、指揮官が慌てることはない。 主将の前田も「今まではバラバラしていたところもありましたが、まとまりが出てきて、一人ひとりが目的を持って練習に取り組んでいる。みんな、変わった」とチームの成長を実感している。 絶好調のトラックシーズンに始まり、充実した夏を経て、秋冬の駅伝シーズンに、東洋大はさらなる飛躍を遂げそうだ。 文/福本ケイヤ 写真/樋口俊秀 ※この記事は『月刊陸上競技』2022年11月号に掲載しています

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