2025.06.25
日本陸連は6月25日に理事会を開催し、新会長に有森裕子氏が就任することを決め、発表した。今年3月で設立100年を迎えた日本陸連において、女性が会長を務めるのは初となる。
6月24日付で退任した前会長の尾縣貢氏から「独自の視点をお持ちで、それを組織運営にそれを生かしてくれるでしょう」とバトンを渡された有森新会長は、力強く抱負を述べた。
「陸上、スポーツに対する基本的な価値が、日本は高いのかどうか。もちろん、盛り上がっている時は高いと思いますが、盛り上がらなければ、スターがいなければ、勝たなければ、その価値はどうなのだろうと思わざるを得ないような位置にいるのではないか、と危惧しています。陸上は“マザーオブスポーツ”。人が生まれて最初に携われるスポーツであるとしたら、陸上がまずその価値を伝えていけるスポーツ。子供からお年寄りまで、その都度愛され、楽しまれ、携わった人間がそれぞれ元気になっていくものであってほしい。それしか願いはありません」
アスリートとしては、1992年バルセロナ銀、96年アトランタ銅と、女子マラソンで2大会連続でメダルを獲得した輝かしいキャリアの持ち主。一方で、1998年に設立したNPO法人「ハート・オブ・ゴールド」でのカンボジアでの社会貢献活動や、国連人口基金親善大使、スペシャルオリンピックス理事長といった陸上以外の要職についた経験から、スポーツを内外から見る視点が養われた。そこで感じたことが、「スポーツの価値とは何か」というもの。
「スポーツには競技性だけではなく、人の生きる力、社会が繫栄しようとする力、平和になろうとする力を促す要素を持つものである。自分が想像を絶するぐらいに、スポーツが人の人生を活気づけてきた、作り上げてきたという、これまでとは全然違う意味でのスポーツの価値を教えられました」
会長就任にあたっては、自ら手を挙げて立候補したという。それは、まさに今、現場で陸上、スポーツを力強く支える人たちを「応援したくなった」からだと明かす。
有森氏の現役時代、マラソンは「世界に対抗できていたし、(金銭面で)困ることはほとんどなかった」。しかし、トラック&フィールド種目は世界大会では苦戦を強いられることが多く、その中でも「自分たちが踏ん張らないと見向きもされない時代を過ごしていた」姿を、有森氏自身も見てきている。
そして、今の強化を担う面々には、そんな世代の代表格である山崎一彦強化委員長がいる。「とても大変だった時代を知っている彼らが強化を担当し、その思いを注ぎ込んで、次なる世代の選手たちの夢に向かって行動している姿というのは、ただただ美しいと思いました」
時折、声を詰まらせながら有森氏はそう語り、「これだけ陸上に思いを持ってやっている仲間が、今の陸上を支えてくれている。私たちがタッグを組まないでどうするのか、そういう思い」で日本陸上界を牽引する立場に自ら名乗りを上げたのだという。
7月4日から始まる日本選手権、9月の世界選手権など、就任早々から大仕事が控える。有森会長は「世界陸上を通じて、あの陸上競技場が愛される場になってほしい」と願いを込める。
「東京五輪では最高のプレーを見ることができませんでした。陸上競技場がすべての人に愛され、楽しんでいただける場に、この世界陸上を機になってほしい。スポーツは見せ方によって、こういう場によって、こんなに楽しく、素敵なものなんだという思いを倍増させてくれる、そんな施設が自分の国にあるんだ、と。もっと使ってみたい、この場所に帰ってきたい、そんな思いをこの世界陸上で作りたい」
今年3月に100周年を迎え、新たな100年へのスタートを切った日本陸連が、新しいリーダーの元で動き出す。
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